<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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42 “悪魔憑き”エウリィ・リリィ 3

◇◆

 

 ……。

 ……。

 あーあ、見せちゃった。

 悪いことがバレたみたいに。

 テストで良い点を取って褒められたいみたいに。

 

 きっと、早く、もっと後で、いつか、すぐに、渦巻いて渦巻いて、頭の中がぐちゃぐちゃにこんがらがって……。

 それで……。

 この悪魔のような……ううん、悪魔の姿を見せて、それで何て言うのか想像するのが楽しかったんだ。

 凄いですねって言われるのかな。

 怖いですねって恐れられるのかな。

 それとも、あの時のような、気にも留めないような表情で見るのかな。

 

 ……あーあ、遂に。

 漸く、だ。

 

 答え合わせの時間。

 悪魔になった私のことを、コイツがどう思っているのか。

 ……。

 何かしら、思ってくれるといーな。

 

 

◇◆

 

 

■クラン〈パルプンテ〉陣地付近

 

『これが悪魔……これこそが“悪魔憑き” エウリィ・リリィ! ごめんね、今までのは仮の姿……私の真の姿はこの形態なんだよ』

 

 低い音が、一帯に響く。

 それが口から発せられた言葉であることを理解したのは、対面している妹妹くらいであっただろう。

 彼女とて同時翻訳機能が補正をかけてくれるおかげで、そしてエウリィの内面を知っているから理解出来ている。

 無理もないことだ……本来は火炎を吹くことのみに長けた、竜の喉では人の言葉を介することなど不可能なのだから。

 それを可能にしたのはまさにエウリィの優れた体性感覚の為せる業。

 形態が異なろうと、それが音を発するのだから声になるだろうと、上手く空気を震わせ会話を成り立たせる。

 

『ワンちゃんはさぁ……多分だけどモンスターを装備してるよね。倒したモンスターが装備化の条件かな』

 

 先程の外見とステータス、触れ合った強さから正解まで辿り着くエウリィ。

 自身も似たようなエンブリオだからこそ、容易に推測出来ていた。

 

『良いセンいってるけどさ、でも強さってのは不変じゃないと戦えねーのよ。突然のパワーアップとかはさ、格下相手になら通じる。だけど――私らには通じない』

 

 妹妹も、エウリィも、そして“磔刑”にも。

 ワン・フー・ウーのエンブリオ由来の強さは同格以上に技のある相手には通じなかった。

 

「貴女も随分とパワーアップしたように見えますが……第何形態にまでなるつもりです?」

『悪魔ってのはその時々で姿形を変えるんだっつーの。というかさ……随分と余裕そうなツラじゃん?』

 

 腹部を抑え、出血を止めようとしているが、その表情に焦りは見えない。

 ぎょろぎょろと四白眼が左右自在に動き、妹妹の全身を舐めるように見回す。

 

『私の必殺スキルにステータスの上昇なんてものはない。勿論、固有スキルにも。そんなモン、せっかく慣らした体の動きを自ら捨てるのと一緒だ。お前も、そうだろう?』

 

 少し離れた場所での戦い。

 ワン・フー・ウーもこの時ほとんどの装備を失い、そして本来の肉体に近いステータスで……この世界で最も慣れ親しんだステータスで現実世界の技を習得していた。

 高すぎるステータスは枷となる。

 相手との呼吸も、世界との時間の流れも、一切合わなくなってしまえば待つのは自滅だけ。

 妹妹も、エウリィも、主に相手の動きを読むことを前提として技を磨いてきた。

 だからこそ、相手と動きが余りにも違いすぎてしまえば、それは自身を弱体化させるのと同義。

 

『……ああ、だからか』

 

 と、エウリィは得心いったと頷いたように悪魔の如き顔を動かす。

 

『神話級UBMとの戦い……超級職を捨てたらしいじゃんか。馬鹿なことと思ったが……なるほど、捨てることで本来の力を取り戻したってわけか』

 

