<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
◇◆
「一口に〈超級〉と纏められても戦闘スタイルの差があるのだから、格差は当然生まれるものよね。あなたのような近接戦闘もいれば、私のような中・遠距離が得意な者もいる。だから少しでも距離を離せておけば、こうなるのは……明白だったわね」
“大魔女”デミータリィの言葉がクャントルスカへと投げられる。
それは今の現状を表したものであり、デミータリィが感じた実力差。
「あまり一方的って言葉は言いたくないの。特に魔法少女に対しては、ね。だってそうでしょう? 魔法少女に一方的にって……なんだかいやらしい言葉だとは思わない?」
同意は無かった。
クャントルスカの頭部に対してだけはデミータリィは何もしていない。
その可愛らしい顔にだけは、傷を付けたくなかったからだ。
「超級職もそうよね。あなたの【魔法☆少女】が儀式を行えば、人数を揃えさえすれば就けるだけのジョブに対して、私の【魔女】は違う。一定以上の魔法に対しての知識と力を付けなければならないもの。どちらも土台が違うのよ」
「……随分と嫌な話し方をするね」
「そう? これでも普段よりもおしゃべりな自覚はあるわ。久しぶりに私を崇拝していない女の子とお話するのだもの。あれっていい気分だけど少し窮屈なのよ。その点、あなたとのおしゃべりは良いわ。だって、何も気を遣う必要が無いのだから」
否、かなり意識的に嫌味を使っていた。
デミータリィの誓った復讐の念などとっくに消え失せている。
一つの感情に捉われない。
誰かの為に動かない。
思う存分に、思い通りに生きる。
それこそがデミータリィの持つ本質の……一つ。
「……でも、あまり長話はしてくれないみたいね」
少しずつ、デミータリィのHPは削られていた。
クャントルスカの持つ最終奥義である《愛の行進》によるダメージだ。
対するクャントルスカは、動けはしないもののHPはフルに近い。
《愛の行進》と継続的な自動回復スキルによるものだ。
「どうしようかしら。今使っている“魔女の呪い”で縛り上げてもいいのだけど……ふふ、強力な魔法の方があなたにはいいのかしら」
”魔女の呪い“と、デミータリィは今使っているスキルをそう言い表した。
無論、そのようなスキルは存在せず、自身の力の源を隠すためにあえてそう言っただけ。
先程デミータリィが自身のエンブリオ、ジョブを強力なもののように言ってはいたが、その実それほどではないのだ。
上手くかみ合っているだけの万能タイプに近く、しかも近接戦には弱い。
故に、ひとたびクャントルスカが自由になれば即座に逆転されてしまいかねない。
デミータリィの背後で幾つもの球が浮かび上がっていく。
それらは全て、火属性、氷属性、雷属性、土属性――闇や光といったあらゆる属性の超級職の奥義に等しい威力を秘めたエネルギーの球。
「決めたわ。大火力で一気に仕留めましょう。このままだとジリ貧だし」
並の〈マスター〉であればそれ一つで簡単に消し飛ぶであろうエネルギー球を10余り、デミータリィはクャントルスカへと撃ち放つ。
どのエネルギー球が作用したのか。
爆音と共に舞い上がった煙と風がデミータリィの視界を覆う。
「……ふぅ」
やり過ぎたかなと思いながら、腕で目を守っていると、煙を裂きながら、ピンクのフリルを纏った脚がデミータリィの腹部へと叩きこまれた。
「――ッ!?」
とっさに防御結界を貼ったものの、そんなものは存在しないかのような強烈な一撃は容易く結界を破り、デミータリィは大きく弾き飛ばされる。
「な、にが……」
晴れた視界の中ではクャントルスカが立っていた。
「あー、危なかった。間一髪だったよ」
クャントルスカの身体には……どころか衣服にも傷は少ない。
少しばかり煤けているだけだ。
ということは、避けたのだろう。
「……だったら。……ッ!?」
再度クャントルスカの肉体を縛ろうとするも、そのスキルは邪魔される。
否、弾かれた。
「感触はあったんだよね。手が私の身体を掴んでいるのが。撫でるような感じもあったってことは、デミータリィさんとリンクしていたのかな」
「……分かったってことね」
