<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【魔法少女ω】クリアント
逃走。
それはこの広い森の中でどう行おうと、敵が1人でない限りは逃げ場がないと表すことになるだろう。
ミミラルとの戦いから逃げようと、次の魔法少女が現れる。
倒したとしても現れるのだ。
倒さず逃げたとするならば、悪くて挟み撃ちだろう。良くて三つ巴の戦いに持ち込める。
だがそれも闇雲に、逃げ場所を考えずに走り出した時のことだ。
クリアントは明確な逃げ場所を考えていた。
当初から目的地としていた場所……森の中央に位置するバーンマウントマウンテンである。
「おい! その先は――」
後方を走るミミラルの声が聞こえる。
その声は明らかに焦っている。
山頂に何があるのかを知っているのだろう。
それについてはクリアントも知っている。フィリップが求める3つの宝のうちの1つ――それを所持しているモンスターがいる可能性がある。
グラスコードという存在がいたならば、同様の強さのUBMが山頂に鎮座している可能性もある。
だが、それでもクリアントは駆ける。
どのみちミミラルには勝てない。
ならば、そのUBMに殺されるのとミミラルに殺されるのはそこまで大差ない。
UBMの情報が分かる程度だ。
「……ッ!?」
軽い衝撃と共に右腕に痛みが走る。
見れば、肘に釘が刺さっていた。
見覚えのある釘だ。
ミミラルの持つ釘バットに刺さっていた釘に酷似しているような――
「止まれやゴラァっ!」
振り向けばミミラルは宙で釘バットを振っていた。
遠心力を利用しているのか、それともそういう仕様なのか、ミミラルの動きに合わせてバットから釘が発射されていく。
「……ダメージが少ないのが幸いか!」
木の陰に隠れながら釘の雨をやり過ごす。
「あれ、自動的に補充されているんですかね。釘が減った様子ありませんよ」
「弾切れは狙えないってことか」
威力は大したことなく、釘に毒が付与されている様子もない。
メインは近接攻撃で、こうして遠距離も対応が出来るといった程度の武器なのだろう。
「どうします?」
「んー……足に刺さらないように気を付けながら……進むぞ!」
弾切れは無くとも、ミミラルのスイングに合わせて釘が発射されるなら、無尽蔵に打ち続けられるわけではない。
必ず、振り下ろした時から振り上げまでのタイミングで釘の雨は止む。
「今だ!」
そこからは一切振り返ることなく進む。
ミミラルの怒号は聞こえるが、気にせずクリアントは山頂目指し走る。
「……え? あ、ま、【魔法少女κ】スーダ! いざ尋常に――」
「我が名は【魔法少女π】ムートン・ラム。刀の錆に……あれ?」
「わぁたぁしぃのぉ名前ぇはぁ、【魔法少女τ】トゥアーラ。あぁれぇ? おぉとぉこぉのぉこぉ?」
途中、3人の魔法少女に出くわすも全て無視する。
どうやら3人とも互いに敵同士のようで、先のミミラルと共に小競り合いをしながらクリアントを追ってくる。
「……いや、4人で潰し合ってくれればいいんだが」
「それだけこの先に行ってほしくないみたいですねー」
このままでは追いつかれるだろう。
森を走り慣れないクリアントに比べ、地理を把握している魔法少女達の走り方に躊躇いは無い。
「海なら負けないんだが……」
「海は海で、本職の潜水系統の人たちに負けますけどね」
何かアクションを起こす必要がある。
魔法少女4人を足を止めさせる何かが。
「残りは9回か……1回くらいはいいだろう」
クリアントは立ち止まる。
そして、アイテムボックスから取り出した短剣を手に持つと――
「ようやく戦う気になったか?」
「え……本当に戦うの……?」
「ふはは! 我が愛刀は汝の血を欲しておる」
「そぉこぉかぁらぁ先にぃはぁ」
4人の魔法少女の前には短剣を構えたクリアントが立っている。
「……」
クリアントは口を開かず、ただ無暗に短剣を振り回している。
「……?」
4人共にクリアントの動きに首を傾ける。
クリアントの視線は4人の方を向いているようで向いていない。
4人が近づこうが短剣を振り回し続けるし、遠ざかろうと振り回し続ける。
「……なんだ?」
ミミラルはその動きに疑問を持つが、具体的に何を不思議に思ったのか分からない。
