<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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29話 そして彼らは冒険へ

■【深潜水士】クリアント

 

 デメンタリーの言葉通り、フィリップのデスペナルティが解除された日。

 神殿にある部屋の1つ。そこにはクリアント、ワンプ、フィリップ、デメンタリーが集まっていた。

 未だ神殿の機能は回復していない。ソーキューもデメンタリーもエンブリオの力を使わずにいる。それ故か、神殿内に人気は少なく、クリアント達のいる部屋に誰も入ってくることはない。

 

「すまなかった」

 

 その部屋の中でデメンタリーは頭を下げていた。

 その横には頷くフィリップ。

 下げられた頭の先にはクリアントがいた。

 

「いや。アンタも自分の目的にやっていたことなんだろう? 別に、俺に直接被害があったわけじゃないし」

「いや、あったじゃないですか。2回は死んでいますよ」

「2回くらいだろ。グラスコードよりも少ない」

 

 そしてグラスコード討伐にデメンタリーは一役買っている。

 終わりよければ全てよし。

 結果が目的通りに達成したのなら、何も問題は無いのだ。

 

「俺の仕事は死ぬことだった。そこに違いはない。問題はないさ」

「そうですかー? まあ先輩が言うなら別にいいんですけど」

 

 クリアントの言葉にデメンタリーは頭を上げようとする。

 元々、彼自身も気にしていなかったことだ。

 仕方なくやったことであって、悪気があったわけではない。

 誤解が生んだ戦いであり、海賊達などのこれまでグラスコードに挑戦した〈マスター〉に被害はあったが、クリアント達の被害は少ない。

 最後には協力してくれたことを思えば、クリアントは礼を言いたいとすら思っていた。

 

「いやいや! それはダメだろう」

 

 だが、上げようとしていたデメンタリーの頭を隣に立つフィリップが押さえつける。

 

「……おい」

「デメンタリー! 君は自分が何をやったか、その重大性を昨日は遅くまで語ったと思ったけど」

「……だからこうして謝罪をしているだろう」

「クリアントが許しても私は許さない! ああ、そうさ! 私のノーチラス号を沈めようとしただろう」

「……」

 

 やったことは事実であるためデメンタリーは言い返せないようだ。

 その傍でワンプがクリアントに耳打ちする。

 

「……先輩。デメンタリーさんが本当の本当にフィリップさんすら殺してグラスコードを守ろうとしたことって黙っておいた方がいいですかね」

「……まあ火に油を注ぐことになるだろうな」

 

 とはいえ、このままではフィリップの説教だけで1日が終わりそうだ。

 デメンタリーが集合をかけたのは説教を見せつけるためではあるまい。

 

「フィリップ。もういいだろう。俺は気にしていない。それでもフィリップが気にするなら、他の何かで補ってもらうといい」

「……そうかい? まあ、いいさ」

「……すまない」

「この続きはログアウト後に再開するとしよう」

「……まじか」

 

 沈んだ顔をする【深海王】は溜息をつきながら話を変える。

 

「……それよりもだ。昨日は聞けなかったが、例のアイテムは取れたのか?」

 

 それよりも、という言葉で再び爪を剥こうとするフィリップの頭を今度はデメンタリーが抑えながらデメンタリーは問う。

 

「……む。ああ、取れたよ。これだね」

 

 と、フィリップはアイテムボックスから拳大程のガラス玉を取り出した。

 

「グラスコードの本体みたいなガラス玉だな」

「それは言わないでくれたまえよ。これはれっきとした宝玉なのだから。見た目はガラス玉だけどね」

「ガラス玉なんじゃないですか」

「……水晶みたいで綺麗だろう?」

 

 ガラス玉であることに変わりはないのだろう。

 時代が変わればガラス玉とて宝石だったのかもしれないが。

 

「そのガラス玉で何かするんですか? 占ったり?」

「いいや。これ単体では何も出来ない」

「単体?」

「そういえば超級職に就くためにグラスコードを倒したかったんだったな。そのガラス玉が欲しかったのか?」

 

 フィリップのグラスコード戦の本当の目的。

 それは超級職への転職。

 ただ、グラスコードを倒すことがどう繋がるのかを聞いてはいなかった。

 

「ああ。この宝玉の所持が転職条件の1つさ」

「……1つ?」

「残り2つ。合計3つの宝を手に入れることで転職が可能になるのさ」

「うわぁ。それは面倒な転職条件ですね」

「そうでもないさ。こうして1つ目が終わった。君という助力があり、そして私は新たな力も手に入れた」

「それで、その超級職というのはどんなジョブなんだ?」

「ふふふ。実はこれもロストジョブの1つなのだけどね。3つの宝を集めるだなんて、途方もない労力だ。それに、どこかで紛失しているかもしれない。実際にこうしてグラスコードに取り込まれていたしね」

「ああ……それ本体じゃなくて取り込まれていたんですね」

「だから最初から本体ではないと……まあいいさ。同じように他の2つの宝もどこかでモンスターが取り込んでいる可能性が高い。ティアンや〈マスター〉が所持している可能性もあるけどね」

