<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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47 ナイト・メア・ナイト・バトル 3

■【自殺王】クリアント

 

「判断材料が足りない……何が起こっているか全くわからないぞ……!」

「随分と嬉しそうだな」

 

 フィリップの表情は言葉とは逆に実にワクワクと楽しそうなものであった。

 

 イベントの初日、ずっとマップ内を駆けまわっていたフィリップにしても初見の能力。

 何が起こるのか……何がしたいのかさえ見えてこない。

 分からない……つまりはこれから分かるかもしれないという未知は彼女にとって大好物。

 

「とりあえず仲間との合流が先だ」

「ああ! 何をしてくるわけでもなさそうだが……何もしてこない保証はどこにもないからね。対策を立てるとしよう」

 

 フラッグを立てている場所を目指し進む。

 やはり羊たちは何もしてこない。

 移動のため音を立ててしまうクリアント達をみる個体もいるが、全く別の方向をみている個体もいる。

 敵対行動を取っているわけではない。

 ただ、そこにいるだけ。

 だからこそ分からない。

 彼らは何のためにそこにいるのか。

 ただ放牧されているだけなのか。

 

「……撃て!」

「おい!?」

 

 突然の号令と共に羊の集まる一角が爆発した。

 フィリップがノーチラスに砲撃を命じたのだ。

 

「お、死んだ。高熱か、あるいは爆発の衝撃が通じたのかな」

「慎重にいくのはどうした。これから対策を練るんだろう」

「そんなことは言ってない。対策を練るにも彼らの情報は必要だ。だから私は迷わず情報収集を行っただけさ」

 

 ひとまず絶対に死なないわけではないことが判明した。

 グラスコードの攻撃が通じなかったのは攻撃力が不足していたのか、それとも歯そのものが原因か。

 

「倒せる存在であると確定したのは僥倖だろう? 不気味な存在に対して手をこまねくだけというのは辛いものさ」

「……そうだな。だったら俺もやってみるか」

 

 

◇◆

 

 

 【出涸らし】による出血はそもそも斬れずに不発。

 【褥】による精神異常は相手が羊であるため効いているのかいないのか不明。

 クレハドールもまた、釘が羊に突き立てられずに不発。

 

「パルペテノンと……マッドラップスは特に効いているな」

 

 パルペテノンの空腹状態により羊たちの鳴き声はより大きなものへとなっていく。

 彼らは雑草を食み、それらが無くなると共食いを始めるも互いに羊毛が歯を弾くため食べられず。

 やがて【飢餓】へと移行し、クリアント共々死亡した。

 

 マッドラップスはパルペテノンよりも猛毒という分かりやすい状態異常が肉体を蝕み、更には互いに肉体をぶつけ合ってしまったために数十匹単位で死んだ。

 

「……と、5つのストックを使って分かったことだ」

 

 陣営でメンバーと合流し、試したことを報告すると面々の反応は様々だった。

 貴重なストックを使って何やってるんだという顔もあれば、その報告内容を興味深そうに纏める者、ただ結果を聞くだけの者。

 

 プシュケーは前者だった。

 

「……まったく。いえ、別に今に始まったことではありませんけど……残りは幾つありますの?」

「4つだな」

「はぁ……それでは少し休んでストックの回復に努めてくださいまし。……ともあれ、クリアントさんとフィリップさんのおかげで大方の特徴は掴めましたわ」

「うん。あの後、ビーマーの熱でも倒せることが分かった」

 

 クリアントの無差別攻撃に巻き込まれないよう、先に戻ったはずのフィリップがそう報告を付け足す。

 

「どうやら通常攻撃の類は効かないみたいですわね。こちらでもキシリーさんや私で試しましたわ。叩く、斬る、突くといった行為は無駄に終わりました。ですがバウムさんが生成した毒は弱いものでも有効。まだ羊たちの力は不明ですけれど、ひとまず倒し方は分かりましたわ」

 

 逆に、キシリーが幾ら巨大になりステータスを上げようと羊たちには一切のダメージが入らなかったという。

 それはそれで恐ろしい存在だ。

 有効な攻撃手段を持たなければ打つ手がないのだから。

 

「では次に考えること……この羊たちの主が誰か、そして羊たちで何をしようとしているか……」

 

 プシュケーの言葉に誰も答えることはない。

 その材料が無いのだ。

 

「主、か……羊、羊……全然出てこないな」

「私もだ。パリドーネがいれば広い知識で何かヒントが得られるかもしれないし、レシーブがいれば羊たちの詳細も分かるかもしれないが……2人とも何処に行ったんだ」

 

