<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【剛剣士】ワン・フー・ウー
強者との戦いを望んでいた。
憧れのあの人に近づきたかったから。
強者からの勝利を望んでいた。
勝てばきっと強くなれるから。
強者になるための道を模索していた。
探し続けなければ、強くなれないから。
フィリップから聞き出した、ワン・フー・ウーでも勝負になるであろう強者達。
いずれも搦め手や自身のフィールドで戦うような者でなく、単純にステータスや技巧で戦闘を運ぶ〈マスター〉。
フィリップが名を挙げたのは3名だけであったが、それ以外にもこの戦場には猛者は数多おり、いずれもが敵クランのメンバーであるワン・フー・ウーに牙を剥く可能性は高い。
どころか、1体1での戦闘になるなど、そうそう起こるはずもなく……
「チッ……数が多い!」
苛つき混じりに舌を打ちながら、ワン・フー・ウーは装備を新たなものへと変える。
前衛職が1人、後衛攻撃職が1人、後衛支援職が1人のバランスの取れたパーティーが〈パルプンテ〉のフラッグを破壊しようと攻め入っていた。
敵パーティーの前衛職はタンク型のようでワン・フー・ウーから多少被弾が入ったところで臆することなく立ちはだかる。
その隙に後衛から矢が放たれ、ワン・フー・ウーの鎧の隙間に突き立つ。
そして、態勢を整えようとしているうちに支援職が前衛のHPを回復させるというパターンに入っていた。
「(これは対大型モンスターを想定した戦い方……!?)」
じりじりとこちらばかりが削られており、敵も長期戦を覚悟しているのだろう。
パーティーは回復アイテムすらふんだんに使い死ぬことを避け、とにかくワン・フー・ウーの消耗を狙っている。
「もう少しだ!」
「焦ってきたぞ! 必殺スキルの準備をしろ!」
「ああ! 引き付け、頼んだぞ!」
弓使いの矢に光が集中していく。
間違いなく強力な一矢を発射するだろう。
敵の言葉からすると必殺スキル。
受ければ、ワン・フー・ウーとて無視できるダメージでは済まない。
「――ッ!」
打つ手はある。
というか、ワン・フー・ウーはあえて自身の手札を少なくしている。
強力な装備の数々は温存しており、今使っているのも亜竜級以下の装備ばかり。
この程度の力量の相手に純竜級の装備を使い、ステータス任せに倒しているようではこの先に待ち受ける強者達には勝てない。
だからこその出し渋りだったのだが――
「これで負けているようじゃ……どのみち後が無い!」
ワン・フー・ウーは《瞬間装着》で装備を変更する。
今のは多彩な相手にも対応できるよう、比較的ステータス補正のバランスの取れた装備。
「装備を変えたぞ! 情報通りならステータスも更新される!」
支援職が叫ぶ。
その言葉にタンクはワン・フー・ウーの新たな姿を睨んだ。
「全身黒か……!」
グランザルムとの戦いで腐るほど手に入れた攻撃全振りの装備。
残念ながらモドキの装備は全てグランザルムとの戦闘時に使い切ってしまっている。
だが、この攻撃全振りだからこそやれることもある。
「うお……!? 離せ!」
タンクに密着するとその全身を掴む。
振りほどこうとタンクはもがくが、END寄りのステータスでは今のワン・フー・ウーに力では敵わない。
支援職がバフをかけようと、その差は埋まらず、遂には完全に担がれてしまった。
「……!」
「動けないだろ? 幾ら丈夫になろうと関節とか筋肉の起こりを抑えられると、関係なくなるんだ」
必殺スキルの発動が完成した弓使いは動けない。
このままではタンクも巻き添えになってしまう。
「……。構わねえ! 俺なら耐えられる! だから――」
少しの躊躇いの後、タンクはそう叫ぶ。
実際には耐えられるかは微妙だった。
直撃すれば被弾部位によっては即死。
