<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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44話 転ばせぬ、回復もさせぬ

■【黒雷竜 ドラゲイル】

 

 ドラゲイルの持つ能力は大別すると2つに分けられる。

 1つ目は主に攻撃手段として使っている雷の力。

 暗雲、落雷、その他雷に関する攻撃スキルが多々ある。

 特殊性は低いが、その分速度と威力に秀でた攻撃である。

 雷の名を冠したドラゴンに相応しい力であると自負している。

 尤も、彼のコンプレックスもこの雷の力に由来しているのだが。

 

 そしてもう一つ。

 雷の力と併せてドラゲイルの出生にすら関わった力がある。

 それは変身能力だ。

 それもただ外見を偽るだけの力ではない。

 能力すらも、思考パターンすらも模倣できる能力。

 そのデメリットは大きいが、代わりに得られるメリットも大きい。

 ティアンやUBMですら扱えないエンブリオの能力を把握し使えるという破格の力。

 

「(……運良く我の力に似た思考と能力の持ち主が死んだと思っておったら)」

 

 変身できる対象はドラゲイルが殺した者のみ。

 それさえ満たせれば巨人でも妖精でも、人間でも肉塊でも生物であれば変身が可能となる。

 落雷――《天災罰》で殺せた魔法少女の一人、妹妹の力と戦い方は、ドラゲイルの変身能力のデメリットを考えればそう相性は悪くなかった。

 弱い姿を見せる。

 弱い力を見せる。

 爪をひた隠しにし、殺す時でさえ強力な力ではなく確実に殺せる程度の力しか発揮しようとしない。

 その考え方にドラゲイルは笑う。

 ドラゴンに比べれば圧倒的に弱い人間らしい考え方であると。

 そして、弱い人間に変身するなら驕った考え方よりも慎重な方が良いと。

 

 何故ならばドラゲイルの変身能力――《者憶え》は全てを模倣するスキルであるからだ。

 即ち、強力なドラゴンに相応しいステータスやスキルすら捨てて、魔法少女のステータスやスキルと獲得するのだ。

 加算ではなく、入れ替え。

 変身する相手を間違えば大きく弱体化するスキルである。

 すぐさまドラゲイル本来の姿に戻った方が良いだろう。

 

 だが……

 

「(それでは一時しのぎに過ぎない。先を見据えるならば……我はこのままの方が良い)」

 

 《天災罰》は天空に残してある。

 これより数時間は発動し続けるだろう。

 だが他のスキルは一切使えない。

 魔法少女の姿であるうちは魔法少女でいなければならない。

 

「(【魔法☆少女】の誕生を防ぐには我が魔法少女の姿でいなければならぬ……いや、その前に一時的にでもドラゴンの姿で魔法少女を殺していくべきか……)」

 

 第一優先は【魔法☆少女】を生み出す儀式を中断させること。

 では、第二優先は何だろうか。

 

「(決まっておる。我が邪竜らしく振舞うことだ)」

 

 時に偽り時に欺き。

 魔法少女が複数いるのであれば、その中に紛れ込み。

 そうして魔法少女達を疑心暗鬼にし、仲間割れを引き起こすことも邪竜としての嗜み。

 

「【黒雷竜 ドラゲイル】。……最初からお前がお前だということは分かっていたぞ」

 

 そう思い、妹妹の姿であり続けようとしていた。

 だが……それもすぐにばれてしまう。

 この儀式で最初に出会った魔法少女(男)によって。

 

「(く、かか……そうか! ならば! 正体を暴かれた邪竜はその真の力を振舞わなければならないな!)」

 

 なぜ妹妹に姿を変えていたドラゲイルの正体に気が付けたのか。

 遺伝子情報までもを模倣するドラゲイルの変身スキルは思考パターンすら寄せようとするため《看破》や《審議判定》ですら分からない。

 

「良いだろう。小童よ。名を示せ」

「クリアントだ。【魔法少女ω】と言えばいいのか」

「そうかクリアント……貴様を認めよう。その力は弱きもの。だが! 邪竜の正体に気づけしその真眼はまさしく正義の眼そのもの! よって貴様は《天災罰》でなく我自ら殺してやろう!」

 

 幼い少女の姿をしたドラゲイルが五指から生える爪を見せる。

 細く小さな指には似つかわしくない凶爪は抉った肉を逃さぬような見た目をしていた。

 

「カマイタチ、という名をしているそうだ。この五爪は我本来の爪撃にも劣らぬ一撃よ」

「……なるほど」

 

 クリアントとワンプはこの時点でドラゲイルがエンブリオの能力を使用していることに気づく。

 少女の爪にあるものがカマイタチという名のエンブリオであり、ドラゲイルが何かしらのスキルを使用しその少女に化けているのだと。

 

「先輩。どうしましょうか」

「恐らくだが、あの爪はアームズ型だろう。一撃に特化したタイプであると思う」

「ふむふむ……つまり?」

「相手の一撃を受けながら接近してマッドラップスで倒すぞ!」

「いつものように、ですね! 了解です!」

 

