<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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31話 【魔法☆少女】になるために

■特殊職【魔法少女】シリーズについて

 

 一般的に、どの職業も派生や類似した系統はあれど、シリーズとなっているジョブは【魔法少女】以外に確認されていない。

 αから始まりΩで終わる魔法少女シリーズは、超級職のように先着1名というわけではなく、制限なく就くことが出来る。そのためαだけでも10人程度はいるらしいが、同じ魔法少女でつるむことは無いため、基本的には他のシリーズの者と組むことが多い。

 最も人気があるのはαであり、最も人気が低いのはΩの魔法少女。

 それぞれに適した性質と役割があり、始まりと終わりを意味する。

 

 そして、魔法少女たちが一堂に会した時。

 魔法少女たちは戦う。

 戦い、生き延びた者が魔法少女系統超級職に至るのだ。

 

 

 

 

■【高位呪術師】クリアント

 

 少女であれば、テレビの中の世界といえど憧れるもの。

 魔法のステッキ、魔法のドレス。

 煌びやかな世界観の中で、人を助け、悪を断罪する。

 勧善懲悪の世界の中で、助け合い、可愛く、美しく。

 やることなすこと元気に、予想外で、そして正しい。

 

 そう、少女であれば模倣するのだ。

 誰しも心に憧れの魔法少女はいる。

 成りきって、ごっこ遊びに興じる。

 

「貴方達も魔法少女になってみない?」

 

 それはあくまで少女の話。

 無論、年を重ねようと心が乙女であればそれは関係ないだろう。

 無論、性別的に少年であろうと心が乙女であればそれは関係ないだろう。

 

 だが、見た目も性別も心すらも男であるクリアントに向けて放たれたその言葉は、放った当人とそのエンブリオ以外には予想外過ぎる言葉であり、固まる他無かった。

 

「えーと……貴方達って今言ったかな? それは私だけではなくて……」

 

 聞き間違いであったのかもしれない、とフィリップが聞き返す。

 貴方と貴方達では意味合いが大きく違う。

 魔法少女と魔法少年では大きく違うし、少年が魔法少女になるのだとすれば、それは性別を変換した上で魔法少女とならなければならない。

 

「貴方も! そして、そちらの貴方も!」

 

 魔法少女クャントルスカは右手をフィリップに、そして左手をクリアントに向ける。

 

「いいのかしらクャントルスカ。彼にその資格があるの?」

「うーん? 多分大丈夫だよ! 私の勘が、魔法少女になれるって言ってる!」

「そう。ならば、そうなのでしょうね」

 

 背に翼を生やすエンブリオの少女――モーちゃんはクャントルスカに尋ねる。

 彼女は先ほどからクリアントを見ている。

 その視線は、傍から見れば恋する少女のそれであった。

 

「むむ」

 

 ワンプはその視線を何よりも危険視する。

 モーちゃんという少女はクャントルスカよりも危ない存在だろう、と。

 

「すまない。話が見えないんだが」

「あら、そうね。そういえば、まだ名前を聞いていなかったわ。なんていうのかしら」

「クリアントだ」

「ワンプです」

「フィリップ・ノッツだよ」

 

 3人が名乗る。

 ワンプはスワンプマンというエンブリオの名を明かさない。

 それはモーちゃんという少女が未だエンブリオの名を言わないからでもある。

 泥だらけの様相とワンプという名から多少は予想されるだろう。

 だが、それはクリアント達も同じ。

 モーちゃんという名前。そして翼。

 これらからフィリップはクャントルスカのエンブリオの正体を予想していた。

 

「クリアント……良い名前ね」

 

 モーちゃんの視線が更に熱くなる。

 

「……?」

「先輩、危険です! あの女は危険ですよ!」

 

 ワンプがクリアントの前に立つ。

 

「なによ」

「なんですかー!」

 

 それが気に食わなかったのだろう。

 モーちゃんがワンプを睨む。

 

「お友達が出来たんだね! モーちゃん、その子と遊んでいてもいいよ!」

「誰が誰とお友達よ……まあいいわ。こっちに来なさい」

「格の違いを見せてあげますよ!」

 

 モーちゃんとワンプは少し離れた場所で取っ組み合いを始める。

 泥が跳ね、羽が舞う。

 

「……いいのか?」

 

 流石に殺し合いにまで発展しないだろうが、一応クリアントはクャントルスカに尋ねる。

 

「大丈夫! モーちゃんはあの子のことそこまで好きじゃないみたいだから! だから、きっとワンプちゃんは大丈夫だよ!」

「それはどういう――」

「それよりも! 魔法少女になってくれない?」

「魔法少女か……気にはなっていたけど、私はともかくクリアントでもなれるのかい?」

「なる前提かよ……」

 

 クリアントとしては魔法少女になる気はないのだが。

 フィリップは目を輝かせていた。

 

「だって、こんなこと他では経験できないじゃないか! クャントルスカ、魔法少女というのは私もいいのだよね?」

「ええ、勿論よ!」

「というか、ク………どうやって発音するんだこの名前」

「クャントルスカよ!」

「クリャ……駄目だ」

「クーちゃんでもいいよ!」

 

 どういった意図で付けた名前なのか、発音のしにくい名前である。

 クリアントはそれに甘えてクーと呼ぶことにした。

 

