<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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40話 ドラゲイル

■【魔法少女ω】クリアント

 

 視界不良の中、【黒雷竜 ドラゲイル】の声が木霊する。

 

『その気配……なるほど。貴様も魔法少女だとかいう狂った人間の1人か』

「……狂った人間?」

『魔法少女だからという理由で我に戦いを挑み殺される……面倒な程の数を殺したが、殺しても次々と現れる。貴様もその手の人間だというのなら別に遠慮はいらぬな』

 

 暗雲の中でドラゲイルの体が黒い稲妻を光らせる。

 

 浮き上がったドラゲイルの体は想定よりも大きくはない。

 5m程度。グラスコードの手足である【グラスコード】の倍程度だろう。

 だが、その威圧感はグラスコードと同じかそれ以上ある。

 グラスコードは巨大であったが、ドラゲイルは強さを圧縮したとさえ感じる。

 

 間近で見ようと、クリアントの《看破》では名前以上の情報は無い。

 【黒雷竜 ドラゲイル】、古代伝説級という等級、そしてこの稲妻を纏う暗雲……雷系統の竜であることしか分からない。

 レベルもステータスも見えず、スキルも名前すら分からない。

 

 だが、それはグラスコードを相手にした時も同じだ。

 グラスコードの力は最後まで見えず、しかし最後には勝利した。

 クリアント1人で勝つことは出来ずとも、死ぬ理由さえあるのならば、クリアントの戦いに意味は出る。

 

「俺は成りたての魔法少女でな。別にお前のことなんて知らない。ただ、見晴らしの良さそうな場所を目指して来ただけなんだ」

『……何を言っているのか分からぬな』

「だろうな。だが、せっかく来たんだ。少しくらい力試しをさせてもらうとしよう」

 

 【魔法少女ω】の高い耐久力。

 加えて、スワンプマンの肉体創造能力。

 最終目標であろう宝物を所持するUBM――ドラゲイルの力を見るならば、クリアント単独の今の方が都合は良い。

 

『ついでとばかりに戦闘か。やはり貴様も気が狂った人間の1人だ』

「山の下にはたくさんいるぞ。お前に喧嘩を売ったとかいう魔法少女が」

『知っている。邪なる存在である我を放ってはおけまいと、そう判断する魔法少女もいるのであろう』

 

 ドラゲイルの体から暗雲に稲妻が走り伝わる。

 その速度はまさに光の如く。

 一瞬にして山頂を満たす暗雲にドラゲイルの稲妻が付与される。

 それは、クリアントの肉体を消し炭にするには十分すぎる威力であった。

 

『良い機会だ。貴様ら魔法少女を纏めて一掃することにしよう』

「――ッ」

『まずは貴様からだ。我が領土に侵入した狂人よ。そして次は……森にいる魔法少女全員。奴らを根絶やしにしよう。我が邪なる雷によりな』

 

 全身に走る熱さ。

 それを体験し、そして新たに冷めた体で意識を取り戻したクリアントの視界は、再び森の中にあったのであった。

 

 

 

 

「……会敵時間1分ちょいか」

「ここで肉体が再創造されたということは、山頂の暗雲全てが危険地帯になったってことですね」

 

 山頂全てがドラゲイルの支配下であり、攻撃範囲内。

 それも、クリアントが即死するほどの威力を持つ電気の塊だ。

 

「お前……UBMが出てからずっと黙ってたな」

「いやぁ。だって目を付けられたくないじゃないですかー。おへそ盗られちゃったら大変ですし?」

「今はテリトリーだから実体ないし、声も俺以外は聞こえないんじゃなかったか?」

「ほら、先輩が独り言呟いているおかしな人だと思われるだけなら良いんですけど、私の存在を勘付かれるかもしれないじゃないですか」

「……」

 

 まあ、ワンプが戦闘中に話していようがいまいが、能力の強弱が付くわけでもない。

 クリアントとしてはそれよりも気掛かりなことがあった。

 

「話は聞いていたよな?」

「ええ。先輩の言葉なら一言一句逃さず聞く姿勢のワンプちゃんです」

「俺のじゃなくて、あのUBMの言葉だ。……魔法少女を根絶やしにとか言っていたな」

 

