<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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60 花火

■クラン〈パルプンテ〉

 

「13位……まあ妥当なところか」

 

 残りのクラン数は16。

 そのうちの13位というのは下位の部類。

 だが、その数字を見てクリアントは満足げに頷いていた。

 

「……本当に。貴方の考えが当たるとは思いませんでしたわ」

「このイベントの参加人数から考えてはいたんだ。短期決戦でのイベントならまだしも、長期戦で、しかも限られたポイントの取り合い。倒しやすい奴から倒せば、それだけで勝敗は決する。歪なイベント、穴の開いたルール……何か追加される可能性は十分にあった」

「だからなるべく広域型を狙うよう指示されていましたのね。保険の為に」

「ああ。ルールの追加が無ければ広域型が圧倒的に優位。それを潰していけば、もし今日も同様のルールであろうとクラン間のポイント差は少なくなる……それならそれで戦いようがあったが」

「結果は、マシな方が当たったというわけですわね……」

「ムートン・ラムの存在は予想外だったけどな」

 

 フィリップ、妹妹、バウム、パリドーネ、レシーブを欠いてしまったが、クランの順位は13位。

 オーナーであり最もポイントが振り分けられていたクリアントですら60から120ポイントと2倍にしか増えていない。

 他メンバーも一律に2倍。

 1桁の端数を考えなければ、最低倍率で増えたとみるべきだろう。

 

「残りクランが16、か。幾つからかは分からないが、俺達は下位に入っている」

「1位との差は……2000くらいは離れているね。2位ですら1000以上か」

「むしろありがたい。逆転を狙うなら皆、そのクランの奴らを狙い撃ちにするだろう。俺達もそこに乗っかる」

「……狡い。これは羨ましくない狡さ」

 

 上位クランは絶えず他のクランに襲撃され疲弊するだろう。

 連戦が向かない者であれば如何な強者といえど一つのミスが命取りに成り兼ねない。

 

「他のクランからすると俺達を相手取る旨みは少ないってことだ。フラッグ自体のポイントは変動していないみたいだな。ただの強化アイテム扱いになるだろうが……敵陣に攻める時は邪魔にはなる。積極的に破壊しても良いだろう」

「なら、私がそこは担うわ。戦闘は避けながら、出来るだけ多くのクランのフラッグだけ射抜けばいいのね」

 

 二日目は一日目と違い防衛線よりも積極的な戦闘が求められるだろう。

 特に下位クランはフラッグの防衛よりも上位クランの人間を1人でも倒した方がポイントの変動が大きくなる場合がある。

 下手に陣地防衛に人員を割くよりも、1人でも敵陣で敵クランメンバーを倒した方が良い。

 対して、上位クランは防衛に人員を割かなければならなくなる。

 広大なイベントフィールド内で各個撃破されるよりも陣地内でフラッグから受けられるバフ頼りにチームワークを発揮しておいた方が死亡率が減るからだ。

 

「一応フラッグの方にも人手を必要か」

「あ、じゃあ引き続き私がやるッスよ。脚は遅いですし。それに、昨日試してみたんスけど、このフラッグ、アイテムボックスには入らないけど、私の身体なら仕舞えるみたいなんス。勿論、効果は消えるスけど、移動するときには便利ス」

「では私とジャミラさんも。私のワルキューレなら周囲の警戒の目も増やせますし、ジャミラさんの鏡の移動があれば、こちらから援軍を送ることも出来ますわ」

「そうね。任せて頂戴。もう私に怖いものなんてないわ」

 

 自身たっぷりに胸を叩くジャミラに対しては不安が残るものの、ジャミラの能力があれば離脱も容易いだろう。

 いざとなれば、フラッグを切り捨てても構わないと考えているクリアントにとっては、このメンバーが最適と思えた。

 

「昨日に引き続き連戦を覚悟する者もいるかもしれないが、後一日だ。頑張っていこう」

 

 そういえば、とふと考える。

 昨日の襲撃を夢味やキシリー、ワン・フー・ウーから聞いた時に覚えた違和感。

 明らかに〈パルプンテ〉を知っている者達がこちらを狙って襲撃してきていた。

 ジャミラも同様だ。

 この広い世界でジャミラが現実のクラスメイトと偶然出会うなんてこと有り得るのだろうか。

 これは偶然見つけられただけなのか、あるいは――

 

