<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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34話 2つの槌

■【魔法少女ω】クリアント

 

 現在のクリアントのステータスであれば広大な森を抜けて山頂へたどり着くまで1時間とかからないだろう。

 山のふもとであれば20分程だろうか。

 全力で、駆け抜けることが出来ればその程度の時間で辿り着けてしまう。

 

「……ワンプ。やはりテリトリー型になってくれ」

「敵ですか?」

「ああ……魔法少女のお出ましだ」

 

 ワンプが消え、クリアントはマッドラップスを装備する。

 

「良かったですね先輩。私がテリトリーになっても先輩が魔法少女の格好をしなくて」

「ああ、本当にな」

 

 あの衣装はそのままワンプが持っているようだ。

 コンパクトだけ、クリアントの腰に無骨な鎖で下がっている。

 

「……あ? なんでこんなとこに男がいやがるんだ?」

 

 森の奥から現れたのは、ウエディングドレスにも似た純白のドレスを纏う少女であった。

 長い金の髪に被せたヴェールの下からは鋭い眼光が覗く。

 そして、手に持つのはその衣装にそぐわない、釘打ちの金属バットであった。

 

「それはな。俺も魔法少女だからだ」

「は? 男だろてめえは! 魔法少女ってのは少女だからなれるんだぞ!」

 

 荒々しい口調。

 手に持つ武器。

 それらが少女の清楚さを台無しにしている。

 

「【魔法少女ω】クリアントだ」

「なに魔法少女を名乗ってんだ! ……いや、オメガだと? ああ、そうか」

 

 少女からしてみれば怒りは尤もだろう。

 【魔法☆少女】へと至る戦い。

 大切な儀式を邪魔されているのだから。

 

「数合わせか……なるほどな。誰だか知らねえが、いくらなんでも男を巻き込むことはねえだろうに」

 

 クリアントがΩであることを知ると、少女の怒りは収まる。

 それは、仕方ないことを知っているかのようだ。

 

「【魔法少女ζ】ミミラル・ルートだ」

「名乗ってくれるのか」

「ああ。喧嘩の前にゃ名乗りが必要だってな」

「ふむ。戦ってもくれるのか」

「っ足り前だろ! むしろ見逃されると思うなよ! 男なんて異物はいの一番に殺されて、後はアタシら本物の魔法少女だけで殺し合うぜ」

 

 ともあれ、好戦的な魔法少女。

 能力を測るならば都合は良い。

 

「さて。一回分のストック程度なら使っても良いか。他の魔法少女というのがどんな戦い方をしているのか。それを教えてもらおう」

 

 【魔法少女ζ】ミミラル・ルート。

 この森の中で最もクリアントにとって相性の悪い魔法少女。

 可愛らしさとはかけ離れた両名が、しかし片方は見た目だけは優美な魔法少女と、この森唯一の男魔法少女(少年?)が、文字通り雌雄を決しようとしていた。

 

 

 

 

■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ

 

「……なるほどね。確かにそこにクリアントが行ってしまうのは良くないのだろう」

「間違いなく、この森の戦いが荒れるね!」

 

 バーンマウントマウンテンの山頂に棲み処をおくモンスターの正体を聞いて、フィリップは顔を顰める。

 だが、それと対象にクャントルスカは笑顔だ。

 

「よく考えれば、普通の戦いなんてつまらないもん! 刺激的な毎日を望むのが魔法少女だもんね!」

「平和な生活を守るのが魔法少女じゃないのかな……? まあ、いい。きっとクリアントは山頂を目指す。そして、辿り着くだろう」

「問題はその後だね。何が起こるか分からないけど、何かは起こる」

「最低でクリアントの死。最悪は……なんだろうね」

「魔法少女数名は巻き込まれるかもしれないね」

 

 フィリップは想像する。

 もし、クャントルスカの言うとおりの存在がいるのだとしたら、それくらいはするだろう。

 可能とするだけの力を持っている。

 

「だけど、フィリップ君が山頂を目指すことは誰も望んでないんだよね。だって、戦いが成り立たなくなるから」

「立ちはだかる魔法少女がいるということだね」

 

 クリアントの直接的な戦闘力は低い。

 エンブリオが生存特化であるため、戦闘はジョブによるステータス補正が大きく関わる。

 それも、全員が魔法少女であるという前提であるため、ジョブによる差は生まれにくい。

 むしろ成りたての魔法少女のレベルであれば下に差が開いているだろう。

 

 となれば、クリアントのメイン武装はマッドラップスだけとなる。

 マッドラップス……毒の鎧。果たして、それだけでこの森を生き残ることが出来るのだろうか。

 

