<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【魔法少女ω】クリアント
TYPE:ガードナーの〈マスター〉や従魔師系統のジョブを持つ、使役型の戦闘を行う者と戦うのであれば、その戦い方は凡そ三通りであろう。
一つ、使役されているモンスターなどから倒していく。
二つ、モンスターを無視して使役者を倒す。
三つ、両方共に倒す。
三つ目は広域に攻撃が可能であったり、こちら側の頭数も揃っていれば成り立つ戦法であり、これはクリアントには行えない。
とはいえ、一つ目を取るにはクリアントの攻撃手段は少ない。
それはそのまま偽物達の攻撃手段の減少にも繋がるのだが、ならば両者の戦いは時間がかかり過ぎてしまうだろう。
クリアントにとって偽物の打破は勝利条件では無いし、それを操る夢味を倒すことも最終目的ではない。
無駄な時間はなるべく取りたくない。
無駄に命のストックを失いたくもない。
「だからこのまま本体を叩く」
夢味の前に立つ偽クリアント達。
彼らは大剣を持ちクリアントを迎え撃つ。
「……お前達は邪魔だな」
クリアントが大剣を振り上げる。
同時に、偽物達も大剣を振るう。
3本の大剣は決して交わることなく、1本を除いて斬殺という役割を果たす。
「……?」
「外した?」
夢味とドッペルゲンガーは首を傾げる。
不自然な動きをクリアントはした。
振り上げた大剣を、貴重品を扱うかのように下ろしたのだ。
偽物達の振るう大剣を受け止めようとしていれば、2本ともに斬られることは無かったかもしれない。
1本だけでも、【ドッペルゲンガー】のスキルである《同属嫌悪》によってダメージが増幅しているのに、それを2本ともなれば致命は確実。
よほど防御に自信があったのか……。
しかし夢味のその予想は外れる。
クリアントの肉体は明らかに致命傷を負う。
HPもゼロになり、これで死は決定付けられた。
だからこそ、クリアントのスキルは発動する。
「これで俺の死亡直前の行動は決定した。行け」
別の肉体で蘇生したクリアントは《異身伝心 儀ノ四》で死体を動かす。
その死体の行動は夢味とドッペルゲンガーを狙うこと。
クリアントが死ぬ直前と同様に、一直線に走る。
「おっと、今度は防がせてもらおう」
偽物達が夢味を守ろうと死体を止めるために大剣を振りかざす。
しかし、それをクリアントは大剣で受け止める。
「ここは俺に任せて先に行け、ってやつですね」
「それは俺の死亡フラグ立つやつだろ」
「大丈夫です。先に行った方がすでに死んでいるので」
元よりクリアントの現在のステータスはEND寄り。
守りに入れば容易に崩すことは出来ない。
後は死体が夢味に辿り着けばそれで戦いは決着となる。
「夢味ちゃん!」
死体が夢味に触れようとした瞬間、ドッペルゲンガーがその間に割り込む。
しかし、そんなものは関係ない。
死体の爆発は、その程度で防げたとしても、関係は無いのだ。
■【魔法少女η】狂ヶ咲夢味
まるで普段から双子の姉妹のような振る舞いを見せる夢味とドッペルゲンガーであるが、夢味自身はドッペルゲンガーを姉や妹などと思ったことは無い。
8人兄妹の4番目。
その立ち位置に夢味はいた。
上は目立ち、下は騒ぐ。
4番目にいる夢味はその中継ぎをしなければならず、我慢を、贔屓を、擁護をしながら日々を生きてきた。
兄や姉が欲しいと言えば自身のものであっても渡さなければならず。
弟や妹の粗相の責任はたとえ無関係であっても引き受けなければならなかった。
人の役に立つ。
それが自分の人生における役割なのだろうと、幼心に悟ってしまった。
それが自身の望むものではなくとも、それが環境下における有無を言わさぬ強制であり、夢味には否と言えるだけの強い心は無かった。
兄も姉も弟も妹も。
そして自分自身でさえも。
欲しいとも惜しいとも言えるものが無くなった。
流石に見かねたのだろうか。
両親がある日、夢味に一つのゲーム機器を渡した。
やや世代遅れのものではあったが、夢味にとっては初めて兄妹の中で自分だけに与えられたプレゼントであり、特別なものであった。
これから大事にしていこうと思った。
