<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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◇◆

 

 

 その日、彼は思い出した。

 自分には絶対に成し遂げなければならない夢があったということを。

 現実世界では望めもしなかった光景を夢見られるかもしれない可能性を。

 

 

◇◆

 

 

 クラン〈パッチワークメモリー〉のメンバーであるロールスライスと〈パルプンテ〉のキシリー・キシシキの戦い。

 ロールスライスのエンブリオによる攻撃が周囲の人間を小さくしていた。

 不意打ちというには広範囲にわたる能力。

 恐らくはテリトリー系列が混じったタイプなのだろう。

 【巨人王】であり、更には自身のエンブリオによる巨大化の固有スキルを発動していたために、巨人でこそ無くなったがキシリーは普通の少女の大きさにまで小さくなっていた。

 対するは大人としては一般的な背丈のロールスライス。

 相手よりも巨大になることで優位に達する【巨人王】のスキルの幾つかは不発となり、更にはウチデノコヅチも【巨人王】もどちらも大きくするためのスキルは使用不可となっていた。

 打つ手がない……わけではない。

 特典武具も、そして超級職であるための高いステータス。

 そのどちらも活かせることが出来ればキシリーも勝利は見えるだろう。

 だが、ロールスライスはこう言った。

 『足止めが使命である』と。

 キシリーの打倒を目的としない。

 ならば幾つもの手札は用意されているとみていい。

 巨大化不可というのもその一つだろう。

 

 まずは攻撃しないことには始まらない。

 特殊な攻撃法を持たず、ステータス任せな戦い方をするキシリーにとっては戦いづらい環境。

 

 そんなキシリーを。

 キシリーの真下から。

 見上げる者がいた。

 

「……ドロワーズか? それもそれでいいが……クソッ……角度が足りねぇ」

 

 ロールスライスの縮小化はキシリーのみを狙ったものではない。

 TYPE:ワールドの敵味方問わない無差別攻撃である。

 故にこそ、周囲にいた人間は全て巻き込まれており、抗う術の無かった者達は全員小さくなっていた。

 彼らが取る手段は三つ。

 一つはこれが一定範囲に及んだものであると見抜き、そこから脱出を図ろうとする。

 一つは唯一小さくなっていない人間を見つけ、本体を叩こうとする。

 一つはどさくさに紛れて他に小さくなった人間を攻撃する。

 ちなみにロールスライスを狙った者は返り討ちにされた。

 

 そして、キシリーを見上げる者はその枠組みから外れたHENTAIの使者。

 レジェンダリア名物である〈YLNT倶楽部〉の下請けクランが参加していた。

 下請けであるから発言力は低く実力も〈YLNT倶楽部〉のメンバー程高くはない。

 そして、枷も彼らほど縛り上げられては無い。

 ……正確には〈YLNT倶楽部〉のオーナーの目が届かないのを良いことに、勝手に名前を借りたり、法に触れない程度に好き勝手に幼いマスターに接していたりしていた。

 

 彼もまたその一人。

 コードネーム“女児のインナーを見るのはアウトかセーフか”ミックス&ハーフ。

 どう考えてもアウト寄りであるが、一応ゲームの設定上はセーフに該当している。

 

 そんなわけでミックス&ハーフは日々アウトとセーフの垣根を探して活動していた。

 一歩間違えれば(既に間違えてはいるのだが)監獄行きであるがそこは上手いことやっていた。

 

「噂のキシリーたん……巨人だから装備を破壊しなくても覗けると思ったが……そんな甘くはないということか」

 

 傍らには彼のエンブリオであるスライムがぷるぷると揺れている。

 選択した物質のみを溶解するという特性を持つ非常に強力な能力を持っているのだが、当然ながら主人は衣服のみを選択しているため、衣服しか溶かさないスライムという不名誉な称号を得ているスライムである。

 

「……ッ」

 

 自身が小さくなってしまっているせいか、スカートが鉄壁の防御過ぎてしまっている。

 どうやっても中身が見えそうにない。

 

 いけるか?と主人がスライムをみる。

 当然ながら、無理だと首?を横に振るスライム。

 

 大きさが違い過ぎた。

 小さな穴ならあけられるかもしれないが、スカートの中を覗く程溶かすにはスライムの面積が足りない。

 

