<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【鳥姫】ラブアンドイーズ
自分にないものが欲しかった。
誰かの手の中にあるものがキラキラと輝いてみえた。
私の手の中にも似たようなものがあるのは分かっていた。
決して、自分が可哀そうな存在だとか、劣っているだとかは考えたことは無い。
だけど、でも、欲しいものは仕方なかった。
私が持っているものと全く同じではないのだから。
別種の輝きを放っているのだから。
だから、たとえ、ソレが他の誰かのものだとしても。
大切に扱われた宝物だとしても……いや、だからこそ。
奪い取ってでも私のものにしたかった。
「なにそれ……すごく欲しいんだけどぉ」
黄金に光る黄金の機体。
これまでにみた何よりも輝いている。
「欲しい……ッ! 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい……ッ!!」
機関銃が回転を始める。
きっとあそこから私にとって致命打と成る弾丸が幾つも生まれ出るのだろう。
だが、もうそれはどうでもいい。
そんな弾丸はもう手に入れた。
手に入れたから、欲しくは無くなった。
よくみればヘリコプターの中に弓のようなものがみえる。
見覚えがあるような気がした。
さっき手に取って、どうでもよくなったから捨てた気がする。
ああ、なるほど……姿を眩ませていたのは弓を取りに行ったのか。
あの弓は確かあの弓使いの女のもの……バーバヤードのアイテムボックスには入れられないから、ああして機体の中に押し込めたのだろう。
どうりで鈍色の機体は動きが悪かったはずだ。
こちらをまともに見ていないのだから。
ずっとあの弓を探しながら、片手間にこちらの相手をしていたのだろう。
「それ、私にちょうだい! くれるよねぇぇぇぇぇぇぇ」
そんなものよりも、あの黄金のヘリコプター。
アレを手に入れたい。
手に取りたい。眺めたい。
私のものだって、自慢したい。
「《
これが私の必殺スキル。
私が欲しいもの、何でも手に入れられるスキルだ。
条件はやはり彼我のレベル差。
だが、それさえクリアしてしまえば、触れていなくとも相手の肉体だろうが何だろうが、視界に入っているものは手の中に収めることが出来る。
「じっくりと眺めてあげるからねぇ。エンブリオだから時間が経てば消えちゃうけど、その前にみんなに見せびらかして――あれ?」
必殺スキルが発動し私の手の中には――何も無かった。
「え……あれ……うそ、私の黄金……ヘリコプター……」
「――残念ながらよぉ、俺の必殺スキルはよぉ、他の誰からも攻撃もスキルの影響も受けない無敵化だ。お前の愛無き感情は受け止めてやれねえなぁ」
じっくりと、狙いを定めながら、黄金はこちらへ機関銃の銃口を向ける。
「愛……無き……?」
「さっきからお前は手に入れたものを簡単に捨て過ぎだ。欲しい様に見せかけて、手に入れたものに執着しちゃいねぇ。駄々っ子が欲しい欲しいと喚くのと一緒だな」
「ちが……」
そうだ。
機体そのものに効果が無くても、あの機体の弾丸そのものにならば――
だが、幾ら私の手の中から弾丸が零れようと機関銃の回転が止まることは無かった。
まるで彼の言う愛のように。
無尽蔵に、ソレは溢れ出る。
「悪いな。今の俺にリロードは必要ねえのさ」
私の身体に幾つもの穴が空けられていく。
私が捨て去ったもの。
私が興味を失くしたものが、復讐を遂げるかのように。
◇◆
「……ほぼ全て使っちまったな」
苦々し気にバーバヤードは呟く。
機内でどうにか確保してあるアシスタの弓を抱えながら。
「しかしこの弓……状態が不変って特性だからか、多少折り曲げても元に戻るってのは知らなかったぜ。ヴィマーナに引っ掛けながら戦う覚悟もしていたから、それは不幸中の幸いってやつだな」
