<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■とある神の遺産について
全身骸骨鎧。
翁の面。
水晶。
目玉の形をしたアクセサリー。
頭蓋骨の兜。
それらこそは【黒死夢葬 グランザルム】との戦いの末に手に入れたアイテム。
「……こんなものが」
ワン・フー・ウーが気づいたのはグランザルム討伐から数日後。
死亡ペナルティから明け、装備品は何が残されているかアイテムボックス内を整理している時に、それらが目に入った。
装備品……とは分類されているものの、それらは実質使い切りのアイテムに近い性質。
一度だけ、望んだステータスを強化する仕様のようだ。
「姐姐も手に入れてた?」
彼女の加入しているクランに誘われ、現在の拠点へと目指し移動している最中、ふと彼女に尋ねてみる。
もし手に入れているのだとすれば、どんな使い道が良いだろうかと話のネタにするつもりだった。
「……妹妹ですよ?」
「……妹妹、ちゃんは、このグランザルムのアイテムは手に入ってる?」
睨まれ、訂正する。
「いえ……私は特典武具のみのようですね。効果も全く違うみたいです。特典武具の劣化版……とも少し違うのでしょう」
「僕だけ……ってことか」
アイテムの内訳からして、ワン・フー・ウーが直接倒したグランザルムの分体のようだ。
妹妹も大剣を破壊していたが彼女は手に入れていない。
自分だけ何故5つも……と思ったが、
「ああ。ラショウモンか」
倒したモンスターの装備化。
これしか考えられなかった。
「恐らくはそれでしょう。5つ全てなのは運が良かったのか、確定だったのか。ともあれ、頑張ったご褒美と捉えてもいいのではないでしょうか。使い切り、というのならば使い方も限られるでしょうけど」
単なる強化アイテムとしての運用にはなるだろう。
ならばどこで使うか……それが問題だ。
「とりあえずは忘れておくのが良いですね。いざという時に、強化アイテムがあると分かっていると緊張感が薄れますから。本当にどうしようもなくなったら……ワン君が絶対に勝たないといけない場面になったら改めて考えてみてください」
考える。
使うべきか否か。
絶対に勝たなければならない、その時にすら、使わない選択肢を取るかもしれないと。
「……うん」
きっと使えば容易に勝てるようになるのだろう。
だからこそ使えない。
使えばきっと、自分は弱くなると知っているから。
◇◆
ならばこそ、ここで使う時だ。
今こそ、神の遺産を切るべきだ。
遺産は語り掛ける。
甘い言葉を。
簡単に強くなれる方法を提示してくる。
「――要らない。僕はお前達には力を求めない。それは、誰かからは受け取ってはいけないものだから。僕は僕自身で強くなる。強くなる道を探す!」
返事は決まっていた。
願いは、願わなかった。
求めるものは強くなるための時間。
“磔刑”と渡り合うために必要な時間。
『――良い』
『――ならばこそ』
『――我らはお前に力は与えぬ』
『――無様に幾度も転がるがいい』
『――転がっても尚、立ち上がれるからこそ、人は願いを叶えられるのだから』
彼らは砕けていく。
叶えたかったものを叶えられず。
願いを願わられず。
それでも満足げに、最後の仕事を果たしていく。
「待たせたな“磔刑”。こっちの準備は終わった。そっちも必殺スキルを発動していいぞ」
「……微塵も強くはなっていませんね。どころか、装備を失った貴方は弱くなっている。それでどうやって私に勝つつもりですか」
「……そうだな。僕は弱い。昨日も言ったな。勝って強くなると。まだ弱いままの僕は……地獄で泣いていた頃の僕は、きっとお前が今見ている僕と同じだったんだろう。強い奴に無謀に挑みに行こうとし、そして負ける。負け続ける。そしてお前はいつしか諦めたんだ」
グランザルムの遺産はワン・フー・ウーのステータスを強化せずに消えていった。
使い切りの強化アイテムは役割を果たしていない。
“磔刑”は彼を訝し気に見る。
「笑おうぜ。自暴自棄になるんじゃなくて、地獄でも笑えるくらいに強くなろう」
