<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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41話 ぬかるみ

■【黒雷竜 ドラゲイル】

 

 雷鳴が空に轟く。

 同時に17本の雷が森に落ちた。

 

 雷の数は先ほどよりも1本少ない。

 

『此度の魔法少女らは些か力を付けているようだ』

 

 山頂から森全体を見渡す1匹の竜――ドラゲイルは雷を数えながら呟く。

 百年前の儀式であれば、数回の落雷で全滅していた。

 だが、近年は違う。

 まるで、人間としての種そのものが進化したかのように、強さがまるで異質である。

 

『……ふむ。このまま時を待てば殲滅は可能か』

 

 だが、魔法少女の多くは雷をただ避けているだけ。

 対処法としては正しいが、それはドラゲイルの《天災罰》を真の意味で理解したとは言えない。

 

『あの男……まだ生きていたか』

 

 雷雲にて確実に仕留めたと思っていたが、未だ森の中を駆ける姿が見える。

 雷に耐性があるのか、それとも超常的な回避力の持ち主か……いずれにせよドラゲイルにとっては厄介な男。

 

『まあ、良い。罰はまだある。雷雲に入ったあの者にはすでに《耐雷罰》による雷への弱体化がかかっている。一度でも、だ。一度でも我が雷に触れればそれであやつは即死であろう』

 

4度目の雷。

今度は2人の魔法少女が死んだ。

残りは15人。

 

 5度目の落雷。

 防御に構えていた魔法少女5人が死んだ。

 残りは10人。

 

『無駄に足掻こうとして、故に死ぬ愚か者が多かったな』

 

 《天災罰》は決して耐えることが出来ない即死の雷。

 条件付きの即死攻撃に抗える者はいないのだ。

 

 だが、数度の《天災罰》で見切った者もいるようだ。

 明らかに、《天災罰》に対策をした動きを見せる者もいる。

 

『なるほど……強さだけではなく、知恵もあるというわけか』

 

 このままでは魔法少女達の死は加速するであろうが、数人は生き残る。

 それでは駄目なのだ。

 ドラゲイルとしては殲滅が目的。

 1人だけ生き残り、【魔法☆少女】が誕生してしまうという結果に至ってはいけない。

 

『距離を置いた我が邪雷ももはやここまでか。ならば直接森に赴き……』

 

 そうか、とドラゲイルは至る。

 ただ殺すのもつまらない。

 邪竜であるならば、殺しにも遊びは必要だ。

 

『これもまた余興。要は、我が最後の1人を殺せば、此度の儀式も無駄に終わる』

 

 ドラゲイルの姿は縮んでいく。

 像程度にはあった竜は人間――少女の姿へと。

 

『我も参加しようではないか。人の姿を真似る程度、我にとっては然程のことではない』

 

 それは森で戦う魔法少女の姿と差異は無い。

 誰がどう見ようと、姿形は魔法少女そのもの。

 

『く、かか……いや、口調も改めねばならぬな。そう、少女らしい口調を……』

 

 ドラゲイルは森の中へと悠々と歩いていく。

 その歩く様もまた、魔法少女そのものであった。

 

 

 

 

■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ

 

「ふむ……これは困った」

 

 雷を避けながらフィリップは走る。

 避けること自体は簡単だ。

 上空に発生した雷の塊が自身に落ちるまでの速度。

 そのタイミングさえ掴んでしまえば、瞬きの間よりも速く落ちる雷とて避けることは出来るだろう。

 

「クャントルスカともはぐれてしまったし、クリアントもまだ遠い……いや、一度死んだね。彼に瞬間移動の力は無いから、死んで移動した、か」

 

 フィリップの索敵能力はクリアントの持つマッドラップスに反応する。

 山頂近くまで登っていたマッドラップスが突如森の中へと移動したのだ。

 そして、その直後の雷。

 

「間違いなく、彼の仕業なのだろうけど……ははは。思っていたよりもやってくれるじゃないか」

 

 場をかき乱す。

 森の中をかき荒らす。

 全員が死にやすい状況を作る。

 

 フィリップやクリアントにとっては通過点であるこの戦いも、魔法少女たちにとっては貴重な一つの戦い。

 それをクリアントは穢した。

 横やりを入れさせてしまった。

 

「だが、無駄な戦いが減るのならば、問題としては残らない」

 

 21人の魔法少女全てと戦えばそのどこかで負けるだろう。

 戦いの度に回復が出来るわけではない。

 今もMPは大きく減ったままだ。

 

「必殺スキルの使用を考えると……戦闘もあと一回が限界かな」

 

 グラスコードの手足のように十把一絡げに倒せればよかったが、魔法少女達は1人1人が強者。

 一つ一つの戦いに集中しなければ、勝てる戦いは無い。

 それを思えば、ただ雷を避けている方が遥かにマシである。

 

