<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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28 最終防衛ライン

■クラン〈パルプンテ〉

 

 クラン〈パルプンテ〉の拠点は洞窟を用いている。

 洞窟の最奥に陣を敷き、そこを守るようにメンバーを配置していた。

 防衛組初日はクャントルスカ、バウム、キシリー、夢味、イテカ、妹妹、ワン・フー・ウーの7名の編制である。

 その中でもステータスと本人の気質の問題からバウムはアイテム作成によるサポートを主に担当しているため、戦闘を請け負うのは彼を除いた6名。

 先の翼持つ少女の一件でなにやら思案しているクャントルスカは集中力を欠いており、イテカが主に指揮を執ることとなっていた。

 

「(こんな時に使い物にならないとか……やっぱり苦手ッス!)」

 

 心の中で愚痴を溢しつつも、敵影を発見すれば即座に数名を向かわせて対処していく。

 今のところは斥候が多いのか、そこまで戦闘力が高い〈マスター〉は来ず、回復を挟みつつ連戦に臨めていた。

 

「妹妹さんと……それにああ、かなりの強敵みたいスね。悪いんスけどクャントルスカさん行けるスか?」

 

 イテカの持つレーダー型の特典武具が相手の大まかな強度を図る。

 少なくとも準〈超級〉クラスの敵が訪れたようで、確実な勝利の為にこちらも最大戦力で迎え撃ちたい。

 

「分かりました」

「うん、行ってくるね」

 

 対応力にも長けた妹妹と純粋に〈超級〉として強いクャントルスカがいれば大抵の相手は問題は無いだろう。

 イテカのレーダーは広域を探ることが出来るが、代わりに少しでも【隠密】系統のスキルが使われていたらあっさりと突破されてしまう。

 

「あ――」

 

 喉元にナイフが迫る。

 咄嗟に全身を脱力させ、同時にのけぞる。

 膝を強く打ったが、ナイフは鼻先すれすれを過ぎていき、HPは微々たる量をもっていかれた。

 周囲に人の影などない。

 だが、確かにそこには誰かがいる気配があった。

 

「チッ、外したぞ!」

「構わない! 態勢を崩しているうちがチャンスだ」

 

 強襲こそイテカは勘で避けられたが、イテカの守りを潜り抜けた数名が陣の最奥を目指し走り去っていく。

 足跡は3人分。

 高レベルの忍かなにかだろう。

 

「うわ!?」

「っと――」

 

 洞窟の奥からは夢味とドッペルの声がきこえる。

 幾度かの金属の打ち合う音が響くがやがてそれも静かになる。

 どちらかが倒れたかと思ったが、夢味とドッペルの悔しそうな声がし、どうやら彼女達も突破されたのだと察せられた。

 

「んー……配置ミスったスかね。でも体の大きなキシリーさんは洞窟の外じゃないと戦えないし。ワンさんも力任せに戦ったら洞窟が崩れるだろうしで……どうしたもんスか」

 

 このままではすぐにフラッグの下へと強襲者達は辿り着くだろう。

 姿の見えない敵。

 この洞窟内においてまともに戦えるのはイテカくらいだろうが、戦うよりも突破されることを選択されてしまえばイテカとて出し抜かれる。

 

「イテカちゃん、ここにいたんだ」

「来たよー」

 

 洞窟奥から夢味とドッペルが姿を現す。

 強襲者達が自分達を無視して奥へと進んだことで出口付近にまで逃げてきたのだ。

 

「これでいいんだよね」

「これで大丈夫なんだよね」

 

 夢味とドッペルはイテカに確認する。

 本当にフラッグの場所へ強襲者達を追いかけずに、逆に出口にまで来てしまって良かったのかと。

 

「問題無いッス」

 

 フラッグの置いてある場所。

 そこは突貫的に工事を行っている。

 目的は唯一つ。

 密閉するためだ。

 

「さあ、早く、もっと遠くへと逃げるッスよ」

 

 なにせ無味で無臭で無色なのだ。

 気づいた時には死んでしまっているだろうから。

 きっと強襲者達は悲鳴を上げる間も無かっただろう。

 

「バウムさんの毒ガス兵器を浴びたくなかったら」

 

 

 

 

