<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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66 全力投球

◇◆

 

「……さっきの。オーナーが言っていたことだけど」

 

 ワン・フー・ウーを目的の地へと運ぶべく歩を進めるキシリー。

 今度こそ、不意の衝突を避けるべく慎重に道を選びながら口を開いた。

 

「私はお母さんに反対のことを言われたよ。ワン君の言っているその子と私だと状況が違うけど。でも、うん……私は自分ではどうしようもないことは相手に助けて貰えって。誇るべきものがないのなら、誇るべき相手を探せって言われた」

 

 互いを補えるパートナーを探す。

 それはそれで一つの回答なのだろう、とワン・フー・ウーはキシリーの言葉を黙って聞く。

 知識が欠けているなら頭の良い人を。

 運動が苦手なら体力のある者を。

 ……手足が欠けているのなら介助者を。

 

 だが、果たしてそれを“磔刑”は求めているのか。

 それをするべき人間はとうに現れていたのではないだろうか。

 

「……でも私はこの世界で見つけたよ」

「パートナーを?」

「ううん。それはまだ……。でも、この世界なら私は自分のことは自分でできる。誇るべきものを見つけられたんだ」

 

 【巨人王】、そして彼女の持つ特典武具であるフォーカー、そしてエンブリオ。

 いずれもオンリーワンの性能を有し、他の誰にも彼女と同じことは出来ない。

 

「少しずつだけど、私は他の人みたいに可愛くなれないし強くなれない美しくなれないし賢くなれないってことが分かってきた」

 

 癇癪を起こし、それが収まっても尚、彼女の手の中には残っていなかったものたち。

 あるいは、ほんの少しずつでも成長していたのだろう。自覚してきたのだろう。

 他者に怒りを、嫉妬をぶつけても仕方のないということを。

 

「でも、大きくはなれた。この世界では誰よりも。私には無いものを持っている人達よりも、大きくはなれるって分かったんだ」

「それは……良かったね」

 

 であれば、とワン・フー・ウーは自身を振り返る。

 何があるだろう。

 何を持ち得ているのだろう。

 姉弟子たちのような自信に裏付けられた実力も無い自分には、一体何があるのだろう。

 

「その“磔刑”ちゃんはワン君に何をしてほしいか、だったよね。答えは“磔刑”ちゃんにも分からないと思う。その分からない答えを聞きたいから、ワン君に尋ねた」

「でも……そんなの僕にも分からないよ」

「だから答えは出さなくていいんだと思う」

「……え?」

「オーナーが言っていたのはそういうこと。ワン君が無理してやろうとしても、無理なものは無理だから。『何かをして欲しい』んじゃなくて、『理解して欲しい』ってことなんじゃないかな」

 

 理解する。

 彼女の境遇を。

 現状を、環境を、状況を、悲劇を、訴えを。

 彼女がどれだけ不幸であるのかを、知って欲しい。

 

「ほらよく言うでしょ? 女の子は共感して欲しいって」

「それを言うには限度があると思うけど……。でも、分かったよ」

 

 そんなカジュアルな台詞では落ち着かないだろうが、キシリーの言葉でワン・フー・ウーも少しばかり覚悟が決まった。

 アイテムボックスの片隅にあるとあるアイテム。

 曰く付きのようなソレを見て思い出す。

 自身の膨れ上がっていた傲慢さ。

 あの時捨てた代わりに得たソレがどれだけ役に立つだろうか。

 

「彼女を納得させるんじゃない。少しだけ、喧嘩をしてみようと思う」

 

 そうこれだ、とワン・フー・ウーは確信した。

 きっとこれまで彼女を気遣い、慰めた言葉は幾つもあっただろう。

 それらで“磔刑”は疲れてしまった。

 彼女に与えるべき言葉は唯一つ。

 

「不幸自慢なんか辞めちまえって言ってみるよ」

「……言い過ぎないであげてね?」

 

 言動から彼のリアルは育ちが良いだろうと予想したキシリーは、慣れない喧嘩だから歯止めが効かないかもなと思い忠告する。

 

 一方でワン・フー・ウーは悩みが晴れ、ついでに空を見上げた。

 何とも青い空だ。

 雲も……あまり大きくはないが、そこそこに流れているのが見える。

 

「……ん?」

 

 何かが変だな、そう首を傾げた。

 その違和感の正体が掴めないまま景色を見渡し――

 

「ッ!? ワン君! おかしいよ……周りが大きくなってる!」

 

 先にキシリーが気づいた。

 どんどん、どんどんと周囲の木々が大きくなっていく。

 急激な成長ではない。

 木々のビジュアルは全く変化していないのだ。

 だが、形そのままに大きくなっていき、先程までキシリーの腰まであったはずの梢がもう肩にまで差し掛かっている。

 

「……! 誰かの攻撃……? でもこれは見覚えがあるような」

 

 そう、まるで巨人の国を訪れた時のような。

 あの時は最初から木は巨大化されていたが、これは巨大化する途中を映し出されているようだ。

 木々を巨大化させる能力? 