 恐らくであるが、魔法少女の全員が〈マスター〉だろう。

 バトルロワイアルにティアンが混ざっているとは考えにくいし、クャントルスカを始めとした他の魔法少女達も参加させないはずだ。

 ならば、根絶やしにとドラゲイルは言っていたがそれは不可能。

 殺されたとて3日間のログイン禁止というペナルティが課せられるだけ。

 

「完全に先輩のとばっちり受けていますよね。山の麓にいる、なんて言わなければ他の魔法少女さんたちも狙われなかったでしょうに」

「いや、ドラゲイルは魔法少女の存在は知っていると言ってたぞ……本当に俺の言葉しか聞いていなかったのか? とばっちりというなら俺の方だぞ……これまでの魔法少女達があいつに挑みまくっていたみたいだからな」

 

 フィリップ以外にもドラゲイルと戦う理由が魔法少女達にもあったというのか。

 ならば、ドラゲイルの棲み処であるバーンマウントマウンテンという山のふもとにある森でバトルロワイアルを行っているのは偶然ではなく必然なのか。

 そもそも【魔法☆少女】とは何なのか。

 

 ここにきて疑問がいくつか湧き上がる。

 

「……合流しなければいけないか」

「そうですね。情報収集は出来ませんでしたし、何だったら場をかき乱しただけかもしれませんが。それはそれで良いんでしょうね」

「ああ。俺の力だと他の魔法少女を倒すのは難しそうだ。だったらあのドラゲイルとやらに倒してもらうのも……?」

 

 いや待て、とクリアントはドラゲイルの力を利用しようとする考えを改める。

 下手をすればフィリップやクャントルスカを巻き込んでしまう。

 それをしてしまえば本末転倒だ。

 クャントルスカを【魔法☆少女】にするという約束がクリアントの手で台無しとなってしまうだろう。

 

「……あー。2人に教えるためにも早いところ合流しないとな」

 

 フィリップ達の現在位置は分からない。

 だが、フィリップにはクリアントの持つマッドラップスを起点として使える索敵能力がある。

 クリアントにその精度は分からないが、それなりに高いと推測している。

 

「……先輩」

「どうした? そんな怯えたような声を出して」

「……怯えた声って言い方可愛いですよね。保護欲を駆り立てるみたいな」

「嗜虐心が駆り立てられる奴もいるから要注意な」

「まあ、先輩に苛められるのも……じゃなくて先輩。雲が……広がっていますよ」

「……うん?」

 

 山頂のみを覆っていた分厚い雲は薄く広がり、森全土の空へと広がっていた。

 その雲全てには稲妻が宿っていた。

 

「……あれ、どう思う?」

「間違いないでしょうねー。先輩の思う通りのことが起きると思いますよー」

「……最初よりも冷静なんだな。雷が怖いとか言っていたのに」

「先輩。恐怖も度を越すと、簡単に冷静になっているように見えるものなんですよ」

「いや、怖いのかよ」

 

 ドラゲイルの支配下にある暗雲は稲妻を貯める。

 それそのものが武器であり防壁であり領土である。

 そして、それが空に広がれば、雷を降らせる天災となる。

 

「……先輩!」

「ああ……!」」

 

 クリアント目掛けて一筋の雷が降り注ぐ。

 その範囲はクリアント1人分の面積と全く同じもの。

 転がるようにして避けたが、焼け焦げた地面を見て、その範囲の狭さを理解した。

 

「本当に俺単体を狙ったようだな」

「いえ先輩……これ、先輩単体ではないみたいですよ」

 

 轟く雷鳴音は重なって聞こえた。

 そして、避けながらクリアントとワンプは見ていた。

 自身の真上から振る雷と全く同じ柱が、森の中で同時に20本近く立っていたことを。

 

「1人1人狙うではなく……」

「全員を纏めて一掃……」

 

 森の中でのバトルロワイアルはこの時を以て更に加速する。

 敵は同じ魔法少女だけではない。

 天災が魔法少女達を殺しにかかる。

 

 天気は移ろいやすい。

 快晴は瞬く間に雷鳴轟く曇天の空へと変わりゆく。

 

 雷は魔法少女の命と同じだけ降るでしょう。

 

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