<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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33 つわものどもが 1

■【大拳士】グローゾル・ルバーツ

 

 どんなに強い人間でも、人間であるが故に腕は2本しか存在しない。

 左右の腕で同時に別の動きが出来る達人、左右の腕で同時に同じことが出来る才人、あるいは片腕だけで両腕足りえる超人。

 グローゾルはそれら全てを倒してきた。

 相手が人間であるが故に。

 相手の腕が2本しか無いが故に。

 

「そんだけ大きくてもなぁ、可哀そうに2本腕だと出来ることに限りがあるんだよ!」

 

 相対する巨人――キシリーとて例外ではない。

 巨人であろうとも腕が2本、その時点でグローゾルにとってはこれまで倒してきた者達と何ら違いを感じなかった。

 

「……むぅ」

 

 キシリーは不満げに唸る。

 幾度とない攻撃が6本の腕に阻まれてきたからだ。

 がむしゃらに、力任せに戦うというキシリーの戦い方が通じない相手であると、彼女自身も理解はしているのだろう。

 

「(――チッ。だが、まるで岩壁でも殴ってるような感触だな)」

 

 攻勢ともみえるグローゾルだが、その内心ではキシリーのENDの高さに驚いていた。

 アバターが巨人であることとその戦い方から高ステータスにものを言わせる戦闘スタイルであることは容易に推測出来ていたが、その数値までは予想外であった。

 体感でもENDは一万を優に越している。

 これでは6本腕で連打を繰り返し、文字通り手数で押し切るには時間がかかり過ぎる。

 

 グローゾルとしてはそのような泥臭い勝利は嫌いではなかったが、如何せん時間をかけてしまえば他の〈マスター〉を呼び寄せてしまう危険性もある。

 

「(今この時、俺はコイツとタイマンでやり合いてぇ……だからこそ決着を早める!)」

 

 誰にも邪魔されないためにも。

 早期決着をグローゾルは望んでいた。

 

「《成長過大(ギガランテ)》」

 

 だが、それ以上にキシリーの方が痺れを切らした。

 誰の目にも明らかな巨大化。

 ……そう、誰の目にも止まるような程に、キシリーは更に大きくなっていた。

 

「……は?」

 

 先程までが15m程の巨大な少女であったとするならば、今はその数倍――40m程の巨人。

 木々を軽く追い越し、その姿は恐らくイベント参加者のほとんどから視認出来たであろう。

 

「……ボスキャラかよ」

 

 呆れたように小さくそう零れる。

 これでは人間相手の格闘戦ではない。

 ただの怪物退治だ。

 多少大きいくらいの相手と思っていたが、勝手がまるで違う。

 

 自身の6本の腕を束ねたところで、キシリーの腕よりも細いだろう。

 そして、彼女から発せられる威圧感――ステータスは更に上昇を感じていた。

 

「上等だぜ」

 

 それでも尚、グローゾルは笑う。

 このゲームを始めたのは、純粋に戦いを楽しむためだった。

 馴れ合いは必要なく、欲しいのは喧嘩友達だった。

 そのために強くなったし、そのために戦いに明け暮れた。

 

「キシリー・キシシキ……ジョブは【巨人王】か」

 

 ロストジョブと数えられていたうちの一つ。

 実際には代替わりで継承されており、ようやく表舞台に立った超級職。

 

 恐らくは、この超級職の強さを味わうのは自身が初めてであろう、とグローゾルは実感していた。

 クランメンバー以外でキシリーが戦っていれば、もっと情報が出回っていたであろうから。

 

「俺の声が聞こえるか? それとも、聞こえない程、高みに昇っちまったか?」

「聞こえるよ」

 

 空から声が降ってくる。

 大陸全土に降り注いでいるようにも錯覚する程の、巨大さに見合う響く、しかし少女特有の幼声。

 やけに頭に響くなと顔を顰めながら、グローゾルは問うた。

 

「お前の限界はそこか? もっと上はあるのか……!」

「あるよ」

 

 絶望的なまでの回答。

 既にステータスの彼我の差は、同じ生物であるか疑わしい程に開いている。

 それこそ、戦闘特化の超級職でなければ彼女に追いつけないだろう。

 ステータスだけみれば、彼の“物理最強”にさえ引けを取らないはずだ。

 

 グローゾルは嬉しくなる。

 斯様な強者が、自分のために強化してくれたことを。

 

