<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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37話 弱くても、小さくても、それでも魔法少女だもん

■【魔法少女θ】キシリー・キシシキ

 

「……魔法少女の中に巨人種がいるって噂は聞いたことがあったけど……貴方のことだったんだね」

 

 キシリーの靴先にぶつかり、自身の体でなぎ倒した木々の下敷きになっていたクャントルスカが立ち上がる。

 その目は未だに光り輝いていた。

 闘志は消えず、魔法少女になることを諦めず、生きようとする目であった。

 

「嘘……どうして……? HPが半分近く削られていたところに私の全力キック……絶対にお姉ちゃんが生きているはずないのに」

 

 ガードしようとそれを突き抜けるキシリーの攻撃力。

 回復アイテムを使用している暇など無かったはずだ。

 ならば、そこにとどめの蹴りを入れたのならば確実に仕留めた……そうキシリーは確信していたのだ。

 

「……ううん、違う。お姉ちゃんにちゃんとキックは当たってたんだね。その腕……もう使い物にならない」

 

 15mとなったキシリーの、巨大な目がクャントルスカの全身を捉える。

 その両腕はひしゃげ、歪にねじくれていた。

 

「そっか。両腕を犠牲にして生き残ったんだ。ダメージが腕だけになるようにしたのかな」

 

 両腕は使えない。

 まだ足は残っているが、そもそもHPの残量も僅かであろう。

 

「じゃあ、今度こそ殺しちゃうね」

 

 小さくて可愛い。

 可愛くて弱い。

 小さくて弱い自身を見ているかのような気分になる。

 キシリーは八つ当たりのような気持ちで、クャントルスカへ向けて、横薙ぎに足を払った。

 

 巨大であるということは決してデメリットに成り得ない。

 このデンドロの世界においてティアンの巨人種は妖精種に絶滅に追い込まれたらしい。

 巨人が妖精に負ける。現実世界では見ることのできない光景であろう――尤も現実に巨人も妖精もいないわけだが。

 デンドロ世界において力関係の大きくはステータスによるものだ。

 本来は弱い種族であろうとも、ジョブやスキルによって引き上げられれば、妖精とて巨人を持ち上げることが出来る。

 同じ力、速さであれば小回りが利いて当たり判定の小さい妖精種の方が強い。

 妖精種が巨人種を追い込めた理由である。

 

 だが、巨人種が見た目通り妖精種よりも強いものであったならば。

 大きくて力の強い巨人種と、小さくて力の弱い妖精種。

 この2つが戦っていたらどうなっていただろう。

 果たして、簡単に巨人種は絶滅しただろうか。

 

「大きければ当てやすい」

 

 妖精種の当たり判定が小さいというならば、巨人種は攻撃の範囲が妖精種に比べて圧倒的に広い。

 大きな力で広範囲に攻撃を与える。

 小回りが利こうとも、避けようの無い範囲で。

 キシリーにとって下段の蹴りであってもクャントルスカにとっては全身を覆う巨大な蹴り。

 

「――ッ」

 

 クャントルスカは横薙ぎの蹴りを避けられずに受け止めようと、傷一つ無い両腕を交差する。

 

「……あれ?」

 

 しかしその衝撃は消せず。

 再びクャントルスカは吹き飛ばされた。

 

「今……なんで……?」

 

 明らかな違和感。

 何故、何故、何故、何故……とキシリーの中で疑問が渦巻く。

 

「お姉ちゃん……何なの? 何で生きてるの……何で傷が無いの!?」

 

 再び【魔法少女α】クャントルスカは立ち上がる。

 変わらない瞳で。

 傷一つ無い体で。

 その姿は戦場に咲く一輪の花のように、小さく綺麗なものであった。

 

「私? 私は魔法少女! 【魔法少女α】クャントルスカだよ!」

 

 

 

 

■【魔法少女α】クャントルスカ

 

 αから始まりωで終わる魔法少女シリーズ。

 

 ωは終わり。命の終わりを意味する。

 その能力も終わりに相応しい、扱うには些か難しい固有能力である。

 就きたいと思う者が少ないのは、衣装が黒いだけではない。

 命を終わらせるという、魔法少女らしくない在り方を嫌悪する少女が多かったからだ。

 

 対してα。それは命の始まりを意味する。

 始まりの魔法少女。

 命を何よりも優先する。

 その固有能力は再生。

 自身の負傷とHPを回復する魔法少女である。

 

 パッシブスキル《オートヒーリング》はMPを消費せずに、常に継続的回復を行うスキル。【魔法少女α】のレベルをカンストさせたクャントルスカは秒間1パーセントの回復が可能である。

 部位欠損や状態異常の回復は出来ないという欠点はあるものの、明確なデメリットは無い優れたスキルである。

 

 そして、MPを消費するアクティブスキル《ライフヒーリング》は消費したMPに応じて回復率を高める。

 最大で秒間20パーセント。

 5秒でHPを全回復させるという規格外の回復率。

 MPの消費量を更に増やすことで部位欠損や状態異常すらも回復することが可能である。

 

「……回復に長けた魔法少女。それがお姉ちゃんの正体なんだね」

「そうだよ! 応用で身体能力の強化でもできるんだけどね」

 

 肉体のリミッターを外すことで、限界以上の身体機能を発揮するスキルもαには備わっているが、それもまた他の回復スキルでカバーすることが出来る。

 