「……依然として落雷は続く、か。まあ良いだろう。要は、動き続けていればいいのだから」

 

 そう、まずは動くことからである。

 避けるとはつまりその場から逃れるということ。

 

 動けなくなってしまえば避けることもままならない。

 

 落雷の条件も凡そ予想は付いた。

 その上で休憩とばかりに足を止めた瞬間であった。

 トプン、とフィリップの足元がぬかるむ。

 

「……?」

 

 ぬかるみは加速度的に水気を増していく。

 膝が埋まる程度には水が現れ――

 

「これは……デメンタリーと同じ……!?」

 

 そしてフィリップの全身は水に包まれる。

 足元から生えたかのような水は逃れようとするフィリップを絡め取る。

 

「……動けない、か」

 

 デメンタリーの水圧による拘束とはまた違う。

 水が意思を持っているかのように、フィリップを逃がさない。

 

「まさか私が水中で動けなくなる日が来るなんてね」

 

 水中であっても呼吸は出来る。

 【深潜水士】のスキルによる呼吸時間延長……ではなく、この水牢が呼吸を妨げるというものでは無いのだろう。

 

「なるほど……中の者を動かせなくする。それだけに特化した力というわけか」

 

 それだけにリソースを絞ったのであれば、概念的に動けないのだろう。

 力づくによる拘束ではなく、動けない状況を作り出す水牢。

 これだけで終わるとは思えない。

 閉じ込めるだけでは……

 

「いや……そうか! 動けない……つまりは落雷が来る!」

 

 水牢が決して外界と離されているというわけではない。

 むしろ外部からの攻撃――落雷に当てるためのもの。

 

「くっ……ノーチラス!」

 

 フィリップは自身の背面にノーチラスを出現させる。

 水牢……つまりは水中だ。ならばノーチラスはその全身を余すことなく現わせる。

 

 ノーチラスの鼻先で無理やり水牢から押し出されたフィリップは空中から地上へと受け身を取りながら転がる。

 

「……っ。これだったら近接戦闘系の職業をもう少し勉強しておくべきだったかな」

 

 落雷は水牢に、そして内部に出現したノーチラスへと電撃を与える。

 

「……ノーチラスにダメージは無しか。これはノーチラスの耐性が上回ったのか、それとも私個人を狙った概念の攻撃だったからノーチラスは無事だったのか」

 

 落雷を考察しようとするフィリップであるが、それは許されない。

 何故ならば、またもフィリップの足元はぬかるんだからだ。

 

「……これは私個人を狙った攻撃か。雷とは関係の無い、魔法少女の固有能力かエンブリオによるもの!」

 

 フィリップはその場から跳び退く。

 一度でも移動したことが条件から外されたのか、避けた先で更に足元から水が産まれる気配はない。

 

「……なるほど。これもまた常に移動していなければならない類の攻撃か」

 

 落雷と水牢。

 今のフィリップにとって致命打に成り得るその2つは奇しくも似通っており、かつ相反しない攻撃であった。

 

「あぎゃぎゃぎゃ。わちゃの牢屋に気ぢゅくなんて、ちゅごいにゃぁ」

 

 わざとらしい舌足らずな口調と共に現れたのは、赤子が着るようなベビー服のような衣装を着た魔法少女であった。

 両手にはおしゃぶりと、がらがらと音を出すラトルがそれぞれ握られている。

 

「わちゃに無かったダメージ源。それが天から降ってきた。ちゃんもわちゃの牢屋に閉じ込められて、ちぬにゃ」

「さて、それはどうかな。赤子を下すのは趣味では無いけど、君は赤子を模した魔法少女のようだ。ならば一切の手加減なく、君を倒すとしよう」

 

 武器に類するのはおしゃぶりとラトル。

 形状としては武器に成り得ない。

 ならば特典武具の可能性もある。

 

「まさかこの落雷を利用する者がいるとは思わなかった。……が、利用せざるを得ない程弱いという可能性もある。偶然、君の戦闘スタイルに合致した……運良く縋ることが出来たかもしれない。面白い。君の戦い方に興味が沸いた」

「わちゃの戦闘シュタイル……? それを見抜いたところで、ちゃんはちぬ。おちえてやろう、わちゃは【魔法少女σ】ツーウェイオール。ちょちて、エンブリオ……【未命落命 ミズゴ】の力を」

「ははは。早速教えてくれてありがとう。私はフィリップ・ノッツ。【魔法少女 ψ】の魔法少女にして、エンブリオの銘は【神秘探究 ノーチラス】」

 

 互いに名乗りを上げて、落雷降る中で戦いは始まった。

 

 




ちょいアングラ寄りのエンブリオかもしれないが、アングラ覗いたらもっとアレなのもあったし、いけるだろってことで
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