「……行くぞ!」

 

 次の瞬間、天から降り注いだ巨大な拳――そう呼ぶには巨大すぎる隕石のような塊――がグローゾルに直撃し、地面にクレーターを作り上げた。

 

 

◇◆

 

 

■【上忍】スリッド千砂

 

 予想以上に少女の頭はイカレている……そう、千砂は感じていた。

 

「高い壁だね。登れるのかな」

「登れるみたいだよ。豆腐みたいにナイフが入ってくから」

「登って、あそこまで行けたら、ここから出られるかな」

「きっと出られるよ。着いたらあの人に確認してみよう」

「ふふふふふふふ」

「あはははははは」

 

 危機感も戦意も無く、ただ目の前の現象を確認し、何が楽しいのか自身のエンブリオと共に笑い合う。

 それがただ不気味であり恐ろしかった。

 

「これが……ジャバニーズオカルトキッズ」

 

 幼い時にみた、ホラー映画に登場する殺戮村の案内役の童子。

 それに似た気配が、この少女達にはあった。

 

「無駄だ」

 

 忍者マスクの下では冷や汗をかきつつも、千砂は少女の動きを止めようと声を掛ける。

 

「私の恐怖から生まれ出たこのエンブリオ……決して超えることなど出来やしない」

 

 千砂のエンブリオ――【圧縮裂界 ギンヌンガガプ】は自身と相手との間に超えられない壁を生成するスキルを持つ。

 とはいえ、そこまでの強制力はなく、この壁というのも結界や異空間を作り出す類のものではなく、物理的な壁そのもの。

 どこまでも高くなり、千砂と相手を分断するが、壁を破壊し、向こう側へと到達すること自体は可能な代物なのだ。

 

「(――そう、だから私はこの子供らを相手に選んだ)」

 

 クラン〈パルプンテ〉のうち、高ステータス、高破壊力を持つ者を排除し、技や搦め手だけに優れた相手と戦う。

 千砂が今回、依頼された仕事はあくまで足止め。

 倒すことはせずとも良い。戦わなくても良い。

 

 ドッペルゲンガーをエンブリオに持つ狂ヶ咲夢味という少女の情報は既に得ている。

 依頼主からは、相手のコピーを生み出すだけでなく、夢味自身も相手のステータスをコピーするスキルを獲得したという最新の情報を与えられていた。

 

 そして、千砂のステータスではどう足掻いても壁を破壊するだけの力は無い。

 AGIに特化した、忍者らしいステータス構成である。

 

「(……さて、私の弱点が暴露されないうちに準備をするか)」

 

 とはいえ、このエンブリオもとい千砂自身に大きな弱点がある。

 それを悟られないために千砂は夢味に登っても無駄であると忠告をしたし、千砂自身も壁の上に立ち続けるなどということはしない。

 

 アイテムボックスから取り出したソファ。

 それを壁の上で固定する。

 ちなみに壁の厚みは変動しない。

 いくら高くなろうとも、だ。

 そして、風が吹けども壁は決して揺らぐことはない。

 

「あー、呑気のお茶飲んでる!」

「忍者のくせに!」

「忍者のくせにとは何だ。忍者とて休養は必要だ」

 

 ソファに寝ころび、ティーポットとカップを用意し、夢味達へ視線を送ることなく茶を楽しむ。

 夢味達から突っ込まれるが、彼女は受け流すかのように口元へとカップを傾けた。

 

「ふむ……連合軍は皆、接敵中か。付近の忍者軍団の到着までは5分ほど……」

 

 固有スキル《第四の壁》発動時間も余裕がある。

 このまま優雅に、仲間の到着を待とうとし、

 

「十分だな――ぶっ!?」

「《偶像支配》《認識修正》」

 

 ドッペルの足元の影が動き、そこから千砂の偽物が2人現れる。

 

「よーし、それじゃあ勝負だよ!」

「かけっこだね、分かった!」

 

 千砂のステータスをコピーし、AGI型となった夢味とドッペル、そして千砂の偽物達が一斉に壁を登り始めたのであった。

 

「いや、だから無駄だって!」

 

 お茶を噴き出しながら、千砂はそう必死に叫ぶのであった。

 




◇◆

↑を覚えました(今更)
これで場面転換の移行がスムーズにできるぜ
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