 フラッグを守るにあたって、その守る手段は2つ用意されていた。

 物理的にフラッグそのものを守るのと、その一帯を陣地として守る手段だ。

 

 物理的にというのは、先程のような強襲者達を防衛組が直接叩くというものだ。

 〈マスター〉が直接向かってくるのであれば妹妹やイテカ達が戦う。

 遠距離からフラッグや洞窟そのものを破壊しようと魔法やスキルを放つのであればキシリーが膨大なHPとENDで耐え抜く。

 ある意味で単純でどの陣営も行っている守り方だ。

 〈パルプンテ〉は1人1人の層が厚いためにそれを高いレベルで行えているだけ。

 

 だが、それでも完全な防衛ではない。

 状態異常で動けなくされる、あるいは優れた【隠密】スキルの持ち主であれば、そもそも戦わずして突破される可能性があった。

 そうなったとき、どうすればよいか。

 

 ならばこちらも戦わずして倒せばよい。

 

 その結果が、最終防衛ライン“蟲毒部屋”。

 バウムを指して蟲毒という言葉は皮肉めいているが、本人から言い出したことだ。

 即ち、バウムが作り出した対人特攻の毒ガスでフラッグを置いた空間を密閉しておくというもの。

 この毒ガスを作り出すためにクラン10名以上の遺伝子が使われている。

 加えて密閉空間であるため、逃げ場所など無いし、その密閉を崩した瞬間に強襲者達を毒ガスが襲い掛かる仕組みだ。

 無論、今回ばかりはバウムも気密スーツ内は自前のガスを循環させることなく、安全な酸素のみ。

 

「……」

 

 会敵と同時に死んだ強襲者達をバウムは見下ろす。

 毒ガスは人間のみに効果を示すためフラッグには何の影響も無い。

 そして、密閉していたドアにも。

 

 だから、ドアが破壊されているのは単純に強襲者達が乱暴に開けた結果だ。

 

「やってくれやがったな」

 

 わざわざ開閉しやすいようにドアを作っておいたというのに。

 まさか壊されるとは思わなかった。

 

 毒ガスはどんどん洞窟から出口へと流れ出ていく。

 仲間達は問題無いだろう。

 その致死性を理解しているが故に誰よりも洞窟から遠ざかっているはずだ。

 知らずに近寄った者達は漏れなく敵であるためむしろ死んでくれたほうがいい。

 

 だからこそ、

 

「俺1人で修理しなければならないじゃないか」

 

 破壊されたドアをみてバウムは肩を落とす。

 蝶番もフレームも本体も全てが割れている。

 これでは新たに作らなければならない。

 

 幸いにも部品はある。

 ……が、

 

「まさか、これから日がな一日この作業が待っているのか……?」

 

 木工系のスキルなど持っていない。

 だからこれから行うのは全て手作業だ。

 出来なくはない……からこそ、壊されると分かっているものを作るのはかなりしんどい。

 

「ああ、クソ……本当に――」

 

 残った強襲者達の死体から乱暴に遺伝子サンプルを採取していく。

 採取が完了すれば死体は漸く役割を終えたように消えていく。

 

「蟲毒の中で生き残るのは厄介だ」

 

 溜息をつきつつ淡々と作業を開始したバウムだが、ふと手を止める。

毒ガスの生成は一時的にストップしている。

 拡散範囲も濃度も、拡散速度も、全て予定通り。

 これ以上広がっては陣地内で孤立してしまうため、強襲者が“蟲毒部屋”に侵入すると同時に停止させた。

 

 洞窟内部は未だ毒性物質が残っているが、外はガスも拡散し安全圏なはず。

 洞窟の外からバウムへ声がかかっていてもおかしくはない……はず。

 

 だが、待てども待てどもその気配がない。

 クランメンバーのHPを示すステータスバーに大きな変動はない。

 多少削れているメンバーもいるが、元々どの程度だったか覚えていない。

 だが、生きていることは確かだろう。

 

 なのに、だ。

 

「……まさか、な」

 

 思わず浮かんだ言葉を呑み込む。

 まさか実力者が複数名押し寄せ、その対応に全員がかかりきりとなり誰一人として戻って来られないなんて……

 

「……無い、よな?」

 

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