<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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49話 影ある魔法少女

■【魔法少女ω】クリアント

 

「こうして古代伝説級UBMとなったドラゲイルは、その特異性と異質性から他のドラゴン達から煙たがられ、孤独な生を続けるのでした……ってところかな」

「誰にも理解されず、誰にも受け入れられず、誰にも賛同されず……ドラゴンも心が狭いみたいね」

 

 クャントルスカの紡いだ物語を、モーちゃんがそのような感想で締める。

 ドラゲイルの半生。

 それは、クリアントすら同情しかねないものであった。

 

「大変だったんだな」

「まあ、だからといって倒さないという選択肢にはならないんですけどね。ですよね、先輩?」

「まあな。無視するわけにはいかないし、フィリップが求めるものをドラゲイルが持っているんだったら、尚更そうするしかないな」

 

 同情はする。

 するが、手を止めることは無い。

 

「まあ、今の俺達だとどう足掻いたところで倒す手段がないんだけどな」

「無視というか、嫌でも立ちはだかってきそうですしね。あのドラゴンは」

 

 会話の成り立つモンスター。

 そして、クリアントをはっきりと認識している様子であった。

 

「そういえば、その話……ドラゲイルの過去というのは誰から聞いたんだ?」

 

 〈マスター〉やティアンの情報収集能力では得られないであろう情報だ。

 UBMにまつわるものだけではなく、ドラゲイルの成り立ちという遠い昔のもの。

 ドラゲイル自身ですら知らないであろうものもある。

 

「それはね、初代【魔法☆少女】から伝わるお話なんだ。私達、魔法少女に就いた女の子達が口伝でのみ伝えられる物語」

「まあ、今となっては知る人ぞ知るお話だから、魔法少女以外にも知っている人はいるわよ」

「うん、だね。DINとかWiki編集部の人たちあたりなら、魔法少女づてで知っているかもしれないね」

 

 ともあれ、一般的には知れ渡っていない話らしい。

 

「初代【魔法☆少女】もね、勿論ドラゲイルから教えてもらったわけじゃないよ」

「まあ、弱点を明かすようなものだしな」

「初代に教えてくれたのはね、ドラグヘイヴン」

「……はい?」

「初代が当時テイムしていた【天竜王 ドラグへイヴン】が教えてくれたんだって」

 

 

 

 

■【黒雷竜 ドラゲイル】

 

「……おのれ」

 

 爆風が収まり、視界が晴れていく中で、致命傷を負った【魔法少女μ】妹妹の皮を脱ぎ捨てながらドラゲイルの頭は怒りで染まる。

 もう妹妹の姿は使えない。

 《者憶え》を使った姿で致死量を与えられると、二度とその姿にはなれないという欠点のためだ。

 魔法少女達を影で暗殺するには好都合であったあの能力も、今のドラゲイルには使えない。

 クリアントによって使えなくさせられた。

 

「くか、くかか!」

 

 その怒りはクリアントに対するものではない。

 むしろ、よくぞやってくれたとばかりに称賛するほどであった。

 

 ドラゲイルの騙し討ちに対して、クリアントもまた姑息な手段でこちらに致命打を与えてきた。

 なるほど死体に爆弾を仕込むとは、とその手段自体に舌を巻く。

 

「何をやっているのだ我は! 無様にしてやられるとは! 邪竜の名が泣くではないか」

 

 故に、怒気を孕んだ声で叱咤するのはドラゲイル自身について。

 敵を称賛し、己を罵倒する。

 

「我の手持ちにあのような使い捨ての爆弾を作るものはないな……」

 

 《天災罰》で死んだ魔法少女の能力は、いずれも使い勝手の悪いものばかり。

 やはり強者であれば、あの雷程度では生き残っているのだろう。

 

「もはや5秒を止まる者もおらぬか……」

 

 《天災罰》は災害に対して立ち止まる者に罰を与えるスキル。

 5秒間、その場に立ち尽くした者に対して即死を付与した雷を落すものである。

 たとえ、5秒以下であってもドラゲイルの放つ雷に違いはなく、即死に近いダメージにはなるのだが。

 5秒以上であれば即死の概念ダメージ。

 5秒以下であれば即死に近い物理的ダメージ。

 

 その数はドラゲイルが敵と定めた数だけ降らせることが出来る。

 かつて、即死が付与されていない状態でも伝説級UBMを葬ったスキルである。

 

「……さて。ならば真正面から叩き潰すとしようか」

 

 クリアントという人間は何かしらのスキルでドラゲイルの変身を見抜く。

 ならばドラゲイルが変身するメリットは、ドラゲイルには使えないスキルを使えるということのみ。

 不意打ちの類は使えなくなった。

 

