<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
楽しく読ませて頂いております
いやー、自分じゃ思いつかないエンブリオやUBMばっかりですわ
というか、マイナーな神話体系とか全然知らないぜ……
日本の妖怪がせいぜいな私です
■【黒雷竜 ドラゲイル】について
【全滅危惧 ミニマムズ】というUBMが持つスキルは只一つ。
《種栄保存》という、対象の姿を遺伝子レベルにまで写し取るものだ。
姿もステータスもスキルも、そして性格すらもオリジナルと全く同等のものとなる。
しかし、己がミニマムズという意識はあるため、オリジナルの行動に引っ張られることは無い。
ミニマムズのまま行動が可能である。
全ての準備が整い、ミニマムズは発情した。
手頃なメスが付近にいたのだ。
【雷竜王 ドラグヴォルト】という最高質の種を残すに相応しい、母体としてだけは高質のメスが。
名の無い地竜としても神話級のドラゴンが自身と子を残そうとしているのだ。
玉の輿ともいえる大抜擢。
拒む理由など無かった。
たとえ幼すぎようとも、寿命が尽きかけていようとも、すでに番がいようとも、拒めるはずが無かった。
交配し、そしてその翌日にはメスの地竜の胎には子が宿った。
正確には、卵を産める体となった。
ミニマムズが逸話級UBMとなった二日後のことであった。
そしてその翌々日……ミニマムズ誕生から四日後。
メスの地竜は一つの卵を産み落とし、そしてその生体リソース全てが卵に吸い取られて死亡した。
死亡と同時に、リソース全てがつぎ込まれた卵は孵化した。
《種栄保存》。
そのスキルは種を残すことだけに特化したものだ。
母体の負担など考えない。
父の所在など考えない。
ただただ、残すべき種を見定めて、そして短時間で子を産ませるだけのスキル。
模倣し、孕ませ、育てるスキル。
卵が孵化すれば、ミニマムズの役割も終盤である。
即ち、育てる。
寿命も残り一日。
孵化した直後の幼竜とて食事は必要だ。
とはいえ、母体はすでに死んでいる。
故に、ミニマムズは最後に己の身体を食わせることにした。
とはいえ、ドラグヴォルトの肉体では表皮を食いちぎることも出来ない。
幼竜ではミニマムズが身じろぎでもすれば死んでしまうほど脆弱だ。
だから、模倣を解く。すでにドラグヴォルトの肉体は用済みである。
そして、ミニマムズは元の肉体――スライムへと戻り、ベビー食の如く己の肉体を幼竜に吸わせた。
腐っても逸話級UBM。
そのリソースは計り知れない。
幼竜はすぐに成長し、ミニマムズを喰らい尽くす頃には成体へと成長していた。
『……これはどうしたものか』
ソレの存在に最初に気が付いたのは、ドラゲイルの遺伝子上の繋がりでは祖父にあたるドラゴン――【天竜王 ドラグへイヴン】であった。
付近に飛ばしていた己の眼でもある霊体のドラゴンが、ドラゲイルの誕生後にようやくその姿を捉えたのだ。
霊体のドラゴンの眼を通してドラグヘイヴンは知る。
その場で何が起こっていたのか。
そして、これから何が起ころうとしているのか。
『……本来であれば我が血筋の者として迎え入れるはずであるが』
ソレがドラグヴォルトの実子であれば迎え入れたであろう。
一目見て、強さを見極め、そして生育に一役買ったかもしれない。
だが、遺伝子上には繋がりがあろうとも、縁は皆無。
逸話級UBMと地竜の子である。
ドラグヘイヴンとも、ドラグヴォルトとも関係は無い。
『この力……なるほど。ドラグヴォルトは通過するところを見られただけか』
ドラグヴォルトに何の落ち度も無いことを悟り、また溜息をつく。
不貞の結果であったならばドラグヴォルトに叱責の一つでも落としたであろうが、今回に至ってはUBMに見られただけ。
それだけのことなのだ。
『我であっても取るに足らない存在は見落とす。見た上で相手にしない。……故に、我があ奴に対して言えることが無い』
