<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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56 ナイト・メア・ナイト・バトル 12

■【動物王】レシーブ・キープ

 

 【動物王】レシーブ・キープ。

 彼女の強みは、ステータス以下のモンスターを操れるという多彩な手札。

 ……それだけではない。

 モンスターの支配は【動物王】があるからこそ取れる手段の一つに過ぎず、彼女の本質を示すものではない。

 それこそ、彼女のエンブリオであるアテナも必殺スキルは自身のステータス上昇。

 ステータスの向上は【動物王】の支配能力に繋がりはするが、それが偶然であることはレシーブを見ていれば分かることだろう。

 なにせレシーブ・キープという女は――

 

「さぁ、まずは投下からですよ」

 

 レシーブは右手のジュエルに格納されていたモンスターを解放する。

 レシーブ自身が空から降りることは無い。

 そんなことをすればあっという間にヒツジ達に襲われ殺されてしまうことが分かり切っている。

 だから、彼らを相手するのはたった一匹でいい。

 

 ソレは、小さく透明なスライムだった。

 否、完全なる透明というわけではない。

 透けた向こう側は奇妙に空間が捻じれているように見える。

 ヒツジはスライムを知覚しても視線を送る気配は無い。

 まだ、殺意の対象ではないのだから。

 

 だから、仕掛けたのはスライムからであった。

 一匹のヒツジに纏わりつく。

 ヒツジは最初は抵抗しようとしたものの、すぐにスライムが全身に憑りつき、少しずつ皮に、肉に浸食していく。

 劈くような悲鳴を上げるヒツジだがどうすることも出来ずにただスライムに食われていくしかない。

 やがて、ヒツジはスライムに食われ、絶命した。

 スライムは満足そうに身体を揺らすと体内のヒツジをドロップアイテムごと消化し、僅かに体積を増やす。

 

「……まさか」

 

 その光景にラムは目を丸くしていた。

 何故ならば、

 

「君は……既に知っているのか」

「ふっふっふ。私を舐めないでください。よくは分からないですけど、私以外がヒツジを倒せばセーフ、なんですよね」

 

 スフィの背中から、森のあちこちでヒツジを倒したのにも関わらず死んでいった〈マスター〉がいるのは確認出来ていた。

 遠目だから分からないが、そのヒツジが何かを落としていたのも含めて。

 

「お肉、ですかねぇ。ああ、なるほど……倒した人がこのお肉を食べないとアウトだったりします?」

 

 スライムに捕食されたヒツジが残したドロップアイテム。

 消化され消えかけていくそのアイテムをみたレシーブがラムに答え合わせの如く尋ねる。

 

「……ああ。正解だよ」

 

 

◇◆

 

 

 バロメッツの特性はラムという人間の羊飼いの運命に従って作られている。

 故に、この能力の行き着く先もまた羊飼いである彼女が望んで得たもの。

 

最期は晩餐(ザ・バンケット)

 必殺スキルと併せて使用できるこの最終奥義は需要者にあるべき形でヒツジを送り届けるものである。

 羊飼いはヒツジを飼う。

 生まれ、育て、届ける。

 そこまで担ったのならば、後は需要者が正しく受け取るだけだ。

 せっかく育てたのだから。

 せっかく送り届けたのだから。

 後は美味しく食べて欲しい。

 ただ、それだけのスキルだ。

 ――従わなければヒツジの報復を受けるのみ。

 

 とどのつまりはヒツジを殺し、ドロップアイテムとして残された肉を一定時間内に消費出来なければ即死するという能力。

 広域型であればあるほど、全ての肉を回収することが難しくなり、個人型であればあっという間にヒツジに囲まれてしまう。

 最後の晩餐となるのはヒツジか、需要者か。

 あるいは両方か。

 

 

◇◆

 

 

 ラムは背後のヒツジ数匹を纏めて細剣で串刺しにし殺す。

 空中に遺された肉を口に運び咀嚼していく。

 

「せっかく育てたんだ。せっかく殺すことができたんだ。ならば、食べておかなければ損というものだろう。……いいや、もはや罪だろう?」

「さっきも言いましたけど、私のチートデイはまだ先なんですよねぇ。ラム肉は嫌いじゃないですけど、私の分はあの子に全部上げます」

 

 見れば、今の間にも数匹捕食したのだろう。

 スライムは更に大きくなっていた。

 

「見ないモンスターだけど?」

「オーダーメイドです。皇国に居た頃のツテがありましてね。大金をはずめばそれなりのモンスターを作ってくれるんですよ」

「……なるほどね」

 

 そのような〈超級〉がいることはラムも知っている。

 クリエイトモンスターも度を過ぎればUBMにも匹敵する強さがあることも。

 

「この子の力は単純明快! 食べれば食べるだけ大きくなって、そしてお腹が空くのも代謝も早いんです」

 

 ――要は大食いスライムか。

 

