<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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55 ナイト・メア・ナイト・バトル 11

■【自殺王】クリアント

 

「……また、死んだ」

 

 残りストックが3つになろうかというタイミングでクリアントはそう呟いた。

 単なる事実を言葉に出してみただけだが、しかしそれは現状が打破されていないことの証明でもある。

 

「ダメージは通るようになった。ヒツジが凶暴になった。色が変わった。……他の変化は何だ……」

「ヒツジさんたちが激おこなことでしょうか」

「……そうだな。何であんなに怒っているんだろうか」

 

 単なるアクティブモンスターではない。

 そこには意思があり、その意思は激高という形である。

 何故、彼らは執拗に怒りをみせているのか。

 木々や岩石という物質には興味はなさそうだ。

 その標的は全て、クリアントを始めとした〈マスター〉に向けられている。

 

「……1匹1匹の防御力はそう高くない。むしろ此れまでを考えると、一撃で容易く倒せるほど、弱体化している」

「物理攻撃無効がどこかに行っちゃいましたもんねぇ」

 

 明らかに倒しやすくなっている。

 倒せるが、しかし次のヒツジが押し寄せる。

 連撃を浴びせれば連続でヒツジを倒せるが時折通り抜けてしまったヒツジがクリアントに肉体をぶつける。

 

 固定で500というダメージが入ることは自身のHPの減り具合から判明したことだが、そう多くは食らえない。

 

「……キリがない」

 

 背後にはクランの仲間が洞窟内で身を固めている。

 狭い入り口だからこそクリアントは防衛に務められているが、そう長くは持たないだろう。

 

「マッドラップス!」

 

 鎧で身を包み、クリアントの肉体を猛毒が侵していく。

 その肉体に触れたヒツジも同様に感染する。

 ヒツジ達は次々に互いの肉体をぶつけ合い、猛毒は広域に渡っていく。

 

「……ッ」

 

 パルペテノンで命を繋ぐも、クリアントのHPは0となり、新たな肉体へと意識が移る。

 だが、その直前。

 ヒツジ達の方が僅か先に死に絶え、クラン周囲一帯はヒツジが少なくとも視界内にはいなくなる。

 だからこそ、クリアントはみえた。

 ヒツジ達が死に、そこにいた彼らが痕跡として残したものを。

 

「……あれは何だ?」

 

 彼らが近域を棲み処とするモンスターであるならば、それは珍しくもないものであった。

 だが、このヒツジが明らかな量産品であるからこそ、製造されたモンスターであるからこそ、あるべきではないはずのもの。

 

「何故、ドロップアイテムが……」

 

 羊飼い。

 そして彼らに飼われるヒツジ。

 彼らの関係性は決して飼い主とペットのソレではない。

 ならばそのドロップアイテムの示す意味とは……。

 

 

◇◆

 

 

「――では、確かに送り届けたよ」

 

 他クランの追手も、追撃も気にせず全力移動をしたノーチラスは煙を上げながらクランメンバーの集まる陣へと帰還した。

 クリアントの自爆により付近のヒツジらは一時的に減っており、その隙に陣の中へと滑り込んでいく。

 

「フィリップ。お前はどうするんだ?」

「私はこのまま蹴散らしてくるよ。どうやら今は無敵状態みたいだからね」

 

 ヒツジの即死攻撃も、既に死んだ状態のフィリップには無効のようだ。

 残り1分も残されていないが、その時間を無駄には出来ない。

 

「後は君に託すよ。私なりに残り時間でこのヒツジについて考察はするが……解けたところで伝えられないのが残念だ」

「フィリップ……」

 

 ハッチを閉めようと手をかける彼女にクリアントは声をかける。

 

「全力前進だ。《進め、限りなく深く(ノーチラス)》」

 

 グラスコードだけでなく、ノーチラス本体にも必殺スキルが使われる。

 それは彼女の最期の攻撃。

 

「能力ならだいたいは掴めた」

「……え?」

 

 知りたい。

 恐らくは新たな〈超級〉。

 その能力の全貌を知りたい。

 

 だが……

 

「流石だね。では後で答え合わせといこう」

 

 彼女は自身で解き明かす道を選ぶ。

 大陸を移動したフィリップでなく、一つ箇所に留まっていたクリアントが解けたのだ。

 ならばフィリップにもそのチャンスはあるだろう。

 

 ともあれ、これで味方陣営から〈超級〉が1人脱落した。

 〈パルプンテ〉としては大きな痛手である。

 特に移動手段としてノーチラスの貢献度は高い。

 

「フィリップさん……死んだか」

 

 1分としないうちにフィリップのステータスを示すアイコンが消える。

 まだヒツジが押し寄せて来ないのは、フィリップがあらかた消し飛ばしてくれたからだろう。

 

「今からあのヒツジに備わった力を説明する。だが、まず一つだけ言っておく」

 

 クランメンバーに向き直り、クリアントは口を開いた。

 最初に言うべきこと。

 それは、いつもの如く、諦めるしかない道だ。

 

「攻略は不可能に近い」

 

 

◇◆

 

 

■【畜産王】ムートン・ラム

 

「ハ、ハハハハハ! 美味い! 生まれ変わったお前達はこんな味なのか!」

 

