<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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とりあえず2話だけ投降
自己満足自己満足


30 悪魔のように 2

■【剛剣士】ワン・フー・ウー

 

「れ、レベル782……!?」

 

 メインジョブ【翼神】……名からして超級職の1つだろう。

 無意識に1歩下がってしまった。

 グランザルムモドキとの戦いですら、臆しこそしたものの前に出られたワン・フー・ウーだが、今はその時よりも戦意を失っている。

 恐怖ではない。

 それ以下の、何十何百と味わわされた敗北が頭の中を占めていた。

 勝つビジョンなど浮かばず彼は思わず、

 

「姐姐……」

 

 眼前とは別の師を縋るように呼んでしまっていた。

 

「……」

 

 そんな彼をエウリィは面白く無さそうに見る。

 

 戦意喪失は別に良い。

 それは他の誰でも無いエウリィ自身が叩き込んできた結果なのだから。

 

 弱いのは別に良い。

 始めから彼は弱かった。

 多少の強さを纏ったところで根本は変わらないことを知っていたから。

 

 歯向かうのも別に良い。

 弱かろうとも強くなろうとする。

 戦意が無いくせに、勝てるとも思わないくせに立ち上がり続ける様は見ていて気分が良かった。

 

 だけど、今のは良くない。

 目の前に自分がいて。

 心の奥底に、確かに刻み込んだ自分の名ではなく、別の名を呼んだ。

 正しくは敬称であって本名ではないが、今の姐姐がエウリィを指示していないことは女の勘が告げていた。

 

「ワン・フー・ウーね……じゃあワンちゃんかなぁ」

 

 分かっていないのであれば分からせねばならない。

 誰が格上か。

 誰が一番悪魔的に偉いのか。

 

 あの女と自分、どちらが目の前の少年にとって師として上なのかを。

 

 エウリィは小さく舌を出し、唇を舐める。

 それは獲物を前にする肉食獣が如く。

 少年の心を完全にへし折ることを決めた姉弟子は絶望を謳う。

 

「残念だけどさぁ、誰も来ないよん?」

「……へ?」

「頼りのお姉ちゃんも、他の仲間も、みんな来ないんだぜ。アンタが幾ら泣いて喚いて叫んだところで。死んじゃったら駆け付けられないもんなぁ!」

「そんなこと……!」

「そんなことあるんだよ! 私のクランの連中が今頃はアンタの仲間を根絶やしにしてるだろうぜ! 悪魔の贄にすらならない連中ばかりだろうけどよ、アンタだけは特別に生かして殺して贄にしてやるよ!」

 

 エウリィは構える。

 悪魔を模したアクセサリーパーツを見せつけるかのような独特の構え。

 

 あの頃と変わっていない、というのがワン・フー・ウーの印象だった。

 一見、意味の無さそうな構えであり、しかしその全てが致命打に繋がる動作となる。

 

「……、エウリィ、リリィ」

「私が勝ったらエウリィお姉ちゃんって呼ばしてやるよ!」

 

 それが開戦の合図とばかりに、エウリィはワン・フー・ウーの懐に飛び込んだ。

 

 

 

 

■クラン〈パルプンテ〉

 

 バウムが危惧する通り、現在〈パルプンテ〉の陣周辺には幾人もの敵クランの〈マスター〉が集まっている。

 そしてそれは1つのクランではなく、幾つものクランによる連合軍。

 超級2人を抱えているという優勝候補に最も近いクランを潰すためには連合軍を作らなければならないという声の下に彼らは集っていた。

 

「なんだよ、せっかく遠路はるばる来てみれば……俺の相手はでけえだけの嬢ちゃんかよ」

 

 両腕を交差し自分の身を守るキシリーに止まぬ連打を浴びせるのは6本腕の男。

 “多腕”グローゾル・ルバーツ。

 エンブリオによって多腕を手に入れた彼は自前の格闘センスも相まって、攻撃こそが最大の防御と言わんばかりに反撃を許さぬ連撃を得意とする。

 “重ね阿修羅”を彷彿させる出で立ちだが、異なるのはその腕が生身であること。

 これによって彼の腕は彼のステータスをそのまま反映させており、剛力と速度を両立させていた。

 加えて彼の必殺スキルはステータスに腕の数を乗算させるという単純かつ強力なもの。

 ステータス任せのキシリーとて苦戦を強いられることとなる。

 

「(攻撃の種類が違う……)」

 

