<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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連続で更新していきます


43 “悪魔憑き”エウリィ・リリィ 4

◇◆

 

「ねーえ、ししょー」

「ん? どうした」

 

 師と共に居た時間、一度たりとも緊張の糸を途切れさせた瞬間は無かった。

 

「悪魔ってどうやったらなれるのかな」

「悪魔か? なんだってそんなもんになりたいんだい?」

 

 秒間に数発の拳を叩きこむも、それら全てが触れることさえ叶わず、いつの間にか師の身体をすり抜けていく。

 如何なる技を極めたらこうなれるのかは分からない。

 自分の生まれ持ってのスキルをしても、どう動かせばいいのか分からない。

 

「神様にはならんのかい?」

「だってさ、神ってのは困ってる奴しか助けてくれないじゃん? 本当に困ってる奴をさ。それに、どこかしらに限界がある。その日の食べ物を、少しのお金を、争いに雨を。その程度しか救ってくれない存在になる必要なくね?」

「……ははっ。お前にとっては“なれる”“なれない”じゃなくて、“なる”“ならない”か」

 

 本気で目指せば“神様”のような存在にだってなれるだろう。

 本気になれない奴には出来ないが、本気になれば誰だってその程度には簡単になれる。

 ……尤も、その時は人間としての生を捨てなければならないだろうけど。

 

「その点、悪魔なら違うじゃん。限界はない。金も地位も恋愛も、何だって叶えてみせる。そして何より……悪魔が叶えるのは”願った人間“だ。困った人間だけじゃなくて」

 

 師の肉体を捉えた……そう思った瞬間には、私の背中は床に触れていた。

 

「はー。今回も駄目だったか。こりゃ、まだまだ悪魔には遠いな」

「……お前が悪魔になれるか、それは儂にも分からんけどよ」

 

 そう前置きをした後に師はこう言った。

 

「神と違って、悪魔に願うなら対価が必要だろうさ。その時お前はきちんと……受け取れるのか?」

 

 

◇◆

 

 

「……ふーん。このゲームでも悪魔を模したモンスターがあるんだ」

 

 狼とか虎とか、そんなモンばっかりかと期待外れな感じだったけど、ちゃんと悪魔がいることに安心した。

 自分のエンブリオが悪魔を冠するものであったことも含めて、気に入った。

 

 この世界で悪魔になろうって。

 

 まずは下調べからだ。

 自分の理想の悪魔像はある。

 この世界でもそれは同じかどうか。

 違うならば是正しなければ。

 

 そこからはひたすらに自分を磨いた。

 エンブリオが自分の肉体の形を、性質を変えるものだと分かったら、別の肉体でも研鑽しなければならない。

 特に、関節が異なれば動き方も異なる。

 柔らかな肉体であれば柔軟に。

 硬い肉体であれば重く。

 異なる肉体で異なる技術を磨いた。

 

 そうやってこの世界で過ごし数年。

 レベルが上がり、エンブリオの形態も上がり。

 必殺スキルを手にしたのと同時期に、この世界での悪魔の上位種と戦った。

 名は【ギーガナイト】。

 伝説級の悪魔を使役しているとかひけらかしていた男を挑発したらあっさりと戦わせてくれた。

 結果は、つまらないの一言だ。

 こんなのが悪魔なのか。 

 こんな弱いのが。

 

 悪魔とは名ばかりで、高ステータスなだけのモンスター。

 何の能力もなく、こんなのが願いを叶えられるわけがない。

 見た目だけは得ることが出来たが、あんなのと一緒にはされたくなかったため、必殺スキルでも一部分しか使っていない。

 噂ではその上の【ゼロオーバー】とか言う神話級のステータスを誇る悪魔もいるらしかったが、アレの上位互換程度では話にならないだろう。

 結局、ステータスのゴリ押しなのだから、技で押し通すだけだ。

 見ることは出来なかったが、見る価値もない。

 

 その後、見た目だけに拘り抜いて、そして悪魔が何たるかを喧伝して、私は理想の悪魔を完成させた。

 その時には4つの超級職を得ており、それらに対応出来得る悪魔にもなっていた。

 

 これで私は完璧な悪魔になれた。

 もうあの時の悔しい思いはしない。

 置いていかれないし、行かさせない。

 私に言うべきは願いであり、私はそれを叶えることが出来る。

 

