<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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14 刺客

■クラン〈三王〉

 

 殺気と愛が混ざりあった視線を生まれて初めて注がれ、リーンは心の底から寒気を感じた。

 

「……なんでしょう、トワコさん」

「ねぇ」

 

 首を傾げる。

 こてん、とそれだけであれば可愛らしい動きだが、捩じ切れるほどにまで首が傾けばただただ不気味だ。

 

「ねぇねぇねぇねぇ、まだ、増えるのぉ?」

「きゃはっ」

 

 トワコにもたれかかるように……否、溶けかけている自身のエンブリオを一切気にすることなくリーンに疑問を投げかける。

 

「クャントルスカちゃんのところに行きたいの。すぐに会いたいの。愛したいの殺したいの食べたいのぐちゃぐちゃに犯して侵して冒して――」

「随時準備を進行中です」

 

 そこまで、とリーンはトワコへ掌を向け制す。

 

「……準備ぃ?」

 

 トワコの目的はこの世界でクャントルスカを愛すること。

 そのためであれば何でも犠牲にし、何でも踏みにじる。

 エンブリオは〈超級〉へと到達しているし、ロストジョブであった【禁忌姫】すらも就き、戦力を整えている。

 これ以上何を準備することがあるのか。

 返答如何では自身が殺されるなとリーンは言葉を間違わぬよう思案する。

 

「……ええ。トワコさんの仰る通り、増えています」

 

 クャントルスカがクランに加入することは予想できないことではなかった。

 むしろ遅いくらいだろう。

 

 予想外だったのは内訳。

 最低でも準〈超級〉と呼ぶに相応しい人物ばかり集めたのは流石と称するしかないだろう。

 1人1人が手強く、〈三王〉の中核である3人で真正面から戦っても勝ち目は薄い。

 どころか、ここ最近で更にメンバーを増強していると噂されている。

 

「どうするの? どうするの? どうするの?」

 

 ゆらゆらと揺れながら問いかける様はホラー映画のよう。

 リーンは無意識に癖である眼鏡を掛け直す仕草をする。

 

「待った揚句にぃ、これ以上待てだなんてぇ、待ちきれないよぉ」

「……」

 

 だが、今はイベントが始まってしまっている。

 指名手配されているトワコは参加資格が無く、真っ当に活動しているクャントルスカは参加している。

 

「愛するよ? 良いよね。愛して病まない人を愛すべき人を愛さなきゃならなくて」

「――お待ちください」

 

 ヒートアップしていくトワコにリーンが頑として止めた。

 

「?」

「トワコさんが危惧することは分かります。ええ、私もです。私も、彼のクランの戦力は裂いていかなければと考えていました」

「だからぁ」

「なので、事前にイベントに複数名の刺客を送り込みました」

 

 刺客、と聞いたトワコの動きは止まる。

 ピクリ、と反応するようにリーンの言葉を待っている。

 

「刺客ぅ?」

「はい。預言者の協力を仰げました。彼のクランメンバーに縁のある〈マスター〉を集め、送り込んであります。いやー、最近始めたばかりの方もいて間に合って良かったです」

「ふうん? 使い物になるのぉ?」

 

 新米〈マスター〉など一端の戦力にもならないのではないか。

 開始数時間で上級〈マスター〉複数人を相手取ったトワコ自身だからこそ分かる。

 例外中の例外でも無ければ、ジョブレベルもエンブリオも差は埋めることはできない。

 

「そこはまあ、相性ということで」

「相性が良くてもぉ、ステータスの差があれば簡単には埋まらないよぉ?」

 

 その言葉にリーンは小さく笑う。

 

「?」

「失礼。いえ、相性……そうですね。私の言う相性とは戦闘スタイルのことではなく」

 

 クャントルスカとトワコのように。

 あるいは、フィリップ・ノッツとドロップ・カーネイジのように。

 

「因縁、というやつです」

 

 いくら自分が強くても殺せない者がいるように。

 因縁というやつは簡単には覆らない。

 

 好きな者でも嫌いな者でも殺すことに関しては、結果的には行えるトワコからすれば理解できない話だが、リーンが言うのであればそうなのだろうと納得する。

 

