<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

402 / 443
35 つわものどもが 3

■【巨人王】キシリー・キシシキ

 

 振り下ろした拳をゆっくりと引き上げていく。

 地面には人間大のクレーター。

 名前もろくに覚えていない、先程の声だけは大きい男が埋まっているのだろう。

 

「……?」

 

 キシリーは自身の右手をみて首を傾げる。

 人差し指に僅かな出血。

 返り血だろうか、ならばこの出血量であれば間違いなく致命傷であっただろう。

 だが、その出血は少しずつ広がるように増えていく。

 同時に、キシリーの人差し指を起点にして、亀裂が入っていく。

 

「なんだろう、これ……?」

 

 膨大なHPであるが故に、僅かなHPの減少をみても焦りはない。

 それが、キシリーの欠点。

 余裕が、思考を妨げる。

 

「――《破壊の化身(シヴァ)》」

 

 羨むことも無く、弱い敵だからこそ、特に考えることもせずに殴ってしまった。

 そのエンブリオの力を知ろうともせずに。

 

「痛っ」

 

 すぐに右手は赤に染まる。

 欠損部位こそ無いが、力は入らず、回復アイテムやスキルを用いなければ使い物にならないだろう。

 

「つつつつ……つ強ィやヤツ」

「なんなの、もう」

 

 地面に空いたクレーターから、ソレは現れる。

 6本腕の破壊神が。

 

「ツヨイヤァツゥゥゥゥゥ」

 

 奇声と共にソレは、グローゾル・ルバーツは駆けだした。

 突然の変貌に気味悪げに顔を顰めたキシリーは反射的に左腕で彼を叩いた。

 

「ツゥゥゥヨォォォォイィィィィ」

 

 だが、その左手を乗り越えるようにキシリーの指に自身の腕を引っ掛けると。グローゾルは上方へと跳び、攻撃を回避する。

 

「……左手も!?」

 

 そして、グローゾルに触れられた左手は、無事では済まなかった。

 触れた箇所からじわりじわりと亀裂が入っていき、出血が止まらない。

 右手同様に握る力を失った左手をみてキシリーはようやく焦りをみせた。

 

「……触れない?」

 

 グローゾルの足元には何も変化はない。

 あの腕だ。

 6本の腕に何かの仕掛けがある。

 あれだけは触れてしまえば、キシリーの防御力を突破し、刻まれてしまう。

 

 それこそがグローゾルのエンブリオにして必殺スキルである《破壊の化身(シヴァ)》。

 6本の腕で触れた対象を破壊するという単純なまでの力。

 本来であれば、彼の手に触れたが最後、どこであろうと全身を砕いて裂いて割って殺す力なのであるが、キシリーの巨大さと防御力の高さが出血止まりと功を奏していた。

 

 とはいえ、大きいだけの、力だけのキシリーでは分が悪い。

 加えて、仕掛けを理解したところで両手を失った後では遅かった。

 

「フォーカーさん……ッ!?」

 

 ならば特典武具を使えば……と、急ぎフォーカーを装備しようとしたキシリーだが、両手を失った今、メリケンサックを装備したところで意味が無いことを悟る。

 あの武具はキシリーが手を使った攻撃の時のみ補助してくれるものだ。

 完全の対処に遅れてしまった。

 脅威とみなすにはあまりに遅すぎた。

 

「こ、の……!」

「ヒ、ハ、ヒャハハハハハハハ」

 

 右足もまた血塗れとなり、その場で座り込んでしまったところで、グローゾルはキシリーから視線を外した。

 

「……」

「なに……?」

 

 残された左足だけでどう戦おうかと悩むキシリーだったが、その間にグローゾルは走り去ってしまった。

 

「ツヨイヤツゥゥゥゥゥ」

 

 まるで、【巨人王】であるキシリーを差し置いて、他に強い者が出現したかのように。

 

「なんだったの……」

 

 そして、残されたキシリーは訳も分からず一人途方に暮れるのであった。

 

 

◇◆

 

 

■【上忍】スリッド千砂

 

