<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
せめてこっちの二次創作界隈は盛り上がっていきたいですね
■【魔法少女ω】クリアント
「クリアント君、こっち!」
クャントルスカに先導され、クリアントはその後方を走る。
コンパクトが壊れても魔法少女の力が健在で良かったと心底思う。
でなければ、クャントルスカには決して追いつくことが出来なかっただろうから。
森の中を熟知しているクャントルスカは、走り方も知っているのか、惑うことなく、速度を緩めることなく走る。
その後を付くクリアントもまた、大幅な遅れを取ることなく走ることが出来ていた。
開始直後に魔法少女の力を試しがてら走っていたが、その時とは違う。
ステータスは変わっていないから、これは単にクャントルスカの誘導の仕方が上手いのだろうとクリアントは思う。
実際、目的地に間違いは無い。
この森で生き残っている者は少ない。
クリアント達を除けば、プシュケー、P助、名も知らない魔法少女くらいだ。
そして、ドラゲイルがいる。
ドラゲイルは雷を操るドラゴンである。
雷は光を伴う。
視界の悪い森の中といえど、光があれば目立つ。
「さっき一際強い光があったね。もうすぐだと思う!」
クャントルスカは更に速度を上げる。
「……おい!」
クャントルスカの姿が茂みに隠れる。
そのせいか、見失ってしまった。
クリアントもすぐに茂みに入り、抜けるがそこにクャントルスカの姿はない。
「ありゃ……どこに行ってしまったのでしょう」
「まあ見当はついているさ。はぐれても問題はないだろ」
一際大きな雷が落ちた。
そして以降……森全体に落ちていた雷が止んだ。
「ようやく終わりましたね」
「ああ。それに途中から雷の数が変わらなくなったからな。人数が分からなくなって混乱したけど……ひとまず休憩を取りやすくなった」
「いや、もう休憩している場合じゃないですよ!? クャントルスカさん行っちゃいますって!」
最後に雷が落ちた地点は進路方向である。
クャントルスカもそこにいるのだろう。
「だが油断するなよ……ドラゲイルがあえて雷を止めた可能性もあるからな。まだ倒したと思わない方がいいかもな」
「ですね。邪竜だとか言って卑怯な手を好んでいるようでしたし」
森を駆け、ようやく目的地へと辿り着く。
そこにはクャントルスカ。そして他に魔法少女らしき者が……大勢いた。
「え、どの方が魔法少女なんでしょう。というか同じ顔多すぎませんか?」
「双子とか10人姉妹でなければ2人なんだろうな。どちらも分裂するタイプのエンブリオか魔法少女の能力を持っているのか」
数で攻めるタイプなのだろうか。
限りなく分裂するタイプであれば厄介であるが、数の上限があるならクリアントにも勝機はある。
「クー。プシュケーという魔法少女はどっちだ」
「あっちの10人いる方だよ。クリアント君、悪いけれど、あの2人……夢味ちゃんの方を頼んでもいいかな?」
【魔法少女η】狂ヶ咲夢味。それが2人組の方の魔法少女の名前らしい。
「それは構わないが……10人もいる相手なのに大丈夫なのか?」
「ふふ。仲間が心配してくれている。魔法少女らしいね」
「……仲間だろ」
ここまで共に……は戦ってきてはいないが。
それでも協力を約束した仲だ。
「うん。仲間だね。だから、だよ。こっちは私に任せて」
「……ああ」
クャントルスカはプシュケー達を見る。
クリアントに夢味を完全に託しているとばかりにこちらへは振り返らない。
「そこのお兄さん」
「そっちのお兄さん」
「見たことあるね」
「一度見たよ」
ならば、クリアントに出来ることは1つだけだ。
時間稼ぎなんて生ぬるいことは言わない。
この2人の魔法少女を倒す。
「そうか。悪いが全く記憶にないな」
「2人いたね」
「2人いたよ」
「私達と同じ?」
「違うみたい?」
「なぁんだ、気のせいか」
「つまらない、つまらない」
夢味はクリアントに見覚えがあるようだ。
森の中で目撃されていたのだろう。
「あっちのお姉ちゃんは面白そうだったね」
「プシュケー・アーチ。楽しめそうな魔法少女」
