<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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41 “悪魔憑き”エウリィ・リリィ 2

■【翼神】エウリィ・リリィ

 

「(おかしい……なんなのコイツ!? 悪魔みたく理解できない!)」

 

 5つの超級職に加え、持ち前の武術。

 これだけあれば、いくら過去に天才と持ち上げられていた奴だろうと圧倒出来る……そう踏んでいた。

 カマイタチは【爪神】の爪耐久力向上スキルにより封殺出来た。

 他の超級職も、こちらの技を後押しできるものばかり……だったのに。

 

「なんで……ッ! こっちが押されなきゃいけないんだよ!!」

 

 一つ殴れば二つ返ってくる。

 二つ殴れば更に倍が返ってくる。

 爪も角も、不意打ちで入れられたはずのしっぽでの攻撃も無駄に終わった。

 

「押しているとは……思ってはいませんけどね」

 

 そう言葉を返す妹妹はどこまでも涼しい顔であった。

 こちらの焦燥など気にもしないように、冷静に、冷血に対応してみせる。

 

「だったら……!」

 

 4連撃爪スキル《クロス・クロウ》。

 同時に尾スキル《スリッピング・リール》を発動する。

 

「これは、少し焦りました」

 

 爪も、尾も、全て受け止められる。

 爪スキルの4連撃、尾の一撃はカマイタチの5指がそれぞれ受け止めた。

 

「……ん、だよ、そんなこと出来んのかよ。マジで反則じゃねーか」

 

 どんな動体視力をしていれば出来るんだよ。

 そんな神業を……私以外に出来る奴がまさかいるなんて。

 

「……かふっ」

 

 ああ、だったら反則には反則だ。

 カマイタチに受け止められた私の尻尾が妹妹の腹に突き立つ。

 

「良い肉感だ。贄にするならもう少し食わせてからでも良さそうだけどね」

 

 尻尾を回転させ、妹妹の腹を更に抉る。

 妹妹のHPが加速度的に減っていき、奴の顔も痛そうに顰める。

 

「痛いか? なあ、あの時とどっちが上だ? あのどこから出てきたか分からねえ脇役のクソ共がやったのと、どっちが痛い? どっちが記憶に残る? 教えてくれよ、天才様よぉ!」

 

 《クロス・クロウ》を受け止めたカマイタチの手で私の手を弾き、そのまま尻尾も引き抜かれる。

 ……強度はやはり同じ程度。

 強化された私の爪、翼、角、尻尾はいずれも同程度の強度だ。

 それらが相殺されるように弾かれるのであれば、武器の手数としてはこちらが上回る。

 ――そしてリーチも。

 

「……記憶になんか、残りませんよ」

 

 妹妹はこちらを見る。

 その目は本当に私を見ているのか、分からなかった。

 私を通して別の誰かを見ているのか、それとも単に素通りしているのか。

 気に食わない目だ。

 

「どちらも私にとっては……大した痛みではありません。私にとって痛かったのは……苦しかったのは、あの時、あの子に涙を流させてしまった時だけです」

「……ハハッ! アイツの涙か! だったら私も何回も見たぜ! 鳩尾を蹴り上げた時! 背中から投げ落としてやった時! 絞め落とした時だってな! 悔しそうにこっちを睨みながら流す涙を見た時……残念ながら私は嬉しくて仕方なかったさ」

 

 そこに特権なんてない。

 あるのは平等に痛いという感情、感覚だけ。

 流させた涙の量ならこちらが上だ。

 妹妹に、それを上回らせはしない。

 

「……先ほども投げ飛ばしていましたね」

「なんだ、遠くから見ていたか。まだ稽古は必要だったからな、少しばかりイジメてやったよ。あと少しで私に泣きついて、またあの日に戻れると思ったのに……てめえに邪魔された」

 

 お前を殺したら、さっきの続きに戻る。

 そう意味を込めて睨むが、妹妹は私の言葉など聞いていないように続けた。

 

「相変わらず、身体を動かすのが上手いようですね」

 

 言いながら、妹妹はカマイタチの手を振るう。

 宙を撫でるように、振るわれたその手は風を巻き起こし、こちらを切り刻もうと大きくなっていく。

 

「……必殺スキル。さっきの言葉はブラフか? 随分と悪魔らしくなってきたじゃねえか!」

 

