<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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52話 貫け! 邪竜の思惑も何もかも!

■【魔法少女β】プシュケー・アーチ

 

 ぬるり、と。

 まるで豆腐に包丁を入れるように。

 ケーキにナイフを入れるように。

 どころか、湯に足を入れるように。

 

 抵抗らしき抵抗は見せずに、魔法少女の突き入れた槍は、対する魔法少女の心臓を貫き、息の根を止める。

 

「……っ!?」

「実力が違いすぎましたわね。針も、糸も、全く使いこなせておりませんでしたわよ?」

 

 槍を引き戻し、穂先に付いた血を振り払う。

 その持ち主……プシュケーに返り血は一滴たりとも付いていなかった。

 

「魔法少女に……いえ、殺した相手に化けるモンスターですか。噂には聞いていましたが。その噂を聞いてる私の目の前で、まさか人を殺せるとでも?」

 

 背後に抱き合う2人の少女はプシュケーのエンブリオであるワルキューレ達が守っている。

 彼女らは主であるプシュケーの戦いには一切手を出していない。

 プシュケー1人で目の前の魔法少女……否、魔法少女の姿を模倣したドラゲイルを追い詰めていた。

 

「これで3人目……でしたか。一体どれほどの魔法少女を殺したのでしょう」

 

 穂先に付いた血を払うのも3度目。

 この時点でドラゲイルのストックしていた魔法少女の命が3つ失われている。

 

「さて……お次はどのような魔法少女に……あら?」

 

 心臓を失い死亡した魔法少女の姿を捨て、ドラゲイルは次の姿へと変貌していく。

 だが、それは魔法少女でも……人間でもなく、再び本来のドラゴンの姿へと戻っていた。

 

「傷が塞がって……なるほど。時間稼ぎ、ということでしたのね」

 

 完全にとまではいかないが、先ほどまでドラゲイルにあった腹部と右腕の裂傷が塞がっていた。

 

『く、かか。我は邪竜。騙すが本懐。なるほど、貴様は強いのだろう。万全とまではいかずとも、この程度にまで回復していない我では勝てぬ相手。我は回復に勤しめさせてもらったぞ』

「……なるほど」

 

 相手のレベルが高いためか、《真偽判定》では嘘かどうか分からない。

 だが、プシュケーは経験則からそれが嘘であると推測する。

 まだドラゲイルは本調子ではない。

 死にかけのドラゴンであると。

 

「ならば決着は急いだほうがよろしいかしら。貴方が回復しきってしまう前に」

『く、かか! やって見せるが良い。だが、その時貴様は我が眷属たる雷によって消し炭になっているだろうがな』

「ええ。それが貴方の妄想であることを証明してみましょう」

 

 プシュケーが一歩踏み出す……と、同時に槍を振り上げる。

 

「知っております? 稲妻は音よりも遅いことを」

『(……速い、が雷には劣る)』

 

 だが、どれだけプシュケーが速く動けようとも、それは雷を操るドラゲイルにしてみたら鈍重なものだ。

 雷光や雷鳴に比べ、確かに直接的なエネルギーである稲妻は遅い。

 プシュケーが光速で動けるのならば、追いつけないであろう。

 尤も、ドラゲイル自身の反応速度は良くて亜音速。

 雷を落そうとしたところで、その発射までの準備が整わなければプシュケーを捉える以前の問題になる。

 ドラゲイルがプシュケーの行動を読んでいなければ話であるが。

 

『だからどうした。それよりも良いのか? 落雷の中でそのような長物を振りかざして』

 

 正確に狙いを定めようとすれば、ドラゲイルとてすぐには雷を落せないだろう。

 だが、乱雑であれば……凡その位置に落とすだけであるならば、ドラゲイルの反応速度はプシュケーが動いたと同時に雷を落していた。

 

 ただ乱雑と打ったとしても、範囲はドラゲイルを中心とした半径100mほど。

 その中でランダムな位置に雷は落ちるはずであった。

 ドラゲイルと夢味の戦いでその半径内の木々は薙ぎ倒されている。

 故に、雷はその場で最も位置の高い場所に、避雷針へと吸い込まれるように落ちる。

 プシュケーが掲げる長槍、それが雷の落ちる位置になる。

 そこまでをプシュケーから殺され続けた末に動きを読んで落とした……はずであった。

 

 狙いを定めず落とした雷は、プシュケーへと落ちる…てことはなく、そのまま何もない地点へと焦げ跡を残す。

 

『なっ……なぜ貴様の槍に……。いや、どこへいった!?』

 