 銃でなく、細剣へと武器を変えたラムは襲いかかるヒツジ達を残らず一突きで殺していく。

 【畜産王】の固有スキルの一つである《自産自消》は【畜産王】のスキルで育成した動物が相手に限り、自身の攻撃に倍率をかけることが出来る。

 触れた先から消えていき、残されたのはドロップ品である羊肉のみ。

 それらを細剣で器用に串刺しにすると、ラムはそのまま生肉を毟り喰らう。

 

「伝承通りとはいかなかったな」

 

 バロメッツの羊肉はカニの味にも似ているという伝承もあるが、【シープラント】は羊肉そのままの味となっている。

 そこまでなぞらえることはなかったようだ。

 

「ああ……大量のポイントが入ってくる」

 

 大陸のあちこちでヒツジが殺し、あるいはヒツジを殺したがために死んだのだろう。

 それら全てがラムへと還元されていく。

 

 ラム当人は知る由も無かったが、この時点、この一夜のみでラムはポイント取得者1位となっていた。

 ギミックを知らなければ回避不可能な広域型の即死コンボを持つ羊飼い。

 新たな〈超級〉は誕生と共に多くの人間に知られることとなる。

 

「そう、睨むな。お互い様じゃないか。私達は生まれた時から殺し、殺されてきたのだから」

 

 今も尚、ラムは数多のヒツジ達に囲まれている。

 彼らの怒りはラムに向き、ラムもまたヒツジ達に対し明確なる殺意を持っている。

 それがあるべき姿なのだ、とラムは実感していた。

 羊飼いはヒツジを育て、飼うだけの存在なのではない。

 ヒツジを育て、飼い、そして殺すまでがセットなのだ。

 実際に息の根を止めるのが肉屋なのだとしても、そうと分かり彼らに引き渡す羊飼いに罪がないわけがない。

 故にヒツジ達が羊飼いに恨みを抱くのは当たり前であるし、彼らに一族を殺されてきたラムがヒツジを殺したいと考えるのも同様のこと。

 殺意が許されなかったのは環境のせいだ。

 そして殺意を抱かされたのも環境のせい。

 

「必要なことだ。生きるためには殺すしかない。殺すからには生きるしかない。……なあ、君もそうだろう?」

「――いやですねぇ。まるでこれから私を殺すみたいな言い方をして。そんな喜色満面な笑みで殺害宣告をするだなんて、情緒どうなってるんですかぁ?」

 

 ラムを取り囲むヒツジの一部が上空へと視線を変える。

 豚とペリカンを混ぜたような見た目のモンスター。

 その背に乗りラムを煽るのは先ほど仲間に逃がされたはずの……

 

「【動物王】……レシーブ・キープ、だったかな」

 

 空を飛ぶモンスターからレシーブは降りてくる様子は無い。

 それはそれだ正しい対処法だ。

 このヒツジ達は地中を潜るだけの力はあれど流石に空を飛ぶことはできない。

 このままラムがヒツジに殺されるまで大人しく耐久戦に付き合うか、レシーブのように戦闘そのものを回避できる形にすればいい。

 

「君の仲間はもうヒツジの贄になってしまったよ。追悼にでも来たのかな?」

「あはは! おかしなことを言いますねぇ。ゲームなんですから、向こうでは元気でしょうし、三日後には会えますよ? 追悼も復讐も、馬鹿らしいことするわけないでしょう」

「……ふうん? だったら何故戻ってきたのかな」

「ちっちっち。それは尋ねる順番が違いますねぇ。戻ってきた理由ではなく、戻ってこられた理由から聞かないと。そもそも私を連れ去ったのはパリドーネちゃんのエンブリオなんですから」

「本意ではなかったと」

 

 レシーブ自身には逃げる必要もなく、結果として逃走という形になったのはパリドーネのエンブリオが連れ去ったからとレシーブは話す。

 

「だって私は自前で飛べる手段を確保しているんですよ? パリドーネちゃんもスフィちゃんを自分に使えば良かったのに。というか、この子がスフィちゃんに驚いてすぐに出てきてくれなくて本当に死んじゃうかと思っちゃいました」

「……そうか」

 

 まるで仲間の行動が足手纏いであったかのように語る少女を前に、ラムの口数は少なくなっていく。

 

「そして戻ってきた理由! そんなのは一つだけです。あなたを倒せるから、みすみすポイントを誰かに奪われるのも面倒だから、戻ってきたまでです!」

 

 どこまでも自分本位。

 仲間のことなど……群れのことなど一切気にしない素振りにラムは、

 

「ああ……そうか。ならばこちらも抗わせてもらおう。世は常に弱肉強食。今日生きられたとて、明日は誰かの晩餐になりかねないことを君にも教えてあげよう」

「生憎と、チートデイはまだ先なもので。ベジタリアンな私は野菜しか食べませんよ」

 

 どこまでも噛み合わない。

 【動物王】と【畜産王】。

 その戦いの行末は――

 

 

◇◆

 

 

■クラン〈パルプンテ〉

 

「なあ、お前らそこにいるんだよな……?」

「いるよー」

「どこにいるかなー」

「……こんな役回り、やっぱり引き受けるんじゃなかった」

 

 洞窟に設置されたフラッグの前。

 そこには夢味とドッペル……幼女2人に挟まれ、目隠しをした状態で座らされたバウムの姿があった。

 

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