<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
どの話でもいいので感想とかあるとめっちゃ頑張る
30話 魔法少女のいる世界
【???】
子供だった頃、とても仲の良い友達がいた。
その子は可愛らしく、女の子らしい女の子であった。
何をするにも一緒だねと他の子によく言われた。
今となってはからかわれていたのかもしれない。
だけど当時は素直に嬉しかった。
仲の良いことを褒められて、気分が良くなったのを覚えている。
その子のチャームポイントは八重歯であった。
笑顔から覗く綺麗な歯はその子に映えた。
本人は恥ずかしそうに、隠すこともあった。
だが、誰がなんと言おうと、そして本人が否定しようとその子の最も可愛いところは八重歯であり、八重歯こそがその子を引き立てているのだと思っていた。
だから――。
そして――。
決別することとなったのだ。
とても仲の良い2人は引き離されることとなったのだ。
【深潜水士】クリアント
「着いたな」
「はい! 長い道中でしたがようやく辿り着きましたね!」
「ああ……涙を主食とする吸血鬼や、人間をペットにする獣人など、流石レジェンダリアといったところか。実に良い冒険だった!」
「俺は巨人と小人のカップルがあの後どうなったか気になるな。というかあの2人、体格差もあるけど、年齢差もあったよな」
「今となってはいい思い出ですねぇ。その辺りのくだりは全てカットされてしまったみたいですが」
「カットって何だよ。1カ月かかった旅路は本当のことだろ」
「ええ、まあそうなのですが……なんでしょうか、飛ばされたような気がして……」
「飛ぶ? 今回の目的地は山のほうだ。空は最後になるからまだ飛ばなくていいのだけどね」
グラスコードとの死闘が終わり、海底からレジェンダリアへと上陸してから1月後。
途中でいくつかの事件を解決しながらクリアント達は目的地であるバーンマウントマウンテンへと辿り着いていた。
「でもそのおかげでワンプちゃんの力はまた一つ上へと上がることが出来ました! 第三形態ですよ、第三! 上級エンブリオまであと1つ!」
その過程でも死ぬことが多かったからか、スワンプマンは第二形態から第三へと進化していた。
肉体創造のストックこそ増えなかったが、また1つスキルは増えた。
「……どこで使うんだろうか、あのスキル」
「どこでも使ってくださいよ!」
だが、そのスキルは第一、第二形態で覚えたスキルに比べると使いづらい。扱いづらいと言うべきだろうか。
使える場面が限られ過ぎるのだ。
せいぜいが驚かせる程度。
「エンブリオもそうだが、ジョブもそろそろ考えていきたいところだな」
「そろそろどこかで転職はしておきたいところだね。地上で【深潜水士】のままだと不便だ」
「俺も【高位呪術師】に転職したけど、なんか合わないんだよなぁ」
「先輩って似合うジョブ無いですよね。カタログでも見つからなかったんでしたっけ」
これまでに何度か適性診断カタログを開いてみるも、以前と同様な結果。
どれも似たり寄ったりの適性値で、それこそレベルがカンストとなった【呪術師】や【潜水士】と最初に僅かだけレベルを上げた【戦士】との適性の違いはない。
「なんにでもなれるけど極められない、か。まあこの世界はレベルという概念があるから、時間をかければ極めることも可能だけど……君の素質に合ったジョブが見つからないんだね」
「まあ、【料理人】とか【錬金術師】といった非戦闘職は試していないけど……戦うには戦闘職だしなぁ」
「案外と、非戦闘職でも猛者はいるものだけどね。指揮者になって敵を倒している〈マスター〉もいることだし」
「【毒術師】……はマッドラップスの毒が真っ当なものか怪しいからスキルが乗るかどうか。そもそもマッドラップス以外の毒を使ったところでだし」
ああだこうだと、目的地の山を前にしているにも関わらず、カタログを開き始めるクリアント。
「ああ、そうだ。忘れていたけど、君に伝えたいことがあったんだった」
「伝えたいこと?」
「告白ですか? それは許しませんよ!」
ワンプの眉が顰められるが、フィリップは笑い飛ばす。
