<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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24 非暴力に訴えろ 後編

■偽レジェンダリア 首都アムニール

 

「そうだ! 雨だ!」

 

 少女の言葉に1人が叫ぶ。

 

「この雨が降り始めた時からおかしくなったんだ。【戦意喪失】とかいう訳の分からねえ状態異常なんて付けられて……これもお前の仕業だな!」

「ええ、そうです」

 

 あっさりと少女は認める。

 悪びれもせず、むしろ善行を褒められたように照れた笑みを浮かべる。

 

「だったら話は早い……俺のエンブリオは全てを遮断する傘。雨を防ぐには傘だよなぁ!」

「どうやって?」

「……へ?」

 

 傘を手に持つ〈マスター〉は雨を防ごうと傘を差そうとする。

 だが、少女の演奏がそれを邪魔する。

 傘はダンスの道具の一部とされてしまう。

 

「アハハ! 面白い! 確か日本にはおサルさんが傘を使って芸をするんでしたっけ。身を以て教えてくれるだなんて、親切ですね」

 

 そう、強制的に踊らされている彼らにはもはや雨をどうこうする手段など無いのだ。

 

「てめえ、一体なんの目的でこんなこと……」

「だからそれは、和平を築くためですって」

「こんなこと、いつまでも続けられるわけじゃねえぞ。いずれはてめえのスキルに使われているコストも尽きるはず……」

 

 MPかSP、あるいは他の代替手段を用いていたとしても、無限に使えるスキルなどない。

 途切れた瞬間、即座に殺そうと、この場全員が心に思っていた。

 

「そうですね。まあ1時間もあれば雨は止んでしまうでしょう」

 

 1時間。

 それは予想以上に長い。

 否、エンブリオは停戦にのみ絞った能力で、この強制的な踊りはジョブ由来であるからこそ、その時間も成り立っているのだろうか。

 

「まあ、その前に私はこの場から去りますけどね。ああ、追いかけることも出来ませんので悪しからず。追いかけた先に私を害そうとするのであればそれは既に攻撃行動……【戦意喪失】に引っかかります」

 

 だから、と少女は言葉を繋ぐ。

 

「皆さん、仲良く踊りましょう。シングをソングしてダンシングですよ」

 

 

 

 

「なあ、一つだけいいか?」

 

 ふと、踊っている〈マスター〉の1人が口を開いた。

 特別、特徴らしさの無い者であった。

 装備に統一性はなく、唯一帯刀していることが目立っていた。

 

「はい、なんでしょうか」

「アンタのスキル……誰かを攻撃することは出来なくても自害システムは機能しているんだな」

「ええ。だって、自身の暴力性を反省して自ら命を絶つことは美徳ではないですか。それを咎めることはとてもとても」

「そうか」

 

 男は刀をアイテムボックスへと仕舞う。

 それをみた少女はニンマリと笑みをつよめる。

 

「まさか、私の言葉を理解してくれるなんて! ええ、そうです。みんな武器を捨てましょう。防具を捨てましょう。一切合切の争いなく! 諍いなんてせずに! 誰かを傷付けない世界にしましょう!」

「随分と偏った……思想だな」

「はい?」

 

 刀を仕舞った男は小さく呟いた。

 少女はそれに対し聞き返す。

 聞こえなかったのではなく、意味を理解できずに。

 

「俺のステータスはENDが高い傾向でな。だから、ある程度の状態異常は防ぐはずなんだ。だが、それも今は【戦意喪失】が付いているし、ENDは下がっている。順番は逆だな。ENDが下げられた上で【戦意喪失】を付けた。この雨はそういうものだろう?」

 

 状態異常は普通、ENDが高ければ防ぐことができるもの。

 だが、戦場の〈マスター〉達は誰一人として防ぐことが出来ずに、状態異常をかけられてしまった。

 前衛職でステータスが高いはずの者も例外なく。

 

「なるほど、アンタは一方的に自分の言葉を相手に聞かせたいらしい。耳を傾けさせるために大人しくさせるなんて、暴力的な発想だ」

「……なっ!?」

 

 男の言葉に少女は瞬間的に顔を赤くさせる。

 

「その表情は俺の言葉が的を射ている証だ。自分でも心当たりがあるんじゃないのか?」

「そんなわけありません……あるわけがない! 私は平和を愛し暴力を排斥する……! だからこそ私の必殺スキルである《非暴力主義(マハトマ・ガンディー)》は、そんな私の夢を後押しするための力で……!」