「……お前達はどっちが〈マスター〉なんだ?」
どちらも手の甲に紋章がある。
だが、どちらかはエンブリオだろう。
双子の魔法少女がいるなどクャントルスカは言っていなかったし、数が合わない。
「……いや、そもそも数は合っていなかったんだっけ」
増えてすぐに減ったコンパクトの数字。
あれは未だ謎なままだ。
「どっちだと思う?」
「当ててみて」
当ててみてと言われても、二人の衣装も顔も仕草も全く同じである。
違いなど無い。
なにせ、【ドッペルゲンガー】は夢味と完全にリンクしているのだから。
「……お前だろ」
だが、クリアントは正確に夢味を指さす。
同一人物から個人を特定する。
「……なんで?」
「……分かったの?」
とはいえ、いくら外見が同じであっても、〈マスター〉とエンブリオは違う。
異なる生命体であり、異なるシステムで動いている。
【スワンプマン】であるワンプにはその程度見抜くことも可能だ。
「企業秘密だ」
「そう……じゃあ正解のご褒美をあげる」
「プレゼントはこれだよ」
夢味の影からクリアントと全く同じ姿をした何かが出てくる。
続いてもう1人。
合計3人のクリアントがこの場で対峙する形となった。
「流石にここまで残っていると展開が早いな。【魔法少女ω】クリアントだ」
「いや、最初に出会った魔法少女の人も最初から喧嘩腰でしたけどね」
「嬉しいな。名前を教えてくれて。【魔法少女η】狂ヶ咲夢味、だよ」
「そして私は夢味ちゃんのエンブリオ、【ドッペルゲンガー】」
あっさりと、その名を明かす。
エンブリオの名は時として弱点に繋がる。
戦い方の切り口にも成り得るが、正体を明かすことは魔法少女らしく正々堂々とした戦いを好む……というわけでも無さそうだ。
この場合は構わない、といったところだろうか。
エンブリオの正体を知られたところで弱点など無いという現れ。
「ははぁ。世界に同じ人は三人いるんでしたっけ? 先輩がそんなにいたら世界も迷惑でしょうに」
「……久しぶりにお前の憎まれ口も聞いたな」
「そうですか? いつもの愛情表現じゃないですか、きゃっ」
「愛情何割なんだよそれ」
「さあ? 三分の一くらいじゃないですか?」
「そうかよ。ならさっさと一分の一に戻さないとな」
マッドラップスを装着する。
自動的にクリアント自身のHPも減ってしまうため安易に装着出来ないものであるが、戦闘時であれば関係ない。
自身を媒体に敵を毒に変質出来るのだから。
「装備もか」
偽クリアント達もまた、同様にマッドラップスを装着する。
この世に一つしかないユニーク装備が複数存在する。
「あれは間違いなく偽物なのでしょうが……能力も全く同じになると見ていいでしょうね」
「ドラゲイルの模倣能力に更に分裂まで加わった感じだな。しかも本体は別にいる……」
夢味とドッペルゲンガーは傍観しているようだ。
偽物達に戦闘を任せ、自身はそれを楽しんでいる。
「こいつらを倒せばあの二人も戦力を失って負ける……のは安楽的か?」
「まあ、魔法少女自身のステータスの高さもありますからね。先輩の偽物を倒したら次はあの二人と戦うのではないでしょうか」
となると、命のストックは出来るだけ残しておきたい。
偽物相手に失うのは1つか2つまでであろう。
「残りはいくつだったか……」
「ええと……さっき油断して雷に当たってしまった数字を数えると……6回ですね」
「……まあ、なんとかなるか」
クリアントは武器を取り出す。
技術もスキルも無い、ただ振り回すだけ。
だからこそ、2人の偽物を相手に選んだのは大剣であった。
「あちらも真似しましたね」
偽クリアント2人も大剣を装備し構える。
彼らの構えもまた、お世辞にも齧ったことがあるとは思えない程度のものであった。
「クャントルスカの援護もある。早いところ片を付けよう」
「ええ。あちらにワンプちゃんの気配は感じませんし、あんな気味の悪い先輩はとっとと殺してしまいましょう!」
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最新話に限らず、マッドラップス戦でも何でも