<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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65 大魔女

◇◆

 

 それはまさしく開戦の合図。

 狼煙にしては派手すぎる上に、死人が出ている。

 故にこそ、喧嘩を売るに最適な先手を打った形である。

 

「……ッ」

 

 手から零れおちていった命の数を、魔女は頭の中から振り払う。

 いちいち気にしてはいけない。

 何よりもこれはゲーム……3日経てばまた顔を合わせられる。呑気に構えていても良い、取り返しがいくらでもつく遊戯なのだ。

 

 だが、いくら振り払おうとしても、まるで呪いのように頭の中で渦巻き、繰り返す仲間の悲鳴。

 まるで現実の一部なのだと、取り返しはつくけども完全には直せないと言うように。

 魔女の頭の中は後悔だけが支配する。

 

「……“沼地”」

 

 魔女は知っていた。

 この現象を起こした者を……仲間を殺した男の名を。

 【魔法☆少女】を有するクラン、〈パルプンテ〉のオーナーであるクリアント。

 直接的な戦闘力は低いと噂されていた。

 攪乱程度がせいぜいであると。

 

 だが、結果はどうだ。

 魔女たちは自分を除き全滅させられた。

 拠点崩壊の原因を招いた巨人の少女もまた〈パルプンテ〉のメンバーの1人であろう。

 拠点崩壊までであったならば、半分の犠牲で済んでいた。

 機転を利かせて浮遊魔法スキル……にも似たエンブリオの力を使ったのは、自分にしては合格点を出したいくらいであった。

 それで、態勢は整えられた……はずだった。

 

「何……なの、あれ」

 

 絞り出した声は掠れ、まるで本当に老いた魔女のように感じた。

 

 雷、そして【泥化】と表示された魔女そっくりの偽物達。

 雷と泥、そして偽物……ここまでくれば、それがスワンプマン実験が由来するであろうエンブリオであることは理解できる。

 それは理解の範疇であるし、納得できる現象だ。

 

 だが……最後のあれは何なのだ。

 仲間達を地上に下ろそうとした瞬間、全員が死んだ。

 突然のことだった。

 回復スキルも通じず、回避も許されず、燃え、裂かれ、貫かれ、死んでいった。

 整合性など無い、理不尽に与えられた死。

 

 ならば敵討ちにとでも思い、周囲を索敵すれば、そこに既に男はいなくなっていた。

 

 ポイントも入っていない。

 死んだのではない、逃げられたのだ。

 底なし沼からどうやってか……それすらも分からない。

 

 完全にしてやられた、というやつだ。

 〈御邪魔女連合〉はオーナーであるデミータリィを残し壊滅。

 会敵僅か1分足らずの間に。

 

「……は」

 

 〈超級〉の名が廃る。

 周りに良い様に持ち上げられ、自身も仲良しこよしを演じ。

 それが当たり前のようであると、楽しさこそが一番であると、言い切ったくせに。

 

「……はは、ははは、ハハハハハハハ――」

 

 魔女の目は復讐に燃えていた。

 もはや取り戻すことのできないもののため、八つ当たりをせんとばかりに。

 

「嫌ねぇ……これでも会社ではお局に睨まれないよう笑顔の絶えないOLでいたはずなのに」

 

 セクハラもパワハラも上等。

 波風立たせないことこそが社会で上手くやっていくコツである。

 

「もう見せる相手もいないなら、笑顔なんてしなくていい……そういうことかしらね――魔法少女さん?」

「――ッ!?」

 

 魔女はその目で空を睨む。

 猛スピードで魔女目掛け翼をはためかせていた魔法少女……愛を語る少女は突如翼のコントロールを失い、大木の幹に突っ込んだ。

 

「……てて」

 

 だが、持ち前の回復力でそのダメージすらも無かったことにし、魔法少女は魔女の前に立ち上がった。

 魔女は、すぐにでも魔法少女を殺す技があった。

 

 だが、八つ当たりをするべく、同じ〈パルプンテ〉のメンバーである彼女に復讐をすべく、あえて生き延びらさせていた。

 

「愛の話かな?」

「そうね。愛、愛……愛しい私の魔女っ子ちゃんたちはみんな死んじゃったわ。愛は素晴らしいもの? だったら、愛のために行われる復讐も美化されるべきかしら」

 

 デミータリィの前に立つは魔法少女シリーズの超級職である【魔法☆少女】。

 ロストジョブであったために情報は少ないが、かつて魔法少女に就いていた魔女曰く、【魔法☆少女】はシリーズのいずれかを強化したものであるらしい。

 つまりは固有スキルもシリーズさえ把握していれば、対応もしやすい。

 先程の回復力から現在の【魔法☆少女】は【魔法少女α】から派生した超級職。

 回復力……その程度であればデミータリィは完封できる。

 むしろ、すぐに殺してしまい、手ごたえが無さ過ぎるあまりに復讐した気にならないかが杞憂であった。

 

「復讐よりももっと楽しいこと、あると思うよ? 私と恋バナとかしない?」

「あら、良いわね。でも……そうね、あの子がいたらきっと、こう言うんでしょう。『世界観!』って」

 

 魔女らしくあれ。

 あの子に……魔女ラテにそう言ったのはデミータリィであった。

 その言葉をいつも返されていた。

 そんなやり取りが好きだった。

 

「ごめんなさいね? 恋バナしたいのは本当よ。でも魔女らしく復讐の炎に身を任せたいのも本当。だって私は“大魔女”デミータリィ。魔女の中の魔女……あの子達の見本にならないといけないのだから。あなたもそうでしょう? 魔法少女さん」

「魔法少女らしさってのは特にないよ! 私が【魔法☆少女】なのは確かだけどね! でも今ってパティシエだったり警察官だったり、動物だって魔法少女になれるから! 自由なんだよ」

「そう……魔女も自由なはずなのよ、本当はね」

 

 だったら何故自分たちは戦うのか。

 これがイベントだから? 