少なくとも部位欠損は免れない程度には弓使いの必殺スキルの威力は高い。
だからこそ、僅かな躊躇いがあり、しかし自身の防御力を信頼し、その後すぐに指示を飛ばしたのだが――
「……よいしょぉ!!」
遅かった。
担がれたタンクはワン・フー・ウーによって弓使いへと投げ飛ばされ、2人纏めて地面へと転がされる。
「え、あ――」
慌てて回復をしようとする支援職であったが、もう彼を守る者はおらず、
「まずは邪魔なお前からだ!」
攻撃全振りのワン・フー・ウーに一撃で潰された。
支援職の欠けたタンクと弓使いは立ち上がり態勢を整えようとするも、既に勝敗は決していた。
バフの無いタンクではワン・フー・ウーの攻撃を受けきることは出来ず、弓使いもまた攻撃の余波だけでHPが削られていき、何も出来ないまま死んでいった。
1人だけとなったタンクはそれでもと防御を固めるも、
「《破城槌》!」
胸部に正拳を受け、倒れた。
3人の死体が消えていくのを見届けながらワン・フー・ウーは回復アイテムを呷る。
消耗は少ない。
今のレベルの相手ならばまだ数戦は可能だろう。
「ありがとうございました」
完全に消える寸前に対戦相手に礼を言い、その場を立ち去ろうとした瞬間――
「すっご~い。思ってたよりもやるじゃん?」
パチパチパチという気の抜けるような手を叩く音と共に、背後から女性の声がした。
「(――いつの間に!?)」
全く気配を感じられず、気づけば間合いへと入られていた。
その気になれば不意打ちとて可能だっただろう。
だが、背後の相手はその様子もなくワン・フー・ウーが振り返るのを待つ。
「メインは【剛剣士】。サブは【壊屋】系統も入ってるね。……ふうん? ステータスのごり押し……と見せかけてリアル格闘術で戦う感じ?」
振り返ればそこにいたのは日に焼けたような浅黒い肌と、全身に悪魔をモチーフにしたかのような刺青を入れた女性。
否、頭にはネジくれた角、鋭い真っ黒な爪、背には小さな翼、腰部にみえる先端が矢のように鋭い尾……悪魔のような出で立ちの女だ。
「(あれはアバターデザイン……? それともエンブリオか……)」
その異様な姿と現れ方に圧倒され無言になってしまったワン・フー・ウーに女は首を傾げる。
「聞こえてる~? まさかさっきの戦いで耳が潰れたとか言うんじゃねえよなぁ? 私の悪魔的な声を聞き逃したとか、アンタお仕置きされたいの?」
イヒヒ、と悪戯めいた笑いをする女。
ワン・フー・ウーは女の声に……ではなく、言葉に固まっていた。
「悪魔……的?」
いや、まさかと、その考えを否定する。
ここにいるはずがない。
そんなわけはないと。
だが、悪魔のような姿と今の発言。
常々言っていた。
悪魔になりたい、と。
「おい、聞いてんのか? あんだけ稽古をつけてやったのに、寂しいじゃん」
「あ。あ、あ、あああああああああああああ」
勝てない。
本能がそう訴えてくる。
刷り込まれた。
刻み込まれた。
上下関係を。
彼我の差を。
日々、嬲られ殴られ蹴られた。
全て稽古であり仕置きであり、彼女にとってはじゃれ合いだった。
そう、彼女こそは
「姉弟子……!?」
「お、せいか~い。アンタがここにいるなんて思いもしなかったぜ。さっきの正拳、まだまだ改善の余地有りな? 久しぶりに私が悪魔のような稽古をしてやるよ」
妹妹が道場から去った後に台頭してきたワン・フーウーのもう一人の姉弟子。
精神の師が妹妹であるならば、きっと技の師はこの姉弟子だったのだろう。
今更ながらにワン・フー・ウーの視界に彼女の情報が流れてくる。
あえて隠すことをしなかったのか、名やレベルだけでなく、ジョブやステータスすらも映る。
名をエウリィ・リリィ。
合計レベル……782!
メインジョブは【翼神】。
彼女こそは“悪魔憑き”。
ワン・フー・ウーにとっての悪魔である。