「ははっ。違う違う。クリアントの適性ジョブについてだ。グラスコードとの戦いが終われば言おうと思っていたんだけどね」
「はぁ……なんだ、そっちですか」
「ジョブの方が大事だろうが」
「私の知るジョブに、君に良さそうなのがあってだね」
クリアントの力を知った時に思い出した1つのロストジョブ。
それも超級職。
この力はきっとクリアント以外には使いこなせないと、フィリップは確信していた。
「その名も【
「おお……超級職か」
「自殺王って縁起の悪そうな名前ですね」
自殺である。
他殺が当たり前にあるこの世界でも、やはり自殺は物珍しい。
一度限りの命であるティアンもであるが、〈マスター〉とてデスペナルティを喰らってしまうのだ。
よほどのことが無ければ自殺は行わない。
「あ、でも先輩この間やってましたよね自殺」
「そうだったっけ」
「ほら、グラスコード戦の時。フィリップさんの必殺スキルが当たりそうになって」
「……ああ」
死んで、位置を変えようとした時だ。
結局、自殺は成功したが、目的としては失敗した自殺であった。
「自爆以外に死のうとする人なんて滅多にいませんよね」
「自爆……そうか、自爆系のスキルを覚えれば」
「マッドラップスの鎧なんて自爆系みたいじゃないですか。というか、死体が霧散するんですから、やめてくださいよぉ。汚いので」
ともあれ、自殺という行為はクリアントにとって全く取らないということでもない。
必要とあらば自分の命すら作戦に加えることが出来る。
「過去に1人しかというのは条件がかなりシビアなのか」
「まあね。詳しい数は分からないけど、自殺を試みた回数が転職条件みたいだ。一般的な〈マスター〉では時間がかかり過ぎるし、ティアンなんて死んでしまえば転職どころではない。だけど、君なら最短距離で向かえるだろう?」
「……だな」
現在の肉体創造のストックは10。
一日に9回自殺を試みればいいだけ。
なるほど、これはクリアント向けだ。
「だけどこれは街のクリスタルでは転職できなくてね。条件を満たした者かつとある場所に行かなければならないらしい」
「移動に時間がかかるのか?」
「いいや。都合の良いことにレジェンダリアにあるよ。カルディナとの境くらいだから、この山の次の目的地くらいにしてみようか」
グラスコードを思えば、目の前にある山――バーンマウントマウンテンも容易な難易度では無いはずだが、こうして更に次の目的地を定めることで終わりが見えてくる。
それはフィリップなりの気の持ちようなのだろうか。
「ありがとう」
「……ん!? いや、ここは私が礼を言うところだよ! こうして私の冒険に付き合ってくれているんだ。超級職の情報くらい、いくらでも出すさ」
互いに互いの超級職への道を照らす。
クリアントの力がどれだけフィリップを助けられるか分からないが、【自殺王】という情報が、目的が今のクリアントにとっては大きな目印となる。
「まあ、この山がどうにもならなかったら、進めないんですけどねぇ」
「そんなこと言うなよ。俺達で攻略するんだろう」
「いや……だって……」
ワンプは深い森で覆われた山の麓……の先にある山頂。そこを覆う分厚い雲を見る。
時折黒雲は光っている。雷雲なのだろうか。
「あれに行くんですよね。間違いなく、雷降ってきますよ」
振るどころか、雷雲に呑まれた山頂に入るのであれば、雷の中に入っていくようなものだ。
常に雷に曝されるかもしれない。
「それはまあ……最悪ノーチラスの耐性に任せるとか?」
「ノーチラス号、山の中じゃ動かせないじゃないですか! 船頭多くしても船は山を登らないんですよ!」
意外なことにワンプは雷を怖がっていた。
普段のワンプを思えば雷くらいなんだと言うと思っていたが……。
「むしろスワンプマンの伝承だと雷は必須じゃないか。雷から始まるだろうに」
「雷に打たれるのは最初の人間なんですよ。私は雷が終わってから現れるんです! 逆説的に雷には撃たれていないという存在になるんですよ」
人間の遺伝子情報が雷を通して泥に伝い、人間の形を作るといった話だったはずだが……とクリアントは思い出す。
