<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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32話 爆誕! 泥被りの魔法少女!

■【魔法少女Ω】クリアント

 

「さあ、もう一度! ポーズを決めて!」

「変~身!」

 

 クャントルスカの掛け声とともにワンプは全方位にピースサインを送り、最後にスカートを抑えるようにして跳ぶ。

 空中でワンプの体が光りだすと、泥に汚れた制服は糸を解くように消えていき、次の瞬間には黒いゴシックドレスを身に纏っていた。

 

「【魔法少女Ω】ワンプちゃん、爆誕です!」

「正確には俺が【魔法少女Ω】だけどな」

 

 とは言いながらも、クリアントは本心から助かったと思っていた。

 ワンプの着る魔法少女の衣装を、自分では絶対に着たくないと見ながら。

 

「先輩も着てみます?」

「御免だな。それはお前の方が似合う」

「え。そ、そうですか……?」

 

 いつもの余裕そうな表情が無くなり、頬を赤らめるワンプ。

 チラッチラッとクリアントを見ながらスカートの裾を触っている。

 

「えへへ。先輩が褒めてくれた」

「……いや、そりゃそうだろ」

 

 男である自身よりも少女の姿をしているワンプの方が似合うのは道理である。

 誰がどう見たってそう言うだろう、とクリアントはフィリップに同意を求めようと視線を向ける。

 

「……いやぁ。何事も冒険とは言うけど。今回の私は冒険しすぎたかな?」

 

 そう言うフィリップもまた、青を基調とした魔法少女の衣装を身に纏っていた。

 ワンプのような可愛らしさを前面に押し出したものではなく、少し硬い印象を持たせるような衣装である。

 

「……フィリップさんのは何だか真面目そう過ぎてえっちですよね」

「……」

 

 ワンプの言葉には同意せざるを得なかった。

 OL感のような、そんな雰囲気もある。

 

「まあ、普段の艦長みたいな服とそう変わらないから良かったな」

「うん、それはまあ……ね。スカートなんて履いたのは久しぶりだけど」

 

 フレアスカートでなくタイトであるため、動きにくそうであるが、フィリップが動くたびに伸び縮みする素材であるようで、支障は無いようだ。

 

「うんうん。ワンプちゃんもフィリップちゃんも魔法少女らしくなってきたね!」

「ふふ。貴方が着てくれなかったのは少し残念だけど」

 

 クャントルスカは2人の魔法少女衣装を見て頷く。

 彼女的にもフィリップの衣装は有りのようだ。

 

「システム的にワンプの方になってくれて助かった」

 

 特に何の問題もなく【魔法少女】へと転職したクリアントとフィリップであったが、問題は魔法少女の衣装が自動的に装備されるということであった。

 女性であるフィリップはまだしも、クリアントは男である。

 中性的なわけでもない顔立ちの男が魔法少女の衣装を着る姿を想像するだけで、クリアントとしてはすぐに森から逃げ出したくなってくる。

 

 だが、解決策というか、システムとして男は【魔法少女】になれないということが判明した。

 その救済処置として、メイデン体のエンブリオがあれば、そちらに魔法少女の衣装を着せることで転職が可能となるらしい。

 

 森の中で試しにワンプがコンパクトを持ってポーズを決めると、【魔法少女】になることが出来た。

 クリアントとしてもマッドラップスを装備する枠が空いているため、思っていたよりも状況はかなり良い。

 

「さて、私とクリアントがクャントルスカを補助する形……チームで動くというわけだが」

「チーム魔法少女だね!」

「他の魔法少女達も組んでいる可能性はあるのかい?」

 

 こちらがやっていることは相手もやっている可能性が高い。

 最終的に1名しか生存を許されない戦いであるが、一時的な共闘をしている可能性は有り得なくもない。

 もしかすると、クリアント達のように傭兵という形で雇われている者もいるかもしれないのだ。

 