「なあ――」

 

 いや、偶々だろう。

 そう思い、口を閉ざす。

 

 パリドーネの家庭教師も、ワン・フー・ウーの姉弟子の件も知らないクリアントは判断材料の少なさから偶然の範囲内と思い込む。

 誰が誰に存在を教え込まれたのか、居場所を特定されたのかなんて、裏にいる者の存在すら知らなければそこに思考は至らない。

 

「どうしたの?」

「……何でもない。それよりもクーは顔が晴れたみたいだな」

「うん。イテカちゃんに相談に乗ってもらえたからね。悩みなんか吹き飛んじゃったし、改めてイテカちゃんのこと好きになっちゃったよ」

「勘弁してほしいッス」

 

 相談、相談……か。

 

「あ、しまったな」

 

 ワン・フー・ウーを始めとしたクランメンバーと話をしようとしていたことを思い出す。

 ムートン・ラムの襲撃で忘れていたが、しかしその時間ももう無い。

 

「……歩きながらでいいか」

 

 だが全員とはいかずとも、当初の目的である彼くらいは果たせるだろう。

 クリアントの目的地は無い。

 防衛以外のメンバーが全員攻勢に出向くからといって、全員がバラバラになることもないのだ。

 クリアントとワン・フー・ウーが道を同じくしようとも問題はない。

 

「オーナー」

 

 だが、そんな彼の服を引っ張る者がいた。

 

「キシリー。どうした」

 

 以前同行した後から少しばかり懐いてくれた少女、キシリー・キシシキ。

 クリアントやバーバヤードに対しては兄のように話しかけていることが多い。

 ちなみに頼りにしているのはバーバヤードの方であることをクリアントはまだ知らない。

 

「今日は好きに暴れて良いんだよね?」

「ああ。キシリーも昨日は窮屈だっただろう。【巨人王】の攻撃力と耐久力、それになにより、誰よりも大きなその巨大さを存分に振るって来い」

「オーナーにも付いて来てほしいな」

「……うん?」

 

 何故?と理由を問う前にキシリーは続けた。

 

「前にオーナーが大きくなって爆発したでしょ? 私、あれを見て思ったんだ。私にも真似したくないこと、ちっとも羨ましくない強さがあるんだなって」

「……うん」

「イベントってのは祝砲とか花火を打ち上げるって聞いたことあるよ。でも昨日はそんなの無かった。だから、オーナーを打ち上げたいなって」

 

 随分と恐ろしいことを思いつく少女だ。

 自身のクランオーナーを花火がわりに爆発させたいらしい。

 ちなみに他のクランメンバーはまあいいかと思い見守っている。

 ストック的にはあと一回くらいなら死ねるだろうし、今のクリアントのポイントであれば、最悪完全に死んだところで他がカバーできるだろう。

 

「大丈夫。遠くに私が投げるから。だから、爆発してもこっちには影響ないよ」

「……俺だけが大丈夫じゃないよな?」

 

 ストック数としても大丈夫ではないが、そちらよりもメンバーと大きく離れてしまうことの方が問題だ。

 そんなことをされてしまえば、折を見てメンバーと合流しながら対話しようと考えていたのが不可能に近くなる。

 せめてワン・フー・ウーだけでもと思うが、キシリーは今すぐにでもクリアントを投げ飛ばしたそうに期待の目をこちらへと向けている。

 

「……」

「オーナー、準備は良い?」

 

 ちっとも良くはない。

 

「……」

「じゃあ、行くよ。手を離す直前で《姫の三振り》使うからね」

 

 キシリーがクリアントの胸倉をつかんだ。

 

「……」

「せぇーの――」

「待った」

 

 なんとか絞り出した声。

 

「え? どうしたの? まさか嫌になったとかじゃないよね? だってこの間オーナーが自分から言い出したことだもんね。それを私が再現するだけだよ。あ、もちろん、この花火ってのは比喩なだけであってオーナーの爆発が七色に輝くとか思っていないから。多分血肉や骨の赤白は見えないんじゃないかなぁ。代わりにオーナーは毒が使えるんだから紫みたいにはなるのかな。あ、でもでも、勘違いはしてほしくないんだけど、私がただ見たいだけなんじゃなくて、爆発と毒で他のクランの人たちを一気に倒しちゃおうって作戦でもあって。だから私は別にオーナーに死んでほしいとかじゃなくて、結果的に死んじゃうってだけであって――」

