<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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46話 艦と赤子

■【未命落命 ミズゴ】について

 

 レギオンは複数体のガードナーからなるエンブリオである。

 複数体、とは10体にも満たない程の少数から、果ては数百数千にも及ぶ。

 数が少なければ戦闘やその他行えることが多く、1体1体が強い。

 数が多ければ多い程、その機能は単一かつ個体値が脆弱となる。

 また、一度に複数を同時に展開できるものや、1体から徐々に増殖していくものがある。

 レギオン、と一口に現わしてもその数や同時出現数、個々の機能などが全く違うため、やはり見るべきは群れとしての強さになるのだろう。

 

 TYPE:レギオン・ラビリンスであるミズゴ。

 オタマジャクシ型であるこのエンブリオは、同時出現数は卵の状態で排出されるためリソースは抑えられている。そのため一度に30~40個の卵が地面へと落とされる。

 地面に落ちた衝撃で卵は割れ、そして卵の殻という余った餌だけで瞬時にオタマジャクシへと成長したミズゴはその後土の中へと潜っていく。

 一度地面へと潜ったミズゴは持ち主であるツーウェイオールの支配下にない。

 故に、同時出現数という制約を除けば、ミズゴはいくらでも生み出すことが出来る。

 土中にいるミズゴの生存時間はおよそ一時間。

 それだけ経つと栄養不足による飢餓で消滅していく。

 

 ミズゴ自身の戦闘能力はゼロである。

 ステータスはHPとMPを除いてオールゼロ。

 代わりに、一つの機能だけが備えられていた。

 《腹水坊に帰らず》。

 土中に潜むミズゴが衝撃を受けると、その頭上――踏んだ者に対して水牢を作り出す能力である。

 永久に水牢に閉じ込める程悪辣なものではない。

 5分間の行動を封じるだけである。

 そして、外部からの衝撃で水牢はあっけなく壊れる。

 

 他の戦いであれば閉じ込めた対象に魔法を放ち、水牢が壊れれば再び閉じ込めて魔法を放ち、を繰り返してちまちまとHPを削る戦いをしていただろう。

 だが、落雷降るこの森においては閉じ込めるだけでいい。

 雷が当たるまでの時間を閉じ込められれば、それだけで勝利は確定するのだ。

 

 ツーウェイオールにとってこの落雷は天恵に等しい。

 天災などではなく、天の恵み。

 恐れるどころか自身の戦闘スタイルに組み込んでいた。

 

 

 

 

■【魔法少女ψ】フィリップ・ノッツ

 

「つまりはここら一帯は君の支配下。踏めば地雷のように水牢に閉じ込められるというわけだ」

「あぎゃぎゃ。理解ちたか。ちゃんに逃げ場はない。たとえ水牢から脱出出来ようと、ちょの先にミズゴはいる。立ち止まる隙は許されにゃい。ちゃんが止まる時、しょれはちゃんが落雷に打たれりゅ時だ」

 

 どこにミズゴが潜んでいるのか。

 目を凝らそうと分からない。

 透視能力でもあれば別であろうが、フィリップにその能力は無い。

 これが特典武具の力であればもしかすると位置が分かったのかもしれないが、エンブリオであるためフィリップの持つ索敵には引っかからない。

 

「特典武具か……そうだね。これがあった」

 

 ツーウェイオールは絶えず独特のステップを踏みながら移動する。

 分かっているのだろう。

 どこにミズゴがいるのかを。

 

 フィリップには分からない。

 分からないから、すぐにミズゴを踏み抜き、水牢に閉じ込められる。

 ならばツーウェイオールが踏んだ場所なら安全かと思えば、それも違う。

 踏んだ先から水牢が現れる。

 その理由はただ一つ。土中でミズゴが動いているということ。

 小石が土中に潜っているのではない。

 オタマジャクシ――生物が土中に潜んでいるのだ。動くこともあるのだろう。

 

「君の強みはその数なんだろうね。水牢を作り出すミズゴも1匹や2匹であればここまで苦戦することも無かった。たとえ地面の中のどこにいるのか分からなかったとしても、数が少なければあるいは踏むことなく君に攻撃出来ただろう」

 

 だが、動き続けなければならない森の中で動く地雷を踏まずに移動するのは不可能。

 必ずどこかで踏み抜いてしまう。

 

「だからこちらも数を使わせてもらおう。……グラスコード!」

 

 宙に体長1mにも満たない小さなドラゴンが出現する。

 その数はおよそ50匹。

 それらが一斉に現れ……そして地面に落ちて跳ねる。

 

「なっ……うん?」

 

 その数に驚いていたツーウェイオールであったが、何もできずにただ跳ねているだけのドラゴンを見て首を傾げる。

 何もできない。

 ただそこにいるだけだ。

 

「ははは。予想通りだ。水中でしか活動できないグラスコードをここで出したところで、地面で跳ねるのがやっとのようだね。オリジナルは地上移動スキルでも持っていたのかな」

 

 フィリップは笑う。

 このドラゴンの有様は分かっていたとばかりに。

 

「なにを……?」

 

 その時であった。

 グラスコードの1体が水牢に包まれる。

 そして、それを皮切りにして次々と他のグラスコード達も水牢へと包まれていった。

 