だが、それとてスワンプマンの意識は雷が過ぎてからである。
泥が雷を通ろうと、それは泥の状態。
「……まあ最善は尽くすけど」
「尽くしてください」
「結局、雷に撃たれるとしても俺なんだよな……」
その時はワンプはテリトリー型となっているためダメージは全てクリアントのものになるだろう。
「……さて」
と、フィリップはクリアントとワンプに目配せをする。
「私は山頂をあえて見ていなかったわけではなく、あちらの少女をどうしたものかと見かねていたのだけど……どうする?」
「……雷雲よりも扱いかねるな」
雷雲は雷耐性のある装備を揃えて進むという方針になるだろう。
もしくは、クリアントが死にながら進むという策も出るかもしれない。
だから、ひとまず山頂へ向かうという前提になってから。
クリアントとフィリップは、山頂以上に目を背けていた存在についてようやく目を向ける。
「……無視して行くか?」
「いや……この山の情報は少ないからね。すぐにこちらに攻撃を仕掛けるようなPKの類で無いことを祈ろう」
2人がその少女へと目線を向けると、あちらも気が付いたようだ。
遠い場所からぺこりと一礼する。
こちらも返すと、とてとてと走り出し――大きく跳躍した。
「とうっ!」
という、わざとらしい掛け声の後に
「しゅたっ」
と、これもわざとらしい声と共に、クリアント達の付近に降り立った。
「……」
「え、人間ですかこれ」
「……どうだろうね」
ワンプの驚愕は全員同様のものであった。
それもそのはず。
跳躍した距離は高さよりも移動距離が人間離れしている。
100mは軽く超えているだろう。
「こんにちは!」
「ふふっ。驚いているわね」
と、ピンク色のひらひらとしたスカートの裾を抑えながら着地した少女は挨拶をする。
その傍にはいつからいたのだろうか、背から翼を生やした少女が笑っている。
「仕方ないよ。だって、普通の人は魔法少女を見たら驚くものだもん」
「この場合はクャントルスカ、貴方の身体能力に驚いているんじゃないかしら」
翼の生えた少女の言葉に、もう1人の少女は得心いったとばかりに頷く。
「そうだね! 普通の人は魔法少女の力に驚くものだった!」
「ええ、そうよ。普通の人は、ね」
翼の生えた少女はクリアントに向けて薄く笑う。
見た目12,3歳くらいだろう。
ワンプと同じくらいの年齢の見た目である。
だが、ワンプを見ても可愛らしいと思うだけであるが、こちらの少女は蠱惑的、といった言葉が浮かび上がる。
クリアントを誘惑するような、そんな表情を浮かべている。
「むむっ。ワンプちゃんセンサーに反応あり! 先輩、浮気はダメですよ!」
「しないわ。というか、浮気ってなんだよ」
ワンプがクリアントと翼の生えた少女の間に入る。
両手を挙げて体に付いた泥を振りまきながら暴れるワンプを見て、クリアントはやはり色気は無いなとワンプを評する。
「いいわねいいわね。クャントルスカ、この人、いいわよ」
「モーちゃんはそればっかりだねー。でも、魔法少女も恋はするからね! だからモーちゃんは魔法少女として正しいよ!」
「魔法少女は私ではなく貴方よクャントルスカ」
魔法少女。
先ほどからその言葉が出てくる。
少女のふわふわでひらひらとしたスカートと、その使われている色から魔法少女をイメージしているのかとクリアントは納得する。
「貴方達、そこの森に入ろうとしているのよね? 今はやめておいた方がいいわ」
「魔法少女じゃない、普通の人は立ち入り禁止だよ!」
2人は山の麓にある森への立ち入りを止めようとしていたようだ。
「これから何が行われるんだい? というか先ほどから魔法少女って……」
「ああ、そうだった!」
フィリップの問いに対して、忘れていたとクャントルスカと呼ばれる少女はステッキを取り出すとそれを掲げポーズを取る。
「私は【魔法少女α】クャントルスカ! そしてこっちの子は私の使い魔のモーちゃん」
「エンブリオよ。ふふ」
「……ん? あ、そうだ。良いこと思いついた!」
翼の生えた少女――モーちゃんに訂正されながら、魔法少女を名乗るクャントルスカはその元気さのまま思い付きを口にする。
「貴方達も魔法少女になってみない?」