「クーの魔法少女というのはジョブなんだよな」

「うん! 魔法少女シリーズ【魔法少女α】だよ」

「シリーズ、αということは他にもあるのかな」

「えっとね、Ωまで24種類だったかな」

「……なるほど。私がαになることは可能なのかい?」

「それは大丈夫! ……なんだけど、フィリップちゃんとクリアント君には違うのになってほしいかな」

 

 フィリップの予想では24種類の魔法少女はそれぞれ限定だったが、違うらしい。

 ならば、とクャントルスカの目的を推測する。

 なにも、魔法少女を増やして遊びたいわけではないだろうから。

 

「ふうん? それは決まっているのかな? 私達のなる魔法少女の種類とやらは」

「本当はランダムだよ。でもね、あの森の中に入れば、余ったのになれるんだ」

 

 余ったもの。

 それは誰も就いていない魔法少女ということだろうか。

 森の中という場所の指定。

 それはフィリップの中でも一際ざわめきを大きくする。

 

「……君は私たちに何をさせたいのかな。それを聞かせて欲しい。魔法少女になるのはそれからだ」

「出来れば俺はなりたくないんだが」

「えー、いいじゃないですか。先輩もなりましょうよー」

 

 いつの間にか、モーちゃんと組み合っていたワンプが戻ってきていた。

 どうやら決着は付いたようだが、どちらも泥だらけ羽だらけ。

 引き分けだったようだ。

 

「……お前な」

「クャントルスカ。別に話してもいいんじゃないかしら。きっと、彼ら彼女らも協力してくれるわよ」

「そうかな?」

「ええ、そうよ。貴方の勘を信じてごらんなさいな」

 

 協力という言葉。

 やはりクャントルスカには目的があった。

 そうフィリップは確信し、身構える。

 最悪、この場で戦いになってもいいように。

 

「えっとね……魔法少女になって一緒に戦ってほしいんだ!」

「戦う……誰と?」

「魔法少女と!」

 

 

 

 

■特殊職【魔法少女】シリーズについて

 

 魔法少女シリーズにおいて、魔法少女が増えることを望まない者は多い。

 それは、魔法少女であるという、特殊性が薄れるからである。

 誰しも魔法少女になりたいと願うが、誰もがなれてしまうと、魔法少女であるという特別感は無くなってしまう。

 

 だから、魔法少女たちは新たに求めた。

 力を、能力を、特殊性を、特別感を。

 

 魔法少女系統超級職【魔法☆少女】

 24人の魔法少女たちが殺し合い、最後に残った者だけが就けるという特殊な条件下にある超級職。

 まず24人を集めなければならない。

 最後まで生き延びて……勝ち続けなければならない。

 戦いが始まってしまえば、誰かは超級職に就けるが、それは同時に自身は永久的に特別な存在になれないということになる。

 高いリスクのある中での戦い。

 ならばどうすればいいか。

 

 始まりの魔法少女である【魔法少女α】クャントルスカ。

 彼女の出した答えは、仲間を集めることであった。

 【魔法☆少女】に興味のない魔法少女の仲間を。

 

 

 

 

■【高位呪術師】クリアント

 

「――ということでね! 私と一緒に戦ってほしいんだ」

 

 クャントルスカの言葉通りであれば、クリアントとフィリップはクャントルスカが超級職になるための手伝いをするということだ。

 

「ふむ……まあ私はその超級職自体に興味は無いしいいけど」

「俺も別に【魔法☆少女】に就かなくてもいいというか、【魔法少女】シリーズ自体になりたくはないんだけど……」

 

 協力、という点で2人に異論はない。

 フィリップは【魔法少女】というジョブに興味がある。

 クリアントは【魔法少女】になりたくはないが、フィリップが興味を示している以上、巻き込まれる覚悟はしていた。

 なにより、戦いが行われる会場……森の先にある山にこそ行きたいのだ。

 これから森は魔法少女たちの戦いのため封鎖されるらしい。

 ならば早いところ戦いは終わらせたい。

 参加するしかないのだろう。

 

「ありがとう! ちょうど2人足りなかったんだ」

「そうなのか」

「終わりの魔法少女の【魔法少女Ω】はなりたい人がいないし、もう1人は弱くて戦いが始まる前に死んじゃって、すぐにログインできないみたいなの」

 

 その穴埋めが必要であったらしい。

 

「だから、今なら他の魔法少女達も貴方達を歓迎してくれるよ!」

「……殺し合いに歓迎って言われてもな」

「だけどまあ、久しぶりに対人戦だよ。【魔法少女】か……。クリアント、君も見ただろう。あの身体能力を」

「……ああ」

 

 クャントルスカが見せた跳躍力。

 【魔法少女】はステータス的に高くなるジョブらしい。

 

「この先、あのジョブに就いているだけでステータス的に有利になる場面があるかもしれない。損は無いんじゃないかな」

「……だな」

 

 強くなるなら仕方ない。

 どうせ、転職してもいいと思っていたのだ。

 ならば試すのも悪くないだろう。

 試す相手も用意されているとなれば、より都合が良い。

 

「それで、転職するにはどうすればいいんだ?」

「森の中で、このコンパクトを持ってね」

 

 と、転職用のクリスタルが埋め込まれたコンパクトをそれぞれ渡される。

 

「ポーズを決めるんだ!」

「……ポーズ?」

「うん! とっても可愛いポーズだよ!」

 

 ワンプとフィリップは笑い、森へ向かって歩くクリアントの足取りはより重くなった。

 

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