環境は変わらない。
今の世界が地獄ならば、きっと地獄はいつまでも纏わりついてくるだろう。
だったら、地獄でも笑い続けるしかない。
「来いよ磔刑。お前の苦しみだけは背負ってやれないが、地獄で一緒に笑ってやる」
「……《十二の枷》」
瞬間、“磔刑”のステータスが大きく跳ね上がる。
1000~2000程度でしか無かったステータスが10倍以上に。
昨日の倍率からすると低いが、それでも2000を平均とするワン・フー・ウーでは本来太刀打ちできない数値だ。
そして、ワン・フー・ウーに特別なスキルは無い。
装備次第では炎も風も水も、様々なモンスターの力を操れるが、装備品が無ければどうしようもない。
「力の流れは読めている!」
“磔刑”の肉体に触れた瞬間、“磔刑”の視界が回転する。
昨日も見せられた彼の技術。
驚くべき技ではある。
だが、そこ止まりだ。
「投げられると分かっている。ならば対策できないはずがない」
投げられ、背を地に付けた瞬間に、ワン・フー・ウーの肉体に手を伸ばす。
強化された肉体はあっさりと彼の身体を貫く。
「……こふっ」
「あっけないものですね。弱くて、結局笑っていないじゃないですか」
HPを見ずとも分かる。
致命傷だ。
複雑な状態異常以前に心臓を貫いたため、すぐに絶命するだろう。
やがて彼の肉体は光の塵に――
「いいや! ここからだ。僕は笑うさ。お前に勝って、そして次に会った時、一緒に笑うと決めた!」
――ならない。
傷は塞がる。
致命傷は無かったことになる。
「……これは」
「さっきのアイテムの効果だ。本当はステータスの強化に使うものだけどな……。それを蘇生アイテム代わりにした。神ってのは案外、融通が利くんだな」
ステータス強化代わりの5回だけの蘇生アイテム。
その他は何の助けにもなってくれない。
5回、“磔刑”に嬲り殺しにされるための蘇生。
「次だ! 行くぞ!」
「……チッ」
態勢を立て直し、ワン・フー・ウーは再度“磔刑”の肉体に触れる。
それ自体を避けることは何故か出来なかった。
そして、触れられたら最後、投げられることを回避するだけの技は“磔刑”には無かった。
投げられ、地に背を打ち、そしてワン・フー・ウーへと手を伸ばす。
「(繰り返しだ。……弱いままじゃねえか)」
何も変わっていない。
期待を裏切られた気持ちで“磔刑”は苛立つ。
「……ッ!」
だが、彼女の手は空を切る。
ワン・フー・ウーは身を翻し彼女の抜き手を避けた。
「弱い力でも……これならどうだ!」
体重をかけての肘突き。
ワン・フー・ウーの全体重が“磔刑”の腹部にのしかかる。
「……これで抑えられると思ったか!」
それでもステータスの差は覆らない。
“磔刑”の手がワン・フー・ウーの頭部にかかると、そのままトマトでも潰すかのように、握った。
「……」
返り血をそのままに“磔刑”は眼前で行われる蘇生を見る。
逆再生をするかのようにワン・フー・ウーの肉体は形を取り戻していく。
その間は攻撃を無効化するようで何をしても傷付けられない。
「ああ、そうかよ。分かったぜ……」
これがワン・フー・ウーとしても賭けであるのは理解出来た。
数度しかない蘇生。
その間に“磔刑”を倒すために強くなるのだろう。
ステータスではない、彼自身の根底が。
「貴方が……お前が俺にもしも勝てたってんなら認めてやるよ。弱いなりに出来ることがあるってことをな」
「一手、辿り着いた。次は二手……。その時は認めるだけじゃない。僕がお前の笑顔をみてやる」
この世界もまた、地獄はあるのかもしれない。
かつてのワン・フー・ウーもまた英雄を失い地獄を彷徨った。
それでも、彼はまた笑顔を取り戻す。
英雄は、彼を笑わせてくれた。
ならば次は。
自分の中にも英雄はいる。
地獄から救い出せるだけの力はないのかもしれない。
だけど、共に笑えるだけの、その程度の力は、きっと有るだろう。
神の遺産
グランザルムの分体の落とし物。
普通に使えば【リング・オブ・ゴッドフォース】以上の強化を望める