<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
◇◆
〈超級〉同士の戦い。
準〈超級〉とも、上級以下の〈マスター〉とも違う別次元の戦いは、その結末を予想することは難しい。
完全に拮抗する戦いになるとは思わないだろう。
常時戦力が一定な者もいれば、一撃に賭ける者もいる。
もしくは、理外の外から戦いを台無しにするかのような何かを持ち出す者もいるだろう。
とはいえ〈超級〉は〈超級〉。
非戦闘系のエンブリオでもない限りは法外のリソースとスキルを持ち合わせている。
すなわち、一方的な戦いにはなるまいと。
その場全ての……当事者以外は予想していたのだ。
「……嘘だろ」
その言葉が漏れ出たのは誰からであったのだろう。
だが、それを思ったのはほとんどの者であった。
七匹の竜。
それぞれの口に咥えられ、消え行く戦乙女達。
そして、彫像の如く動かぬ石像と化したプシュケー・アーチ。
竜達はほとんど動くことは無かった。
戦乙女達の攻撃を自前の鱗で弾き返し、そして煩わしいとばかりに乙女たちの肉体を凶悪な牙で迎え撃つ。
残されたプシュケー・アーチと幼い少女は動揺を見せながらも何かスキルを放とうとし――そして動かなくなった。
「俺……あの現象はよく見たことあるぞ。【石化】だ。俺のエンブリオも女性限定で石化できる能力があるから分かる! あの竜は石化ブレスを使えるんだ!」
女性〈マスター〉達はその発言をした〈マスター〉から距離を置きながら、プシュケーの状態を探る。
確かに、動けないが死んではいない様子だ。
だが、その状態異常は強力なようで、自力での解除は困難。
誰かがアイテムかスキルで治さなければならないだろう。
「ん? ブレス……?」
「噛みつきの判定とかではなくて、か」
「おいおい。見てなかったのか? プシュケーさんは竜の攻撃になんか当たってなかったぞ」
「よくみればあのグレーの鱗の奴から霧みたいなのが吐き出されているな。あれがブレスか」
そんな呑気なことを言っていた〈マスター〉達の足が、固まった。
「!?」
「おい、馬鹿かよお前ら! ブレスだぞ! 広がれば俺達にだって影響あるに決まっているだろ!」
と、石化エンブリオの持ち主が逃げようとし――その全身を竜が呑み込んだ。
「今更、逃げられるのは面倒だなぁ。この人数を追ってたら時間かかるし……今日一日で終わる? どうせならコンプリート目指したいんだよね」
コウタローはそう呟きながら、ふと思いついたことを口にする。
「そうだ! 運営さん! 見てたら返事欲しいんだけど。今からフィールド縮小できない? 具体的には僕の周囲100mくらいに全〈マスター〉を集めてよ」
その言葉は逃げ惑う〈マスター〉達の耳には届かない。
コウタローとて理解している。
一個人で交渉がどれだけ難しいことかと。
それでも彼は〈超級〉。
多少の無理は通せる存在だ。
「嫌ならそうだなぁ……もし今後イベントが行われるとなったら僕達が荒らしにいくよ。知ってるよ、〈超級〉を増やしたいんでしょ? 別にいいんじゃないかな、僕はつよいライバルってのは欲しいし。でも、荒らされたらそれは叶わなくなるんじゃないかな?」
『……』
コウタローの耳にノイズが走る。
それは彼と運営側の誰かが念話を繋いだということ。
『確認する。しばし待て』
「おっけー」
それまではどうするかと。
コウタローは竜達で逃げる〈マスター〉を蹂躙しながら考える。
◇◆
「断りましょう」
ハートワンはコウタローの言葉を突っぱねるつもりであった。
「あの子供。まだ正体は不明ですが、ただの〈マスター〉の身に過ぎません。一々言葉を真に受けていては調子に乗るだけです」
「……ふむ」
