<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
やっぱり登場人物は多ければ多い程良い
かませは多ければ多い程良い
というわけで今回のかませかもしれない人たちです
■【魔法少女β】プシュケー・アーチ
「行きましょうか皆様」
空から雷が落ちると同時に、その魔法少女は動き始めた。
「ええ」
「勿論」
「無論ですとも」
「異論なく」
「ようやくですか」
「何が起こるんだ」
その言葉に頷く者、総勢9名。
いずれも魔法少女の衣装を着ている。
「主役は遅れて到着するというもの……つまり、場が整ってから動き出すのがベストです」
「なるほどな」
「そういうことか」
「得心いった」
「すごいな」
「どういうことだ」
発する言葉は様々であるが、彼らの顔は皆同じ。
動きすらも一糸乱れぬ整列具合である。
「行きましょうかワルキューレ部隊。美しき我らの、可憐な我らの、正しき我らの行いを他の魔法少女に見せてあげましょう」
9名の魔法少女の前に立つ1人の魔法少女。
その顔もまた、他9名と同じもの。
否、その先頭の1人こそオリジナルである。
【魔法少女β】プシュケー・アーチ。
主な得物は槍。
装備した武器の性能を向上させる【魔法少女β】により、並みの魔法少女であればその一刺しで勝負を決める強者。
この森の中でも頂点に近い魔法少女。
バトルロワイアル生き残りの最有力候補である。
「……うーん。やはり可憐の前に、正しさの前に、それ以前に美しい」
と、プシュケーは己と全く同じ顔の9人に見惚れる。
「衣装が似合います。髪飾りが似合います。武器が似合います。ロケーションが似合います。エンブリオも、ジョブも全てが似合っています」
パシャリ、パシャリとスクリーンショットを何枚も撮っていく。
それに合わせて数名のプシュケーと同じ顔の魔法少女がピースをしたり、煽情的なポーズを取ったりと、プシュケーを喜ばせる。
「ああ! 良いです! すごく良い! 良すぎて……ああっ!」
プシュケーは己の身体を抱きしめる。
ともすれば、変質者のような興奮の仕方であるが、それも仕方ない。
彼女は自己愛者であり、自他共に認める程には美しい容貌をしているのだから。
「写真ですか」
「撮っているのですね」
「何かしましょう」
「動いてみましょう」
「何をしているんだ」
ただ、欲を言えば知性はもう少し欲しかったとプシュケーは思う。
語彙力の低さというか、返答は短文一つのみ。
短い返答、意味の無い返答、ただの肯定。
9名の魔法少女との会話はこれだけである。
しかしそれは当然のこと。
彼女らの本質は別にある。
会話は最低限。
知性も最低限。
与えられているのは戦闘力のみである。
それこそが【戦場乙女 ワルキューレ】。TYPE:レギオンのエンブリオなのである。
「皆様、武器をお持ちになって」
「持っています」
「所持しています」
「装備しました」
「剣と盾があります」
「武器ってなんだ」
プシュケーが槍を持ち、他の9人の魔法少女の衣装を着たワルキューレが大剣や細剣、斧や鎌などを持っている。
「この雷は大して怖くありませんわ。それよりも、私たちにとって重要なのはα……クャントルスカです」
槍を握る手に力が込められる。
【魔法少女β】の力で強化された槍は微塵も軋むことは無い。
だが、その手は揺れていた。
「あの魔法少女を私たちの手で殺しましょう。そして、私たちは至るのです。【魔法☆少女】へと」
プシュケーは槍を高く掲げる。
それに同意するかのように、他のワルキューレ達も各々の武器を高く掲げた。
その頭上から雷が落ちようとも、彼女らに当たることは無かった。
■【魔法少女η】狂ヶ咲夢味
「おっおきな音が~鳴る空は~」
「かっみなり落ちる~暗い空~」
2人の魔法少女がステップを踏みながら森の中を歩く。
その2つの顔は全く同じもの。
「ドッペルちゃん、ドッペルちゃん」
「なぁに? 夢味ちゃん」
手を繋いで歩く2人であるが、その歩調は乱れない。
スキップをしようと、全力で走ろうと、1人で走るのと2人で走るのとで差は生まれない。
「さっきね、全く同じ顔の男の人が2人いたんだ」
「え、うそー! もしかして私達と同じなのかな」
2人の少女は笑いながら歩く。
驚いた声を出しながらも笑顔は揺るがない。
「エンブリオは同じものもあるって聞いたことあるからね」
「だとしたら仲良くなりたいね。あっちも仲がいいのかな」
2人の声は森に響く。
ただでさえ少女特有の高い声に加えて、彼女らは声を潜めない。
故に、他の魔法少女達は容易に2人を補足する。
「ぜぇ……ははっ! ツキが回ってきたってか! 死ねやぁっ!」
それは、とある魔法少女(男)の仕掛けた罠による爆破ダメージを負った魔法少女であった。
彼女自身は回復アイテムによりHPは回復していたが、 彼女の持つ釘バットはその性能を大きく失っていた。
釘の投擲は出来ず、ただ真正面から叩きつけるのみ。
それでも、森という地形を生かせば不意打ちはいくらでも行える。
そんな折に彼女は2人組の……双子のような魔法少女を見つけた。
「ははっ! これもヘスティア様のご加護だ!」
釘バットを大きく振り上げ、彼女らの死角から2人纏めて打ち上げようと振るう。
「貴方も仲良くできるといいね!」
「無理だよ! だって、殺し合おうとしているんだもの」
2人の魔法少女……その片方の影から1人の人間が這い出ると、バットを持つ魔法少女へと自身のバットを振るう。