 まだ帰ってこない2人。

 クャントルスカが通信系の特典武具を使うが返事は無いらしい。

 よほどの緊急事態なのだろうと。

 

「いや待ってください……羊、ヒツジ……そう、彼女がいましたわ! 魔法少女きっての羊飼い! ムートン・ラム!」

「ラムちゃん! ……そっか、そうだったね」

「貴女……やはり本調子ではありませんわね。いつもだったら真っ先に思いつくはずでしょうに。……いえ、今はそれよりも対策を! それに彼女のエンブリオによる現象にしては……早い、ですわね」

「……何がだ?」

 

 プシュケーとクャントルスカ。

 2人の共通認識かつ魔法少女という単語からして知己の存在なのだろう。

 

 一方、キシリーと夢味は首を傾げている。

 それほどに有名な存在では無いらしい。

 魔法少女という狭い業界で有名でないならば、それほどの実力者では無いのか。

 

「繁殖速度が、ですわ……。私達が彼女の存在を見落としていたのは、ここまでの広範囲に羊をばら撒ける力が無かったからに他ならないから。せいぜい100mくらいが限界だったはずなのに……。バーバヤードさん」

「おう。少なくとも数㎞以内には広がってるみたいだぜ。だが、多分それ以上だな。その数倍はみておいていい」

「……この羊がか?」

「……ああ」

 

 実力を隠していた?

 そのムートン・ラムにとって【魔法☆少女】がどれほど価値あるものかは定かではないが、もし儀式に参加するほどの熱意があったのならば、隠すことも無いだろう。

 

「それで、この羊たちはいったいどうなるんだ? ただ生み出すだけじゃないんだろ」

 

 ただそれだけならばプシュケーがこれほど焦った表情をみせないだろう。

 羊を生み出し、広げていく。

 それはただの過程だ。

 何か結果を作り出すための準備に過ぎない。

 

「ただ……滅多に必殺スキルを使わない人でしたもの。使用したところを見たのは私か、クャントルスカ……貴女くらいですわよね」

「P助ちゃんも見たことあるって言ってたよ」

「……どれだけ嫌われてますのよ、彼女」

「余程、敵対しないと使わないってことか」

「あるいはそれほどに追い詰められた時、ですわ。ええ、精神的に」

 

 ちなみにプシュケーは直接使われたことはないようだ。

 使っているのを見たことがある、というのが正直なところらしく、正確な能力までは分からない。

 

「ただ、凶暴化する……それだけは確実ですわ」

 

 必殺スキルを使用するまでは本当に無害らしい。

 ムートン・ラムはその羊を囮のように使い、攻撃を行う。

 だが、ひとたび必殺スキルを発動すると……

 

「あの数が一斉に……か」

 

 今も尚、暗闇からこちらに光る眼を向ける個体もある。

 次第にその視線は増えていき、それこそ個体数が増えた証拠でもある。

 

「バーバヤードさん、羊たちが何処から生み出されているかは分かります?」

「すまねえ……分体の限界距離を超えてるな。俺自身が行けば細かくはわかるかもしれねえが……」

「では……どの方角から増えているかは?」

 

 囲まれるように羊たちは群れているが、それらも四方から向かってきているわけではない。

 どこからか、波のようなものがあるはず。

 

「待ってろ……それならすぐに……分かった! 南西部……だな」

 

 南西部。

 それだけ分かれば充分だ。

 

 方角が分かれば、後は移動手段で補える。

 

「羊は時間経過で増えていくよ。止めるにはラムちゃんをどうにかしないとだね」

「フィリップさん」

「ああ! 出航と行こうじゃないか!」

 

 ムートン・ラム討伐メンバーはフィリップ、クャントルスカ、ワン・フー・ウー、イテカということになった。

 

「俺は?」

「クリアントさんはストック回復に専念ですわ!」

 

 無駄に死なれては困るため、プシュケーとジャミラの監視下となった。

 

「バウムさんもですわ。凶暴化した羊は数も踏まえて厄介な存在。夢味さん、その時は私かキシリーさんのステータスをコピーして守ってくださいまし」

「やるよー。羊がメリーさん」

「メェメェベェベェ! 美味しく食べちゃうよ!」

 

 そして、ログインと共にムートン・ラム討伐隊に加えられたワン・フー・ウーは困惑した表情で周囲を見渡す。

 

「何が起こってるんだ……?」

 

 細かいことは艦の中でと押されてノーチラスへと入れられていくワン・フー・ウー。

 それを見送る中クリアントは呟いた。

 

「……ワンと話す時間……あるのか……?」

 

 与えられた仕事が全うできるかは、この羊飼い退治にかかっていた。

 

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