<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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72 黄金よ、届け 前編

◇◆

 

 備え付けの機関銃が回転する。

 内部からかけられた圧力により幾つもの弾丸が銃口を通過し――次の瞬間にはそれらは少女の手に収まる。

 流石に火薬により温められた弾丸は熱かったのか、少女は顔を顰めてはいるものの、宙を雨のようにばら撒かれていく弾丸が無駄になったことを思えば、軽度の火傷などダメージは微々たるものだろう。

 対し少女は手に持ったレイピアを振り回すも小さな航空機を捉えることが出来ず、また時折掠めることは出来ても頑強な機体には掠り傷すらも望めない。

 

 バーバヤードとラブアンドイーズの空中戦。

 航空機と翼を用いたドッグファイトは互いに攻めあぐねたまま経過していた。

 

「(能力はだいたい読めたが……さてどうするか)」

 

 ラブアンドイーズは武器を奪う。

 正確には、武器だけでなく装備品、あるいはアイテムボックスの中身すら奪う可能性もあるだろう。

 強奪系統、盗賊系統といった盗むことに特化したジョブのスキルにも似た能力。

 ここまでの精度であれば【強奪王】や【盗賊王】レベルなのかもしれない。

 

 【航空王】の奥義も必殺スキルもまだ試してはいない。

 だが、使ってしまってはアシスタの援護に回り切れない可能性がある。

 

「……」

「随分とぉ? さっきのが大切みたいだねぇ。お金をかけたのかな。時間をかけたのかな。特典武具だったみたいだしぃ、オンリーワンな性能って大事だよねぇ」

 

 甘ったるい声で、甘えるような声でラブアンドイーズは囁く。

 まるで恋人に語り掛けるような息遣いだ。

 これが互いに武器を向き合っていなければ勘違いする者とて現れるだろう。

 

「確かに金も時間もかかったけどな。もっと大きなものを俺はかけたんだぜ」

「へぇ? まさか愛とか言わないよねぇ」

「そのまさかだぜ! 俺はアシスタのために愛をかけている! アイツが欲しいっていうなら俺はどれだけの金も時間もかけたっていい。慣れないゲームでだって強くなれる。まさに愛の為せる業だろう?」

「一歩間違えばストーカーだよねぇ。執念じみた愛。重いよぉ? 普通の人には多すぎるよぉ?」

 

 自分のことを棚にあげながらラブアンドイーズは返す。

 否、そうされたことが無いのだから。

 そうしたことはあっても、愛を返されたことが無いのだから、それが重いのか軽いのか判定できないのだ。

 そしてラブアンドイーズはそれを重いと受け止めた。

 

「俺の最近できたダチは言ってたぜ? 愛ってのは盲目でも良いってよ」

「だから当事者は気にするなってぇ? 良い言葉だねぇ。実に都合の良い言葉だよぉ」

 

 ヴィマーナが特典武具である【雷来砲 クットーン】を構える。

 一発の威力が低く、尚且つ弾数が多量にあるクットーンの強奪は難しいだろうという考えは、

 

「あーあ、持ちきれないから落としちゃった」

 

 容易く否定される。

 

 ラブアンドイーズの掌から零れていく弾丸。

 それら全てがクットーンの弾丸であり、装填された傍からラブアンドイーズの手の中へと移送されているのだろう。

 

「……チィ」

「あはっ。怒った? イライラしてる? 駄目だよぉ。女の子のやることは全部笑顔で受けてめてあげないと」

「ああ、そうだな……お前がアシスタだったら笑っていたさ」

 

 遠距離攻撃の類は効かない。

 そう判断する他無い。

 

 ならばどうするか……。

 

「……」

 

 バーバヤードは思い出す。

 己が何をするべきか。

 何故、ラブアンドイーズと戦わなければならないかを。

 

「……そうだよな」

 

 始めから、第一選択肢は決まり切っていたのだ。

 彼女との戦いはその過程に過ぎなかった。

 

「どうしたのぉ?」

「出し惜しみは無しってことだ!」

 

 瞬間、ヴィマーラが12機に増える。

 【航空王】が奥義、《十二編隊》。

 武器の物量で押し切れないのならば、乗り手の物量で押し切るまで。

 

「うわぁ。すごぉい」

 

 11機がラブアンドイーズに迫る。

 それぞれの機関銃から弾丸が吐き出され――無い。

 

「でもぉ? 忘れたの? 昨日、みんなから一度にプレゼントしてもらったことを」

 

 ぽろぽろぽろぽろぽろ――それでもラブアンドイーズの手からは弾丸が零れおち続けていく。

 制限は無いのか。

 それとも、バーバヤードが何か見落としているのか。

 

 ぽろぽろと弾丸は落ち続けていく。

 