「……んなっ!?」
仕掛けた側の魔法少女――【魔法少女ζ】ミミラル・ルートは驚きつつも冷静にその人影に対して改めてバットを向けるも、止まる。
「……どういうことだ」
ミミラルは眉を顰める。
それもそうだ。
目の前にいるのは、ミミラル自身と全く同じ姿をしているのだから。
「みぃんな知らない知らないの」
「世界はとても広いから」
「同じ顔の人もいる」
「それが私、ドッペルゲンガー」
2人の歌に合わせて更に影からもう一人、ミミラルと全く同じ顔をした影が出る。
「……だよ、何なんだよ!」
2人のミミラルの影は無言でバットを振るう。
その表情は無であり、何も読み取れない。
ただ分かるのは、ミミラル自身を殺しにかかっているということだけだ。
「あ、ああああああああああああ!?!?」
必死にミミラルは応戦しようとするも、数によって力押しされ、すぐにHPはゼロになった。
「貴方はだぁれ」
「私はだぁれ」
「みぃんな自分が分からなく」
「貴方が誰かも分からなく」
2人の歌は続く。
【魔法少女η】狂ヶ咲夢味と、そのエンブリオである【幻影少女 ドッペルゲンガー】の歌は雷を打ち消すように続いていた。
■【魔法少女ω】クリアント
「よし、何となく慣れてきたな」
「はい! どうやら動かないことが条件に引っかかるようですね」
具体的な時間までは測れていない。
だが、クリアントとワンプは、この当たれば即死の雷の謎は凡そ解いていた。
「僅かでも横に動いていれば死なない。逆に動いていなければ、防げない雷ですね」
「つまりは常に動き続けろということだな」
分かってしまえば対処法も簡単である。
1~2秒は立ち止まっていても死ぬことは無い。
それ以上は雷が落ちるまでのタイムラグもあって測ることは出来ないでいる。
ともあれ、クリアント達は走っては立ち止まり、走っては立ち止まりを繰り返して森の中を進んでいた。
「こういうのって、あれですよね。クリア……クリア……クリアント!」
「それは俺の名前だ。……クリアリングか?」
「そうそう、クリアリングです! 流石ですねクリアント!」
「先輩呼びはどうした」
木々の影に隠れるようにして立ち止まり、そして警戒しながら進む。
戦場において命が惜しいなら、敵の居場所を警戒するなら必須な行いである。
「いやぁ、警戒って大事ですね」
「ああ。まさかこの俺が警戒する日が来るなんてな」
大物のような発言であるが、クリアントの場合は攻撃され、死んで初めて敵の居場所が分かったとしても対応が出来る。
わざわざ移動速度を落としてまで警戒をする必要が本来ならば無い。
「雷の検証をすること4回。いやぁ、かなり命を散らしてしまいましたね。残りのストックは3回でしたか」
「……もっと他に良いやり方があった気がするんだが」
勘の良い者であれば、一度も死ぬことなくこの雷のカラクリにも気づけていたのだろう。
それを思えば、4回もストックを失ったことが無駄に思えて仕方がない。
「そんな先輩に朗報ですよ」
「ほう。聞かせてもらおうじゃないか」
「偉そうですねぇ。まあ偉くてもいいんですけど。なんとワンプちゃん、遂に上級エンブリオです!」
「おお! ということは第四形態に進化したのか!」
エンブリオの進化。
それはこの森の中でストックがもう余りない現状では願ってもないことだ。
「それで、新しいスキルはあるのか?」
「ふふん。それがですね……ありません」
心なしか、誇らしげであったワンプの声はワントーン落ちる。
「……そうか」
「その代わり、ストックが増えました! 一日に15回までは肉体の創造が行えます」
「……まあこの状況だとその方がいいか」
残り3回から8回への増加。
下手に、戦闘力の強化よりも生き残るという点では良いかもしれない。
「あ、でもステータスの補正がゼロになりました」
「……うん?」
「ほら、今までは最低限でもエンブリオからステータスへの補正があったじゃないですか。それが今回の進化で完全になくなりましたね」
「……」
まあ、元からあって無いようなものである。
それに今は【魔法少女ω】によるステータス補正が大きい。
ならばエンブリオの補正程度は誤差の範囲であろう。
「補正がマイナスのエンブリオもあるみたいですし、それに比べれば……ねぇ?」
「普通はプラス補正が多いみたいなんだけどな。マイナス補正ってどんなやばいスキルを持っているんだろうな」
そのやばいスキルとは蘇生系やコピースライムであるが、それはワンプもクリアントも知らない。
「それにしても見つかりませんね。というか先輩。この森の地図って持っていたりします?」
「いや……そもそもあるのか?」
あればクャントルスカが渡しているはず……と、クリアントは開始と同時に走り出していたことを思い出す。
「フィリップさんがまだ合流していないところを見ると戦闘中なのかもしくは死亡してしまったかでしょうか」
「だなぁ。他の魔法少女と戦った感じだとフィリップが後れを取るとは思えないけど……思っていたよりも広いのかもしれないな」
と、そこへ茂みをかき分けて1人の少女がクリアントに抱き着く。
「やっと! やっと人に会えた! 助けてお兄ちゃん!」
その少女もまた、魔法少女の衣装を纏う者。
【魔法少女μ】妹妹。
「なっ!?」
「……お前は?」
だが、クリアントの《看破》でも容易に突破できたステータスは、とても戦えるような高いものではなかった。