まさか育てろなどと言うこともできない。
勝手に写し取られた姿で交配し、そして出来た子を育てるなど、托卵された鳥が子を育てるよりも惨いことだ。
『育成か放置か……処分か。ううむ……』
流石のドラグヘイヴンとて初のケース。
即断出来る程非情でもない。
否、
『まあ良いか……ここはドラグヴォルトに決めさせよう』
より非情な選択をしたのであった。
そうしてドラグヴォルトがたっぷり1日をかけて苦悩した結果。
兄姉にも相談し、結局は放置するしかなかった。
育てる義務も無く。
処分する大義も無く。
自然の行く末に賭けることとなったのだ。
死んだらそれまで。
だが……生きていたら。
生きて、1匹の竜種として相応しい力を付けたのならば。
その時こそ己が一族の末席に名を連ねることを許そうと。
そうした意味を持って、ドラゲイルは強者遍く野生の世界で孤独に生きることとなったのだ。
父母も生きる理由も生まれた理由も分からないままに。
ただ、ドラゲイルという名だけは何故か知ったままで、孤独な生を噛みしめることとなったのだ。
『くか、くかか! 我こそが最強なり!』
ドラゲイル誕生から100年。
周囲の生態ピラミッドにおいて彼は頂点であった。
ドラゴンであることに加えてドラグヴォルトの血が流れていること、そして誕生直後に逸話級UBMという餌にありつけたこと。
これらがドラゲイルの成長に著しく影響していた。
『かか……だが、つまらん』
周囲にいるのはどれも亜竜級のモンスターばかり。
たまに純竜級にも出くわすが、それすら今のドラゲイルにとっては大したことのない敵であった。
今のドラゲイルは伝説級UBM。
名目上の父であるミニマムズの力を大きく凌駕していた。ミニマムズにもとより戦闘能力など無かったが。
さて、ここまで成長していればドラゲイルも己の生誕に興味を持っていた。
その強さの秘密が、ただの竜種2匹から生み出されたものではないと。
恐らくはこの世界の頂に位置する竜種のいずれかから生み出されたに違いない。
そう思い始めていた。
『かか。我を生み出した父母はどのような者なのか。最強に相応しい強さを持っているのだろうか』
すでに【鳴雷竜 ドラゲイル】という名が彼にはあった。
周囲数百メートルに渡り轟く雷鳴音が由来なのだろうと、父母のどちらかが雷の力を持つドラゴンなのかと思いを馳せていた。
『……さて、一つ我の最強を示そうか』
眼前に広がる空。
その空は黒く染まっていた。
伝説級UBM【災来蟲 カナムゴ】。
小さなイナゴ型の蟲がおよそ三万匹。その全てがカナムゴというモンスターである。
通る全ての有機物無機物関わらず物質を食い荒らす害虫。
数百匹を殺せても、残りの数万匹という圧倒的質量に食い殺される。
ドラゲイルが周囲一帯の生態ピラミッドの頂点であるならば、カナムゴはピラミッドを底から頂点まで全てを支配し、どこからでも食い荒らす外来生物。
『かかかか。餌にもならず、そしてソレ単体は小さな羽虫。倒せたところで羽虫を潰しただけの弱者止まり』
カナムゴの本質を知っていればその言葉は出てこないだろう。
害虫の大群は、現実世界でも蝗害と言われて恐れられている。
『だが面白い。その羽虫全てを潰すことは今の我には不可能に近い。すぐに我の方こそが食い荒らされてしまうだろう』
黒雲を飛ばす。
空全域を覆っているのかと錯覚するほどの広範囲を黒雲が支配する。
『《制裁罰》』
雷を纏う黒雲は落雷を引き起こさない。
纏うだけで、黒雲自体に破壊というエネルギーが満ちているのだ。
まるで鞭のように、黒雲をカナムゴの群れに叩きつける。
触れただけで、カナムゴは消滅していく。
体組織を残らず焼かれ、一匹の例外なく、触れるだけで羽虫程度の命は儚く終わりを迎える。
『……ふむ。厄介だ』
しかし、カナムゴがたとえ一万匹死のうとも、残り二万匹が生き延びている。