「(とはいえ……アレは今使えないしなぁ)」

「(どうする? プテアリスを解除すればひとまず、目の前のこの子くらいなら倒せるけど)」

 

 念話にてモーちゃんがクャントルスカに尋ねる。

 クャントルスカの持つ特典武具、【外内時計 プテアリス】は使用の代償として、自身のMPの最大値が結界内にいる生物のレベル分減少してしまう。

 

「(思っていたよりもクリアント君とフィリップちゃんが強かったんだね)」

「(ありがたいことだけど、この現状だと逆効果ね)」

 

 そのため必殺スキルを放つMPが足りなくなってしまっている。

 使えばキシリーを倒すことは出来るだろう。

 だが、森を覆う結界が無くなれば、逃走者が出て再び儀式は中断してしまうかもしれない。

 

「(このままいこう! モーちゃんは観察続けて)」

「(分かったわ……死なないでね)」

「さあキシリーちゃん! 魔法使いの戦い方ってのを見せてあげるよ!」

「そう、なんだ……小さくて弱いんじゃないだね。小さくて強い魔法少女なんだ」

「可愛くて、強くて、綺麗で、正しくて、そして魔法少女らしい魔法少女! それが私だよ」

「……ッ!? それでも! 回復する以上の力で攻撃すれば! 一撃で即死させられれば!」

 

 回復するどころではなく、一撃による即死。

 それを狙うためにキシリーは巨大な拳を握りしめる。

 

「お前なんか! もっとちっちゃくなっちゃえ!」

 

 その拳の中には、ウチデノコヅチが入っていた。

 大小の大きさを自在に変えるウチデノコヅチ。

 キシリー自身の制限は無いが、他は直接ウチデノコヅチを当てなければ大きさは変えられない。

 だが、明らかに見せてしまっては警戒される。故に拳の中に隠す。

 

「クャントルスカ。中に入っているわ」

「ありがとうモーちゃん!」

 

 だが、それを見通すはキシリーの腰程度の高さで飛ぶモーちゃん。

 彼女のエンブリオのスキル《中間透出》は物体の中を見通す。

 数度の攻撃で巨人の攻撃範囲を見切ったクャントルスカは躱しながら跳躍する。

 

「モーちゃん!」

「ええ」

 

 モーちゃんは先ほどからキシリーの全体を見るように飛び回っていた。

 一片すら逃さないように、ぐるぐると周回していた。

 

「全体の確認は終わったわ。使えるわよ」

「ありがとう!」

 

 クャントルスカの視界が変わる。

 キシリーの姿が半透明に、中身が透き通るように映っていた。

 これもまたエンブリオのスキル。

 《中核形状》……相手の尤も弱い部位、弱点となる場所を知るスキルである。

 

「……なるほど。本当に大きいんだね」

 

 構造は普通の人間と同じだ。

 ただ大きい。

 そこだけが違う。

 

「だから、弱点も同じなんだね!」

 

 木々を蹴って、クャントルスカはキシリーの背後に回る。

 

「キシリーちゃん。貴方のなりたい魔法少女は強い魔法少女? 可愛い魔法少女? 小さい魔法少女?」

「それは――」

「女の子は欲張りなんだよ! 全部、求めなきゃ! 魔法少女は完璧な女の子! 少女の理想! だから私は――」

 

 狙うは首の裏。

 巨大であるが故に尤も狙われにくく、備えの薄い場所。

 枝をバネにしクャントルスカはキシリーの高さを超える。

 

「――貴方だって好きになれるし、貴方を好きなまま倒せるんだ!」

 

 続けざまにエンブリオのスキルを更に発動する。

 《中点奇地》という、中身だけを移動させるスキル。

 外殻の防御を無視して、中身のみに力を発揮させる。

 首裏に振り落とされたクャントルスカの踵は、キシリーの頸椎をずらした。

 

「――ガッ」

「うん。やっぱりよくみれば可愛いね! 巨人だって素敵な魔法少女だよ」

 

 首から下の神経活動を強制停止させられたキシリーのHPは急速に減少していく。

 

「もし、可愛くなりたかったら連絡してね!」

「……」

 

 口すら動かせないキシリーに一方的にクャントルスカは話し続ける。

 

「私、服飾系のジョブスキルも上げてるから。その洋服のアレンジ、自分でやったのかな? 私も一緒に可愛くなれるように考えてあげるね!」

「……と」

 

 最後に何を言ったのか。

 表情すら変えられなかったキシリーはそのまま強制的にログアウトしていく。

 

「……ふう」

「何とか温存出来たわね」

「うん! よく考えたら必殺スキルはまだ早かったし……それに」

 

 あの時、プテアリスの発動を止めて必殺スキルを使っていたとしても、この先の戦いは更に厳しくなっていただろう。

 

「私1人の戦いになるにはまだ早いからね」

「……そうね。クリアントとフィリップに退場してもらうにはまだ早い」

「全ての戦いが終わって、あの山頂に向かうまではね!」

 

 

 

 

■【魔法少女ω】クリアント

 

 それはフィリップの全身が水蒸気に包まれるよりも早く。

 それはクャントルスカがキシリーの靴先で蹴られるよりも早く。

 

「……な、に」

 

 クリアントの頭部は敵対する魔法少女の持つ釘バットにより砕かれようとしていた。

 

「死ねや」

 

 死の間際、クリアントは少女に鎧越しに触れる。

 

「……せめて」

「あ?」

 

 少女の目が訝し気な表情を作り出したと同時に、クリアントのHPはゼロになった。

 

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