<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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なんかここ数日でめちゃくちゃお気に入り数増えているんだけど、何事?
新刊発売日が近くなってきたからかな?


36話 大きな魔法少女

■【魔法少女α】クャントルスカ

 

 大人と子供との戦いでは体重や筋力差もあるが、まず一番にリーチ差がある。

 肢体の長さ。

 手や足が長い分、子供の手足は届かず、大人の手足が先に届く。

 無論、子供は小回りが利くだけ懐に入れば強いだろうが、互いの力量が近かったり、大人が懐に入られないよう注意していれば、やはり大人の一方的な攻撃になってしまうだろう。

 

 【魔法少女θ】キシリー・キシシキは身長2mの魔法少女である。

 160㎝程度のクャントルスカと比べれば、大人と子供の戦いのようにも見える。

 だが、キシリーの手足は短い。

 子供をそのまま2mの寸借にしたかのような体躯から繰り出される攻撃は、クャントルスカのリーチと大差ない。

 

「苦戦しているのかしら?」

「そうだね! ちょっとだけ強いよこの子!」

 

 だからといって、キシリーが弱いというわけではなく。

 むしろ強敵の部類だろう。

 

「STRは私以上かな? 私の防御を突き抜ける攻撃をしてくるね」

 

 キシリーの蹴りをクャントルスカは両腕を交差して守る。

 それでも衝撃は消しきれず、後退させられる。

 与えられたダメージも決して少なくなく、防御しているにも関わらずHPは2割も減少していた。

 

「骨折していないのが不思議なくらいね」

「うん、強い攻撃だよ。流石は【魔法少女θ】」

 

 クャントルスカは24種全ての【魔法少女】シリーズを把握している。

 自身に相性の良い魔法少女から相性の悪い魔法少女、そして強さとはかけ離れた魔法少女まで。

 【魔法少女】シリーズというジョブであれば知らないものはない。

 

 その中でも、身体能力向上に【魔法少女】がいた。

 【魔法少女θ】。

 使える魔法は無い。

 特異的な固有能力もない。

 ただ、ステータス補正が他の魔法処女たちに比べ圧倒的なだけである。

 レベルが向上するにつれ、更にステータスが上昇していく。

 当たり前のようでいて、ステータスが伸びづらい他の魔法少女達とは明確に違う魔法少女。

 それこそが【魔法少女θ】である。

 

「ダメージ量が桁違いね。受け流せそうかしら?」

「出来なくはないけど……失敗した時が怖いね」

 

 防御姿勢を崩されれば、そこに待っているのは致命的な一打だ。

 強力な打撃を連発する相手であれば、防御するよりも回避に専念した方がいいだろうとクャントルスカは判断した。

 

「モーちゃんはひとまず観察! キシリーちゃんがどういう子なのか見ておいて!」

「仕方ないわね」

 

 傍で見ていたモーちゃんが翼を使い飛び上がっていく。

 頭上から、キシリー全体を見るようだ。

 

「お姉ちゃんのエンブリオはガーディアン? それともメイデン?」

「メイデンだよ」

 

 飛び上がったモーちゃんを見てキシリーが尋ねてくる。

 その問いに黙っていることも出来た。

 形態からクャントルスカの強さを測ることだって出来る。

 まして、ガードナーではなくガーディアンとキシリーは言った。

 上級エンブリオに進化済みであることを確信しているのか、探りをかけているのか、それは分からないが多少は頭の回る相手であるらしい。

 

 それでもクャントルスカはメイデンと答えた。

 メイデンであるということは、他のTYPEも混ざっているということだが、そこは隠す。

 しかし、会話は繋げていきたい。

 キシリーという魔法少女を知るために。

 

「そっかぁ……いいなぁ」

 

 貴方は、と問い返そうとする前にキシリーの呟きがクャントルスカの耳に届いた。

 それは嫌味でも蔑視でもなく、純粋に羨ましいという言葉。

 

「お姉ちゃんもお姉ちゃんのエンブリオも可愛くて」

 

 キシリーの手が止まる。

 

「そう? ありがとう」

 

 その間にクャントルスカは一歩下がり、一呼吸置く。

 

「貴方だって可愛いわよ? なんだったら私がもっと――」

 

 あれ、とクャントルスカの中に疑問が生まれる。

 徒手空拳の魔法少女。

 殴る蹴るといった打撃を中心にこれまでキシリーは行ってきた。

 だが、彼女のエンブリオはどこにあるのだろう。

 最初に持っていたあの小さい槌はいったいどこに――。

 

