<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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33話 偵察

■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ

 

「え、ちょっと!? クリアント君、どこに行くの?」

「偵察だ。どんな奴らがいるか、知っておいて損はないだろ」

 

 そう言い残しクリアントは走り出す。

 

「……いつもあんな感じなの?」

「さて。でも、自分の命を捨て駒と思っているわけではないよ」

「あ、そうなんだ! 良か――」

「最終的に勝てるなら数回くらい命を散らしてもいいと考えている人間さ」

「良くはないよね、それ!」

 

 クリアントが去った後のフィリップとクャントルスカの会話。

 彼が聞こえない位置にまで移動した後に行われる。

 

「それもまた彼らしさ、さ。良いじゃないか。彼の言っていた通りに情報が手に入るのだとしたら」

「それはそうだけど……」

「それとも何か。自分の目の届かない場所で状況を荒らされたくなかったりするのかい?」

「……どうして、そう思うの?」

 

 クャントルスカから発せられる空気が変わる。

 一段と冷え、そして重い空気である。

 

「……そういえば」

 

 冷めた目のままクャントルスカは問う。

 始めから、聞いておけば良かったのだ。

 そうでなかったから、この3人の戦いはこうも歪な関係のままスタートした。

 情報に間違いがあったまま、開始されてしまった。

 

「フィリップちゃんたちの目的って何かな? 私に協力してくれる理由。ただの親切心じゃないよね?」

「おお、ようやくそれを聞いてくれたか。魔法少女だから。無償の愛故に協力したと誤解してくれたのかと思っていたよ」

「……今のフィリップちゃん達だったらそうだね。だけどさっきまでは違うでしょ。魔法少女じゃない貴方達はなぜこの戦いに参加したの?」

 

 少しでも返答が気に食わなければ殺すとでも言いたげな眼であった。

 

「……そう殺気立たないでくれたまえよ。私たちが君を『魔法☆少女』にするという約束自体は守るつもりだ」

 

 フィリップはある方向を指さす。

 それはクリアントも向かって行った森の奥。

 山頂へと繋がる道だ。

 

「私たちの目的は山頂。そこにいるモンスターが持つアイテムを欲しているんだ」

 

 《真偽判定》をクャントルスカが持っていたとしても引っかからないだろう。

 それは正真正銘フィリップの本心である。

 この場におけるフィリップの偽りなき目的。

 

「……山頂?」

「ああ。そうさ。あそこにあるだろう?」

 

 暗雲広がる山頂をフィリップは指さす。

 

「あの雲が何なのかは分からないけど。それも行ってみてからのお楽しみだ。いや、クリアントならばこの戦いの最中に行くかもしれないね。彼の力なら、どれだけ一撃必殺の攻撃を受けても問題は無いのだから」

「……そっか。そっかそっかそっか………!」

 

 クャントルスカの体が震える。

 

「……どうしたんだい?」

「そう、だったんだぁ……ああ、失敗したなぁ。まさか山に登りたかったなんて」

「……クャントルスカ?」

 

 その表情は――笑っていた。

 待ちかねていた恋人が訪れた時の少女のような笑みであった。

 

「あまり話しかけない方が良いわよ。貴方のことも好きになってしまうから」

「……それは怖いね」

 

 クャントルスカの顔を覗き込んでいたフィリップをモーちゃんが止める。

 その言葉はフィリップを後ずらせるには十分であった。

 

「……判定基準は君だと思っていたけど、クャントルスカの方だったのか」

「私はエンブリオよ? 好みは一緒。私が好きな人はクャントルスカも好き。クャントルスカが好きな人は私も好きなのよ」

「それなら、クリアントのこともクャントルスカは?」

「ええ。勿論好きよ。でも、今はまだ駄目。抑えているわ」

 

 抑えることが出来る。

 それを聞いてフィリップは目の前の少女――クャントルスカの精神性を疑う。

 

 エンブリオの正体自体はまだいい。

 そこから推測されるクャントルスカのパーソナリティはきっと他者を愛しやすいのだろう。

 だが、それを抑制できる?