ただ、機械的に動かしているような、決して上手いとはいえないクリアントの短剣捌きは――
「ループしているのか?」
一連の動作は約10秒程度。
その後はまるで10秒の動きが1つの型と言うかのように繰り返している。
「こ、怖いけど殺さないと……」
「愛刀に裂かれよ」
「きぃぃぃっっくぅぅぅぅ」
その間にもミミラルを除いた魔法少女3人はクリアントに攻撃を仕掛ける。
それぞれ、手にした人形や刀、己が肉体を以て、クリアントを排除しようとする。
「……チッ。そういうことか」
ミミラルは気づくが時すでに遅し。
短剣を振り続けていたクリアントの動きが止まる。
そして――爆発する。
近づいた3人の魔法少女を巻き添えにして。
「……どこに行きやがったぁ!」
ミミラルの怒声が森に木霊する。
だが、その声はクリアントに届かない。
すでにクリアントはミミラルのいる場所から数百mは離れた場所――暗雲立ち込める山頂に入っていたのだから。
「そろそろ時間ですかね」
「ああ。もう爆発した頃だろうな」
〈異身伝心 儀ノ四〉。ワンプのエンブリオが第三形態になったことで得た新しいスキルである。
その能力は死体の行動化。
死ぬ直前10秒の間で行った動作を、死んだ後に残した肉体で3分間反復するというものである。
走っていれば走るし、言葉を発していれば発する。
短剣を振るっていれば、10秒間の動作を18回反復する。
とはいえ、自在に操れるわけでもなく、攻撃させようとしても避けられたら何もない空間をただ攻撃し続けるという良い的になってしまうだけだ。
事前に決めた行動しか行えない。
その欠点がどうしてもクリアントにとっては使いづらいと思える点である。
「だが、囮としてなら有効に活用できそうだな」
「ωとも相性が良さそうですね。運良く囮に食いついた魔法少女がいれば爆発に巻き込めますし」
死体はクリアント自身であることに違いはない。
そのため《看破》を使われようと偽物としては判定されず、クリアント自身と出るだろう。
よほど高レベルの、ステータスからすでに死んでいるという状態を読み取らなければ、データ上からクリアントか死体かの見分けは出来ない。
見た目から見抜かれても良い。
一瞬でも足止めできれば。
もしくは、偽物と見抜いて近づいてしまっても。
最後に残した死体は爆発させるのだ。
証拠を隠滅するかの如く、死体はその場に残さない。
「最後に確認したのだと魔法少女は4人いましたけど……何人か死にましたかね」
「どうだろうな。まあひとまずの目的は達成した。命のストックは残り8か。大事にしておかないとな」
爆発した場所にいないため、どの程度の被害を出せたのかは分からない。
生きているのか死んでいるのか。
はたまた、誰もいないところで爆発したのか。
「あ、先輩。絶対にテリトリーから戻さないのでよろしくお願いしますね」
「……まあ、それは別にいいけど。本当に雷怖いんだな」
暗雲の中は視界が悪い。
更に、そこにいるだけで状態異常にかかってしまうようだ。
【帯電】という、雷系統の攻撃を受けた際にダメージが増加するという状態異常にかかっていることを確認しながらクリアントは進む。
「鬼が出るか蛇が出るか……どっちでしょうね」
「視界が悪すぎてどっちが出ても気づけるかどうか分からないな」
ωは【深潜水士】とは相性が悪かったのか、スキルを使うことが出来ない。
【高位呪術師】に視界を良好にするスキルや魔法も無いため、このまま暗雲を突き進むしかクリアントには出来ない。
ただし、クリアントは山頂に至ることは出来なかった。
その前に、山頂の主が自ら出てきたからだ。
『……我が領土に断りもなく入るか。礼儀知らずの人間よ』
暗雲の中でも暗く光る1匹の竜。
竜王に成れなかった竜種。
竜王を捨てた竜種。
黒い雷を操る竜種。
「……UBMか」
クリアントの《看破》でも名前と等級だけは辛うじて読み取れた。
その名も【黒雷竜 ドラゲイル】。
その等級はグラスコードと同等。
つまりは、古代伝説級であった。
原作様で最強さんが暴れまくっててステータス表記がどの程度が妥当なのかますますわからなくなったわよ
上級職でも重ねまくってレベルカンストさせていれば10000くらいはいってもいいのかな……?