「3つを手に入れた時、フィリップは転職できるのか」

 

 どこにあるか分からないアイテムを探す。

 なるほど、フィリップに相応しいジョブであるかもしれない。

 

「それこそが冒険家系統超級職【探検王(キングオブエクスプローラ)】。様々な環境を乗り越えた先に就ける超級職さ」

 

 【探検王】。

 それはクリアントも聞いたことのない超級職である。

 過去に【冒険王】という名の超級職に就いたティアンはいたらしいが、同系統のものだろうか。

 

「グラスコードを最初に選んだのはフィリップのエンブリオと一番相性が良かったからだな。海底ならノーチラス号も動かしやすい」

 

 デメンタリーの言葉にクリアントは頷きつつも、ならば他の場所ではどうするのだろうと新たな疑問が浮く。

 

「現在判明している他の宝の場所はスカイ・クラウドという天空エリアと、バーンマウントマウンテンという山だ」

「空と山……か」

「フィリップさん、無理じゃないです?」

 

 ノーチラス号は様々な環境の耐性を持つが、それでも空と山で潜水艦は動かせない。

 空を飛ぶことは出来ないし、山を登ることは出来ない。

 

「なに、スカイ・クラウドへは気球でも何ででも使うよ。バーンマウントマウンテンは私の足がある。わりと健脚なのさ」

 

 エンブリオ無しで挑むらしい。

 それは海底に【呪術師】で戦った時のクリアントよりも条件が悪い。

 

「あまり不安を謳っても冒険は始まらないよ。何か起こってから、また考えればいいのさ」

「……それでだな、クリアント。頼みがあるんだ」

 

 頭を上げていたデメンタリーが再び下げる。

 フィリップに強制されることなく、自身から。

 

「フィリップの冒険に付き合ってはくれないだろうか。フィリップ1人ではやはり危うい。冒険というのならばパートナーが必要だ」

「デメンタリー!? 私は何も聞いていないぞ」

「今初めて言ったからな。俺は付いていくことは出来ない。だが、お前1人では心配だ。ならば兄として俺は信頼できる者に頭を下げることしか出来ないだろう」

「それは……そうだね」

 

 フィリップは考える様子を見せる。

 1人で超級職への手がかりを集める道とクリアント達と冒険をする道。

 どちらがより楽しいかを思案する。

 

「つまり探検隊ですね!」

「探検隊……良い響きだ。私が隊長でいいだろうか」

 

 考えた結果、フィリップは乗り気であった。

 

「俺はまだ頷いていないんだが……」

「いいじゃないですか。それとも先輩、やること決まっているんです?」

「無いけどさ……」

 

 確かに、今すぐにやりたいこともない。

 グラスコードという強敵との戦いは楽しかった。ほぼ終盤しか参加していなかったが。

 

「……まあ、転職まで協力すると言ったからな。俺の力で良いなら」

「恩に着る」

「ありがとう! まだまだ私たちの冒険は終わらないということだね!」

「それ、終わりそうな言い方なのですが」

「気にしない気にしない!」

 

 グラスコードは相性が悪かったが、マッドラップスのような直接戦闘タイプの敵であるなら、クリアントも戦いようがあるかもしれない。

 フィリップとは戦い方が違い、かつフィリップの力が一部封じられるのであれば、クリアントの力が必要な場面もあるだろう。

 

「候補は2つだったな。どちらからだ?」

「うーん。私のスキルだと場所しか分からなかったからね。空と山、か……難易度の順で行くなら、山のほうがいいかな?」

「まあ俺もフィリップも飛べないからな。どこかで空中移動の手段を見つけないと早々に詰みそうだ」

「山なら何とかなるだろうという気持ちが強いね。山に埋もれていてもノーチラスの必殺スキルでどうにでもなるし」

 

 その場合フィリップは死ぬことになるのだが。

 まあ、冗談だろうとクリアントは受け流す。

 

「……そういえば」

 

 ふと思い出す。

 ずっと海底にいたから忘れていたことだが、移動するなら大事なことだ。

 

「ここってどこなんだ?」

「現在地か。ここは西海……アルター王国とグランバロアの間だ。グランバロア寄りだがな」

「なるほど。それで山というのはどこにあるんだ?」

「……そうだな」

 

 デメンタリーは少し言いよどむ。

 

「遠い場所なんですか?」

「いや……そういうわけではないのだがな」

「あれ? そんなに辺鄙な場所でもなかったはずだけど。レジェンダリアの下らへんにバーンマウントマウンテンはあるよ」

「レジェンダリアか……どんな場所かよく分からないな」

「自由な国と聞くね」

 

 一部の人間が自由過ぎる国であることを知っているデメンタリーの表情はあまり良くない。

 

「……クリアント、頼む。フィリップに悪影響が無いよう注意してくれ」

「……? ああ、分かった」

 

 こうして次なる目的地はレジェンダリア下部にある1つの山へと決まった。

 彼らの乗るノーチラス号は驚異の1つ減った海底を進み始める。

 

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