<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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62 魔女の夜会

◇◆

 

 奇怪な運命も、

 奇妙な因縁も、

 奇才も多才も、

 確執も奮起も何もかもが、

 

 彼女にとってはとても小さなもので、

 

 そして、羨むような大きなものであった。

 

 

 

 

■クラン〈御邪魔女連合〉

 

 ランキング上位のクランは防衛に徹するのが最早セオリーと言ってもいいくらいには、他のクランが攻勢に打って出ていた。

 一発逆転を狙うのであれば上位クランの、更には高ポイントを所有している者を倒すに限る。

 ともあれそういった者は生存型であったり、単純に倒せないくらいに強かったりと、ポイントを多く保有するに足る理由があるのだが、それでも倒せたときの恩恵の大きさを考えれば、探さずにはいられない。

 まるで一獲千金を夢見るギャンブラーのように、目を血眼にして地上をうろつく〈マスター〉もいるくらいだ。

 

「餌を探す蟻のようだ」

 

 そんな彼らを見下ろすのは〈御邪魔女連合〉サブオーナーである魔女ラテ。

 現在、〈御邪魔女連合〉は地上50m程の高さに拠点を構えている。

 アムニールを模した巨木の枝の一つ……本来であれば権限としても不可能であるし、何より高空を縄張りとするモンスターの格好の餌に成り兼ねない。

 だが、このイベント内においてはこの巨木の所有権など存在せず、世界のどこにもモンスターはポップしない。

 更には拠点もエンブリオにより作られた隠蔽特化の建造物。

 高レベルの看破系統のスキルでも無ければ隠蔽は解かれることもないし、どこにあるかも分からないところに無暗にスキルを使うことも出来ない。

 そんなわけで魔女クランは悠々自適に、怠惰的に、拠点でくつろいでいた。

 

「とはいえ大魔女様。このままでは2位に甘んじることになるのですが」

 

 このイベントの性質上、防衛に徹するとランキングは下がることはあれど上がることは無い。

 それは参加者が倒されてもポイントの剥奪が無く、倒した者に所有ポイントを与えるというルール故。

 動かなければ〈御邪魔女連合〉の所有ポイントは変動せず、しかし他のクランが動けば、2位が下落することは大いに有り得る。

 

「一応、策はあるのよ。一応は、ね」

 

 現実世界では真っ黒な企業に勤めるデミータリィにとって能動的に動くのは避けたいことであった。

 なによりも彼女はクランメンバーの期待に応える形でイベントに参加したのだが、しかしながら同時にメンバーに囲まれてゴロゴロするこの空間を何よりも手放したくはなかった。

 

「ほう……策ですか。大魔女様……誰よりも知恵深い貴女のお考えをお聞かせください」

「え、あ、うん……」

 

 当然ながら策など一切無いデミータリィが魔女ラテの言葉に返す言葉があるはずもなく、

 

「……機を、伺っているのよ」

 

 これだけ返すのがせいぜいであった。

 

「機……」

「そう……機を、ね」

 

 とりあえずデミータリィはパチンを指を鳴らしておく。

 地上でうろうろしていた複数の〈マスター〉は一瞬のうちに足元に出現した泥に沈み、以降浮き上がってくることはなかった。

 〈御邪魔女連合〉に僅かながらポイントが入った。

 獲得ポイントから察するに下位クランの偵察であったのだろう。

 

「これで1位に逆転は……しないわよねぇ。流石に少なすぎるか」

「やはり上位クランの者を倒すしかないようです。こちらも温存できているメンバーは多数います。決戦型も含めて。大魔女様の仰る機が巡ってきた際は一斉に仕掛けられます」

「(物騒だなぁ……)」

 

 その原動力が自身であることを知ってか知らずか、デミータリィはそんなことを思う。

 決して自分はそんなことを願ってはいないのだと訴えるかのように。

 

 いつからか少女達の中心に自分が据え置かれ、クランが立ちあげられ、そうして囲いが徐々に増えていく。

 悪い気はしなかった。

 青春を取り戻せた気がした。

 

 だけど、時折ふと思い出してしまう。

 彼女らと自身には隔絶された距離がある。

 それを踏み越えてはならないし、彼女達に渡らせてもいけない。

 

 こんな、ゲーム世界に逃げ込んだ自分を誇らしげに吹聴してはいけないのだ。

 本来であれば人間の汚点として、反面教師として吊るし上げなければならないのだ。

 