「力じゃないか。そう、結局、思想を貫くためには力が必要になるんだ」

 

 男の挑発するような言葉に、しかし少女は何もしない、出来ない。

 ここで挑発に乗って男を害そうものならば、それは少女の信条から大きく外れる。

 少女だけは【戦意喪失】にかかっていないし、確かに男の言葉通りにENDを下げた上で【戦意喪失】にかけるというスキルの説明は当たっている。

 それは、自身の思想を他者に押し付けようとするという少女の奥底にある醜い部分の現れかもしれない。

 

「だ、だけど……! それでも私はここで皆さんを限界まで躍らせてあげましょう。残り30分ほど、この雨の降り音楽の聞こえる一帯は戦えませんので」

 

 手も足も出すことはできない。

 ENDが下がってしまえば、ほとんどの状態異常は通る。

 そして、少女の演奏による強制的なダンススキルも発動する。

 敵同士が手を取り合い踊る。

 その光景を少女は何よりも美しく感じる。

 決して醜いものではない。

 

「……悪いがいつまでもここに捕らわれてはいられなくてな。30分もあれば俺にだって他に出来ることはあるだろうし……何よりも怒られる」

「だ、か、ら、踊る以外に出来ることなんてありませんよ。ああ、歌うのは歓迎です。ほら、何がいいですか? 特別にあなたのリクエストに応えてみせましょう。これでも少しは練習してきたんですよ?」

「……はぁ」

 

 男は大きく息を吐いた。

 それを溜息のように感じた少女は、自分が呆れられているのだと錯覚する。

 

「諦めてください! 私の目の黒いうちは戦うなどという行為はさせないのですから!」

 

 男は鎧をアイテムボックスへと仕舞う。

 インナーだけとなった男に、少女は目をぱちくりとさせる。

 

「え……?」

「いやなに。まあそれはそれで美徳だと感じてな。アンタがその非暴力を貫くというのなら、こちらもそれに応えてもいいだろう、と。アンタに免じてここから出るのは俺1人に留まっておこう」

「えっと……私の非暴力を理解してくれ、た?」

「そういうことだ」

 

 突然の手のひら返しに、しかし少女は心躍る。

 これまでに出会ったことのなかった理解者に、思わず一歩男へと近づく。

 『ここから出るのは俺1人に留まっておこう』という意味を理解しようともしないまま。

 

「おい……なんでHPがそんなに急激に減って……」

 

 男の横で踊っていたリーガルは少女との会話をきいていた。

 男の言葉から少女のエンブリオがどのような類か理解し、隙が無いか探っていたが、ふと男のHPが減り始めたことに気づいた。

 

「他者を傷付けない、か。自害は、自殺はできるんだよな――《死線は超えている》」

 

 そして少女が男へと近づいた瞬間、男のHPはゼロとなり、その肉体が爆ぜた。

 

「――ッ!?」

 

 その爆発の威力は高く、隣のリーガルや反対側の〈マスター〉だけでなく、少女をも巻き込み、その全てを致命傷に追い込んだ。

 

「雨が止んだぞ!」

「おお……状態異常も消えている」

 

 少女が死に、《非暴力主義(マハトマ・ガンディー)》の効果も無くなる。

 すぐに彼らは戦いを再開し、そこは再び戦場と化した。

 少女の訴えも信条も既に頭には無い。

 ただ相手を殺すという感情だけが彼らを支配する。

 

 

 

 

 戦場の傍ら、先程爆発した男は無傷の肉体で戦場を後にする。

 

「俺はただ自殺しただけだ。自殺に巻き込まれたんだとしたらそいつらは……運が悪かったんだな」

 

 【自殺王】クリアント、獲得ポイントは総計で120。

 そのポイントが誰のものであったか、クリアントは1人たりとも名を思い出すことはない。

 




女の子かわいそう

非暴力主義(マハトマ・ガンディー)
ENDを下げ(鎧を奪い)、【戦意喪失】をかける(剣を奪う)必殺スキル。
少女は加えてENDが下がっていることで広範囲に強制的に躍らせる【音楽家】系統のスキルを使い、戦場を鎮圧させる。
必殺スキルの効力が切れる前に逃げるため、ほぼ愉快犯となっている。
だけど本人的には今日も戦場を平和にしたとか思ってる。
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