「どれも直接的な力では我に劣るものばかり……」

 

 直接戦う、というのであればやはりドラゲイルが本来の姿で戦えば良いだけだ。

 だが、ドラゲイルはその手段を取らない。取れない。

 それはポリシーなどではなく、単純に本来の姿で戦い続ければ、いずれドラゲイルに待つのは死だけであるから。

 

「……ほう。この魔法少女は良いな」

 

 選んだ姿は【魔法少女γ】蘇武雷。

 近接戦闘に長けており、かつ電気を操る魔法少女でもある。

 

「名が良い。我と同じ雷を名に持つ者」

 

 本来であれば数多の魔法少女達を倒し、【魔法☆少女】へと至っていたかもしれない逸材。

 だが、一つの油断で《天災罰》に打たれ、死亡してしまった。

 もしかすると、電気を操れるからと、雷を相殺しようとしていたのかもしれない。

 

「クリアント……我が認める正義の魔法少女よ……姑息な手段も厭わない、混濁併せ持つ魔法少女よ……そこで待っていろ。まずは手始めに近くの魔法少女から殺していくことにしよう」

 

 【魔法少女γ】蘇武雷の姿になると、腰に掲げた刀を抜く。

 その刀は帯電しており、電流による麻痺と電熱による火傷を与える。

 

「さて……いざ参ろう」

 

 やや蘇武雷の口調に染まりながら、付近にいた魔法少女へと走り、斬りかかる。

 

「やあやあ! 我こそは【魔法少女γ】蘇武雷! いざ尋常に斬り合い殺し合おうではないか」

「んぁ?」

「えあ?」

 

 全く同じ顔の、双子のような魔法少女2人に斬りかかりながらドラゲイルは思う。

 

 いつ見ても、人間の驚愕した顔というのは我が心に甘く重くのしかかるな、と。

 

「迅雷疾風! 悪即斬! 我が武功の一つに貴殿を……いや、貴殿らを加えさせてもらおう!」

 

 抜刀された刀は雷を迸らせながら、徐々にその光を強くしていく。

 時間と共に電力を強化していく。

 これこそが蘇武雷のエンブリオ、ユピテルの能力である。

 出力は刀にのみ。

 落雷を落さず、稲妻を発さず。

 刀に帯電させることだけにリソースを割いたために、近接戦闘以外には向かない。

 だが、斬り結べば、武器を介して電流を伝えることも可能。

 

「――ッァアアアアアアアア!」

 

 金切り声とともにドラゲイルは刀を振り抜く。

 2人の魔法少女のうち1人。

 確実に仕留めた……はずであった。

 

「ちょっと待って」

「早まらないで」

 

 だが、ドラゲイルの刀は止められる。

 2人の魔法少女の影から出てきた手によって。

 

「――!?」

 

 その手には見覚えがあった。

 鱗の生えた、鋭い爪が生えた、ドラゲイル自身の手だ。

 

「貴方が出会うのは」

「まずは貴方自身」

 

 手だけではなく、ドラゲイル本来の姿が影から這い出る。

 

「あら? どうしてかしら」

「貴方が貴方自身ではないみたい」

 

 やがて、その全身を現したドラゲイルの偽物は、握った刀をへし折る。

 

「なっ!?」

「お友達が増えたみたい」

「あらあら。もっと増やさないと」

 

 そして、更にもう一体。

 ドラゲイルの偽物が追加される。

 

「ど……どういうことだ!」

「それはこちらの言葉だけど」

「もしかして貴方……ドラゲイル?」

 

 見透かされた言葉。

 だが、それよりもドラゲイルにとって、この偽物2体が相手ということが最悪な状況だ。

 

「ドッペルちゃん、ドッペルちゃん」

「なぁに? 夢味ちゃん」

「もしかして私達……最終決戦だったりするのかな」

「かもしれないね。ここでドラゲイルを倒せば【魔法☆少女】に一気に近づけるわ」

 

 2人はぱぁっと笑顔になる。

 

「……」

 

 もはやドラゲイルに変身している意味はない。

 一時的にでも変身を解かなければ、こちらが殺されてしまうであろう。

 それだけの強さを目の前の魔法少女は持っている。

 

「ともすれば、クリアントよりも厄介な手合いかもしれぬな」

 

 ドラゲイルは本来の姿へと戻る。

 雷を纏うドラゴンが3体と魔法少女が1人とエンブリオが1人。

 その内訳は、ドラゴン1体とその他の戦いである。

 

 古代伝説級UBM【黒雷竜 ドラゲイル】。

 【魔法少女η】狂ヶ咲夢味と、そのエンブリオである【幻影少女 ドッペルゲンガー】。

 その戦いが終わろうと、【魔法☆少女】に至る道はまだ遠い。

 

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