<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
◇◆
“大魔女”デミータリィに油断は無かった。
クャントルスカとの戦いにおいても楽しみはすれど、クャントルスカのステータスは恐れるものがあったし、未だ見ぬ必殺スキル次第では戦況をひっくり返される可能性があったからだ。
だからこそ、クャントルスカのことを考え、見て、遊んで、彼女以外による攻撃にあっさりとその身を晒すこととなった。
「――あっ」
気づいた時には遅かった。
《第三の手》はクャントルスカの《第三の手》と恋人のように絡み合い、すぐに引き戻すことは困難。
他の魔法にしたって、発動中のものがあるため切り替えられない。
それらも今はクャントルスカへと放とうとしていた。
赤の鱗の竜が大きく口を開ける。
ブレスを吐く……仕草では無い、凶悪までに鋭い牙を見せつけていた。
食われるのかと思った瞬間には、その咢は眼前にまで迫っていた。
そもAGI型ですらない、魔法職という後衛に配置すべき構成のデミータリィは心の中でクランメンバーへと謝る。
――ごめんね。ここまでみたい。
正面にいた魔法少女でなく、こんなわけのわからない退場の仕方でクランメンバーに申し訳なさを抱えつつ、そっと目を閉じる。
ふわり、とデミータリィの身体を何かが包み込んだ。
「え」
柔らかな布地の衣装と、その中身。
デミータリィを抱きかかえるは桃色の魔法少女。
背の翼を広げ、竜の牙からデミータリィを救い出していた。
魔法少女が悪から少女を助け出す。
まるでテレビアニメで見たかのような映像が、そこにはあった。
「なん、で」
「大丈夫? びっくりしたよね」
およそ敵に向ける類のものではない、こちらを安心させるかのような笑み。
「きゅん」
素直にときめいていた。
「きゅん? えっと、どこか痛いところあるの? ごめんね……《愛の行進》発動中だから回復スキル使うと逆にデミータリィちゃんのHP吸い取ることになっちゃうから使えないんだ」
敵同士であったはずなのに、尚もデミータリィを気遣う言葉。
これこそがクャントルスカが【魔法☆少女】となった所以なのだろうとデミータリィは納得する。
「えっと、もう大丈夫よ。自分で立てるから下ろして?」
驚いた拍子に手放していた魔法の制御を取り戻す。
飛行魔法を再度発動し、空に立つ。
「それにしてもどこから――」
「また避けられたか。鳥タイプは空に逃げられるから狡いよね。地面技効かないし。こっちの世界だと弱点突くとか無いからさ。シンプルに火力で殴るしかないじゃん?」
まだ声変わりのしていないような、幼い声と共に雷鳴が轟いた。
「これは――」
「それ! 電気ショック! 十万ボルト! 雷だ! 全部同じだって? そりゃそうだよ。結局空から雷落としてるだけだからね」
空から十数の雷が降り注ぐ。
それらはデミータリィやクャントルスカとは別地点へと落ちると地面を焦がす。
「……ドラゲイル君と似たような。ううん、全然別物だけど。威力は本物」
「【雷王】クラスの魔法……。この数、私だって再現は難しいわよ!?」
それぞれに似たようなスキルに思い当たる節はあるが、それを行える実力者は少ない。
つまりはこの突如現れた声の主もまた、彼女達がかつて戦ってきた実力者に引けを取らないということ。
「マップが縮小されたからあちこちで逃げまわっている雑魚を追いかけまわさなくても良くなったけど、技が当たらないと仕方ないなぁ」
そして、彼女らの前に先の赤の鱗の竜以外にも、計七匹の竜が出現する。
「あれは……プシュケーちゃん!?」
その竜の足元には幾つもの石像が転がっており、クャントルスカが良く知る顔もあった。
「石像……呪術の類かしらね。待ってて、今解析するから」
先程助けられた恩もあってか、クャントルスカの顔見知りであろう石像がどのような状態であったかデミータリィは探る。
魔女は呪いにも精通している……はずだとクランメンバーから散々叩き込まれた知識が役に立つときだろう。
「ああ、これ? 石化ブレスだよ」
その前に、幼い声が回答を示した。
