<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【黒雷竜 ドラゲイル】
「あっけない」
10のつむじ風が消え去った時、その場に立っているのは妹妹の姿をしたドラゲイルのみであった。
耐性装備のおかげでドラゲイルの体には傷一つ無い。
だが、周囲の木々や岩すらも刻んでしまったため、開けた場所となってしまっていた。
そこに倒れる人間が1人。
生きてはいない。
数え切れぬほどの致命傷を喰らって、しかしその肉体の頑強さ故か残っているのだろう。
手足は無く、顔面もどこに何のパーツがあったのか定かではなく、胴も骨や内臓を露出している。
それでも、元は人間であったのだろうと推測できる程度には肉や骨が残されていた。
「……ふむ? 何故我はこの男の姿になれぬ」
《者憶え》にて死体の男を模倣し、その能力を見ようとするが発動しない。
条件は確かに満たしている。
目の前にあるのは死体だ。
間違いなく、人形などではなく、寸分違わず先ほど果敢にも立ち向かおうとした魔法少女(男)の死体である。
妹妹の必殺スキルで倒したせい……というわけではない。
ドラゲイル本来のスキルであろうと、模倣した者のスキルであろうと、ドラゲイルが殺したのであれば《者憶え》は発動する。
なのに、何故……。
「貴様は一体……」
男の死体の襟首を掴み顔を覗き込む。
もはや原型は無いが、元よりドラゲイルに人間の顔の区別などそう差は無い。
「……いや待て」
妹妹を始めとした魔法少女達を殺した時。
その死体はどこかへと消えていた。
ならばこの死体はどうして消えぬのだろうか。
「消えない、のではなく消していない……その理由は……っ!?」
明らかに残された罠。
それを理解するには遅かった。
死体が爆発を起こす。
亜竜種とて間近で喰らえば致命傷は免れない程の大爆発。
それをドラゲイルは妹妹のENDとHPのまま受けることとなった。
■【魔法少女ω】クリアント
「今のうちに逃げるぞ」
後方より爆発音を感じ取ったクリアントはその地点から遠ざかろうと走る。
ドラゲイルの使った必殺スキルが自身すら巻き込む広範囲に及ぶもので本当に良かったとクリアントは安堵する。
おかげで肉体創造地点がドラゲイルとの戦闘地点から大きく離すことが出来た。
「ですね。あれで倒せるならすでに倒されているでしょうし」
魔法少女の姿になっていようが、その正体はドラゴン。
それも、古代伝説級UBMである。
捨て身の爆発程度のダメージでは有効打になりはすれ、致命打には遠い。
そう、油断せずにクリアントは推測する。
「それにしてもあの魔法少女がドラゲイルだと気づけて助かった……。おかげで俺の方から死ぬことが出来たからな」
「ワンプちゃんの隠された力があってこそですね!」
同一個体を見抜く力。
【マッドドロップマウス】が進化し【マッドラップス】というUBMになってさえもそれを見抜くことがワンプには可能である。
魂の本質を見抜いているのだろうか。
その詳細はワンプ自身にさえも分かっていない。
何となく、同じ人だなと感じる程度の力である。
それが魔法少女が現れた時、ドラゲイルと同質であると感じたのだ。
どれだけ弱い姿を見せられても、疑ってしまうのも無理はない。
「念話で教えてくれて助かった。ドラゲイルには雷の他にも魔法少女に擬態する力があるようだな」
「これならフィリップさんやクャントルスカさんに化けても同士討ちするようなことは避けられそうですね。けど……」
「ああ。能力すら模倣するのが厄介だな。それもエンブリオの力を使う」
ワンプは第四形態に進化しているとはいえ、必殺スキルはまだ発現していない。
肉体創造スキルで何とか戦いを生き延びてはいるが、決め手に欠けるのが現状だ。
「必殺スキルや強力なスキルを使う魔法少女に模倣されたら結構きついぞ。ある意味ではこの雷の方が優しい」
初見殺しのオンパレードである必殺スキルを複数持っているようなものだ。
最初から来ると分かっている即死の雷の方がまだ対処のしようがある。
「尚更合流を急がないといけませんね」
「……残りの魔法少女の数はどれほどなんだろうな」
落雷のせいで正確な人数を把握しづらくなった。
もしかしたら、最後の数人が同時に雷に打たれる可能性もある。
「24人から始まって……どうなんでしょう。先輩が倒した魔法少女の数すら分からないですし」
