<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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禁断の連続更新


40 “悪魔憑き”エウリィ・リリィ 1

■【翼神】エウリィ・リリィ

 

 どいつもこいつもと嫌気がさす。

 そんなにあの女が強いか。

 そんなにあの女が偉いか。

 そんなにあの女が――正しいか。

 何故自分が――劣っているのか。

 

 あの日……あの女が負けたと聞いた時は耳を疑った。

 街から英雄が消えた。

 『不戦条約』とかいう、あの女が定めたふざけたような決まり事も、あの女が英雄としての力を失ったその日から、無かったことになった。

 再度訪れた、強者だけが道の真ん中を闊歩できる時代。

 道の端には蹲る弱者が、震えて歩く怪我人が、声を潜める子供たちがいた。

 それらを除けるように、群れるだけしか出来ない不良が、武器を手に持つならず者が、後ろ盾を持つゴロツキが、大きな顔をして街を歩いていた。

 ――ムカついたから全てを叩き潰した。

 

 少しはさっぱりするかと思ったが、全然そんなことは無かった。

 風の噂ではあの女が弱者を演じその身を以てスケープゴートになっているとか聞いたが、鼻で笑った。

 とんだ疑似餌もあったものだと。

 ムカついたから、あの女に少しでも触れた奴等も叩き潰した。

 少しだけ、さっぱりした。

 

 強さを得るには代償が必要となる。

 それは時間とかお金とか、あるいは他に大切なものだとか。

 私はそれらを悪魔に差し出した。

 いいや、私が悪魔と呼ぶものに、明け渡した。

 代わりに得たのは何だったのだろう。

 街の膿を絞り出しても名声は得られず、むしろ膿だった奴等以上に恐れられ疎まれ、私の前に立とうと思う奴はいなくなった。

 楽しくなかった鍛錬はより楽しくなくなり、いつしか共に道場に立つ人間すらいなくなった。

 

 これが悪魔に願った代償か、と後悔したことは無かった。

 だって、願ったのは悪魔なのだから。

 何だって叶えてくれる代わりに、思い通りにいくはずがない。

 

――嗚呼、だったら

 

 一つだけ思いついた。

 この寂しさを紛らわす方法を。

 前に立つ者も、共に立つ者もいないならば。

 

――他に、悪魔の贄になる奴を作ればいい

 

 道場に年下の男の子が来たのは、そのすぐ後だった。

 

 

◇◆

 

 

「……ッ!」

 

 妹妹。

 この女が楽しそうにしているのが気に食わない。

 この女が苦しそうにしているのが気に食わない。

 この女が、アイツと共に居るのが気に食わない。

 

 気に食わない。

 気に食わない。

 それらを許容してしまった自身が気に食わない。

 

 殴打も強打も、通じない。

 全てが同様の威力でいなされる。

 それは、力量が、技術が近いからではない。

 相手が、合わせているからに他ならない。

 

「ッ……、クソがぁ!」

 

 渾身の掌打に妹妹が合わせる。

 互いの掌を合わせた形になり、その小ささがより目立つ。

 何故、こんなにも違うのに。

 レベルだって、ステータスだって、自分の方が高いはずなのに。

 あんな小さな手で、何で合わせられるのか。

 

 ギリ、と歯の奥で音が鳴る。

 砕けることは無いだろう。

 そんな柔ではない。

 

「……いいさ」

 

 技比べをしに来たわけではない。

 ここには、殺し合いに来たのだ。

 勝てば官軍。

 全部を出し切ってこの女に勝ち、自分こそがアイツの師に相応しいのだと宣言してやる。

 そうして、アイツも、この女も、悪魔の贄にしてやる。

 

 受け止められた掌に爪を突き立てる。

 僅かに妹妹の顔が歪んだ。

 ああ、いい気味だ。

 必死に手を外そうとするが、そうもいかない。

 そうはさせない。

 

 エンブリオは見たところ、あの爪のようだ。

 爪型のエンブリオ……ならば最も攻撃の威力が高いのもその部位だろう。

 妹妹が爪を振るう。

 それを……同じく爪で受け止めた。

 

「……どうやって」

 

 その顔が驚愕に満ちたと分かったのに少しだけ間が空いた。

 だって、そんな顔見たことも無かったから。

 

 ああ、コイツもそんな顔するんだな。

 ちゃんと人間だったんだなと安心する。

 ――人間なら悪魔の贄になれる。

 

「知りたいか?」

 