みれば、灰色の鱗をした竜の口からは絶えず鈍重な空気が垂れ流されていた。
一般的なブレスとは似ても似つかないが、これもまたブレス……竜の吐息に違いない。
「一つずつ倒していたら逃げられるからね。全部動けなくした後に一気に壊すことにしたよ。その途中で別に死んでくれてもいいんだけどね」
「……!」
ならば、その声が本当のことを言っているのであればまだプシュケーは生きているようだ。
【石化】状態であるならば、状態異常ならばクャントルスカは治療できる。
「……魔法少女ちゃん。さっきまで戦っていてなんだけど、今は共闘ってことでいいのよね?」
デミータリィは尋ねる。
三つ巴か共闘か。
その違いは果てしなく大きい。
前衛向きであるクャントルスカが前に出てくれるならば、デミータリィに背を預けてくれるのであれば、この謎の竜達の相手も出来よう。
「何言ってるの?」
対するクャントルスカは笑顔で応えた。
「もうお友達だよ。それに私、デミータリィちゃんのこと好きになっちゃった」
「魔法少女ちゃん……!」
死刑宣告をされたと気づかないデミータリィは感動しながら戦況を確認する。
付近で必殺スキルを発動されれば間違いなく巻き添えになることを彼女はまだ知らない。
足元には竜達と抗戦したであろう〈マスター〉達の石像。
眼前には七匹の竜と、姿は見えぬがその主であろう少年(声から推定)。
こちらは〈超級〉2人。
「……! 魔法少女ちゃん。そっちはクランメンバー生き残ってる?」
「うん。プシュケーちゃんも……あそこで【石化】してる子も含めたら5人かな」
「そう。だったら仲間を急いで集めてちょうだい。たった今、イベント情報が更新されたわ……いえ、改悪されたわね。まるで他人が介在したかのような悪意ある変更の仕方よ。クソゲー最高」
「えっと」
「クラン戦なんて最早意味が無くなったわ。アレを倒すイベントに変わったみたい。ついでに、イベントマップも少しずつ縮小していくようね」
最初からそうであったかのように。
イベントを彩るサイトには『七匹の竜を倒そう! レイドイベントの開催!』と銘打たれていた。
知らない者が見ればそういったイベントが開催されていたように錯覚するだろう。
「なに、これ……」
「アレを倒したクランが優勝。そういうルールに置き換わったようね。……まあアレを交えてのバトロワとどっちがマシかって話だけど。だけど、これで名実ともに共闘ができるわ」
一応、他のクランメンバーを倒してもポイントをゲットできるようだ。
だが、眼前の竜の主を倒した際のポイントの方が遥かに上。
旨みだけでいえば、竜退治に参加し、ラストアタックを狙った方が良いだろう。
「おい見ろよ。魔女コスのお姉さんだ」
「魔女っ子もいるぞ!」
と、2人が竜と相対していることに気づいた〈マスター〉達が逃走を止め、戻ってきていた。
というか、魔女と魔法少女が空に浮かんでいるのをみて良く見ようと近くに寄ってきたというのが正しいか。
「「ぎゃぁぁぁぁ」」
無論、すぐに雷に貫かれ死んでいくが。
「……こちらの人数が減らされるわけにはいかないわね」
「そうだね。石化ブレスを吐くドラゴン、雷を落とすドラゴン……後はなんだろ」
「赤い鱗のはどうみても火を吹きそうね。多分だけど、色で属性を決めているんだと思うわ」
未知数が数匹。
だが、その前に範囲攻撃を可能とする雷――黄の鱗のドラゴンや石化ブレス――灰の鱗のドラゴンを先に倒さなくてはならないだろう。
こうしている間にも、石化で動けなくなった〈マスター〉らに雷が落ち、砕けていく。
〈マスター〉の数は見る間に減っていった。
「敵戦力を測りながら、黄と灰から潰していきたいけどどうかしら?」
「それが良いと思う!」
「……それでもこちらは戦力としてはまだ不足しているわ。そちらの仲間で頼れそうなのはいる?」
「クリアント君が来てくれればきっと何とかなるよ!」
それは先ほど、自身のクランを全滅に追い込んだ者の名であり、やや複雑な気持ちになるが、大人なのでデミータリィは仕舞っておく。
代わりに、
「まずはその動きから止めましょう」
クリアントを沼に沈めたことを思い出しながら、竜達の足元に巨大な沼を作り出した。