<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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70 ガリバーの法則 前編

◇◆

 

「……以上が、二日目の俺達の動き方だ。火力の有るそこのサムライと俺くらいだ。後は……悪いがサポートに回ってくれ」

 

 パルルワール・エスプリソが去った後。

 クラン〈パッチワークメモリー〉の生存メンバーは方針を固めようとしていた。

 もはや優勝など考えてはいない。

 何よりも彼らの雇い主である存在、そして上位クランである〈ザ・ドラゴンズ〉に従属するためだけに動かなければならない。

 それはものによってはプライドを傷つけかねないものではあるし、存在意義にすら関わるものもあるだろう。

 

 “多腕” グローゾル・ルバーツ、“悪魔憑き” エウリィ・リリィ、“一人遊び” メビウス杏里。

 彼ら主力が欠けた今、作戦もあったものではない。

 できるだけポイントを他クランから奪い取り、できるだけ自分らのポイントを分散させながら死んでいく。

 ただそれだけのために動くという敗北感。

 

「ロールスライスには……その……」

「ああ、いいよ、いいよ。おじさんは慣れてるからね。そんな役回りはむしろうってつけだろうさ。損な役回り、ではないよ? その程度のって意味だ。突き抜けた存在を均して平らにしておこう。まだ【巨人王】が生き残っていたね。おじさんは彼女の足止めでもしておくさ」

 

 リーダーの悔やんだ顔にロールスライスは何でもないとばかりに手を振る。

 血気盛んな若者たちは勝負事にかけては勝った負けたと競いたがるが、ロールスライスは違う。

 勝負事など有耶無耶にしてしまい、無かったことにするのが大人のやり方だ。

 どちらかが勝てば負ければ禍根が残る。

 負ければ次は勝ちたくなるし、勝てばまた勝たねばと緊張が走る。

 引き分けだ。

 世の中は引き分けで終わってこそ全て上手くいくのだ。

 

「それに報酬は目減りこそすれど、支払いはされるんだろう? おじさんはそれさえ貰えればいいんだ。みんなだって、そうだろう?」

 

 ロールスライスの言葉に周囲の者達は渋々と頷く。

 〈パッチワークメモリー〉も、そして恐らくは〈ザ・ドラゴンズ〉のメンバーも各々が依頼主から高額な報酬やレアアイテムを受け取ることになっている。

 ロールスライスも金が必要だった。

 そのために今回の依頼を引き受け、出来たばかりの新設クラン〈パッチワークメモリー〉のメンバーとしてイベントに潜り込んだ。

 

「……ま、出来るだけ早く駆け付けては欲しいかね。おじさんだから若い子の相手をするのは疲れるんだよ」

 

 

 

 

■ロールスライス

 

「(……既に応援の要請信号は送ってはいるものの)」

 

 眼前の少女、キシリー・キシシキの拳を交わしながらロールスライスはその戦力を測る。

 

「(別におじさん1人でも倒せはしそうなんだよねぇ)」

 

 その拳に付けられたアイテムが何かしらの効力を持つ特典武具であることは容易に推測出来ている。

 殴ったら発動するものであるのだろう。

 未だ底知れない【巨人王】の補正ステータスがキシリーを巨人で無くしてもロールスライスを大きく上回るステータスへと押し上げている。

 故にこそ、彼女の攻撃を絶対に受けてはならない。

 本来は多少の被弾を覚悟してでも受けきってみせるつもりであったロールスライスは過剰なまでの回避に専念していた。

 

「(高いステータスに振り回されている……なるほど、まだ超級職には就いたばかりだ)」

 

 お世辞にも【巨人王】の力を使いこなしているとは思えない。

 超級職を持っていない、上級エンブリオ止まりのロールスライスでも互角に近い戦いを繰り広げられているのはキシリー・キシシキの未熟さもあるのだろう。

 

「(そしてなによりもおじさんのエンブリオとは相性が良すぎる)」

 

 巨大さで圧倒する【巨人王】と、ものの大小を変化させられるというキシリーのエンブリオ。

 それはロールスライスのガリバーによって封じられている。

 