「いやなに。ただ地雷避けにさせてもらっただけだよ」

 

 地雷処理において、起爆させずに撤去するやり方もあるがそれは発見しなくてはならないという労力を割く。

 もっと簡単に、先に起爆させてしまえばいいと、フィリップは考えた。

 地雷処理戦車のように、あえて囮を撒くことで水牢をフィリップ以外に発動させたのである。

 

「でもまだまだあるのだろうね。だからこちらも惜しまず数を出させてもらおう」

 

 水牢に捕縛されていたグラスコードの姿が消える。

 同時に水牢も役目を終えたとばかりに霧散する。

 

 そしてフィリップは再び空中にグラスコードを出現させた。

 

「な……ぁあああああああああああああああああ!?!?」

 

 次々にミズゴが消滅させられていく。

 それは赤子のように、何もできずに、無力なまま、消えていく。

 

「悪いね。このグラスコードは君のと違って事実上いくらでも出せるんだ」

 

 【千片万艦 グラスコード】。

 かつてフィリップ達が倒した【千貶万花 グラスゴード】から得た特典武具。

 その第一スキルである《万花》はフィリップのMPの上限を100削ることでグラスコード1匹を生み出すというもの。

 MPは永久的に失われるのではなく、生み出されたグラスコードが消滅した時点で戻ってくる。

 《万花》によるグラスコード1匹1匹のステータスは、オリジナルであった群体の【グラスコード】に遠く及ばない。

 更にはフィリップを含めた他者からのバフは効果が無く、デバフは通用してしまう。

 元より無かった防御力はともかくとして、脅威であった攻撃力すら失ってしまったグラスコード。

 残っているのは群体という特性のみ。

 後はせいぜい、ノーチラスにアジャストされた設計であるということくらいである。

 

「……ならば! 大人しく牢に囚われぬというのであれば! 貴様には無に帰してもらおう!」

 

 ツーウェイオールはラトルとおしゃぶりを捨て、両手を地面へ当てる。

 そして、地面から何かを引きずり出す。

 

「おや。口調はもういいのかい? わざとらしい赤子の口調は」

「五月蠅い! 貴様には必殺スキルで死んでもらう! 《一緒に還ろ?(ミズゴ)》!」

 

 地面から引きずり出されたもの、それは巨大で透明な蛙であった。

 蛙は口を開けると舌を2つ出し、フィリップとツーウェイオールを捕まえ、体内へと引き入れる。

 

「これは……?」

「無駄だ! この中は水牢と同じく貴様を無力化させるもの! そして、加えて貴様の全てを無に帰す牢獄だ!」

「む……」

 

 フィリップの全身が縮んでいく。

 まるで赤子に還っていくかのようだ。

 

「胎児よりも前。貴様の生を無かったことにする必殺スキル。それが《一緒に還ろ?(ミズゴ)》である。もはや貴様に出来ることなどない!」

「ふむ。ならば……」

 

 これまでと同じくフィリップはノーチラス号を水牢に出現させ、自身を押し出そうとした。

 だが、押し出された先に水牢は広がり、フィリップの排出を許さない。

 

「カエルは軟体生物! 貴様がもし動けようとも、それに合わせて形を変えるまでだ」

「……カエルだけに?」

 

 であれば、水中というメリットを生かすだけだ。

 ノーチラス号は動く。

 あくまで動きを封じられているのがフィリップというだけ。

 ノーチラス号からいくつもの魚雷が発射され……そしてツーウェイオールの手前で爆発した。

 

「水中にいくつものミズゴを放っている。貴様が攻撃を仕掛けようと、ミズゴが盾になり私を守ってくれるのだ!」

「ふうん……」

 

 オタマジャクシが生存可能な場所にすることで、自身すらもカエルの体内――安全圏にいるつもりなのだろう。

 

 だが、それは逆効果であろう。

 

「……いいのかい? 君はずっと動いていないみたいだけど」

「えっ……?」

 

 ノーチラス号から機械の腕が伸びてフィリップを捕まえる。

 そして、そのままフィリップをノーチラス号の中へと拾い上げた。

 

「そろそろ来るんじゃないかな……落雷が」

 

 すでに天の暗雲から雷は落とされている。

 フィリップとツーウェイオール2人分の威力を秘めた雷は同時に同じ場所へと落ちる。

 2人を閉じ込めるカエルの体内は全てが水。即ち、中にいる全ての者に通電する。

 どれだけミズゴが盾になろうとも、そんなものは意味が無く。

 どれだけ無垢であろうと無力であろうと、慈悲も無く。

 

「……不味い! 動かねば――」

 

 ノーチラス号という環境に対して耐性を持つ艦の中に隠れられたフィリップを除いて、水牢内全ての生物は雷による多大なるダメージを受けることとなった。

 

「――カハッ」

 

 落雷による即死ダメージ。

 たとえその条件を満たしておらず即死に至らなかったとしても。

 まともに受けるには雷というエネルギーは強大過ぎた。

 

「君を無力な赤子と一瞬でも過小評価してしまったことを謝ろう。君は無謀な大人だよ。この災害……雷は決して利用するものではないね」

 

 カエルの水牢が解かれる。

 地面はすでにツーウェイオールの支配下に無いことを確認し、フィリップは先へ進んだ。

 

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