<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
感想あると加速します。無くても加速することもあります
■【剛剣士】ワン・フー・ウー
戦闘音が聞こえる。
幾つも幾つも、次いで仲間の悲鳴も。
ワン・フー・ウーは歯を強く食いしばりながら、拳を握る。
ひとまずは仲間のことは置いておく。
否、目の前の師をどうにかしなければ、仲間の心配をする資格もない。
「来な。稽古つけてやるよ」
ワン・フー・ウーは持ち得る限りの最強の装備を身に纏う。
純竜級を全身に纏い、そして必殺スキルの名を唱える。
「《
準備を整え、一つ息を吐きだす。
肺の中もこころの中も空っぽにし、構える。
「……行くぞ」
右の拳を真っすぐに突き出す。
エウリィはそれを左手で軽く流すと、次いで出されたワン・フー・ウーの左側面からの蹴りを右腕で受ける。
受けた瞬間にはエウリィの右手はワン・フー・ウーの左膝を掴み、間接を折りたたむ。
「――ッ!?」
「さっき手本をみせていたよなぁ。それって、こういうことだろ?」
エウリィは左足でワン・フー・ウーの右脚を払うと、彼はたまらずその場に尻もちをついてしまう。
「……!?」
「さ、早く起き上がりなよ。試合再開までは待ってやるから」
余裕をみせているつもりか、エウリィはワン・フー・ウーが立ち上がるまで背を見せて、3mばかり離れた位置にまで下がる。
「……!」
「そう睨んだところで何も変わらねえよ。私の強さは私だけのモンだし、アンタの弱さはアンタが由来だ。強さを纏っただけじゃダメなんだ。弱さを自覚しただけじゃダメなんだ。悪魔に強さを願わなければ、アンタは強くなれねえんだよ」
「それでも――」
右、左、とワン・フー・ウーは拳を握る。
だが、それら全ては弾かれ、エウリィには全くのダメージも入らない。
いや、それどころか……ワン・フー・ウーにもダメージは無い。
転がされようと、殴り飛ばされようと、防御を超える衝撃は伝わっていない。
それほどの力量差。
あの時の、ワン・フー・ウーと妹妹の戦いと同じような現象が起こっていた。
「――ッァ!」
だが、今の彼はあの時と同じではない。
少しは強くなれたという自信がある。
左拳を突き出す、と見せかけての右拳。
エウリィはワン・フー・ウーからみて左側を警戒しており、右側は無反応。
渾身の一撃を繰り出そうとし……寸前で止められた。
「あ~……全然ダメじゃん。ていうか、変なクセ付いてるじゃねえか。どっかで見たなこれ……まさかアンタ――アイツに技を教えてもらったのか?」
アイツ、が誰を示しているかは言うまでもないだろう。
そしてその答えもまた言うまでもないだろう。
正確には妹妹はワン・フー・ウーに対して技の伝授は行っていない。
これは彼が勝手に妹妹の戦いから盗み学んだもの。
それでもエウリィにとっては関係ない。
教わろうが勝手に盗もうが、同じことだ。
「やっぱさ、ワンちゃん。一回死んでもう一回私んところ来いよ。何回でも稽古つけてやるし、何回でもぶっ殺してやるよ。そんで……一緒に悪魔になっちゃおうぜ?」
「(姐姐……!)」
エウリィの殺気が膨れ上がる。
これまではお遊びとばかりに
もはやステータスとか装備とか、そんなものが介在する余地もない。
技だけだ。
この場では技が全てであり、ワン・フー・ウーではエウリィに届かない。
強さも速さも起こりの前で技によって止められる。
エウリィはワン・フー・ウーを一撃で下すつもりで右手と爪で手刀を作る。
極限にまで洗練された手刀は文字通り悪魔のように無慈悲に命を刈り取るだろう。
ワン・フー・ウーに避ける術も気力も既に無い。
諦め、請うように目を閉じる。
武の極致。
その一撃には年齢に見合わない才と鍛錬が隠れており、止められる者は限られる。
少なくとも、ワン・フー・ウーには止めることは出来ず――
「――最悪な勧誘はやめてください。その子は……私の弟子なんですから」
――手刀は別の、小さな少女の手に宿る爪で受け止められた。