 そしてキシリーが最も手強いと感じた点は、グローゾルの攻撃手段の多彩さ。

 ある腕は握られ、ある腕は開かれ、ある腕は刀となり、ある腕は爪を立て、ある腕は鋭くなり、ある腕は鈍器と化している。

 開かれた腕は防御を崩し、槍や刀のように武器を模した腕は出血を招き、他の腕もまた厄介な攻撃を繰り出す。

 それぞれに対応して守るのであれば6通りの防御手段を常に行わなければならない。

 

「どうだ、これが俺様の自慢の腕っぷしだぁ! 羨ましいかぁ?」

「(……どうしよう)」

 

 キシリーは感じていた。

 この強者の6本腕を見て――

 

「ちっとも羨ましくない……」

 

 全く魅力的に思えなかった。

 

 

 

 

「大きな壁だぁ」

「見上げちゃうね」

 

 夢味とドッペルの眼前には壁が広がっていた。

 見上げる程高く大きく広い壁。

 攻撃はしてこない。

 だが、四方を壁が囲っており、その内外は完全に隔離されているといってもいいだろう。

 

「君のことは良く知っているよ。相手のステータスやスキルを模倣するのだろう?」

 

 その壁の上に1人の忍者が立つ。

 印を結んでいるが特にスキルを使う気配は無い。

 恐らくはただのポーズだろう。

 

「だから私がここにいる。君と真正面から戦うなど無意味。後で私の仲間が合流し、多数で囲んで倒すのが上策だ……違うかね?」

 

 声からして女だろう。

 忍者はマスクの下で得意げに笑う。

 

 その戦法は確かに夢味達を相手にするのに合理的だ。

 どんな強者を連れて来ようともコピーされてしまうのであれば、強者ではなく時間稼ぎが出来る者が相手をすればいい。

 そしてコピーも同時に1人しか行えず、複数人で挑めば大した脅威ではなくなる。

 

「そうだね」

「たしかにその通り」

 

 だが、壁は壁だ。

 多少高くとも、よじ登ることはできる。

 それこそ〈マスター〉のステータスであれば尚更に。

 

「無駄さ」

 

 だが、夢味とドッペルが壁に手を掛けたところで忍者は首を横に振る。

 

「この壁は登ろうとすればより高くなる。決して超えることのできない壁……それこそが必殺スキル《第四の壁》……」

 

 つまりは乗り越えることでの踏破は出来ないということだ。

 忍者がこの必殺スキルを解くか、あるいは忍者を倒さなければ夢味達は壁の外に出られない。

 

「つまり君たちはジ・エンドということさ」

 

 

 

 

 戦いとは頭を使うことだ。

 幾ら肉体が頑強であろうと、技が研がれていようと、戦っている最中に思考を止めては勝てるものも勝てない。

 イテカは超級職、エンブリオ、特典武具……いずれを使い押し切るよりもまずは相手がどのような力を使うかを観察し、それに見合う戦い方を模索する。

 

「はっはっはー! 我が最強の、魔女の一撃を喰らうがいい!」

 

 だからこそ、真正面から堂々とやってきて、奇襲も不意打ちも無く馬鹿げた大声で大きなハンマーを振り回す少女をみて、やりやすいと感じた。

 

 魔女の一撃か何か知らないが、巨大なハンマーを使う直接戦闘タイプだろう。

 ハンマーは威力こそ高いが、難点は取り回し辛さ。

 加えて持ち主の技量もそこまで高くはない。

 ハンマーに振り回されて体の軸もブレているのが目に見えて分かる。

 

 小回りの利く武器を構え、回避と攻撃を繰り返せば勝てるな……と思考を巡らせた時であった。

 

 少女がハンマーを振り下ろす。

 イテカからすれば回避は容易な攻撃……のはずであった。

 右足を踏み出し、ステップを刻みつつ左手の短刀で相手の喉を裂こうとし――右足が出ずにその場に留まる。

 

「!?!?」

 

 ハンマーがイテカを殴り飛ばす。

 小さな身体が飛ばされ巨木の幹に突き刺さる。

 

「ハンマーを武器にしているからってアタシをそこいらの脳筋どもと一緒にすんなよ。魔女の一撃はてめえの動きを鈍らせる。アタシは賢く戦うのさ。……ふふふ」

 

 クラン〈御邪魔女連合〉から〈パルプンテ〉に送り込まれた切り込み隊長トールマウスは出来るだけ賢そうに笑った。

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