<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【魔法少女β】プシュケー・アーチ
「ワルキューレ達よ!」
七匹の竜の前にそれぞれワルキューレ達が並び立つ。
竜と半神半人の戦乙女。
まるで神話の戦いのようであり、プシュケーも当事者で無ければ観戦を楽しんでいただろう。
「(圧は竜王に引けを取りませんわね)」
七匹は個体差こそあれど、それぞれが竜王クラスのステータスを有している。
一匹であれば勝利はこちら側に傾いていただろうが、七匹ともなれば、拮抗した戦いが出来るかも危うい。
それに、〈超級〉であるプシュケーであるから分かる。
相手もまた、自身と同様であると。
「私のエンブリオの銘はワルキューレ。そちらもご紹介していただけるかしら」
相手は子供だ。
だからプシュケーは少しでも情報を得るため対話を選ぶ。
竜達とワルキューレは一色触発といったところであるが、それぞれの主の号令を待っている。
まだ戦いは始まらない。
否、舌戦から始まる。
「うん? 名前が分からない……ああ、そうか。君たちはまだ未発見なんだね」
「……?」
「図鑑に登録していなくても出会えば名前だけは分かるものだけど、君は違うんだ? 別にいいけどね。僕のエンブリオはヤマタノオロチ。【八首荒竜 ヤマタノオロチ】だ。この強そうなドラゴン全部が僕のエンブリオ! レベルは7! 最終進化まで持っていくの大変だったんだからね」
すらすらと、かなり教えてくれた。
レベルが7というのは第七形態ということだろう。
やはり〈超級〉……だが、それだけではないだろう。
幾ら〈超級〉の出力といえど、竜王クラス七匹を用意するのは難しいはずだ。
テイム、あるいは特典武具の召喚……違う。
間違いなく、超級職の支援を受けての強さであろう。
「……ゲームがお好きなようね」
言葉の端々から、とあるゲームを連想させる。
図鑑、レベル、最終進化。
それに先ほど、目が合ったら勝負などとも言っていた。
そのゲームがプシュケーの予想通りであればこの少年は戦わない。
あくまで七匹の竜だけが戦うのだろう。
「……七匹? ヤマタノオロチなのだから八匹なのでは?」
その指摘に少年は苦々しい表情をみせる。
「さっきまでは八匹いたんだ。本当だよ。でも、あのでかい子に、巨人に一匹倒された……くそっ」
「そう、ですの」
巨人……それが自身の仲間であることはすぐに理解した。
であれば状況は最悪ではないのだろう。
そこから一歩遠のいている。
「プシュケー・アーチですわ。私も貴方と同じく〈超級〉のエンブリオを持つ者。貴方が1位のクランであるというのならば、ここで倒させてもらいますわ!」
「良いね! 真正面から勝負を挑みに来るなんて、もしかしてライバル? こっちの回復を待ってくれないところなんてよく似ているよ。でも負けない。僕が最強。僕のヤマタノオロチこそが最強なんだ! プシュケー・アーチが勝負を仕掛けに来た! だったら【竜将軍】コウタローが相手してやる!」
コウタローの合図と共に七匹の竜が暴れ出す。
その身を震わせるだけで、地が揺れ、地に足を付けていた者達が立っていられなくなる。
「ブリュンヒルド。1匹は私が相手をしますわ。残り6匹を貴女と6人のワルキューレで。スウェーコンの使用も許可します」
「おうよ!」
ブリュンヒルドがドラグロットを担ぎ返事をする。
「(これで……こちらの戦力も万全ですわね)」
ブリュンヒルドを含めたワルキューレ達は〈超級〉となったことでプシュケーとステータスを完全に共有している。
第六形態まではジョブ由来のステータス上昇はあったが、装備は各々のものであった。
そのため、スウェーコンによるステータス強化は得ることが出来ず、彼女らがスウェーコンを装備しなくてはその恩恵に預かれなかったのだ。
だが、今は違う。
プシュケーの装備品によるステータス変化と、ワルキューレらの装備による変化。
その2つが重なっている。
故に、ワルキューレ達がスウェーコンを装備すればどうなるか。
答えは明白。
スウェーコン二つ分のステータス強化が望めるということだ。
「スウェーコンはAGI、STRをそれぞれ50パーセントずつ上げますわ。つまりは倍ですわ」
数値だけでいえばプシュケーを超えている。
加えてブリュンヒルド指揮下である今、彼女達は一つの無駄なく動くことが出来る。
1人1人が純竜級に並ぶステータスといえばいいだろう。
そして彼女らが手にするは神話級武具。
これが今のプシュケーの万全の戦力だ。
「が、がんばれ……!」
「プシュケーさん! アンタが一番だ!」