「クャントルスカ! 注意なさい!」

 

 頭上からモーちゃんの声が聞こえる。

 彼女にしては珍しく焦った声だ。

 

「上空にあの槌があるわ!」

 

 それはモーちゃんよりも更に上。

 上空15mほどにソレはあった。

 3つの光る花模様。そのうちの1つはすでに消えている。

 

「いいなぁ本当に――小さくて、可愛くて、羨ましいなぁ」

 

 上空に浮遊するその小さな槌は、誰が降るでもなく勝手に振られる。

 

「ウチデノコヅチ……解除」

 

 キシリーの声と共に小さな槌にある花模様が更に1つ光を消す。

 

 そして、キシリーの姿が大きくなる。

 2mが見る間に膨れ、10mを超えてもまだ大きくなり、やがて14mとなったところで巨大化は止まる。

 

「……え」

 

 クャントルスカの背丈よりも大きな靴が地面を抉りながら迫る。

 一瞬でも固まってしまったクャントルスカに避けることは出来なかった。

 

 

 

 

■【魔法少女θ】キシリー・キシシキ

 

 キシリー・キシシキのリアルは幼い小学生である。

 病弱で、気弱で、そして成長が発展途上の幼い少女。

 周囲の誰よりも小さく、力が弱く、足の遅い子供。

 魔法少女に憧れていても、笑われることのない年齢の少女であったが、彼女は知っていた。

 自分の弱さは魔法少女に成れない弱さであろうと。

 もし、魔法少女の使い魔が新たな魔法少女を選ぼうとしても、自分は選考基準にさえ引っかからない。

 

 だから彼女は新たな世界への扉を開けた。

 Infinite Dendrogramというゲームの世界であれば、強靭な肉体も、健康な肉体も、背の高い肉体も得られると信じて。

 期待と願望と希望を胸に秘めて、彼女はアバター作りに時間をかけた。

 

 結果、出来上がったのは――リアル世界での容姿とほとんど同じ。しかし、大きさだけは巨人種族のものを使った、歪な姿であった。

 アバター作りにおいて、他者と比較することは難しい。

 そこには自身と、管理AIを名乗る者しかいない。

 だから、巨人種族を選べば大きくなれるという甘言に騙されるような形で彼女はそれを選んだ。

 強さと大きさを求めたが、それでも自分を捨てきれず。

 さりとて強さと大きさを諦めきれず。

 

 歪んだ思考のまま、歪んだアバターが作り上げられたのだ。

 身長130㎝にも満たない小さな体が、15mの巨人となってゲームはスタートされた。

 

 そして、周囲との違いに気づいて、自身がいかに異常な大きさかを認識して。

 魔法少女となっても、巨人という歪さを抱えて。

 結局、この世界でも魔法少女に成れていないことを理解して。

 キシリー・キシシキは周囲を羨んだ。

 今度は小さな人間になりたいと。

 小さな、普通の人間で在りたいと。

 

 

 

 

 キシリー・キシシキのエンブリオの形状は小さな槌だ。

 だが、それは武器に非ず。

 TYPE:ワールドのエンブリオ。

 【大小自在 ウチデノコヅチ】である。

 

 ウチデノコヅチ……うちでのこづちは一寸法師というおとぎ話終盤に出てくる、鬼の落とす宝物だ。

 一寸法師は姫にそれを使ってもらうことで自身を一寸の大きさから六尺の大きさになった。

 大きさを変える。

 ウチデノコヅチの特性はそれのみに尽きる。

 日に三回のみ、指定した物体の大きさを変えることが出来る。

 

 それを使ってキシリーは巨人である自身のアバターを人間の大きさに縮める。

 本来の一寸法師とは真逆の使い方。

 それだけを、キシリーは求めた。

 そして、新たな歪みは生まれる。

 2mの少女という歪みが。

 ウチデノコヅチの力を以てしても縮めきれなかったのだ。

 あるいはリソース不足なのかもしれない。

 未だ第四形態。

 必殺スキルも備わっていないウチデノコヅチでは、これ以上を望めなかった。

 

 15mの少女は2mの少女へと縮むことで、より歪さは目立つようになった。

 人間に近くなったことで、人間と触れ合えるようになったことで、巨人という納得は消えた。

 ただの、2mの少女の姿をしているナニカに成っただけであった。

 

 彼女は羨む。

 可愛くて、小さい少女達を。

 彼女は恨む。

 弱くて、小さい自身を。

 

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