 5つの指、それぞれで使える回数制限のあるタイプの必殺スキル。

 使い切ったと言っていたが……この土壇場で回数が回復したとは思えない。

 嘘を、不意打ちで使ったのだとしたら、先程の尻尾での攻撃に対する仕返しといったとことだろう。

 そして、これだけは私のいずれの部位での相殺も出来ない。

 触れたら最後、その部位は諦めなければならないほど刻まれることだろう。

 

 風が巨大になっていくにつれて一歩下がり、下がり、下がり――私の鼻先に触れることなく風は小さく、消えていった。

 その間、妹妹は背後から風と挟み撃ちするように私に拳を突き上げてきたが、それら全ても、触れずに避けた。

 

 風が収まった瞬間、妹妹も構えを解いた。

 

「納得いきませんね」

「あ? 納得ぅ? んなのはこっちのセリフだっての。一から十まで、てめえに関しては納得がいかねえことばっかりだよ」

 

 こっちは不完全とはいえ必殺スキルまで使っているというのに!

 それなのに未だ殺しきれないってのは納得がいかない。

 

「……そういうことを言いたいわけではないのですが」

 

 ほんの少しだけ下を向いた後、妹妹は顔を上げた。

 

「貴女の動きのことです。以前のように、貴女は自分の身体の理解が人間離れしている。いわゆる体性感覚が優れている……技術の練度の高さはそこにあると、私は見ています」

「なんだよ、知っていたのかよ……」

 

 自分の身体がどこにあるか、私は隅から隅まで把握することが出来る。

 それこそ、毛髪の先までを。

 それどころか、触れた相手の皮膚や筋肉の動きから、瞬時に次の動作の起こりまで私は予測出来る。

 

「その力があれば技術を前提とする超級職に至ったことも納得です。先ほどから私の攻撃を紙一重で避けられていたことも……」

 

 その程度の芸当、私の力があれば造作もないことだ。

 置くべき場所に身体を置き、込めるタイミングで力を込めるだけ。

 その程度のことが出来ない他人は劣っているし、それを超えてくるこの女は苛つく。

 

「ですが私の身体に付けられた傷……これは貴女の体性感覚を以てしても、いえ、だからこそ本来は不可能なはずでした。貴女の四肢の長さ……この場合は尻尾の長さも届かないはずだからこそ私も見切っていると油断し、そして負いました」

「……フン。よく見てるじゃねーか」

「よく考えれば、翼も尻尾も、アクセサリーなら動かせるはずが無いのに。幾ら超級職を得ているとしても、その前提として動かせなければ条件は満たせないのに。貴女が悪魔悪魔というから、その姿でそれらを動かせるのが当たり前と思ってしまっていた自分が恥ずかしいです」

 

 〈マスター〉は亜人アバターを作ろうとも、肉体センススキルは持たず、見た目だけ。

 それは肉体を動かす力も同様ということであり、翼や尻尾があろうとも本来は動かすことはできない。

 それこそ、翼や尻尾型の置換型エンブリオでもなければ。

 

「エンブリオの能力、ですね。避けたはずなのに爪が不自然に伸び、曲がった。尻尾も自在に回転していた。優れた体性感覚を持つ貴女のエンブリオは、肉体を自在に操作する力……違いますか?」

 

 推理小説の探偵のように、妹妹は私の能力の正体を推測する。

 爪を伸ばした。

 翼を動かした。

 尻尾を曲げた。

 その全てがエンブリオによるものであると。

 

 ああ、その通りだ。

 そして、それだけじゃない。

 

「当ったりー。なんでわかったの? 勘? 経験? 似たような奴と戦ったことある? ……ま、別に何だっていいけどね。だって――」

 

 角がより螺旋状に。

 翼はより大きく。

 両手の爪はより鋭く。

 尾は叩き付けるために太く。

 それぞれが変形していく。

 

「どう? これなら、いくら鈍くても分かるっしょ?」

「これは……操作じゃない。変形……!」

「そ。全身を別のナニカに形作る能力。これこそが私の必殺スキル――」

 

 皮膚が黒くなっていく。

 変形していった部位はより明らかに、露わに、あからさまに、悪魔の姿へと変貌していく。

 

 ああ、見せたかったなぁ。見せたくなかったなぁ。

 こんな悪魔みたいな姿を。

 コイツにだけは。

 でも、仕方ないよね。

 このままで終われるわけがない。

 この程度と思われたくはないから。

 

『《接続せよ異形への変貌(アスモデウス)》』

 

 もはや声すら私のものとは別物。

 低く、強張り、地の底よりも暗い、しゃがれた声で私はその必殺スキルの名を宣言した。

 

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