 

◇◆

 

 

■【翼神】エウリィ・リリィ 

 

 翼も、角も、尻尾も、爪も、牙も。

 悪魔たる象徴全てが斬り潰される。

 私を悪魔たらしめていたものが剥がれれば、私の中身が出てきてしまう。

 

 ……ああ、私は何で悪魔になりたかったんだっけ。

 ……私は、誰の何の願いを叶えてやりたかったんだっけ。

 

「強がり、かぁ」

「少なくとも私に見せるものではなかったですね。私にとっては普段の貴女の方がよほど怖い」

「……悪魔みたいに?」

 

 笑いながら聞き返してみたが返事は無かった。

 つまんない奴だな。

 本当に面白みも無い、真面目な奴。

 

「だけどさ、私は悪魔になりたかった……ううん、悪魔にならなきゃいけないんだよ」

「私がそれを否定することは出来ませんが……理由を聞いても?」

 

 願いを叶えたかった奴がいた。

 いつも1人だった奴の本当の願いを聞いてみたかった。

 願いを聞くならば、その関係性は対等だ。

 願いを叶えるならば、その関係性は対等以上だ。

 

 私は、下にいたくなかったのだ。

 

「……言えるわけねーよ」

 

 だけどそんな格好悪いことが言えるはずもなく。

 ただ不貞腐れるように口を尖らせる。

 

「……ハ。ハハハ。……そっかぁ。私が怖かったかぁ」

 

 知らなかったなぁ。

 私ってそんなふうに見られてたんだ。

 てっきり眼中にないのかと思ってた。

 怖いってのは少なくとも下ではないよね。

 

 だったら、こんな外装はいらないかぁ。

 

「必殺スキル……解除」

 

 見た目だけの必殺スキルを解除し、元の悪魔的な可愛い姿に戻る。

 これで一部の超級職のスキルは使えなくなるが、この方がアイツにとって恐ろしいならば、怖いならば、こちらで向き合いたい。

 

「決着……付けるぞ。全力で戦ってもいいよね?」

「ええ、勿論……今の貴女を相手するなら私も全力を使わなければなりません」

 

 そう答える妹妹だけど、相変わらず神話級武具を使う気配がない。

 それを指摘すると、珍しく妹妹は困ったような表情を浮かべた。

 

「あれは……状況次第では私を弱体化させるものなのです。下手に弱くなってしまえば私は貴女に勝てなくなってしまう。このままの方が……カマイタチと【切断姫】だけの方が私にとっては良いのです」

 

 それはそれで、妹妹なりの全力だったようだ。

 だったら、さっきからそうだったのかな。

 ……私は随分と遠回りしてしまったみたいだ。

 

 アイテムボックスから取り出したソレを見て、妹妹はまたも困惑した表情を浮かべた。

 

「……まさか武器とは」

「これはこれで全力だぜ。【牙神】を使うためのな。それに私らの流派は武器の扱いにも精通してる。お前だって知ってるだろ」

 

 技術を満遍なく修めた私と、一部を極めた妹妹。

 どちらが優れているかは分からない。

 ただ、そのおかげで今の私がある。

 

「せっかくコレを手に入れたのに使わなかったんじゃ全力じゃないじゃん? だから遠慮なく使わせてもらうぜ」

 

 手の中にある短刀を鞘から抜く。

 唯一、武器系統の超級職であった【牙神】が短刀を手にしたことで幾つものスキルを提示してくる。

 

「……ただの刀というわけではなさそうですね」

「最終決戦。手札はこれで全部だ。これ以上の手札はもうねえから安心しな」

 

 切っ先を妹妹に向ける。

 と、次の瞬間、私は短刀を持つ右手を伸ばし、妹妹に向け刺突する。

 当然、その程度であれば妹妹は避けられるだろう。

 私は手首を返すと刃を妹妹へ向けなおす。

 

「……ッ」

 

 避けても刃から逃れられないと悟ったのか、妹妹はカマイタチで受けようとする。

 だが、それこそが罠。

 刃はカマイタチをすり抜け……妹妹に小さな傷を作った。

 傷は妹妹の左足に作られた。

 ならば、大方の予想はつく。

 

「……当たった」

「まだ傷ひと……つ!?」

 

 いいや、これで終わりだ。

 

 妹妹の左膝は大きく捻じ曲がった。

 




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