 プシュケーの手に持つ槍はどこかへと消失していた。

 手放したのだろうか。

 困惑し、視線をプシュケーから他へと動かしてしまうドラゲイルの肩口に槍は入れられる。

 プシュケーの手から放たれた槍によって。

 

 【猿猴鉾 スウェーコン】。

 それがプシュケーの持つ槍の銘であり、彼女がかつて倒したUBMから得た特典武具である。

 能力は伸縮。

 自在に伸び縮みする槍である。

 掌に収まるほどに縮ませたり、MPを注ぎ込めば雲まで届く長さになる。

 プシュケーは雷を放たれた際、槍を手放したのではない。ただ、掌に収めていただけだ。

 

『か、かか……油断したわ』

「そうでしょうね。貴方は最初から私を侮っておりましたわ。この美しさを目にしても、何の脅威も抱かなかった。それが貴方の敗因です」

 

 プシュケーは手に持つ槍に力とMPを込める。

 

『や、やめ――』

「後悔するといいですわ。醜き竜が、美しき魔法少女である私の前に立ったことに」

 

 ドラゲイルを貫く程の長さにスウェーコンを伸ばす。

 その瞬間、ドラゲイルの身体は弾け飛んだ。

 

 

 

 

■【魔法少女δ】P助

 

 争いを好まぬ魔法少女。

 それだけを聞けば、魔法少女らしい魔法少女と彼女を評する者も多い。

 平和主義者と謳い、非暴力を訴える。

 P助本人の戦闘能力が切り札一つを除けば皆無であることを考えなければ、その声に賛同する者もいただろう。

 だがしかし、声は力ある者が大きくなる。

 戦えぬ、戦わぬ者がいくら非戦闘を伝えようとしても、それは誰にも届かない。

 受け取ろうとする者がいない。

 彼女はいつしか、声を上げることなく隠れて過ごす日々が日課となってしまっていた。

 

 だからだろうか。

 彼女に芽生えたエンブリオは【透明論輪 ギュゲス】。

 指輪の形をしたエンブリオであり、その能力は透明化。

 己を隠すことに特化した能力である。

 

 加えて、彼女が最近手に入れた特典武具。

 【無和感 プレパラン】は彼女から発せられる匂いや音といった痕跡を消す。

 木の枝を踏もうとも、悪臭でマーキングされようとも、プレパランがあれば全てが消える。

 足跡すら消し、足音も消し、残り香も消す。

 

 ギュゲスのモチーフとなった人物は透明という力を暗殺に用いたらしい。

 なるほど、プレパランと併せれば更に確実に暗殺をこなすことも出来るだろう。

 だが、P助は行わない。

 

 森の中においてもただ身を縮め、膝を抱え、隠れ潜めているのであった。

 魔法少女の誰一人として彼女を見つけることは出来ない。

 プレパランが無い頃……足跡などで追跡されていた頃は逃げ切るために遠くまで走ったものだ。

 それで儀式が中断されたのも一回や二回ではない。

 

「やあ。ここにいたのかね」

 

 だが、それも過去の話だ。

 隠れ潜んだP助は容易に発見される。

 プレパランがあろうとも……いや、プレパランがあるからこそ。

 特典武具というお宝を確実に追う力を持つ魔法少女が本日新たに参戦していた。

 

「どうやら、君がいることでクャントルスカは実力を発揮できないみたいだね。先を見れば私が求めるものを手にする機会が遠のくということだ」

「……?」

「故に君を仕留めるとしよう」

 

 まるで独り言のように。

 しかし、決して見つけることが出来ないP助に向かって会話しているかのように、その魔法少女は語り掛けていた。

 

「砲門準備……発射!」

 

 空中に現れた砲台が弾を放つ。

 着弾と共に爆発し、それはP助を巻き込む。

 

「クャントルスカに君は戦う力は無いと言われていたけど……なるほど」

 

 その魔法少女――フィリップは額から汗を垂らす。

 彼女の脇腹は一本の小刀によって貫かれていた。

 

「実に魔法少女らしくない……ね」

 

 爆発が晴れ、そこには変わらず蹲るP助がいた。

 そして、フィリップの背後には別の魔法少女の姿が。

 

「……ひ、ひひ。わ、私は戦わない魔法少女」

 

 P助は笑う。

 自身を見つけられたフィリップの探知能力は、P助にとっては脅威だろう。

 だが、それは余りにも遅すぎた。

 このような戦いも終盤に単独で行うべきでは無かった。

 

「だから私は戦わせる。ひ、ひひひ」

 

 フィリップを囲むように3人の魔法少女達が現れる。

 いずれも見た目も能力も思想も異なる魔法少女達。

 そんな彼女たちはP助を守るようにフィリップに向け武器を構えた。

 

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