 

「やめろやめろ……それ以上登ってくるなぁ!?」

 

 悲鳴と共に、アイテムボックスからクナイや手裏剣を下へと投げる。

 

「アハハハハハハ!」

「フハハハハハハ!」

 

 しかし笑う2人に当たることは無い。

 そも、彼女達を見ないで投げているのだから当たるわけがない。

 

「の、登ったところでこの壁が更に高くなるのだぞ! 君達は無駄な徒労をしているだけだ。この後、私の増援が来ればこの壁は解除するから、そしたら彼らと戦うといい。どうせ、無駄なのだから!」

 

 必死の説得にも聞く耳を持たない。

 

「ドッペルちゃん速いね! これが忍者の力なんだね!」

「夢味ちゃんも! どっちが高く登れるか勝負だね!」

 

 それもそのはず。

 彼女たちは千砂を目指して壁を登ってはいない。

 

 いつの間にか、夢味とドッペル、どちらが高く登るかの勝負となっていたのだから。

 だから千砂には目をくれず、時折落ちてくる難度の低い障害物も気にせず、ただただ笑いながら登っていく。

 互いに互いの一歩上が目的なのだから終わらない。

 子供だから、飽きるまでは飽くことなく拘り続ける。

 千砂にはそれが自身を目掛けて壁を登る怪異のようであった。

 

「やめろ、やめてくれ……」

 

 その視線は彼女達に向けられない。

 椅子にしがみ付き、空を見上げながら懇願する。

 その間にもアイテムは落とし続け、遂には武器ではないアイテムすらも落としてしまっていた。

 

「あ、お金が落ちてきた!」

「ボーナスステージってやつだね!」

 

 高額アイテムや希少な素材すらも落としてしまうが、今の千砂はアイテムボックスの中身すら見ていない。

 

「え?」

 

 いや、彼女たちの言葉を聞いて思わず見てしまった。

 自分が何を落としたかを。

 アイテムボックスではなく、落としたものを空中で器用に手にした彼女達の方を。

 

「あ、それ返して……ぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」

 

 そして、彼女達を越して、地面を見てしまう。

 

 ぐらり、と視界が揺れる。

 

 壁が揺れたのではない。

 この壁は下方を幾ら壊されても揺さぶられても、たとえ嵐が吹いたとてびくともしないものだ。

 壊れるが故に、決して揺らぐことはない。

 

 だから、揺れたのは文字通り千砂。

 高所恐怖症である千砂は下を見て、自分が如何に高所にいるかを改めて実感し、視界が、頭がぐらぐらと揺れ出した。

 

「……あ」

 

 必死に椅子にしがみ付いていたが、ずるりと手が滑り、椅子から滑り落ち、そのまま壁から落下していく。

 

 夢味とドッペルの背中をすり抜け、そのまま千砂は地面に叩き付けられると、高所からの勢いそのままに死亡した。

 

「このアトラクション、欠陥があったね」

「ゴール設定が無かったね」

 

 千砂の死亡と共に壁は高さを失い、夢味とドッペルはいつの間にか地面に下ろされていた。

 あたりには千砂が投げたアイテムが幾つも落ちている。

 

「これどうしようか」

「これどうしようね」

 

 しばらく悩む2人であったが、同時に手を叩く。

 

「落し物は!」

「落とし主にだね!」

 

 全て拾い上げ、次に千砂に会った時に返してあげよう。

 そう決めて、アイテムを拾っていく。

 千砂としてはもう二度と会いたくない2人であった。

 

 

◇◆

 

 

■【自由人】イテカ

 

「……とはいえ立っているのがやっとスね」

 

 ならば、とその場にイテカは座り込んだ。

 

「……?」

 

 トールマウスは訝し気にイテカをみるが、避ける気がないならばとハンマーを担ぐ。

 

「見せてやる、だと? 投げ出すことを、か……この戦いを投げだすということか!」

 

 つまりは敗北を受け入れたのだなとトールマウスは笑う。

 魔女の一撃は魔法少女を屈服させたのだと喜ぶ。

 