 【多様文化 ガリバー】はエンブリオの中でも珍しい、4つの効果を必殺スキルに持つ。

 それぞれが『ガリバー旅行記』にちなんだルールでロールスライス以外の生物に規則を与えるか制限を課すことが出来る。

 その一つが今、キシリーを苦しめている“巨大化及び人間大の大きさを禁ずる”というルール。

 近辺にいた〈マスター〉は軒並み小人と化した。

 後は戦闘の余波で吹き飛び、倒れていくだろう。

 

 だが、恐るべきは【巨人王】キシリー・キシシキ。

 ガリバーのルールによってでも小人にはならず、外見相応の背丈に留まる。

 

「(もしくはこれが……お嬢ちゃんにとっての小さな人間というやつなのかね)」

 

 だが、このステータス差では却って人間としての大きさを保っていてくれてた方がロールスライスには都合が良かった。

 自身よりも遥かにステータスの高い存在が小さくなって殴りかかってくれば、それこそ巨人と妖精種族の戦いの再現となろう。

 キシリーの攻撃範囲も挙動もみえている。

 それさえ分かれば回避も容易い。

 

 じり貧ではあるがこのままじわじわと押し切ろう。

 ロールスライスはゆっくりと機会をうかがう。

 

 

 

 

◇◆

 

「……ほう?」

 

 キシリーの攻撃が変わる。

 殴ってばかりであった彼女だが、手に小さな槌を持った。

 

「それが噂のウチデノコヅチというやつか。確かに、お嬢ちゃんにとって最後の切り札だろうし、おじさんにとっての鬼門だ」

 

 キシリーはそのままウチデノコヅチをぶんぶんと振り回す。

 それそのものの攻撃力は分からない。

 だが、当たれば確実にロールスライスは小さくされるだろうと確信していた。

 

 ウチデノコヅチ……大きさを自在に変えられる。

 この場で大きくはなれないが、小さくすることはできる。

 ロールスライスが小さくなれば、再びキシリーの独壇場になることだろう。

 

「だが! その槌がおじさんに当たることは決してない! 悲しいことだよねぇ、キシリー・キシシキ! お嬢ちゃんは【巨人王】になれる才能はあっても、バトルセンスには欠けている。格闘も武器を持った戦闘も、向いてはいないのさ!」

 

 ロールスライスが物言わぬ岩であったならばウチデノコヅチは当たっていただろう。

 だが、動くものに当てるのは至難の業。

 とりわけロールスライスは戦闘開始時から回避に専念している。

 今更武器を変えたところで……いや、変えたからこそ余計に当たりづらい。

 

「……この!」

 

 何度かウチデノコヅチを振るうも、空を切る。

 大きさを変える条件は唯一つ、当てることだけ。

 当たりさえすれば小さくできる。

 

「(さて……おじさんのエンブリオと同様に回数制限のあるタイプとみた。ならば、無駄打ちさせるのが良策だろうね)」

 

 このまま全ての手を切らせるのが良いだろう。

 そう決めたロールスライスはウチデノコヅチを避けながら少しずつ場所を移動していく。

 

 そこはガリバーの発動圏内にあっても尚、形の変わらない木々の付近。

 ガリバーの能力は生物に及ぶのだが、植物には作用しない。

 そのため木々は大きさそのままとなり、小人と化した者にとっては巨大にみえている。

 

 ロールスライスは木の一本に狙いを定めると、その木を背後にし、キシリーを誘導していく。

 

「……ッ!」

「はっはっは。よく狙いたまえ」

 

 苛立つキシリーを揶揄うと余計にキシリーはウチデノコヅチを振り回す。

 

「……ッ! おっと」

 

 そして、ロールスライスは避けていくうちに背中に木がぶつかり動きが止まる。

 

「……! そこ!」

 

 これまで能力の使用を控えていたキシリーは、そこで初めてウチデノコヅチのスキルを発動した。

 

「《姫の三振り》!」

「――ああ、ここだ」

 

 だが、ここまでがロールスライスの策。

 必ずここでウチデノコヅチの能力を使うだろうと読んでいた彼は横薙ぎに振るわれた槌を倒れるように回避する。

 代わりにウチデノコヅチが衝突したのはロールスライスの背後にあった一本の木。

 それが《姫の三振り》によってロールスライスの足首程の背丈となった。

 

「……あっ!?」

「ウチデノコヅチ。破れたり」

 

 間違ったものを小さくさせ、焦るキシリーに、ロールスライスは再度拳を叩きこむ。

 

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