 かくなる上は、強行突破を図るしかなくなったわけだ。

 そろりそろりとキシリーに近づいていく。

 キシリーはロールスライスとの戦いに集中しており、足元の小さな人間など気にしていない……というか気づいてもいない。

 かつての妖精種が巨人を圧倒したように。

 HENTAIがキシリーに近づく。

 

 そして、足元に辿り着いた時、彼は理解したのだ。

 頭上から絶えず撃ち落とされる隕石のような脚。

 抉られ、舞う泥。

 ほんの僅かにでも気づかれてしまえばあっさりと踏み潰されてしまう恐怖。

 すっかり腰が抜け、我に返った時には一歩後ずさっていた。

 横にいる相棒も無理だ帰ろうとHENTAIの服を引っ張る。引っ張ってしまったからHENTAIの服が解けていく。

 

「……」

 

 無理だと悟ってからは早かった。

 元よりHENTAIは逃走に長けている。

 だから後ろを向いて走り出すにはそう時間がかからない。

 

 だが、HENTAIは小さくなっていた。

 当然、歩幅も狭く、行きはあんなにすぐに辿り着けたのに逃げる時はいつまでも後ろでキシリーの脚が地面を抉っている音が聞こえた。

 

「……ァ」

 

 ロールスライスとの戦闘で何かあったのだろう。

 ほんの少しキシリーが移動した。

 その移動した先にHENTAIがカサカサしていただけだ。

 ただし、Gとは違いそこまで動きは機敏で無かったし、触覚のセンサーも取りつけてはいなかった。

 気づかれることなくあっさりと、彼は退場したのであった。 

 

 

■【巨人王】キシリー・キシシキ

 

 戦いづらい、と思ったのはいつぶりだろう。

 クャントルスカと戦った時も、ヘラクレスと戦った時も、フォーカーと戦った時も。

 あるいは暴走態であった時も。

 彼女と相対した者は戦闘をしようとしていた。

 グローゾル・ルバーツ程ではないが、キシリーと戦い、勝とうとしていた。

 だからこそ全力でぶつかれたし、勝ったり負けたりしてきた。

 勝っても負けても納得のできる内容であった。

 

 だが、目の前の相手は違う。

 ロールスライスはキシリーに勝つつもりなどではなく足止め……時間稼ぎを目的として立ちはだかっていた。

 キシリーの攻撃をのらりくらりと躱し、緩いジャブで反撃する程度。

 【巨人王】はENDも高いため、攻撃自体は大して痛くはないのだが、それもまた苛立たしい材料の一つだ。

 自分を打ち負かそうとしてない、倒そうとしていない。

 なんでここにいるのだろう、と不思議に思う。

 

「そら、そら。……おぉ、怖いねぇ。小さな女の子に殴られて殺されるだなんて、この世界ではそんなことすらも当たり前になるのだろう。不条理なものだよ」

 

 余裕か、あるいは虚勢か。

 ロールスライはそんなことをのたまう。

 

「……当たらない」

 

 特典武具であるフォーカーは既に装備している。

 攻撃そのものは大雑把なキシリーにとって補助輪のような武具であるのだが、それでもロールスライスは逃げ延びる。

 それもそのはず。

 【貪瞋痴 フォーカー】は巨人専用装備。

 巨大であるからこそ射程圏内は広くなる。

 巨大であるからこそ小さな相手に当たらなくなる。

 そのために用意された装備こそがフォーカー。

 小さな少女となり、手足が小さくなり、射程が小さくなった今、キシリーの攻撃は届かない。

 ロールスライスがキシリーの手の届かない場所にいる限りはフォーカーの能力は無意味となる。

 

「これが大人のやることだよ。相手の苦手を突き、自分の得意分野で戦う。お嬢ちゃんには良い勉強になるだろう?」

 

 ロールスライスはキシリーを軽く小突く。

 キシリーにとっては幾らのダメージにならない。

 だが、彼女の手の届かないところから一方的に行われる攻撃がステータスだけでない実力の差を思い知らせる。

 

「……本当にやりにくい」

 




ミックス&ハーフ
 近接戦では真っ当に戦えば真っ当に強いタイプ
 クリアントに例の手紙を送った者の一人
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