そして残りの二万匹は瞬く間に仲間を増やす。
『分裂か……』
カナムゴの姿がぶれたかと思うと、それは2つに別れていた。
一万匹が二万匹に。
二万匹が四万匹に。
つまりは、最初よりも数が増えていた。
『……こいつらを殺すには……殺し切るには一度に全滅させる必要があるのか』
この時のドラゲイルの持つスキルは黒雲に触れた相手の雷に対する耐性を下げる《耐雷罰》と、雷雲の纏う黒雲を操る《制裁罰》のみ。
黒雲は広範囲に生み出せるとはいえ、本来であれば広域型では無かった。
『なるほどなるほど! かかか! これが試練というのだろう。我が高みを目指すというのならば、この程度は軽くあしらってやれという、父母を始めとした我が竜の血筋が我に与えた試練なのだ!』
カナムゴがドラゲイルの下に辿り着けばその時点でドラゲイルの敗北は決まる。
途中、カナムゴの群れが一匹のモンスターを通過する。
純竜級モンスター【フロントアーマータートル】というミスリルと同質の甲羅を持つカメ型のモンスターである。
【フロントアーマータートル】はカナムゴの群れを見るや否やすぐさま甲羅の中に引っ込み、そして通過を願った。
だが、ドラゲイルは見ていた。
カナムゴがその甲羅を食い破り、中身の肉を貪り喰らう場面を。
『……かか。我の鱗では無理だな』
単純な力ではドラゲイルが圧倒的に強い。
だが、喰らうことに関してはカナムゴに傾く。
そして、数も。群れとしての生命力も、カナムゴが上だ。
『鱗に雷を纏わせ……いや、あの数を相手では我の力が先に尽きるか』
ドラゲイルに触れただけでカナムゴは死滅するであろうが、群れ全てが通過するまで雷を自身に纏わせていられるかと問われれば、それは不可能であろう。
それを確実とするにはまだ早い、思い付きの技であった。
『そうだな……ここは雷竜らしく落雷を使うとするか』
ドラゲイルは雷を操るドラゴン。
その轟きはどこまでも届く雷鳴。
『羽虫よ。消え失せよ』
三万匹のカナムゴに対して、三万の雷が降りそそぐ。
それは傍から見れば、黄金の雨が降っているようにも見えていたのだろう。
そうしてドラゲイルは《天災罰》を生み出した。
正確には、《天災罰》の土台となるスキルであったが。
【(非人間範疇生物モンスターによる<UBM>討伐を確認)】
【(MVPは【鳴雷竜 ドラゲイル】)】
【(【災来蟲 カナムゴ】のリソースの一部を移譲)】
【(【鳴雷竜】のレベルアップ・ランクアップを確認)】
【(【鳴雷竜 ドラゲイル】を古代……)】
【(リソース供給に伴う進化処理挿入)】
【(――【黒雷竜 ドラゲイル】を古代伝説級に認定)】
そうして、ドラグヴォルトやドラグへイヴンだけでなく、他のドラゴンたちも無視できない程の強さを持つドラゴンが誕生した。
ドラゲイルは試練に打ち勝ったことを歓喜した。
これでようやく、父母に出会うことが出来るのだと。
己という存在が他者に認識されるのだと。
おかしいな……全然主人公【自殺王】になれないぞ……?
20話くらいまででさくっとなっていると思っていたんだけど
必殺スキルとどっちが先になるか勝負だなこれは
カナムゴ君、真っ当に育っていれば神話級にいきそうなレベルですな
グラスコードよりも一匹一匹弱いけど、それ以上の繁殖(分裂)能力と捕食能力といった感じです。等級が上がるにつれて食べられる数と増やせる数の上限が上がっていきます。伝説級だとミスリルがせいぜい。数も群れを維持するなら三万、敵対する何かが現れたら一時的に四万程度にまで増えます。
キャンディちゃんいたらたぶん速攻で倒されるだろうし、こいつの特典武具をキャンディちゃんがゲットしたら数万匹のカナムゴに細菌を付与して運ばせることになるので愉しそう。
ミニマムズ君は完全に戦犯です。彼にとっては珍しくて強い個体を残さなきゃという気分でしたが。やられた方はただの迷惑。