 レシーブの話からラムはスライムに対してそう評価づけた。

 実際、食す以外に何かをすることもないし、兆候も見えない。

 《最期は晩餐(ザ・バンケット)》の攻略にはうってつけだろうが、それもラムが【畜産王】でなければの話。

 

「餌はまだまだある! 存分に食していくといい!」

 

 スライムの脅威度がヒツジ達に伝染したのか。

 あるいはこの場で最もヒツジを食い荒らしかねない存在だと気づいたのか。

 ヒツジらは真っすぐにスライムを目掛けて突撃していく。

 スライム自体に物理耐性があるのかは分からない。

 だが、ヒツジらには固定ダメージがある。

 膨大な体力だろうと、食べれば回復しようと、体積が増えていくにしたがって、被ダメージ部位が増えていけば、ヒツジが与えるダメージも増えていく。

 

「……むぅ」

「ははは! どうだ! すぐにダメージ量が回復量を追い越す! 死なぬうちにジュエルに戻したほうがいいのではないかね?」

「そうですねぇ。確かにこの子一匹では荷が重いかもしれません」

 

 レシーブは右手のジュエルから続けて9匹、スライムを投下した。

 

「――は」

「いやぁ。大金叩いた甲斐がありましたよ。あの人、まとめ買いがお得だって言うから。実際、5匹目からただ同然でしたし。あ、別にジュエルに戻しませんよ? どうせ使い捨てのクリエイトモンスターですし。無くなったらまた買いに行けばいいだけですから」

 

 モンスター名【ハングリー・スライム】。

 このモンスターの特性はさして珍しくもない、ただの大食いで、食べた分だけ体積とHPを増幅させていくだけのもの。

 食べ多分だけ大きくなり、食べた分だけ回復する。

 そして、食べなければ飢えて死ぬ。

 元より長期飼育を想定していない。

 操るモンスターが近くにおらず、たとえ必殺スキルを使用したところで個人型では仕留めきれない場合を想定したレシーブが用意した手札の一つ。

 

 10匹のスライムがヒツジを食い荒らしていく。

 先程までのヒツジの勢いは失せ、今や均衡を保つ程度。

 

「……だが、主である君が死ねば!」

 

 ヒツジを、木々を足場にラムは跳び、レシーブの騎乗するモンスターへと斬りかかる。

 

「GYUEEEEE」

 

 元々が弱小であった豚とペリカンを混ぜたようなモンスターは一撃でHPが危険域を割り、レシーブのジュエルへと戻る。

 

「うわっとと……」

 

 多少ふらつきながらもレシーブは地上に着地する。

 だが、そこへラムは細剣で追撃していく。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ」

 

 泣き言を言いながら……レシーブはラムの細剣を全て回避する。

 ラムとて決して剣の達人というわけではない。

 偏にヒツジへの憎しみだけで剣を振るっているだけに過ぎない。

 だからこそ、ヒツジ以外に剣が鈍る可能性があってもいいだろう。

 

 だが、

 

「その身のこなしで何故! 後衛に控えていたんだ!?」

 

 非戦闘職の【畜産王】と違い、【動物王】が戦闘職として数えられることは知っていた。

 だが、所詮はテイムしか能がない職業……前衛職並の動きは出来ないはずだ。

 

 だが、今の動きは後衛職の動きではない。

 戦闘慣れした前衛職のもの。

 

「んー? 別に。感情剥き出しで剣を振っていれば、ねぇ?」

 

 つまりは、あからさまに分かりやすい剣筋であったと。

 ヒツジ相手ならばともかく人間相手には通じない剣筋。

 

「まあ良いんじゃないでしょうか。だって、ヒツジを追い立てる牧羊犬なのでしょう?」

「……誰が?」

「あなたに決まってるじゃないですかぁ。キャンキャンとヒツジを頑張って追い立ててる様は見事までに愛らしい子犬さんでしたよ。あ、これ褒めてますからね。ちゃんと嬉しい表情作ってくださいよ。それだと、怒ってるようにしか見えませんから」

 

 思わず手を止めてしまったラムであるが、レシーブからの反撃は無い。

 ならば、とヒツジ達がラムに追いつき、彼らの一部がレシーブへ攻撃を加えるも、それもまたレシーブは避けるのみ。

 

「ほら、怒ってると他に何も考えられなくなるって言うじゃないですか。嬉しくても同じじゃないかって? まあ、それもそうかもですけどねぇ。どっちにしろ、常に周りは見ておけって話です」

「……周り?」

 

 レシーブに促されラムは周囲を確認する。

 そうして、いつの間にかラムも、そしてヒツジ達も、幾匹もの昆虫に囲まれていることに気が付いた。

 

「君は……陽動だったのか!?」

「これはクラン戦……チームプレイが光るんですよ? ダメじゃないですかぁ。個人戦で戦っては。私のように協力していかないと」

 

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