「そうだ! いけすかねえガキなんざ倒しちまってくれ!」
いつしかプシュケーとコウタローを囲むようにし〈マスター〉達が言葉を投げていた。
応援というよりは野次に近いだろうか。
中にはプシュッという缶を開ける音まで聞こえる。
「……」
飲酒していた者は即座に竜の下敷きとなり消えていった。
それが合図では無かっただろう。
だが、僅かにでもプシュケーから意識を外した。
プシュケーとワルキューレ達はコウタローと彼の率いる竜達へと武器を振るった。
◇◆
「さて、〈超級〉同士の戦いが勃発していますね」
ハートワンとエクゼ・キューショナー。
その視線の先には幾つかのモニターがある。
それらはイベントマップ内を任意に映し出し、主催である彼らに最新の映像を届けていた。
ハートワンはそれらのうち、【魔女ウィッチ】デミータリィVS【魔法☆少女】クャントルスカと【竜将軍】コウタローVS【魔法少女β】プシュケー・アーチに視線を注力していた。
「昨夜の新たな〈超級〉と【探検王】フィリップ・ノッツは一方的であったからな。此度は退屈せぬといいが」
「あはは。まあ、アレは初見殺しみたいなものでしたからね。互いに得意な戦いを強いることが出来るかが鍵なわけで、その点は【畜産王】ムートン・ラムが先手を取ったまででしょう」
モニターの中ではクャントルスカが空中で身動きを封じられていた。
デミータリィはそれを静かに見上げている。
「“大魔女”デミータリィ、か。超級職とエンブリオの完全シナジー……ここまで強力になるとはな」
「【魔女】そのものは【大賢者】の下位互換に近しいものですからね。試作型超級職でしたっけ? 【大賢者】がもしも特殊超級職であったならば、【魔女】はそのように収められていた程度の大したことのないもの、でした」
「はっ。エンブリオがジョブの火力を底上げするか。なんともはや、興味深いものだ。アレの手にかかればロストジョブなどあってないようなものだろう」
クャントルスカは自身の手を抑えつける何かを振り解こうとするも叶わない。
そのまま全身が火に包まれた。
その威力は【炎王】奥義に等しい程の火力。
スキルは封じられていないのか即座にクャントルスカの全身を光が覆い、傷を修復していく。
「これでは殺しきるか耐えきるかだけになりそうだ」
エクゼ・キューショナーは次いでもう一つの大きなモニターへと視線を移した。
そこでは巨大な竜7匹に挑む戦乙女達が映し出されている。
「こちらは……ふむ、妙だな?」
「何がです?」
エクゼ・キューショナーは眉を顰める。
彼の言葉の意味が分からずハートワンもまた【竜将軍】らの映されるモニターを凝視する。
「〈超級〉同士の戦い……であるに関わらず、気配が薄い」
「気配、ですか」
「言い換えよう。奴は本当に〈超級〉であるのだな? 私にはこの子供がそのような器があるようには思えないが」
「……ッ。子供であるからこそ、精神的に安定していない年齢だからこそ、トリガーを引きやすいという意見もありますが」
「ああ。そういったこともあるだろう。だが、こいつはそうか? ただゲームをしているだけの子供だ。第六形態までは上がれるのかもしれぬ。だが、〈超級〉以上は別だ。そこに至るまでにコイツは大きな感情を動かしていない。勝って喜び負けて悔しがり、だけどゲームで遊んでいるだけ。人生を左右するほどのものでないことは、コイツ自身が理解している」
エクゼ・キューショナーはあえて言い切った。
だが、ハートワンはその言葉に思わず納得してしまう。
この子供は、ゲームに嵌っているだけ。
他のゲームと同様に、飽きたらこの世界にだって見向きもしなくなるだろう。
その程度にしか感情移入していない。
表程の強度は無いにしろ、彼らとて管理AIの端くれだ。
その程度は見れば分かる。
「さて、どういったカラクリか。〈超級〉であるにもかかわらず〈超級〉の器に達していない。我らの目が曇っただけでは、あるまいな」
「すぐに調べます。ダイヤ……だけでは足りませんね。モックタートルに仕事を振りましょう」
「動くか? 奴が」
「既に裏は一枚岩となって動かねばならない状況です。表に勘づかれてはならない。その一点においては一致しているはずです」
「……なるほどな。奴ら、“汚染者”共の仕業だと、貴様はそう思っているのだな」
〈超級〉を増やそうと目論み失敗した、その産物。
彼らが眼前の状況を作り出した可能性があるとハートワンは示唆していた。
「……というか他に考えたくもないですよ。彼ら以外にも世界を脅かす存在がいるとか」
その言葉にエクゼ・キューショナーは深く頷いた。