 クリアントが走り出す。

 マッドラップスの鎧とスワンプマンの肉体創造スキル。

 彼の持つこの2つの武器でUBMを倒そうと駆けだした。

 

「《転倒も治癒もせぬ風(カマイタチ)》」

 

 ドラゲイルが何もない空間で五爪を振るう。

 その先から、つむじ風とは呼べぬ強風が巻き起こされた。

 

 

 

 

 クリアントは爪に置換されたエンブリオという見た目から、そのスキルもまた直接的な威力を上げるタイプのものであろうと推測していた。

 一撃に特化した戦い。

 弱弱しい外見から、奇襲に長けているのだろうと。

 それは、必殺スキルを使いたがらなかった妹妹に関しては間違いではない。

 彼女にとって必殺スキルは目立ち過ぎた。

 接近し、心臓や喉を爪で抉れば良いだけの戦いを、見世物に変えてしまう必殺スキルは奥の手よりも隠していたいものであったのだ。

 

 モチーフとなったカマイタチという妖怪は1匹を指したものではない。

 それぞれ転ばせる、斬りつける、治すという特性を持った3匹の妖怪を指してカマイタチと呼んでいた。

 本来であれば必殺スキルもその3つが取り込まれた形になったのだろう。

 転倒、切断、治癒を使い分ける必殺スキルに。

 だが、妹妹がエンブリオに求めたものは一撃に特化した力。

 鎧は魔法少女というジョブであり、武器はエンブリオ。

 転倒や治癒といった余分な力は必要なく、欲したのは敵を殺せる力だけ。

 

 《転倒も治癒もせぬ風(カマイタチ)》。

 その力は風を生み出すこと。

 触れたもの全てを切り刻む風。

 爪を振るう度に引き起こされる突風は刃の如く人間を挽肉に変えてしまう。

 切断のみにリソースを振り切った必殺スキルはこうした形となって発現し、そして目立つという理由で使われることは少なかった。

 

 だが、思考パターンを寄せたとはいえ、ドラゲイルはドラゲイル本来の思考を持っている。

 邪竜らしく。

 魔法少女を駆逐するべし。

 そのために魔法少女に偽ることはあっても、魔法少女そのものにはならない。

 妹妹の思考に囚われ過ぎることもない。

 使うタイミングがあれば目立とうが必殺スキルを発動する。

 

「真正面から! 貴様を殺すとでも思ったか! くかか! 我は邪竜であるぞ。卑怯上等、侮蔑歓迎。騙し討ち程度、常套戦術である」

 

 風は全部で5つ。

 右手のカマイタチの五爪それぞれが操作する切断を付与されたつむじ風がクリアントを襲おうと移動していく。

 

「……くっ」

「巻き込まれた木々がバターみたく滑らかに斬られていますよ! あ、すぐにバラバラになっちゃいました」

「……しかもステータスそんなに弱くないぞあいつ」

 

 最初に《看破》したステータスから遥かに上昇している。

 それは【魔法少女μ】本来のステータス。

 隠す必要もなくなった力である。

 

「運良く近づけたとしてもすぐには倒せそうにないな……」

「逃げるといっても逃げられそうにはありませんし……どうしましょう」

 

 迫る5つの風。

 全てを掻い潜ることは不可能に近い。

 

「……」

「先輩?」

「仕方ない、か」

 

 覚悟を決める。

 死を、痛みを受ける覚悟を。

 

「……ぉおおおおおおおおおおおおおお!」

「……なっ!?」

 

 クリアントはつむじ風の一つに向かう。

 そして、己の両腕をそこに入れた。

 決して肘から先は巻き込まれぬよう、慎重に。

 

「……づっっっ!!」

 

 入れた先から両腕が無くなっていく。

 

「……これ以上は危ないな」

 

 自身を追う風はこれ1つではない。

 後方から来るつむじ風を避けつつ、比較的安全圏にまで避難する。

 とはいえ、すぐにつむじ風は追って来るのだが。

 

「……何を」

 

 ドラゲイルは不可思議な目で見る。

 ただの自殺行為に過ぎない。

 両腕は無く、かといってつむじ風が消える様子もない。

 ただ腕を失うための行動。

 HPを無駄に減らすためだけの行為。

 何がしたかったのか、ドラゲイルには理解できない。

 

 故に、ドラゲイルはもう片方の五爪を振るった。

 

「《転倒も治癒もせぬ風(カマイタチ)》!」

 

 合計10の風。

 逃げ場所など何処にもない。

 周囲一帯に生物も無生物も、物質の存在を許さぬ10のつむじ風。

 

「クリアントよ。貴様の行動全てが我には理解できぬ! だが、その死で以て我が悩みの一つを終わらせよ!」

 

 妹妹の装備には風除けのスキルを秘めたものもあり、必殺スキルの範囲外。

 風はクリアントを囲み、そしてその肉体を切り刻んだのであった。

 

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