「ならばこの一撃の下に……下に……なんだ?」

 

 イテカの全身が光に包まれる。

 トールマウスはどこかで見たことのある光だと既視感を覚えた。

 どこで見たか……それは彼女が魔女の門戸を叩く前……そう、魔法少女であった頃。

 かつてトールマウスを殺した魔法少女の中の1人……始まりの魔法少女。

 

「魔法少女α!」

「正確にはその更に上……【魔法☆少女】ッス!」

 

 【自由人】の奥義である《天衣無縫》。

 コストを2倍支払うことで24時間以内に確認したジョブスキルを使用することが出来る。

 

 イテカはイベント開始直前に使えそうな仲間のスキルの大半を見させてもらっていた。

 勿論、中には使用回数が限られているものもある。

 だが、【魔法☆少女】の回復スキルは、【魔法少女α】を強化しただけの通常スキルは主にMPだけを使用するためそこまでハードルは高くない。

 

「あの人のスキルはあまり使いたくは無かったスけどね。でも、これで全回復スよ」

 

 流石に回復を極めた超級職の回復スキル。

 僅かであった体力はすぐに全て回復し、骨折を始めとした状態異常すらも完治していた。

 

「だ、だが! ならば再び我が魔女の一撃で!」

「トールマウス。アンタに質問するッス!」

「は?」

「私の合計レベルは何でしょう」

 

 突然の問いにトールマウスは固まる。

 その質問の意図を理解出来ずに、流れるアナウンスを聞き逃す。

 

『質問を認めます。制限時間は5秒』

「……難度の調整が分からないスね。このスキルはけっこう面倒そうス」

「なんだというのだ!」

『制限時間となりました。イテカのステータスを上昇します』

 

【問王】奥義である《問答有用》によってイテカのステータスが5パーセント上昇していく。

 

「……たった5パーセントスか。いや、私のステータスなら破格、スかね」

 

 自身の上昇したステータスをみて感心したようにイテカが呟く。

 元より低い【問王】ならともかく、真っ当に前衛を務められるイテカのステータスならば時間制限があるとはいえ、5パーセントも上昇するのはありがたいことだ。

 

「な、なんだ……何が起こっているというのだ……」

 

 回復と質問によるステータス上昇。

 全く異なる系統のスキルを使われたことでトールマウスは困惑する。

 

「わからないスか。これが全部を中途半端に……いや、様々な経験を積んできた私の結論スよ。無理なことは他人に頼る。誰かの力を借りる。アンタは1人で勝手に諦めた。それが私との違いスね」

 

 座ったままイテカは腹部から砲門を展開していく。

 これこそが《問答有用》でステータスを上げた理由。

 反動が強すぎて、とてもではないが扱えない代物。

 

「《虚ろなる洞に望みし者は(リビングアーマー)》」

 

 体内に隠し持つ武器全てを束ね、その威力を一つの爆弾として砲弾から送り出す。

 溜め込んで貯め込んで、最後には中身が空っぽとなる。

 【自由人】となり、ステータスが上昇したからこそ、ようやく扱えるようになった必殺スキルである。

 

「だ、だが逃げてしまえば……ッ!?」

 

 避けようとするトールマウスの足元が動かなくなる。

 みれば、影が彼女の足元に絡んでいた。

 

「オーナーが【高位呪術師】に就いていてくれて助かったスよ。おかげで、当てることも出来る」

 

 威力にのみ重視した必殺スキルであるため、その他は疎かとなっている。

 特に命中精度に関してはイテカの技量任せ。

 反動が強すぎるため、イテカとて動く相手には当てられない。

 だから、【高位呪術師】のスキルで動きを封じる必要がある。

 

「アンタのは魔女の一撃でしたっけ? だったらこっちは魔法少女の一撃っス」

 

 砲台から強力な一撃が放たれる。

 

「――全く魔法少女関係ないだろぉぉぉぉッ」

 

 真っ当な言葉と共にトールマウスの全身が必殺スキルによって消し飛ばされた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。