 爪型のエンブリオを、同じく爪で受け止める。

 そんなこと、通常では有り得ない。

 それこそ悪魔の力でも借りなければ不可能な芸当だ。

 

 だったら、通常でないことが起きたまで。

 エンブリオの力ではない。

 特典武具を始めとした、装備の力でもない。

 これは、ジョブの――超級職の力だ。

 

「背中に生えるは悪魔の翼」

 

 小さくも羽ばたける、小さな翼が背で動く。

 悪魔らしく可愛い私の自慢の翼。

 【翼神】たる所以。

 

「――指に宿るは悪魔の爪」

 

 そして、私のサブジョブにあたる超級職が爪の強度を著しく上げている。

 

「……まさか」

 

 ああ、遅い。

 いつだって、遅いんだよ。

 行動も、理解も、遅いから駄目になるんだ。

 駄目になった後で嘆いたところで、やっぱり遅すぎたんだ。

 

「超級職が1人1つだなんて規則はねえぞ? ましてや私らみたいな奴が、どうして1つに収まるんだ」

 

 一部の超級職には技量が求められるものがある。

 それまでのジョブの育成や、行動に関係なく、一定の技量が条件とするシリーズ。

 私から言わせれば、それこそイージーだ。

 だって、技量さえあれば就けるのだろう?

 ああ、あるぞ。たんまりあるぞ。

 翼を動かす技も爪を研ぐ術も。

 

「改めて名乗ってやろうか? 【爪神】をサブジョブに持つエウリィ・リリィちゃんがよ」

 

 返す逆の手で妹妹の頬を撫でてやる。

 爪が可愛い顔に傷を付けていく。

 

「必要ありません……という前に名乗っているじゃないですか」

「ははっ! その通りだ!」

 

 だが、それだけじゃない……と言う前に妹妹が言葉を続ける。

 

「他にもあるのでしょう? ひけらかすならご自由にどうぞ。後で時間が無かったとか言い訳するなら今のうちに」

「……何で分かった」

「勘、ですよ。どうせあなたのことです。1つや2つ、スキル特化超級職を手にしたならば、他にも持っていると踏んだだけです」

「そっか……」

 

 だったら勿体ぶることもない。

 全身全霊、全力でこの女を叩き潰す。

 その時こそ、コイツの泣き顔が拝めるかもしれない。

 

「背中に生えるは悪魔の翼」

 

 背の翼が動く。

 

「指に宿るは悪魔の爪」

 

 爪が刃の如く光を反射する。

 そして、

 

「――貫き通すは悪魔の角」

 

 捻じれた、だけど凶悪な2つの角は可愛いだけじゃない。

 

「――指し示すは悪魔のしっぽ」

 

 まるで独立したかのような腰に付いた尾はその先端を妹妹に向けられる。

 

「――チラリと覗く悪魔の牙」

 

 獲物を喰らうための牙が口元から覗く。

 

 飛行スキル特化超級職【翼神】

 爪スキル特化超級職【爪神】

 貫通スキル特化超級職【角神】

 殴打スキル特化超級職【尾神】

 そして最後に少し違うけど、短剣スキル特化超級職【牙神】

 

 これが私の全身を彩るコーディネート。

 悪魔の力の源。

 

「アハッ、アハハハハハハ! どうだ! どうだよ? 少しは私のこと、見えてるか? その目に映ったか? 5つのスキル特化超級職! これが悪魔の力だ!」

 

 スキル特化超級職だからこそ。

 その条件が技量の高さにあるからこそ。

 持て余すことなく十全に私はこれらの超級職を使いこなすことが出来る。

 

「よくもここまで集められたものですね」

「天地にはとてもありがたい決まりがあるんだよ。技の競い合いからは逃げられないっていう決まりがなぁ! おかげで決闘っていう場で存分に私の技を見せつけてやったぜ。そうしたらアイツら全員、私にこの超級職をくれたってわけ」

 

 他にも運良く空席になった超級職もあった。

 元から翼の扱いも、短剣程度の扱いも心得があった私には容易いものだった。

 

「殺し合おうぜ、妹妹! あの時、強くなることから逃げたアンタと、鍛錬を積み重ねた私の競い合いだ! せいぜい、善戦したと見せられるか悪魔に願っときな」

「口も回るものです。おしゃべりに関する超級職は得られなかったのですか?」

「……決めた。アイツに良いところなんて見せないまま殺す!」

 




【牙神】さんと同程度の技術があれば【牙神】になれるんですね
ああ、はいはい、ありますよ
なんだったら他のもね、程度には技術の習得度が高いエウリィちゃん
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