「いや、怖い怖い怖い。そこまで喋るタイプじゃなかっただろ」

 

 別の意味で危なかったキシリーが違う方面で危険になりかけていた。

 いや、もうなっているのかもしれないが。

 どちらにせよ自分の思い通りにならなければ癇癪を起こしかねないことに変わりはない。

 

 こうなってはクランメンバーも下手に口を出せなくなった。

 彼女を知る者からすればどこで暴れ出すか分からないのだ。

 尤も、数名は『愛か?』『これは愛だね』とか言っているが。

 

 

「俺が言いたいのは……えーと……、そうだ。こんな半端なタイミングに花火を打ち上げても混乱する奴が多いだろうし」

「敵なら混乱はむしろいいんじゃないかな」

「……それもそうか」

「(先輩! 幼女に言い負かされないでくださいよ!)」

「爆発で敵を倒せるかどうかは、居場所がまだ分かっていないから無駄撃ちになるかもしれないし」

「そこは私がオーナーを最大にまで大きくするよ。それに毒を飛び散らせるし、少しの間は毒が残るんでしょ? 牽制にもなる」

「……悪い、皆。ちょっと死んでくる」

「(先輩!? 諦めるの早すぎでは!?)」

 

 どうやら覚悟を決めなければならないようだ。

 残りストックは2つ。

 これで1つ減らし、後の1つのストックのみでどうにか数時間切り抜けなければならない。

 そうなったらそうなったらで即死しない特典武具を用いるか、ギリギリのダメージを稼ぐと同時にパルペテノンで回復し、【自殺王】のスキルでひたすらに耐久力を上げるしかない。

 可能性は低いだろうがジャミラが回収に来てくれるかもしれない。

 

 仕方ない。

 ここは諦めて腹を括るしかないのだろう。

 

「……はぁ。まったく、何をしているのかしら。このどぐされオーナーは」

 

 と、ここでクリアントとキシリーの間に割って入って来たのは、そのジャミラであった。

 

「大方、私が回収に来るとかいう甘い幻想をお考えなのだろうけど、残念なことにそんな面倒なことはしないわよ。というか出来ないわ。ウリエルがマークできるのも数に限りがあるし、どぐされオーナーにはマークしていないわ」

 

 どうやら呼称は決定されてしまったようだ。

 どぐされオーナーはだったら自前の装備とスキルで生き延びる他無くなったかと諦める。

 

「アンタ達、連携して動けばいいじゃないの。聞いたわよ、キシリーさんに同行したのがクリアントさんであった理由。そのうちの一つに、戦闘スタイルの組み合わせの良さもあったはずよね」

 

 ステータスのゴリ押しで戦うキシリーと、搦め手で攪乱するクリアント。

 そういえばそんな話もあったなとクリアントは思い出した。

 

「……祝砲ならもっと良いタイミングがあるでしょう? このイベントが終了した時。私達が1位になった時こそ、オーナーが爆死する良いタイミングじゃない」

「その言葉だけ聞くと全然良くはないが……」

「それもそうだね」

「納得するのか……助かったジャミラ」

 

 ジャミラはちらりとプシュケーの方へ視線を送る。

 そこには、『まさかプシュケーさんからお願いされたことも果たせないの?』と込められている。

 どうやら、ワン・フー・ウーと話してほしいという会話をどこからか盗み聞きしていたようだ。

 

「そうね……ワンさんは確かどこか行きたいところがあるとか言ってたわね。どう? キシリーさんに運んでもらったら」

 

 更に追撃。

 

「え、あ、うん。いいの?」

「うん! 勿論だよ!」

 

 普段は頼られないキシリーだからこそ、他人から頼りにされたときは大きく頷く。

 

「決まりね。他は好きに組めばいいと思うわ」

 

 即座に手を抜き、キシリーとワン・フー・ウー以外はジャミラの企みが何であったのか分かってしまうが、もうこの時点ではジャミラは我関せずとばかりにプシュケーと防衛について会話を始める。

 バーバヤードとアシスタも当然2人一組で行動するため、その他のメンバー……というには残りがクャントルスカと夢味しかいないため、自然2人もペアを組むこととなった。

 

「じゃあ……改めて頑張っていこう」

 

 なにはともあれ、イベント二日目が開始された。

 

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