<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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38話 毒使いの魔法少女

■【魔法少女ω】クリアント

 

 クリアントは現実世界においても魔法少女もののアニメや漫画を見たことは少なく、知識も乏しい。

 故に、金髪清楚の魔法少女が荒々しい言葉使いであっても、武器が釘バットであっても、そこに疑問は浮かばない。

 魔法少女はそういうものなのだなと受け入れてしまう。

 クャントルスカのような魔法少女は正統派なのだと思ってしまうし、フィリップの魔法少女姿を見ても、様々なタイプがいるのだなと知見が広がったかのように感じる。

 

 魔法少女の個性自体は受け入れる。

 個性が攻撃してくることはない。

 個性が守ってくれることもない。

 個性が技を生み出すこともない。

 

 だから、気にするべきは個性ではなく固有能力。

 目の前の魔法少女――【魔法少女ζ】ミミラル・ルートが如何様な力を持っているのか。

 魔法少女とはどのような戦い方をするのか。

 クリアントの興味はそこにしか無かった。

 

「先輩、まるで戦闘狂みたいな思考をしていましたけど……めちゃくちゃ防戦一方じゃないですか」

「何も言い返せない」

 

 試しに一発、ミミラルに攻撃を仕掛けてみたのだが、ダメージはほとんど与えることが出来なかった。

 【魔法少女ω】はENDに重きを置いたステータス構成。

 STRは1000を少し超えた程度だ。

 

「どうやら相手は俺と同じステータス構成のようだな」

「防御主体同士の戦いですか……だとしたら決着までは長そうですね」

 

 相手もENDが高いステータス構成とクリアントは予測する。

 相手も攻撃自体はそこまで高くない。

 だから、多少のダメージを覚悟しても大丈夫だろう、と。

 

「何を一人でごちゃごちゃ言ってんだァ!」

 

 テリトリー型となっているワンプの声が聞こえないミミラルは、クリアントがずっと一人で呟いているように見えたのだろう。

 戦いに集中していない、そう思われても仕方がない。

 怒鳴り声と共に釘バットが振るわれる。

 

「よし、ともあれ当たってみないとな」

 

 クリアントは構えを解き、棒立ちになる。

 無防備に、振るわれる釘バットに吸い込まれるように頭部を晒す。

 

「……な、に?」

 

 ミミラルは虚を突かれたような表情をし、しかし釘バットの勢いを止めることも出来ず、そのまま振り下ろす。

 

「……はは」

 

 頭部から夥しい血液が流れ出る。

 確実な致死量のダメージ。

 少なくとも、END主体のステータス構成ではない。

 それをクリアントは自身の死で確認した。

 

「……ッ! 死ねや」

 

 クリアントの頭部で止められた釘バットをミミラルは振りぬく。

 HPの減少はより急速に増していく。

 

「死は確実だな。なら、最後にせめて……」

「あ……?」

 

 これまで釘バットを振られていたため近づけず触れることのできなかったミミラルの体。

 それにマッドラップスの鎧を触れさせる。

 

「能力は分からなかったが、相打ちだ」

 

 その言葉を最後に、クリアントの現在の肉体のHPはゼロになった。

 

 

 

 

「っと」

 

 そして、新たな肉体に意識が宿る。

 

「さて……」

「死ねや!」

 

 状況を確認しようとしたクリアントに釘バットが振り下ろされようとする。

 

「っ!?」

 

 それを辛うじて躱しつつ、クリアントは攻撃した相手――ミミラルの姿を見て驚く。

 

「毒に……なっていない?」

 

 その肉体は綺麗なものであった。

 マッドラップスによる《毒呪変容》など全く効いておらず、肉体の一片も毒に変質していない。

 

「……なんだてめえ。気味悪いな。肉体を残して……蘇生系の能力か」

「なら、一応保険をかけておいた――」

 

 残っているクリアントの死体に目を向けようとした瞬間、ミミラルは大きく飛び退いた。

 

「おおっと。てめえの能力……ωの力は知ってるんだよ。みすみす爆発に呑まれると思うな」

「……」

 

 クリアントの死体が爆発する。

 だが、その爆発には誰も巻き込まれない。

 後には何も残らず、ただ地面が少し抉れただけであった。

 

 これこそが【魔法少女ω】の忌むべき固有能力、自爆である。

 生きている間でも、死ぬ寸前でも、死んだ後でも。

 予めタイマーをセットしておくことで自身の肉体を爆発させることが出来る。

 威力はレベルに応じたものであるが、至近距離ならば今のクリアントのレベルでも十分に致死量を与えることが出来る。

 死が前提の力。

 バトルロワイアルにおいては全く意味を成さない力であるが、それはクリアントのエンブリオの能力とかけ合わさることで真価を発揮する。

 10の命……10の爆弾を作り出す力に等しいのだから。

 

「アタシらはよ、ωの能力だけは知ってるんだぜ。外れの魔法少女。終わりの魔法少女。誰も成りたがらない魔法少女だからよ。うっかり自分が成らないようにな」

「そうか? こんなに便利じゃないか。耐久力だってある」

「ハッ。てめえみたいな陰険な奴にはお似合いだろうな! だがよ、そんなのに成りたがるのは魔法少女に成りたいやつじゃねえ! 命を無駄にする狂人だけだ」

 