 復讐相手の属するクランメンバーだから?

 ふざけて、魔女と魔法少女の因縁だなんて言い始めたのも自分だったなとふとデミータリィは思い出す。

 まさか本当にぶつかるだなんてと苦笑する。

 

「戦いが終わったら友達よ。だから、今だけはお願い……私の魔女らしくありたい姿勢に付き合って」

「うん! 勿論だよ! あなたの凄いところを、素敵なところをたくさん見せて! 私は全て好きになって食べてあげるから!」

「え!? 食べてあげるって……ちょっとそれ詳し――」

 

 相手の言葉に興奮を隠せないデミータリィの頭部を蹴り砕かんと、【魔法☆少女】――クャントルスカは跳び蹴る。

 だが、その寸前で彼女の動きは止められる――まるで何かに全身を掴まれたかのように。

 

「……あれ?」

「焦っちゃだめよ? 愛というのはお互いの全てを曝け出した上で好きになるものでしょう。私の全てを見せてあげるから、あなたも全身全霊でかかってきなさい」

 

 “大魔女”改め、魔術師系統派生超級職【魔女(ウィッチ)】デミータリィ。

 彼女を慕う魔女達はデミータリィをこのような言葉で評する。

 『魔女からは逃げられぬ。迂闊に触れれば呪われて死ぬ』と。

 

「……クリアント君。何やったの?」

 

 対するクャントルスカはクリアントがまた何かやったのかとため息をついていた。

 

 

◇◆

 

 

「クー。一つだけ合図を決めておく」

「合図?」

 

 それは、イベント開始時のこと。

 フィリップに次いで移動力に長けているクャントルスカにクリアントは自身の必殺スキルの使い道を伝えていた。

 

「俺はこのイベント中に必殺スキルの使用を限定するつもりだ」

「クリアント君のは無差別だから仕方ないよね」

 

 同じく無差別なはずの自身の必殺スキルを棚に上げ、クャントルスカはそう評した。

 

「回数制限とか、効果範囲とか、そういった制限もあるんだが、今回の場合は違う。俺の必殺スキルは結構目立つんだ」

「確かに。雷が落ちるんだっけ」

 

 ドラゲイルの雷にも似た必殺スキルのエフェクト。

 無論、効果は全く違うのだが、攻撃自体が目立つことには同意であった。

 

「俺は、〈超級〉、あるいは推定〈超級〉らしき人物がいた時にだけ必殺スキルを使おうと思う」

「? そうだね。クリアント君のは相手が強い程に効果は増すタイプだけど……」

 

 何故わざわざそれを自分に?という表情でクリアントの顔を見返す。

 

「それで倒せるとは限らない……が、それなりに削れるはずだ。もし、クーが近くにいたならば……追い打ちをかけて欲しい」

「……それってつまり」

「俺に決定打になるような力は無いからな」

 

 弱らせるからとどめは任せた。

 つまりはそういうことらしい。

 

「必殺スキルを使った後、俺はすぐに離脱準備に取り掛かる。死んでたら蘇生地点は出来るだけ遠くにするつもりだ」

「私はその〈超級〉が回復とか態勢を整える間に強襲するんだね」

「ああ。飛べるクーだからこそ頼めることだ」

 

 ちなみにジャミラには断られた。

 〈超級〉相手でも十分に戦えそうな力はあったが、頼んだのがクリアントだったため、顔を顰められたのだ。

 

「うん。分かったよ! むしろ美味しいところを貰っちゃうみたいになるけど」

「クーは万能タイプだからな。大抵の相手とは戦闘が成り立つだろう……が、尖った戦闘スタイルの相手には押されるかもしれない。俺が多少でも削いでおくが……」

「大丈夫。むしろクリアント君の方が心配だよ。だって、〈超級〉以外には必殺スキルを使わないつもりなんでしょ?」

「……ま。敵わさそうなら逃げるさ」

 

 しかし実際には幾人もの準〈超級〉クラスの敵を必殺スキル無しで沈めたクリアント。

 不運なのは彼らが無名の実力者であったため、戦果をクリアント含め誰も気にも留めなかったことだろう。

 

 

◇◆

 

 

「(クリアント君……これのどこが削ったの!?)」

 

 敵は万全の状態。

 精神的ダメージは入っていそうだが、それはむしろ彼女の戦意を満ちさせるだけになったようだ。

 否、本来であれば魔女複数名を相手取らなければならなかったことを思えば、クリアントもまた戦果は十分にあったのだ。

 だが、合図で呼ばれた側のクャントルスカとしては弱らせてこれ?と感じる程に敵の力は未知で強大。

 未だ翼は動きが鈍く、自身の肉体も捕らわれたように動かせない。

 

「ふ、ふ、ふ。魔女は肉体の解剖もやるのかな。だったら少しくらい……魔法少女の衣服を脱がせてもいいわよ……ね?」

「多分色んな方面からダメなんじゃないかな!?」

 

 かくして魔女と魔法少女の戦いは成り立った。

 【魔女】と【魔法☆少女】。

 〈超級〉と〈超級〉。

 互いの欲望も入り混じった戦いが始まる。

 

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