「……それはそうとして、トワコさん」

「なにかなぁ?」

「こちらで登録したクランメンバーなのですが、数人見覚えの無い者がおりまして」

 

 イベントに送り出した〈超級〉や準〈超級〉、そしてクラン〈パルプンテ〉へと向けた刺客の他に、リーンに覚えのない者がいた。

 

「ラブアンドイーズ……この方はトワコさんのお知り合いでしょうか?」

「そうだよぉ。私のお友達、かな」

 

 珍しいとリーンはトワコの言葉に驚く。

 よもや彼女に友人がいようとは。

 殺戮性と狂気じみた言動から友人の類はいないと思っていた。

 

「(いや……)」

 

 考え直す。

 ならばトワコと友人関係を結べるということは。

 同じ穴の狢なのでは無いかと。

 

「そうですか。それは良いことですね」

 

 他にも何人かの有翼の〈マスター〉がリストにあがっている。

 いずれもトワコの友人枠らしい。

 

「(……下手なメンバーであれば足を引っ張ると思っていましたが。これだけの戦力ならば本当に一大クランとして名を馳せるかもしれませんね)」

 

 既にかき集めた寄せ集めクランの規模を超えた戦力となっている。

 出来得る限りのことはした。

 後は彼らの吉報を待つだけと、リーンは痛くも無い胃を擦る。

 

 

 

 

■【動物王】レシーブ・キープ

 

 クラン〈パルプンテ〉の中で最もやる気を損なわれたのはレシーブであろう。

 イベント会場となった偽レジェンダリアの広大な土地にモンスターは存在せず、【動物王】のスキルがまともに発動しない。

 フィリップからグラスコードを数匹貸してもらってはいるが、それも一時しのぎにしかならず、時間の経過と共に彼女は再び愚痴を溢すようになった。

 つまらない、飽きた、面倒……いずれも意欲が低下している表情で、感情でレシーブは溢す。

 

 だが、隣を走るパリドーネは疑問に思うのだ。

 普段から隣を歩く彼女からしてみれば、この言葉は一体どこまで本音なのだろうかと。

 本当にやる気は損なわれてしまったのかと。

 問いかけたくて問いかけたくてたまらなかった。

 

 2人は小さな湖を見つけ立ち止まる。

 背後には岩壁。

 見晴らしも良いため、敵が来れば近づかれる先に気づけるだろう。

 

「……周囲に人の気配無し。一度休息をとりましょう」

「ですねぇ。はー、疲れた」

 

 どっこいしょと座り込むレシーブ。

 警戒もなにもあったものではない。

 一応、グラスコードを通じて周囲を探ってはいるのだろうが、それでも緊急事態に備えているかは不明だ。

 

「……動けるような姿勢でいるべきかと」

「それだと休憩になりませんよ。パリドーネちゃんも座ったらどうです?」

 

 お茶もありますよ、とアイテムボックスからハーブティーを取り出す。

 茶葉の香りがふわりと広がりパリドーネの緊張を緩める。

 

「……」

 

 一瞬、ほんわかとした気持ちが思考を占めるが、すぐに気を取りなす。

 

「お茶は頂きます。ですが……っ!? レシーブ! 誰か来ます」

 

 複数人の足音。

 それが、湖の方から聞こえる。

 

 気づけばレシーブも立ち上がりそちらに視線を送っている。

 

「まずは先手必勝。姿が見えた瞬間、私が質問を――」

「まあ待ちなって。せっかくのお客さんを無下に返しちゃ可哀そうだろう?」

「――!?」

 

 軽く、肩を叩かれた。

 人を呼び止める時の、その程度の軽い衝撃。

 だが、それがいつでも自分を殺せていたという証。

 

 思わず振り返ると、そこには軽薄な笑みを浮かべた男が立っていた。

 

「はは、可愛い顔が台無しだなぁ」

「……何者です」

 

 即座に【問王】とスフィンクスのスキルが発動される。

 だが、2つのスキルの制限時間が示される前に男は答えた。

 

「マシラギ。マシラギ・スルガだ。そっちの――この世界での名前は何かな? とりあえず彼女の彼氏だから安心してよ」

 

 と、男は――マシラギはパリドーネの隣を指さした。

 そこにいる、レシーブの方へと。

 




レシーブの彼氏とかいう概念
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