 相手はクリアントの肉体が爆発することを知っている。

 ならば……生きている間に巻き込むか、とクリアントは考える。

 

「ッラァ!」

 

 だが、相手の振るう釘バットが邪魔だ。

 これがクリアントの爆発のタイミングを狂わせる。

 確実に仕留めるなら触れるくらいの距離でありたいのだが、釘バットのせいで1秒と近づいている時間がない。

 

「先輩、どうします?」

「……とりあえずもう一度試してみるか」

 

 釘バットを避けつつ、ミミラルの体にマッドラップスを当てる。

 だが、何も起こらない。

 

「……状態異常無効化? だが、それすら無効化するのがマッドラップスの毒だが」

「カラクリのある無効化ですか」

 

 二度、三度と触れようがミミラルの肉体に変化は起こらない。

 ただの無効化ではない。

 

「さっきから避けるのだけは上手いじゃねえか」

「まあな。死線だけは何度も潜ってきている」

「潜っているというよりも、踏みまくっているんですけどねぇ」

 

 グラスコードの群れに比べれば、釘バットの1本程度避けるのは容易い。

 だが、いつまで避けていても勝つことは出来ない。

 

「俺も成長したってことだな」

「嫌な成長の仕方ですけどね。生き残ることばっかで私の力全然使ってくれないじゃないですかー」

「使うべき時は使っているだろ……っと!」

 

 ミミラルの足を払う。

 全力で釘バットを振った後にバランスを崩されたミミラルは後ろへ転ぶ。

 

「――きゃッ!?」

 

 その顔面目掛けてクリアントは蹴り入れる。

 

「今何か可愛い声が……ていうか先輩、最低過ぎないです?」

「戦闘の最中だ! どのみち、どちらか死ぬんだからいいだろ」

 

 白い肌にクリアントの靴の跡がくっきりと付く。

 

「うわぁ……跡になっちゃってるじゃないですか。どうするんです? 責任とか取らないでくださいよ」

「……死んだら傷は全部消えるんだろ。いや、全然ダメージになっていないけど」

 

 これで目に見えたダメージが少しだけ与えられただけだ。

 

「先輩、武器どうしたんです? 大剣持ってなかったでしたっけ」

「あれは海底の戦いで失くした。というか、どの武器もしっくり来なくて余計に戦いづらいんだよな」

 

 追撃はかけない。

 ミミラルが立ち上がるのを待つ。

 

「……ふむ。なるほどな。そういうカラクリか」

 

 そして、立ち上がったミミラルを見て、クリアントは理解した。

 ミミラルの力を。

 

「エンブリオか魔法少女の固有能力か。どちらかは分からないが、ワンプのと似たようなものみたいだな」

「……チッ。よくもやってくれたな」

 

 鋭い眼光を飛ばすミミラルの顔にクリアントの靴の跡はない。

 拭ったわけではない。

 傷が自動で回復した可能性もあるが、土の一つも付いていないのはおかしい。

 

「肉体の保護……いや、回帰か? 毒になってもその肉体とは別物の肉体になっている。だからマッドラップスが効かなかったんだな」

「……毒か。ああ、そうだぜ。それがアタシのエンブリオ、【清体処女 ヘスティア】の力だ」

 

 

 

 

 【清体処女 ヘスティア】。

 それはクリアントのエンブリオである【泥中別誕 スワンプマン】とは似て非なる能力を持つ。

 死んで新たな肉体に成るスワンプマンと違い、ヘスティアの特性は清い体のままでいること。

 

 能力は状態異常など、ダメージ以外の肉体変化が起きた時にその状態以前に肉体を戻すというもの。

 ダメージは負う。

 だが、毒も火傷も傷も見た目上は負わない。

 マッドラップスの毒によって肉体が毒へと変質したとしても、変質する前の肉体に引き戻されていく。

 バフもかからないというデメリットはあるが、【魔法少女ζ】もまた高いステータス補正がかかる魔法少女だ。

 素のステータスの高さと状態異常にならないというこの2つがミミラルの力。

 何者にも侵されず、犯されないヘスティア神の加護の下にあるミミラルの肉体に手をかける者は決して現れないのだ。

 

 

 

 

「ヘスティア……処女神か。なるほどな」

「おい、処女神とか言うな。恥ずかしくなるだろ」

「自分で清体処女とか言ってましたけどねー」

 

 マッドラップスの毒は効かず、ステータスも恐らくは負けている。爆発も見抜かれている。

 クリアントの残された武器は生き返ることくらい。

 

 ならばできることはもう無いだろう。

 

「よし、偵察はこのくらいで終わりだ」

 

 しゃがみ込み、地面の土を盛大に巻き上げる。

 子供じみた真似をして、ミミラルの視界を塞いだ。

 

「……は?」

 

 ミミラルはクリアントから一瞬だけ視界を外す。

その隙を見逃さず――クリアントは戦闘から逃げ出した。

 

「ちょ、待てよ!」

 

 森の中での戦闘。

 それは逃走劇へと転じた。

 

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