 【巨人王】にも似たような力。

 キシリーはこの能力の正体、あるいは能力の持ち主を探そうと視線を左右に動かす。

 

 だが、その間にも周囲は大きくなっていく。

 既に木々はキシリーの背丈を超えた。

 巨木以外に周囲に何もないから比較は難しいが、その速度はあまりにも早い。

 

「違う! キシリー! 木が大きくなっているんじゃない! キシリーが……僕達が小さくなってるんだ!」

 

 ワン・フー・ウーが空を見上げながらそう叫んだ。

 流れる雲。

 それがほんの少しだけ小さくなっている。

 雲さえも大きくする能力であれば、逆だろう。

 だが、小さくする? 

 否、木々が大きく感じ、雲が小さく感じているのであれば。

 それこそは、キシリーとワン・フー・ウーが縮小していることの証明。

 

「……!」

 

 キシリーの大きさは木の半分ほど。

 ならばワン・フー・ウーは?

 最早小人の体格だ。

 

「(こんな状況で敵が現れたら……!)」

 

 ワン・フー・ウーは“磔刑”と会わなければならない。

 会って、話をして、喧嘩をしなければならない。

 

「ワン君。受け身は取ってね」

「……はい?」

 

 だからこそここは自分がどうにかするしかない。

 

「(……ッ。ステータスも下げられているけど……!)」

 

 自身のステータスを見てキシリーは僅かに動揺をみせる。

 だが、小さくされていようと、傍にいるワン・フー・ウーが更に小さいのであれば《臆せよ我が体躯》が発動される。

 

 人を投げるのは二度目。

 尤も、人生でボールすらろくに投げて来なかった少女だ。

 コントロールなど大したものではないし、人であるなら尚更だ。

 ただの力任せで投げるからこそ飛距離が延びるだけ。

 

「えいやっ」

 

 掛け声と共にワン・フー・ウーを目的地と思わしき方角へと投げる。

 どれだけの力で投げれば良いのかすら分からなかったが、多分大丈夫だろうとキシリーはオーナー譲りの呑気な考えで見送る。

 

「……こんなに小さくなっちゃった」

 

 木を見上げる。

 まだ見上げられる高さではあるが、これでは現実世界の自分とそう高さは変わらないだろう。

 

「――いやいや? おじさんの世界でこれだけ大きさを保てていること程、そう珍しいことも無いよ。ああ、誇っていい。君はとてつもなく大きいからこそ、おじさんにとっては普通の女の子だ」

 

 そう拍手をしながら木の陰から現れたのは1人の男だった。

 外見はオーナーと年齢はそう変わらないだろう。

 

「それにとっさの判断力も素晴らしい。仲間を投げたね? 確かにおじさんのガリバーはテリトリー系統だからね。その範囲から逃れられれば効果は消失する。今頃は彼も元の大きさに戻っているだろう」

 

 彼に焦りは一切見られない。

 エンブリオの名すらあっさりと明かすのは余裕の表れだろうか。

 

「親近感、あるいは同属嫌悪と言うのかな。おじさんが君に抱いている感情だ。難しい言葉かい?」

「……それくらいは知ってるよ」

「そうかそうか。最近の子供はませてるね。耳年増って言うんだっけ? 学校の教育もなっていて結構結構」

 

 先程からの軽口は時間稼ぎのつもりだろうか。

 いや、キシリーは今以上に小さくはなっていない。

 【巨人王】であること、あるいはウチデノコヅチで大きくなっていたことが幸いしたのだろうか。

 

「おしゃべりしている時間は無いよ。ワン君の無事を確認しないといけないんだから。それがオーナーに託された私の使命」

「ならばここで君の足止めこそがおじさんの使命だ――【巨人王】キシリー・キシシキ。クラン〈パッチワークメモリー〉……ロールスライス。おじさんを倒してみなよ? ポイントかなり高いぜ」

 

 第三位クランのメンバーの1人であるロールスライスは不敵に笑う。

 




クリキシはあると思います
クランメンバーの中でクリアントに向ける矢印はわけわからんものが多いですがキシリーは多分素直に好感度が高いはず
でもお母さんはクリアント紹介されたらバチクソキレそう
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