「複数のスキルを使えるってことだよね。どのジョブのどのスキルかは分からなかったけど、前にも似たような人と戦ったことがあるから」
クャントルスカのスキル画面に一つのスキルが追加されていた。
その名は《第三の手》……念動力系統派生超級職【念動王】の固有スキルである。
「……まさか、奪ったの!?」
「違うよ。あなたから貰ったんだよ。私があなたに関わったから。少しずつ少しずつ、あなたの素敵なところを、愛せるところを見て、そうしてあなたはこのスキルをくれたんだ」
「……同意がなければ奪ったってことよ。いや、そうね。まだ私もスキルは使えるってことは……奪っていないのかしら」
かつて戦ったルーチェは超級職のスキルをあくまで外付けのものとして使用していたため、クャントルスカが《愛の行進》を使用することで使えなくなった。
だが、デミータリィは自身の超級職の結果として他の超級職のスキルを使っているだけに過ぎない。
故に、模倣されることはあっても、大本のスキルを使えなくさせられなければ問題はない。
「これで条件は五分だね」
「いいえ、違うわね。確かに驚きよ。他人のスキルを見るだけで使えるだなんて。そんなの、私以上に反則。でも、それだけだったら、私の超級職……【魔女】を真似ているだけに過ぎないわ」
《第三の手》……それは使用者と同じステータス、透明、そして任意の物体を透過しながら動き回る魔法の手を生み出すというもの。
魔法職であるためそれほどの速度も力も出せない、多少便利なだけの痒い所に手が届くといった使い方しかできないスキルであった。
だが、デミータリィが使用すればそれは別物となる。
「《第三の手》」
「こっちも! 《第三の手》!」
そして、クャントルスカのステータスはデミータリィを大きく凌ぐ。
ステータス由来の魔法の手は本来であればデミータリィよりもクャントルスカの方が強大になる……はずであった。
両者の放つ魔法の手は見えないまま互いの肉体を掴み、そのまま縛り上げていく。
「……ッ。近接戦闘職のステータスがここまで、だなんて」
「なんでこんなに……ッ」
その力はほぼ同格。
ステータスでは劣るはずのデミータリィの魔法の手は、デミータリィと同程度にクャントルスカのHPを減らしていく。
「《プロテクション》」
だが、そのままでいるはずがない。
すぐにデミータリィは結界スキルを発動すると魔法の手によるダメージを抑えていく。
「油断、しちゃったわ。それに感心しちゃった。可愛らしい魔法少女ちゃんと思っていたけど、予想以上に強かなのね」
クャントルスカの魔法の手は結界を破れない。
「なんで、って顔をしているわね。でも予想は出来ているでしょう? 魔法スキルの底上げ。それが私のエンブリオの力。そもそも魔法スキルってけっこう適当なのよ? 威力はMPをたくさん使えば上がるし、上級スキルのほとんどが精密操作に長けたものばかりなんですもの。あとはそうね、威力が上がる上級スキルも燃費が良くなっているものばかりかしら。だから、威力底上げのスキルと豊富なMPがあれば、下級スキルでも奥義並みの威力が出せるのよ」
奇しくもそれは仲間であるワン・フー・ウーが行ったものと似ていた。
だが、手札の数ではデミータリィが圧倒的。
加えて、継続戦闘としてもデミータリィが圧勝である。
「今度こそ、抜け出せないくらい力を込めるわ。さっきは手加減していたの。本当よ? だって、そうでもしないと内臓が飛び出てグロテスクなことになっちゃうじゃないの。可哀そうなのは好きだけどグロは駄目よ。流石に同人誌でもそこまでのものは買わないわ」
デミータリィの背後に再びエネルギー球が浮かび上がっていく。
これらはいずれも《ファイアーボール》をはじめとした下級の魔法スキル。
【魔女】は奥義以外であればあらゆる魔法系統のジョブのスキルを扱うことが出来る。
そしてそれらを彼女のエンブリオと多大なMPが威力を上げる。
「今度こそ――」
だが、デミータリィを取り巻く環境はあらゆる意味で不条理。
それこそが魔女たる所以。
言い換えれば、タイミングが悪い。
魔法少女との決着をつけようかとした今、景色が一変していく。
「――え?」
突如として現れた竜が、七匹の怪物が、デミータリィを呑み込んだ。