「……あれぇ?」

 

 ラブアンドーズは敵機の異変に気付く。

 これまでと違い、動きが単調だ。

 無駄と分かっていながらも弾丸を吐き出そうと、ラブアンドイーズに武器を奪われ続ける。

 いつか終わりがあるとでも思っているのか。

 MP切れを待っているのか。

 その前に弾丸の方が無くなるだろうとラブアンドイーズは分かっているのに。

 

「ま、いいかなぁ」

 

 ヴィマーナの分身機が一機、ラブアンドイーズを掠めていく。

 彼女にとっては分身の単調な動きであるため回避は容易。

 そして、すれ違いざまに分身機に軽く触れると、

 

「《小さい綻びみぃつけた》」

 

 スキルを一つ発動した。

 そして、分身機は――無惨にも落下していった。

 

 

 

 

◇◆

 

「(何を企んでいるのかなぁ……?)」

 

 バーバヤードが何かを企んでいることは推察できた。

 だが、それが何か分からないままラブアンドイーズはひとまず分身機を奪い取ることに専念することにした。

 

 ラブアンドイーズのエンブリオの能力は奪い取ること。

 第一スキルである《手の空く方へ》は最大20人までを対象に武器を強奪するスキルである。

 彼我のレベル差によって成功確率は上下するが、武器一つあたりとして計算されるため、武器を幾つ持っていようと関係なくスキルを発動することができる。

 そして第二スキルである《小さい綻びみぃつけた》は触れた対象のパーツを奪い取る。

 第一スキルはあくまでも対象と連結していない、武器防具、アイテムを対象とするが、こちらは違う。

 鎧であれば継ぎ目を、肉体であれば眼球を、航空機であればプロペラを。

 こちらも彼我のレベル差で成功確率は変化するが、条件次第では相手を即死させることとて可能な攻撃性の高いスキルである。

 

「(んー……? 必殺スキル? それともジョブスキル? どっちか分からないけど……色は全部同じ。当たりを引けば全部消えるのかなぁ?)」

 

 一機を落としても他がまだ飛び回っている。

 小さいから蠅のように鬱陶しくも感じつつ、ラブアンドイーズは考えを巡らせる。

 

「んふふ……レベルからして超級職。アドバンテージは十分ってわけぇ?」

 

 デンドロというゲームはステータス、ひいてはジョブレベルがものを言う。

 いくらエンブリオに恵まれていようと、ジョブが上級止まりであれば実力を発揮できない場面も多々あるだろう。

 ラブアンドイーズのエンブリオスキルもその例に漏れず、彼我のレベル差を成功確率としているため、ステータスで勝ろうと、スキルの効果で勝ろうと、レベルが伴わなければ発動しない。

 

「――残念だったねぇ。私も超級職さぁ」

 

 だがして、ラブアンドイーズもバーバヤードに劣っていない。

 総レベル658。

 【鳥姫】ラブアンドイーズは瞬く間に5つの分身機を地に落としていく。

 

 未だレベル600を超えたところにいるバーバヤードが幾ら武器を装填しようと、ラブアンドイーズの強奪成功確率は100パーセント。

 とある事情によって【鳥姫】のスキルは奥義含め一切使用できないが、彼女にとってはそれなりのステータスと、何よりもレベル上限突破という恩恵さえあればジョブそのものに求めるものは無い。

 

「《小さい綻びみぃつけた》」

「《小さい綻びみぃつけた》」

「《小さい綻びみぃつけた》」

 

 真っすぐに、何のフェイントも無く飛び込んでくる分身機達をいなし、プロペラや、翼をもぎ取る。

 そうして、視界に映る11機全てを落とし終えた彼女は

 

「……?」

 

 首を傾げていた。

 

「あれ? おかしいなぁ。確かに全部壊したはずなのに。どうしてまだ、そこにいるの」

 

 視界の下。

 木々の中から弾丸が吐き出される。

 弾丸は傾げた首の真横を過ぎ去っていき、空へと消えていく。

 

「スキルで鈍色になって増えても無駄だったはずなんじゃ……?」

「はっはっは! 黄金じゃ目立っちまうからなぁ。少しばかり時間稼ぎに付き合ってもらったぜ」

 

 《十二編隊》発動と同時に木々の中に姿を潜めていたバーバヤードは笑いながら、必殺スキルを発動した。

 

「《我、黄金の乗り手にして、それはまさしく遊戯場なり》」

 

 黄金の機体は黄金の光に包まれる。

 30秒間の無敵タイム。

 これでもう誰にも、何も奪わせない。

 




【鳥姫】
 とある事情によりスキル無しの、レベルアップによるステータス補正のみの超級職
 ラブアンドイーズのためだけにある超級職である
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