小さな可愛らしい体躯。
その声も仕草も表情も、何もかもが愛らしく可愛らしい。
だが、爪だけはどこまでも凶悪で少女に見合わず、だからこそ少女の強さを示す武器となる。
「姐姐……!」
【切断姫】妹妹。
彼にとっての英雄が現れた。
「……ん、で、てめえがここに」
エウリィは苦々し気に呟く。
その言葉には二つの意味が込められていた。
一つはこのデンドロの世界、にという意味。
こちらの世界でも弱者を助けるために動いているということをエウリィは知らなかった。
同じ街でどこかで痛めつけ続けられているのだろうと思い込んでいた。
そしてもう一つは……
「あんだけ送り込んでやったのに……! ここに来るには3人か4人はいただろうがよ!」
妹妹が現れた方角。
そことエウリィ達の間には数人、エウリィの仲間が配置されていたはずだ。
索敵持ちもおり、そこをすり抜けられるはずもない。
倒せる実力があったとしても、こんな早く駆け付けられるはずが――
「ええ、全く厄介な敵ばかりでした。不意打ちも、臨戦態勢の相手には通用しませんし」
「だったら――」
エウリィの仲間はほとんどが準〈超級〉に名を連ねる者ばかり。
目の前の宿敵も技量から考えれば、同じ準〈超級〉の枠組みには入ることは必須だろうが、それでも同じ枠組みだ。
エウリィとて彼ら複数を相手にここまで早く倒すことは出来ない。
相性次第では苦戦も強いられるはず。
「だから奥義も必殺スキルも使いきってきました」
あっさりと、妹妹はそうタネを明かした。
全力でここに駆け付けたと。
他ならぬ、ワン・フー・ウーのために。
「なんで――」
「なんでだよ!」
エウリィの疑問はかき消される。
妹妹にとって守るべき対象の、その当人の声によって。
「なんで俺なんかの、僕のために……!? もっと慎重に戦えば姐姐は必殺スキル無しでも勝てたはずじゃないか! 使い切っただなんて、だったら姐姐はもう……」
戦力としては大幅なダウン。
いや、妹妹の技量からすればまだ十分に戦えはするだろう。
だがこの先にいる強者達を……そして目の前のエウリィを倒すには足りない。
十全でなければ、きっとエウリィには敵わないだろう。
「元より必要ありません。過ぎた力なんです、私には」
右手の爪一つで十分だと、それを見せつけるように妹妹はエウリィに向ける。
「私の弟子が世話になりましたね。エウリィ・リリィさん……いいえ、――」
と、エウリィの本名を妹妹は口に出す。
彼女もまた構えや技だけで、エウリィの正体を見破っていた。
「……マナー違反だよ」
「そうですか失礼しました」
エウリィの言葉に妹妹は悪びれもせずにそう答えた。
それがまたエウリィにとっては憎々しい。
彼女はいつも悪いと思っていないのだ。
正しいと思い行動する。
それがどれだけ周囲にとって迷惑なのか、考えたこともないのだろう。
「あーあ、興が冷めたわ。ワンちゃん……アンタの躾はまた後にしてあげるよ。今はコイツが先だ。いくら聖人のように正しくても、天使のように可愛らしくとも、悪魔の強さの前では無意味だってことを教えてやる」
女と女の戦い。
師と師の戦い。
武と武の戦い。
姉と姉の戦い。
戦いはそのまま火蓋を切る――
「敵影を発見しました。速やかに殲滅します」
――こともなく、その寸前に更に別の介入者が現れた。
それは、戦場において最も異質であり、戦場を後にするならば最も相応しい姿をしていた。
怪我人を運ぶためのものであり、決して戦う者が操るものではない乗り物。
「……お前は」
ワン・フー・ウーは彼女に覚えがあった。
なぜそんな姿なのか。
初めて見た時に憤りすら覚えた程に印象が深かった相手。
「“磔刑”……」
「まずはあなたです」
車椅子に縛られる少女、“磔刑”。
彼女の車椅子からは数々の武装が展開され、その全てが無防備なワン・フー・ウーへと牙を剥く。
リアルだと妹とエウリィが同い年。12~13歳くらい……だっけ? 忘れたけどそのくらいだった気がする。
ワン・フー・ウーと”磔刑”がその少し下くらいの設定。