「エグゼさんも良いですよね!? というかイベントが終わったら直々に粛清に行きましょうよ! 舐めた口を聞きやがって。【札神】と【断罪神】の2人がかりなら〈超級〉くらい簡単に狩れますって!!」
多分予想以上に手こずって勝てないのだろうと、ハートワンのフラグに塗れた言葉を聞きながらエグゼはコウタローの意図を推測する。
「……まだ子供だ。そう深くは考えてないだろう。奴は言った。追うのが面倒であると。確かにこの局面、もはや生き延びた〈マスター〉のほとんどがコウタローから逃げるか立ち向かうかの二択。後者もほとんどいないだろう。メリットが少なすぎる」
「ランキング1位のクランオーナーの首ですよ?」
「眼前でプシュケー・アーチが手も足も出ないところを見せられたのだ。勝てるビジョンが思い浮かばないのだろう」
ならば条件を付けるか、とエグゼは考える。
コウタローの言葉も確かに納得できなくはない。
このままではただ逃げる者を追うだけのつまらない消化試合となるだろう。
ポイント差は更に開き、最終的にコウタローを倒したところでランキングはひっくり返らないことだってあり得る。
「……そうだな。このイベントを作っているのは誰だ?」
「誰ってそりゃ、僕とエグゼさんですけど」
「そうだ。ならばルールすらも我らの支配下。変えたところで誰が文句を言えようか」
エグゼは笑う。
ハートワンはそれを見て、いや絶対文句出ますよと思いながらも口には出来なかった。
◇◆
『イベントマップの縮小を認めよう。ただし条件がある。否、ルールをこれより変更する』
5秒ほどの沈黙の後にコウタローへと返事があった。
「変更?」
『勝利条件を変える。コウタロー。貴様はクランメンバー以外の全〈マスター〉の抹殺を条件とする。そして範囲は100メテルでなく500……これは譲れん』
「んー、まあ100mは適当に言ったからいいけど。全員か、面倒くさいけど500mくらいなら良いか」
『そしてこれより他クランの〈マスター〉は貴様へと戦いを仕掛けるようルールを変更する』
「……?」
『レイドバトルと、貴様たちの言葉では言うのだろう。貴様らのクランと他クランでの最終決戦だ。貴様は他の全員を狩りたい。他の奴らは貴様を狩りたい。その希望を一致させただけに過ぎない』
「それ、僕だけ不利じゃない?」
まだ何人生き残っているかコウタローには分からない。
だがここから総力でコウタロー達を倒しに来るのであれば、それは幾ら何でも無茶苦茶だ。
『先に交渉の真似事をしてきたのは貴様だ。こちらは既に譲歩している。イベントマップの縮小という貴様の希望をな。貴様ら以外の〈マスター〉にとっては否を唱える者が多いだろう。我らはそれをねじ伏せ、その上で縮小すると言っているのだ』
「……まあ、いいよ」
コウタローは自身の力を見せびらかせたい。
一方的に弱者を狩りたい。
そのためには広大なマップ内での鬼ごっこよりも一か所に集まった大勢を一気に蹂躙したいのだ。
「それでも500だと見逃しそうだな。時間経過でマップを縮めてくれない? FPSとかにあるでしょ」
『FPSは知らぬが、分かった。最終的に貴様の半径100メテル以内にしか生存権が無いように調整しよう。代わりに貴様のクランのポイントは固定。貴様が幾ら他〈マスター〉を狩ろうとも貴様のクランのポイントは増えぬ。これで貴様を狩った〈マスター〉に逆転の目が出るようになる』
「いいよ、もう。どうせ僕は負けないし」
交渉は成立した。
二日目にして変応したイベントは更に一個人の〈超級〉によって変えられる。
これよりは無差別のクラン戦に非ず。
1人の強者による弱者狩り、あるいはレイド戦。
それでも自身のスタイルを変えずに戦えるとすれば、それは余程の大物か……〈超級〉くらいであろう。
たぶん運営にめっちゃクレーム来るだろうけどハートワンが握りつぶします
妹妹ちゃんさえ生き残っていてくれてたらまだ勝負は拮抗したかもしれん