<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【魔法少女β】プシュケー・アーチ
「(……それにしても。こういう策は良く思いつきますわね)」
二日間あるうちの後半がメインだとしても、前半での活躍が影響されるだろうとは誰もが思う。
加えてポイント争奪戦であるならば、やはり早いもの勝ち。
如何に他者を蹴落とせるか、他参加者を減らせるか躍起になる。
〈パルプンテ〉面々も最初は攻撃チームに属したメンバーが積極的に他クランメンバーを狩る予定であった。
だが、クリアントの提案により、初日は様子をみることになる。
その理由は、あまりにも初日と二日目でアンバランスであるから。
どれだけ強くても、どれだけ個で優れていようとも。
初日に多量のポイントを得てしまえば、その時点で他チームは二日目で取り返しがつかなくなる。
ポイントの上限が決まっているのだ。
二日目でポイント総数の半分も残っていなければ、その時点で逆転は不可能に近い。
だからこそ、クリアントは二日目で追加ルールがあるはずだと予想した。
二日目が消化試合で終わるはずはないだろうと。
「(本人は当たったことこそが予想外みたいな顔はしていましたけど。まさか思い付きの適当なことを言っていただけ、なんてことありませんわよね……?)」
絶対的とまではいかないまでもある程度の地位と権限が与えられるクランオーナーを任せられたクリアントもそこまで無責任ではないとプシュケーは己が考えを恥じる。
それは流石にクリアントを軽んじすぎていると。
「止まれぇぇぇぇ――ぁぇ?」
自身の肉体で壁を作ろうとした〈マスター〉をスウェーコンで貫き伏せ、
「我がエンブリオは数の利を律するもの! 1人には2人! 2人には4人! 千人には――」
「――村全てですわね」
プシュケーの姿を認めると同時に、2人へと分身した〈マスター〉に対し即座に紋章からワルキューレの1人を呼び出し、それぞれで倒す。
「……。そこの御仁。プシュケー・アーチとお見受けする。我が名は――」
「ああ、もう! 少しも減りませんわね」
金髪の侍然とした男が刀を握り何やらもごもごと言っていたため走り抜ける間に四肢、心臓部を抉る。
瞬く間に立ち塞がっていた数人の〈マスター〉を倒しながらプシュケーは駆ける。
「(……今のところランキングは上位に食い込み始めている。キシリーさん、それにクリアントさんが多量のポイントを得たようですわね。反して……〈御邪魔女連合〉。こちらのクランは完全に停滞した)」
他クランがじわじわとポイントを伸ばしているのに対し、幾つかのクランはポイント数が変わらないままだ。
隠れているのか、それともポイントを増やすどころではないのか。
クリアントとキシリーの入手ポイントの数から、プシュケーは後者であると推測していた。
早速上位クランを一つ潰すとは。
クリアントとキシリー。この組み合わせはやはり強力である。
だが、その代償も存在していた。
それは、他クランの動きも活発となり、こちらにも犠牲が出ているということ。
クランメンバーのうち初日で妹妹、フィリップ、パリドーネ、バウム、レシーブが倒れている。
二日目が始まり数時間……半日にも満たない時間で更にキシリーが倒れた。
ポイントを入手後であるため消耗したところを狙われたのか。
ワンに関しては死亡でなくログアウト状態であるが、そちらは成し遂げたのだろうと思うことにした。
“磔刑”について思い悩んでいたようだが、それもまた輝かしい青春の一ページだ。
きっと、彼なりに解決してみせたことだろう。
「残るは私、クリアントさん、クャントルスカさん、ジャミラさん、夢味さん、イテカさん、アシスタさん、バーバヤードさんですわね」
メンバーだけみれば、まだ戦力としては十分。
だが、数でみれば既に半分を割っていた。
他のクランも完全に戦力を温存出来てはいないだろう。
ほとんどが切り札を切っている状態であると信じたい。
だからこそ、だ。