 好きという感情を抑え込めるのであれば。

 それはクャントルスカのエンブリオ以上に化物じみた精神性である。

 

「……クリアントは、うん。そうだね。きっと相性が良いのだろう」

「あら、そうなのかしら」

「君のエンブリオが私の推測通りなら、スキル関連も容易に推測できる。ならばクリアントは問題ない」

 

 恐らく、フィリップはクャントルスカに適わないだろう。

 いや、彼女が上手く抑え込んでいるというのなら勝てるかもしれない。

 だが、それは確実ではない。

 

「クリアントなら君の恋も成就するのではないかな? モーちゃん」

「……そうなの?」

 

 モーちゃんの目は期待に満ちていた。

 きっと、クャントルスカとモーちゃんは多くを殺してきたのだろう。

 哀れであると同時に、やはり恐ろしさを感じてしまう。

 だって、それでも彼女らは繰り返すことを止めないのだから。

 

「あはは! もういいや。クリアント君があそこに行くんだったら……だったらもう、全部めちゃくちゃにしてもらおう!」

 

 吹っ切れたように笑うクャントルスカ。

 自暴自棄にも見える言動。

 しかし、フィリップにはそれほど彼女が絶望的であるように見えなかった。

 むしろこれは――

 

「それで、結局あの山頂には何がいるんだい?」

「それはね――」

 

 

 

 

■【魔法少女ω】クリアント

 

「先輩、先輩」

「どうした? というか、テリトリーになっていてもらえると助かるんだが。そのままだと不意打ちを受けると一発で俺は沈むぞ」

「そうですか? 今の先輩なら問題なさそうですけど。マッドラップスとだって真正面から戦えるんじゃないですか?」

 

 確かに、とクリアントはワンプの言葉に頷く。

 現在のステータスは魔法少女による補正だけでENDが3000を超えており、他も軒並み1000を超える値となっていた。

 

「随分と気前のいい上がり方だな」

「レベルが上がってもステータスはあまり変わらないとクャントルスカさんは言っていましたね。固有能力は成長するみたいですけど」

「魔法少女は能力が成長することはあっても身体機能は最初から同じって言っていたな」

 

 それがテレビの話であることは間違いないのだろうが、この世界にも反映されているらしい。

 だが、レベル1であれば破格のステータスも案外カンストしてみると大したことはないのかもしれない。

 あくまで、超級職の前提であるジョブとでも言うように。

 

「固有能力……なぁ。確かにωは人気が無さそうだ」

 

「というか、先輩くらいしか使い道無いですよね。特にこんな戦いでは」

「まあな……でも、これで新しいスキルが使えるんじゃないか? 使いづらいスキルと使いづらい固有能力が組み合わせれば、案外いけそうだ」

 

 森の中を駆けるクリアントとワンプ。

 2人ともこれまでにない高ステータスで走っているが未だ慣れないAGIと森という環境のため、速度は出せていなかった。

 

「ところで、どこを目指しているんですか?」

「最初は森の中を1周……と思っていたんだけどな」

 

 死んでもいいという力はバトルロワイアルにおいて大きな役割を持つ。

 偵察も役割の1つであるが、自身を殺し尽くそうとする者を引き連れて、新たな敵の下へ向かうことも出来る。

 全員が敵であるならば、敵同士を引き合わせることも可能。

 その道中で死ぬリスクも、クリアントであれば大したことはない。

 

「……思ったんだが、偵察というならこのまま山頂に行ってみないか?」

「山頂ですかー。あれ、でもそれってルール違反になるんじゃ?」

「いや。ルールは場所についての記載はない。それを縛るクリャ……クーの特典武具は森の外を囲っているだけだ」

 

 森の外を緑の薄い膜が覆っている。

 それがクャントルスカの特典武具の効果範囲となっているのだろう。

 だが、それは森と山頂の間には無い。

 

「つまり、ルール的にも物理的にも山頂への道は塞がれていないんだ」

「はぁ……でも行く意味あります? 山頂に興味はありますけど、その前に魔法少女の偵察をした方がいいんじゃないですか?」

「確かにな。魔法少女がそれぞれ持つ固有能力はクーが把握しているだろう。あいつが本気なら、それくらいの情報は掴んでいるはずだ。だがエンブリオは魔法少女たちの切り札。そっちまで把握しているか分からない」

「だったら尚更……」

「尤もリスクを減らす且つ、魔法少女同士の戦い全体を見るならば。それは戦いを間近で見るよりも相応しい場所があるだろう?」

 

 それは高位置に存在する場所。

 森という木々が視界を遮る場所であれど、隠れている魔法少女ならともかく戦闘中の魔法少女であれば見つけるのにそう時間はかからない。

 

「ということは――」

「ああ。山頂へ何があるのかを見に行くのともう一つ、魔法少女の偵察を行う」

 

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