 だが、デミータリィは自身を慕う彼女たちの言葉に、行動に甘んじ、今の椅子に座る。

 怠惰な魔女として、“大魔女”という立場に居座る。

 

「……機は魔女ラテちゃんに任せようかなぁ」

「え!?」

 

 その驚いた顔が何よりも可愛かった。

 怒った顔も、照れた顔も、恥じらう顔も。

 彼女の全ての一面が愛おしい。

 

「魔女ラテちゃん。気負い過ぎ」

 

 彼女が自分に向ける感情。

 それが敬意なのか反射的なものなのか、デミータリィには判断つかない。

 あるいは別の感情が織り交ぜられていたとしても、決してデミータリィは気づくことが出来ない。

 一方的な愛を向けることができても、それが向けてこられるものであるとは信じることができない。

 

「言ったよね。楽しくやろうって。勿論、一番頑張った子へのご褒美は忘れていないよ? それが大金だろうと権限だろうと、私の時間だろうと。叶えられる範疇ならお願いは聞いてあげられる。だけど魔女ラテちゃんは自分の為じゃなくて、自分以外の為に奮闘している。それは――魔女らしくないんじゃないかな」

 

 かつてデミータリィは魔女ラテに伝えた言葉があった。

 『魔女として生きるのであれば、正しい自分を捨てたいのであれば、自分勝手になりなさい』と。

 正しくは、魔女として生きるのではなくデミータリィの傍にいたいというのが魔女ラテの願いだったのだが、デミータリィにとっては同じことであった。

 この世界では好きに生きよう、現実とは無関係でいよう。

 そうこの世界に希望を持って活動を始めたデミータリィにとって使命感のままに動く魔女ラテは苦手な存在であった。

 だからこそ、そんな彼女を変えようと、放った言葉。

 

「私は……」

「魔女ラテちゃんの顔が好き。真面目な性格も好き。だけど私は自分を追い込む魔女ラテちゃんだけは好きになれないよ」

「……」

 

 その愛の囁きに、しかし魔女ラテの返答はない。

 無論、デミータリィも何か期待したわけではなかった。

 ただ、伝えるべきことを伝えなければならなかっただけだ。

 これはデミータリィとしてではなく、大魔女としてではなく、クランオーナーとしてではなく、ただ人生の先輩として。

 こんな幼い子が使命感に生きなければならなかった彼女の短い人生を呪いながら、デミータリィは魔女ラテの髪を優しく梳く。

 

「……分かりました。私はまだ自分のやりたいことが見つかっていません。何をしたいのか、考えたこともありません。ただ……貴女の傍にいたかった。それだけの理由で魔女に生きようとした。でもこれからはもう少し踏み込んでも良いでしょうか。大魔女様の隣に、いいえ……もっと近くに、寄っても良いでしょうか」

「どんと来なさい。お姉さんの胸はいつでも空いてるわ」

 

 さて、こんな光景はこのクランにとってはそう珍しくも無いことなのだが――デミータリィと魔女ラテの関係を指しているのではなく、デミータリィとクランメンバー全員が似たような関係であるためほぼ全員がこんな問答を体験している――この拠点維持に最も貢献しているエイミーは興奮しながら筆を走らせていた。

 

「……」

 

 いつもの眠たげな言葉も、興奮した言葉もなく、ただ無心で芸術作品を出力していく。

 その後ろではクランメンバーが顔を赤くし見ている。

 珍しくもないくせに免疫が低いが為に熱心に眺めていた。

 

 つまりは、誰も周囲の索敵をしていなかった。

 

 仕方ないことだ。

 だって、完璧に拠点は隠れていたのだから。

 隠れた上で誰も手の届かない高空に設置されていたのだ。

 

 だから、気づいた時には拠点は瓦解していた。

 

 何かが衝突する音と共に、拠点内はスクランブルのように揺れ動く。

 メンバーの誰かが家具に潰され死に、穿たれ死に、貫かれ死に、地上に消え去り死に、死に、死に、死に――拠点の維持に努めていたエイミーも死に。

 

 そうして気づけば拠点は消え失せ、生き残ったメンバー全員が突如空中に放り出されることとなった。

 




ちなみにエイミーですが、拠点を何とか維持するよりも芸術作品の保存を優先しました。保存は辛うじて完了しました。そんなことやってたら拠点を支えていた柱が折れてぶっ刺さって死にました
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