 ステータスを捨てることで技を取り戻す。

 そんなバカげた憶測は、勿論違う。

 だが、エウリィは妹妹ならばあるいは、と拡大解釈し、納得してしまう。

 

「そんなわけ――」

『ハ――だったら、今ここでてめえが超級職を捨てないのは、私がその神話級以下ってことか?』

 

 冗談じゃない、とエウリィは肩を揺らす。

 ここまでの姿を見せたのだ。

 必殺スキルを使ったのだ。

 なのに妹妹が見せたのは指先一つ分の必殺スキルだけ。

 未だにその神話級武具すら見せていない。

 

 どれだけ会いたかったか。

 どんな気持ちで避けていたか。

 

 全然わかっていない、わかってくれない。

 

「だから話を――」

 

 妹妹の言葉は絶たれる。

 上方から振り下ろされたエウリィの尻尾が、先程までの比ではないくらいに死をイメージさせられたから。

 地面を大きく抉りながら、四方に振り回される尻尾。

 ステータスの上昇は無い、と先ほど彼女は言っていた。

 その言葉にきっと嘘は無いだろう。

 ならば……上がったのは練度。

 肉体は使い慣れる程に力も速度も増す。

 

『イメージ通りだ……悪魔の尻尾はこうでなくっちゃ』

「……ッ」

 

 回避に専念すれば、当たることは無い。

 妹妹はエウリィの腰部――付け根部分と尻尾の先から着地地点を予測し、避けていく。

 

『《ウィップ・ステップ》』

 

 尻尾の動きが加速する。

 まるで2本、3本と増えたかのように残像を残しながら尻尾は加速度的に地面を破壊していく。

 ……否、実際に実体ある残像を残している。

 【尾神】のスキルの1つであり、一定以上の質量と長さのある尻尾を持つ亜人のみに扱えるスキルである。

 

『《トラッシュ・ホーン》』

 

 続いて、エウリィの額から伸ばされていた大きく捻じれた角。

 それが発射された。

 

「!?」

 

 予想外の角の動きに対し、僅かに動揺を見せる妹妹。

 その一歩遅れてしまった故に、彼女の左腕は角に貫かれた。

 

 

◇◆

 

 

 エウリィ・リリィのエンブリオの銘は【万能悪魔 アスモデウス】であり、その性質は肉体変化。

 彼女の言葉通り、元からあるステータス補正以外でアクティブスキルによるステータスの上下は発生しない。

 固有スキル《悪魔との契約》は倒したモンスターの肉体の性質を得るというもの。

 スライムであれば軟体生物のように肉体の関節の継ぎ目が無くなり、ドラゴンであれば鱗やブレスを吐けるようになる。

 アバターでは得られなかった、亜人としての肉体センススキルを彼女が得ていたのは、この固有スキルによるもの。

 悪魔モンスターを倒したが故に悪魔の姿を取り、【翼神】をはじめとした超級職を手にする資格を得た。

 

 とはいえ、これらは本来人間が持ち得ることのできない肉体部位や感覚であり、いきなり渡されたところで使うことは難しい。

 突然背中に翼が生え、神経が接続されたとて、これまで動かしたことのない感覚器官を動かすことはできないのだ。

 角も尻尾も翼も、自在に動かし超級職に至れたのは間違いなくエウリィ自身のセンスと努力の賜物といえよう。

 

 さて、更に発展した必殺スキル――《接続せよ異形への変貌(アスモデウス)》だが、一言で言ってしまえば合成獣(キメラ)だ。

 固有スキルでは性質だけだった肉体変化が、部位ごとに、そして大幅に形を変えることが出来るようになる。

 即ち、竜の如き牙や喉、サイの如き角、怪鳥の如き翼、獅子が如き牙……幾つものモンスターの姿形を模倣し、混ぜこねて、今の姿を作り出した。

 そして、ステータスは本来の彼女のもののままであるために、彼女は彼女にとって理想の悪魔の姿を取れるのだ。

 