ミミラルに向けて使った爆発すらクリアントは倒せているのかどうか分からない。
爆発する時にはクリアントは安全圏にまで避難している。
囮としての認識が近い爆発物なのである。
「索敵系のスキルがあればなぁ」
「【潜水士】系統のスキル使えないですもんね。【呪術師】には無いんですか?」
「あるにはあるけど……生物探知とか呪物探知なんだよな。個人を探すのに向いているスキルが無い」
そうなると、やはり索敵能力の高いフィリップがクリアントを見つけてくれることに賭けた方が良いかもしれない。
まだフィリップもクャントルスカも生きている前提での話になるが。
「あ、でも他にも希望があるな」
「へえ。どんなのです?」
「魔法少女全てを把握しているクャントルスカのことだ。この爆発がωのスキルであることも知っている……つまり、クャントルスカが爆発した地点に来てくれる!」
「それ……不味くないですか?」
「……だな」
爆発地点にはドラゲイルがいる。
クャントルスカがドラゲイルに殺された瞬間に、この儀式におけるクリアントとフィリップの役割は終わりを見せてしまう。
「ともあれ、走り続けよう。雷に打たれないように」
「ですね!」
そうしてクリアントは再び走り出す。
ドラゲイルに現在地を補足されないことを祈って。
フィリップ達と合流できることを祈って。
■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ
デンドロでのプレイ時間のほとんどを海中で過ごしていたフィリップにとって水中戦闘はお手の物だ。
それこそ水中でフィリップの上を行き、フィリップを溺れさせるようなことが出来るとすれば兄のデメンタリーくらいであろう。
無謀に突き進もうとするフィリップをその場から動けなくさせたというエピソードは数知れない。
だが、それも水中に限ってだ。
周囲がそもそも水の無い場所ではデメンタリーの力は半減する。
その場所であればフィリップも溺れることなく動くことだって出来る。
「……くっ」
だが、デンドロの世界は広い。
地上にてフィリップを水中に押しとどめ、そして身動きを取れなくする者が現れるとは思いもよらなかっただろう。
「あぎゃぎゃ。いつまで足掻いていりゃれるかな。ミズゴはすでにそこら中に散らばっていりゅ」
そう笑う魔法少女――【魔法少女σ】ツーウェイオールはがらがらと動きに合わせてラトルを鳴らす。
【未命落命 ミズゴ】。
生まれることの無かった赤子――水子をモチーフとしたエンブリオである。
その特性は無力。
何もさせないということに特化している。
「ノーチラス!」
水牢に閉じ込められたフィリップはノーチラスを呼び出し、自身を強制的に牢から排出させる。
水牢自体にダメージは発生しない。ただ動けなくなるだけのものだ。
だが、閉じ込められたまま時間が過ぎれば落雷で死ぬ。
何とも嫌なシナジーを起こしたものである。
「……ハァッ……ハァッ」
息を整えつつも動かなくてはならない。
休む暇はない。
だが、踏み出した瞬間にすぐにまた足元から水が浮かび出す。
「っ!」
すぐに足を離す。
が、残した足にもまた水牢が形成されようとしている。
「どこにでもあるな!」
足の踏み場が無い。
踏んだ先から足を浮かせなければ水牢に囚われてしまう。
フィリップは水牢が完成する前に転がる。
そして起き上がると同時に自身の足元を確認し、そこが安全であるかどうかを見る。
「……ここなら問題ないか」
それでも落雷を考えるとこの場所も安全とは言い難い。
すぐに危険地帯へと早変わりする。
「あぎゃぎゃ。しょこにもまだ足さなきゃいけにゃいか」
ちゅぱちゅぱと、手にしたおしゃぶりを咥えると、ツーウェイオールはラトルを振る。
「ひょれひょれ。あちゃの赤子よ。土に潜め」
ラトルから何かが地面へと撒き散らされている。
それはとても小さな球体……否、卵であった。
卵は地面に落ちると、すぐに割れ中身を晒す。
そこにいたのは小さなおたまじゃくし。
数十匹のおたまじゃくしはそのまま地面に溶けるように潜っていった。
「……それがエンブリオだったとはね」
おしゃぶりとラトル、そしてそこから撒かれる卵。
全て含めて一つのエンブリオ。
TYPE:レギオン・ラビリンス。
地面に潜むおたまじゃくし1匹1匹が対象を閉じ込める簡易的な水牢である。
ミズゴ……ラビリンスとワールドで悩みましたが。
水の牢という実態があるのでラビリンスにしました。