眼前にそびえるアレが温存していた切り札であるとは信じたくなかった。
プシュケー・アーチをしてあの怪物が見た目通りの怪物ではなく、でくのぼうであると思いたかったのだ。
「……なんですのあれは。一匹一匹が古代伝説級……その上位。竜王クラスが七匹とか冗談にも過ぎますわよ」
次々と〈マスター〉を呑み込んでいく巨大な竜。
それが七匹。
全長20m程はあるだろう。
炎を吐き、土塊を吐き、水を吐き――属性は多様のようだ。
遠目であるがどこかの〈マスター〉による必殺スキルが使われたのだろう。
魔術系統超級職の奥義に匹敵するエフェクトが走る。
恐らく威力も同等かそれ以上……だが、竜の鱗に僅かに攻撃の跡が残るだけ。
傷付けられた竜はその攻撃に苛立ったのか身震いをする。
それだけで離れた位置にいるプシュケーの足元も揺れるような錯覚に陥った。
付近にいた〈マスター〉はそれで済まなかったはずだ。
このイベントにおける最も過酷な試練がこれなのだろう。
そう、プシュケーは覚悟を決めながら竜達の下へと走っていく。
◇◆
「――ということで、あの竜達に他クランの〈マスター〉を食べられ続けるとこちらの敗北も必至。すぐさま討伐に行こうかと」
『……う、うん。そうだね。私もすぐに……行くよ』
爆発音、あるいは風を切るような音に紛れて聞こえるクャントルスカの声。
彼女の声音から、それが実力者を相手にしていることが伺える。
「……そちらも激戦ですのね」
『大丈夫。すぐに好きになれるよ』
ということはまだ、なのか。
文字通りの必殺スキルである《貴方を愛してもいいのかしら》はまだ使えないらしい。
『フラッグは?』
「そちらはイテカさんが。あの怪物を相手にするには特典武具も必殺スキルも使ってしまった自分は足手纏いになるからと」
『そんなこともないと思うけど』
「ええ。少しは乗り越えたように見えましたけど、それでもあの子は消極的……。勝てる相手には勝てますけれど、勝てそうな相手には挑まない。もう少し矯正が必要ですわね」
『あはは……その辺りはプシュケーちゃんに任せるよ。……私もすぐに追いつく。もしもの時は――始まりの特典武具を使ってでも』
始まりの特典武具。
それはクャントルスカが滅多に本来の用途として使わないもの。
戦闘に持ち出すことこそ、彼女の覚悟の表れ。
「……分かりましたわ。正直なところ、加勢はあるに越したことはありませんもの。始まりを使うかは、お任せしますわ」
直後、通話が切れた。
さて、とプシュケーは改めてランキングを見直す。
そこでは1位のクランである〈ザ・ドラゴンズ〉が更にポイントを増やしている。
クラン名と目の前の竜。
結びつかないわけがない。
「……私もほとほと竜に縁がありますのね」
ドラゲイル、ドラグロット……どちらも強敵であり苦い思い出もある。
苦戦もしたし、敗北も強いられた。
その二匹に並び立つ威圧感が七匹の竜いずれにもあった。
「――ジャミラさん」
「なにかしら」
名を呼ぶと頭上から返答がある。
同時に、背後に幾つかの落下音が聞こえる。
ジャミラは地上に降りてこない。
ウリエルの転移能力の応用で空を駆けているのだろう。
「周囲の〈マスター〉はこれで最後よ」
「そう……ちなみにアレを貴女の力でどうにかできるかしら?」
過去にジャミラはドラグロットすらも空から落としている。
「残念ながら効果は薄いと思うわ。竜って飛行できるのが多いから……墜落死は期待できないわね」
「ですわよね。なら、散らばった仲間集めをお願いできるかしら。バーバヤードさんを見つけられれば彼の力も借りて」
「! ええ、任せてちょうだい」
ジャミラの気配も頭上から消えた。
これで合流は容易い……とはいえない。
何故ならばそのすぐ後に
「……ッ。一足遅かったですわね」
バーバヤードとアシスタもまたログアウト状態となったからだ。
死亡によるペナルティ。
誰かに倒されたことは明白。
「まずは先行しますわ。クリアントさん達が来る前に竜の正体くらいは暴かないと」
ボス戦入ります