必殺スキルも解け、さてアシスタの下へ戻ろうかと機体を旋回させる。
だが、次の瞬間、バーバヤードの肉体は空中に放り出された。
「――ッ!?」
必死に空へと手を伸ばし藻掻くが、掴むことはできない。
ヴィマーナは何処かへと……否、生き延びたラブアンドイーズの手元へと消えていた。
「……無駄と分かっていながら弾丸を奪い続けたか」
無限に装填し続ける必殺スキル発動中も弾丸を奪い続けたおかげだろうか。
それでも一度にヴィマーナに一度に装填できる弾数には限りは在る。
故にこそ、奪い続けたからこそ、被弾数は減り、際のところで生き延びたのだろう。
「はぁっ……はぁっ……これで、この黄金は私のものぉぉぉ」
「――いいや。違うぜ。そいつは俺の手元から離れても俺のヴィマーナだ。操縦権が残されているみたいだからな」
落下しながらもバーバヤードは懐から長方形の機械を取り出す。
ヴィマーナは1m程のラジコンヘリとは、誰かが言ったものだ。
それはあながち間違いではない。
なにせ、ヴィマーナには操縦リモコンというものが存在しているのだから。
「ヴィマーナ……ちと痛いだろうが我慢してくれよ」
ラブアンドイーズの手元にあるヴィマーナが新たな武装を展開していく。
「……ッ! この期に及んで! 良いよぉ、それも私が貰って――」
「ああ。やるぜ。だがよぉ、こればっかりはお前に、俺が、くれてやったものだ。捨てるなんて無粋な真似はしてくれんなよ」
バーバヤードの持つもう一つの特典武具【皆退去 オールナッシング】。
小さな核ミサイル型の武具であるが、バーバヤードはあえて発射しない。
オールナッシングの起爆条件は対象にぶつかった衝撃ともう一つ、カウントダウン式。
きっかり3秒後にタイマーをセットされたオールナッシングはラブアンドイーズの手の中に渡ったと同時に起爆した。
火属性系統超級職と風属性超級職の奥義が混合した威力を持つ爆弾は今度こそラブアンドイーズのHPを削り切る。
「……ッ!」
そして爆風をもろに受けた小さな体躯もまた風に押し流され、着地地点と捉えていた巨木から大きく外される。
「(まずいな……)」
ヴィマーナはラブアンドイーズと共に砕け散り、バーバヤードの紋章の中へと戻る。
すぐに機体を出せる状態ではない。
生身の肉体でこのまま落下すれば即死は免れないだろう。
「……せめてこいつだけは守り切らねえとなぁ」
アシスタの弓を抱き寄せると、自身の肉体がクッションとなるように弓の位置を調整する。
「……悪いなぁ、アシスタ。また今度何かプレゼントするからよぉ。こいつは自分の手で拾って――」
「――い、嫌だ!」
落下に備え、より弓をつよく抱き寄せたバーバヤードは落下直前に、柔らかなものに包まれた。
「……! アシスタ……」
「ば、バーバヤード……約束、したんだから。これはアンタからまたプレゼントしてくれるって……。アンタからそれを……破ってどうするのよ」
「は、はは……そうだよなぁ。そうだった、なぁ。悪いな、アシスタ」
アシスタの全身はボロボロであった。
翼ある少女達に囲まれたせいだ。
そのまま回復もせずにバーバヤードを追ってきたのだろう。
「恰好、付かねえよなぁ。もう少しマシな形で渡すつもりだったんだが」
「馬鹿……今更、恰好とか気にしてどうすんの」
バーバヤードはアシスタの手から降りると、改めて彼女へと弓を差し出す。
「ほら。俺からのプレゼントだ。受け取ってくれるか」
「うん……今度こそ無くさないように大事にするね」
小さく大きな男と、大きく小さな女は戦場で手を取り見つめ合う。
ちなみに交際はまだゼロ日である。
ほんの少しだけ伸展があった……はずだ。
100日後くらいには付き合うんじゃないっすかね
すでに1000日は経ってるけど