「24人の魔法少女……私達3人を除いて21人。みんな強くて可愛いんだよ」

「可愛いはともかく強い、ね」

 

 クャントルスカの身体能力を思い出す。

 軽く100mを跳躍する脚力。

 それだけでも驚異的であるが、それと同等の魔法少女が21人。

 

「私はあまり強くなったように感じられないのだけど」

「フィリップちゃんは魔法特化の魔法少女だからね! 私と違って、固有能力に秀でたタイプなんだ」

「ふむ……確かにこの固有能力は私と相性が良さそうだ」

 

 フィリップのエンブリオは海中に特化している。

 だが、特化しているというだけで、地上で全く使うことが出来ないわけではない。

 【魔法少女ψ】の固有能力はノーチラス号と相性が良さそうだ。

 この分なら、他の魔法少女達との戦いで後れを取ることは無いだろう。

 

「じゃあ……戦う準備は出来たね?」

「ああ。先ほどから私の持つセンサーにも引っかかっていた。……2人だね」

「へえー。フィリップちゃん、感知にも長けているんだ」

 

 感心するクャントルスカ。

 彼女は武器を持つことなく敵に備える。

 

「出てきて!」

 

 クャントルスカの声に反応するように、2人の魔法少女が現れた。

 

「おう、ウチに気づくとはやるのぉ」

「可愛い? 大きい? 小さい? ……強い?」

 

 1人は赤く、煤汚れた衣装の魔法少女。

 煤汚れ1つ1つが計算されたかのような文様を浮き上がらせている。

 汚い、とは思えない。それが正しいのだと、思ってしまう衣装であった。

 

 そして次に現れたのは、2mの背丈を持つ魔法少女であった。

 だが、不思議と背が高いという印象は無いのだ。

 全体的に、サイズが大きいという印象だ。

 まるで少女をそのまま大きくしたかのような……。

 

 赤い魔法少女は巨大な槌を、2mの魔法少女は小さな槌をそれぞれ手に持っていた。

 

「ここは1人ずつ戦うってことでいいかな?」

「ああ。無論だとも」

 

 フィリップとしてはクャントルスカの力も見ておきたい。

 だが、未だ自身の力すら測れていない状態で連携は取れないだろうと判断した。

 

「ウチは火を司る魔法少女……【魔法少女φ】らるく。なんぞ青の魔法少女がおるな。キシリー、ウチの相手はあっちでいいか?」

「良いよ……私もこっちの子の方がいい……可愛いから」

 

 赤の魔法少女――【魔法少女φ】らるくがフィリップの前に立つ。

 

「【魔法少女θ】キシリー・キシシキ……可愛い魔法少女だね。小さくて可愛い……」

「ありがとうね! 私の相手は貴方! なら、向こうで戦おうか」

「あら、私達2人で相手をするのね。クャントルスカ、楽しみだわ」

 

 2mの魔法少女――【魔法少女θ】キシリー・キシシキとクャントルスカはその場を離れていく。

 

「悪いけどまだ魔法少女には成りたてでね。力試しにさせてもらうよ」

「ははは。正直なのは嫌いじゃないぞ。ウチは正義の魔法少女。正しさこそが魔法少女の本懐よ」

 

 赤と青。

 対照的な色の魔法少女2人の戦いが始まった。

 

 

 

 

■【魔法少女α】クャントルスカ

 

「よろしくね!」

「……本当に可愛いなぁ」

 

 キシリーは羨ましそうな目でクャントルスカを見る。

 

「うーん……貴方も可愛くなれる要素が……」

 

 クャントルスカの衣装を見る。

 2mの身長に合わせた衣装は大きい。

 薄桃色の生地の上にごてごてとした強い蛍光色のバッジやワッペンなどが付けられている。

 

「うん、もったいないね!」

「クャントルスカ、おしゃべりはそこまでにしたらどうかしら。どうもこの魔法少女、おかしな点が多いわ。倒すなら早いうちに限る」

 

 ちぐはぐとした印象を受ける魔法少女キシリー。

 確かに、何を隠しているのか分からない。

 何かをする前に、倒してしまうのが一番なのだろう。

 

「ううん! この子だって好きになれるかもしれない! だったら、全部見せてもらおうよ!」

「やっぱり貴方はそうなのね。いいわ。付き合ってあげる」

「改めまして、【魔法少女α】クャントルスカ! 始まりの魔法少女です!」

 

 こうして、魔法少女の中でも異端な魔法少女と、誰よりも魔法少女を愛する魔法少女の戦いが始まった。

 

 森の中で始まった3つの戦い。

 しかし、それらが全てではない。

 戦いは始まったばかり。

 最初に死ぬのは、やはり1人の男からであった。

 

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