 この必殺スキル、単体だけでみれば特別凶悪なものでも強力なものでもない。

 単純に変身可能なだけのどこにでもあるような必殺スキルだ。

 だが、エウリィ・リリィはどこにでもいるような少女ではない。

 優れた体性感覚を持つことで如何なるモンスターの姿でも本来のと同様な動きをしてみせるし、なにより5つもの“超級職”を持っている。

 そう……

 【翼神】のスキルを最も発揮できる大きな翼も

 【爪神】のスキルを最も発揮できる鋭く長い爪も。

 【角神】のスキルを最も発揮できるネジくれて且つ生え変わる角も。

 【尾神】のスキルを最も発揮できる重くて太い長い尻尾も。

 

 5つの超級職を複合的に扱える姿になれる必殺スキル。

 これならば強く見えるだろう。

 これならば優れたように映えるだろう。

 これならば彼女もきっと――

 

 

◇◆

 

 

『ハハ、どうだ! 悪魔らしいか? それとも私らしいか? 認めろよ、敗北をよ……そんで私のことをよ。私が強いと。お前では勝てないと。大人しく悪魔の贄になって、私の下で這いつくばると誓え!』

 

 既にエウリィの額には新たな角が生えている。

 生え変わる角であることを条件に扱える【角神】のスキル《トラッシュ・ホーン》。

 本来は、種族によって異なるが月に一度使えるか使えないかといった奥義。

 エウリィであれば問題無く、MPの続く限り使うことが出来る。

 

「……しませんよ、そんなこと」

 

 腹部、左腕を貫かれても妹妹の動きは精細を欠かない。

 エンブリオのある右手を最大限活かせるよう動き、最小限の動きでエウリィの攻撃を弾く。

 

「私は誰よりも弱く……そう見せかける魔法少女。だって、そうしなければ……誰かを助けることが出来ないから」

『だったら私の下で弱く在れよ! どっかの誰かの足の下じゃなくてさぁ!』

 

 【翼神】も【爪神】も、奥義を吐き出す。

 そのどれもが、戦闘系超級職に相応しい一撃必殺の威力を秘めている。

 ――その全てが妹妹に当たらない。

 

 HPは減っているはずなのに。

 傷は増えているはずなのに。

 動きは少しずつ遅くなり、攻撃の手は止まり、避けることで精一杯のはずなのに。

 

『……チッ』

 

 巨体になったことで妹妹の小ささがより顕著となる。

 即ち、当てづらい。

 エウリィの技があればそれさえもクリアとなっているはずだが、妹妹相手ではそれは単なる枷。

 当てづらいのだから当たらない。

 当然のように妹妹は避け続けられる。

 

『(だが……僅かにでも当たってはいる。重ねていけばいいだけ……)』

 

 HPも半分を割っている。

 奥義相当のダメージが後一つでも入れば、致命的だ。

 

 だが、当たらない。

 

「エウリィさん。先ほどから勘違いされているようですが」

 

 《ウィップ・ステップ》で作り出された残像が、妹妹の姿を隠す。

 見えずともエウリィは妹妹の位置を把握出来てはいるが、自身の尾が動きを阻む。

 

「貴女の強さは知っています。私に対して誇示しているようですが、言われずとも、です。だから私は今更貴女の強さを聞かない。知っていることに対しては耳を傾けない」

 

 僅かに尻尾にカマイタチが触れる。

 それだけで尻尾は半ばから斬り落とされる。

 

「貴女がやっているのは強がりです。でも、強さを持っている人間が強がったところで意味がない。本当に強いのならば、それを見せるのは私にでは無いでしょう」

 

 

 妹妹の爪が鋭く光る。

 【切断姫】によって切断力を増した爪は数回振るわれ――

 

「だから余計な強がりは捨ててもらいます」

 

――角も翼も次の瞬間には斬り落とされ、先程まで相殺されていたはずの爪すらも切断され……そして悪魔の牙はへし折られた。

 




【牙神】くんさぁ……君だけ何もスキル使用されてないの分かる?
全身を強化するための超級職なのに、君だけ場違いなんだよね
名前を変えるか他の特化職になって出直してきてくれないかな
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