「いるよ! クール系魔法少女、キュート系魔法少女、それに正義系魔法少女の派閥かなぁ」

「それは考え方の違いか?」

「そうだね! 魔法少女は常に冷静であるべし。魔法少女は常に可愛くあるべしって考えの人たちがいるんだ」

「正義というのは?」

「魔法少女は正しくなければいけない。模範的でなければいけないって人たちだよ」

 

 どれもが魔法少女の在り方としては正しいのだろう。

 冷静で、可愛く、正しく。

 そのような魔法少女はテレビの中にもいる。

 

「ちなみにクャントルスカはどの派閥にいるんだ?」

「私? 私はそのどれもにいるよ! 魔法少女は冷静で可愛くて正しくて! 魔法少女というのは全ての可能性を秘めているんだから!」

「……ああ、なるほどな」

 

 つまりは、どこにも所属していないということなのだろう。

 こうして、単独で動いているということは。

 

「じゃあ、準備はいい?」

「……もう始まるのか?」

 

 というか、クリアントは開始の合図すら分からない。

 

「準備が出来たらコンパクトの真ん中のボタンを押すんだ!」

「……まあ、待ってくれたまえ。最後にルールの確認くらいしておこうじゃないか」

「あ、そうだね! 間違いがあったらいけないもんね」

 

 魔法少女系統超級職【魔法☆少女】を賭けた戦い。

 森の中で行われるバトルロワイアルのルール確認を行う。

 

1、開始時点で魔法少女は24人いなければならない

2、開始後はログアウトとなってはいけない

3、魔法少女以外に転職してはいけない

4、コンパクトを破壊されてはいけない

5、魔法少女らしく振舞わなければならない

6、24時間以内に決着を付けなければならない。超えた場合は無効となる

7、最後まで残った者が【魔法☆少女】へと至れる

 

 

「前回とか前々回も試験はあったんだけどね。その時はとっても強い魔法少女がいて。それで逃げ出す子が出ちゃって、6のルールで試験が終わっちゃったんだ」

「あー。そうか。無効試合にすれば少なくとも他の誰かに奪われることは無くなるから……」

「うん。だから、今回は私の特典武具で結界を張ったんだ」

「へえ……特典武具の結界?」

 

 山を囲うようにして広がる森。

 その周囲を更にクャントルスカは結界で覆っていた。

 

「【外内時計 プテアリス】。この結界で覆うとね、外から入れても、中から外に出ようとしてもまた中に戻されちゃうんだ」

「……うわ」

「エグすぎません?」

「中々厄介そうな特典武具だね」

 

 懐中時計を懐から取り出すと、クャントルスカはそのねじを巻く。

 

「きっかり24時間にセットして……」

「開始と共にそれを使うのか」

「うん! これ、私が結界内にいないと使えないものだから、使いどころ難しいんだよね」

 

 つまりは逃がさないための道具。

 獲物を確実に仕留めるための特典武具である。

 

「3人とも準備はいい?」

「ああ」

「魔法少女ワンプちゃんにお任せください!」

「ふふ。新たな冒険に胸が躍るよ」

 

 3人がコンパクトのボタンを押すと、視界内に参加人数が映し出される。

 現在24人中の23人。

 あと1人がボタンを押せば開始となるようだ。

 

「もう全員森の中にいるみたいだから、すぐに押されると思うんだけど。ごめんね、すぐに始まるなんて言っちゃって」

「いや。むしろすぐに奇襲される可能性も考えていたから」

「それは大丈夫だよ。カウントダウンがあるもん」

 

 間もなく、最後の1人が参加ボタンを押す。

 参加人数が24人となり、5秒間のカウントダウンが始まる。

 そして、開始のブザーが森中に響くと同時に、クャントルスカはプテアリスを起動した。

 

 これにより、何があっても森の外へは出られなくなる。

 

「じゃあ行くよ! チーム『パルプンテ』!」

「勝つ気あるのかな? そのチーム名は」

 

 そして魔法少女たちの戦いが始まる。

 それほど見渡しの良くない森の中。

 どこに誰がいるのか分からない、そんな場所で最も先に動いたのは……

 

「よし、偵察してくるよ」

 

 死を恐れない魔法少女クリアントであった。

 

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