自分の分身のように扱おうと思った。
翌日、兄妹達の喧嘩の際に踏まれて壊れた。
誰が悪いわけではない。
全員が悪かっただけだ。
一人だけおやつを多く取った姉も。
それを黙って食べた兄も。
最初に手を出した弟も。
その間に残り全てを食べ尽くした妹も。
床にゲームを置きっぱなしにしていた夢味も。
誰も彼もが悪いということでその喧嘩は両親に収められた。
日常茶飯事なやり取り。
そのはずであったが、夢味にとっては分身を殺された終わり方である。
惜しいとさえ思わなくなった夢味にとって分身にも思えた宝物が失われた。
嗚呼。
もう、いいや。
夢味の中で何かが弾けた瞬間であった。
お菓子の取り合いによる喧嘩から一月後。
その兄妹達は街の中でも有名な仲の良い兄妹で知られていた。
行動一つ一つが模範的で、規則的。
そして、揃っていた。
手のかからない子供たちをもって幸せね。
そう評された両親は首を捻る。
これほど仲の良い兄妹であっただろうか。
8人の中心にはいつも夢味がいた。
中間ではなく中心に。
発言も行動も、いつも夢味からであった。
残りの7人はそれに追随する形で動いていた。
みんな、大人になったのだろう。
両親はそう納得した。
納得しなければ、そう思い込まなければ夢味を得体の知れない何かと錯覚してしまいそうだったから。
仲が良くて困ることは無い。
むしろ喧噪のあったあの日々の方が悪かったのだ。
そして、いつもありがとう、と少ないながらも8人の小遣いを渡した。
翌日、8人は小遣いを合わせて一つのゲーム機器を買ってきた。
最新の機器とハードをどこから調達してきたのか。
明らかに金額は足りていなかったはずだが。
ゲームに疎い両親はそれを知らない。
8人でお金を出し合ったゲームを使用するのは夢味一人だけ。
楽しむのは夢味だけ。
残りの7人はゲームに関心を示さなない。示してはならない。
中心は夢味だ。
夢味でなくてはならない。
だって……。
7人は誰もまだ死にたくはなかったから。
夢味に与えられたエンブリオは【ドッペルゲンガー】。
TYPE:メイデンwithガードナーである夢味と全く同じ見た目をした少女は、どうやら夢味と同じだけの強さを持つようだ。
同じ職業、同じ武器を手にして戦ってくれる。
姉や妹ではない。
これは、あの時失った分身が再び自分に会いに来てくれたのだと。
そう、夢味は感じた。
夢味とドッペルゲンガー。
2人で1つでもなく、1人で2つでもなく。
イコールで結ばれた関係。
夢味はドッペルゲンガーであり、ドッペルゲンガーは夢味。
ようやく、共に歩める分身と夢味は出会えたのであった。
夢味の眼前で爆発が起こる。
男でありながら魔法少女。
そんなふざけた存在がふざけた行動を行った。
自身を爆弾に変え、死体となっても尚、特攻を仕掛けてきたのだ。
一瞬の油断が死を招く。
夢味もまた、他の油断していた魔法少女と同じように爆発に巻き込まれて死ぬはずであった。
だが、夢味の顔や手足に肉片や血が降りかかる。
被害はそれだけであった。
「ドッペル……ちゃん……?」
その背中を見たのは初めてであった。
いつも隣で戦っていた。
互いの背中を守ることはあれど、どちらかが前に立つということは無かった。
何故ならば2人は分身だから。
喜びも、負担も、全て2人で分け合う。
どちらかだけが苦しい思いなど背負うことは無かった。
「夢……味……ちゃ……」
最後の言葉すら言い切れずにドッペルゲンガーの肉体が消え、紋章へと吸い込まれていく。
夢味のとは別に、ドッペルゲンガー独自に与えられていたHPがゼロになったのだ。
「え……あれ……なんで」
ドッペルゲンガーが死ぬのは初めてのことではない。
2人で強敵に挑み、死亡判定を受けたことなど数えきれないくらいある。
だけどそれはいつも同時に。
2人で一緒に生き残り、死ぬときは一緒に攻撃を受けて死んでいた。
何故ドッペルゲンガーだけが。
咄嗟の行動だったのだろうか。
それとも、始めから彼女には〈マスター〉である夢味を護衛する機構が組み込まれていたのだろうか。
分からない。
分からない……が、これを引き起こした者が誰かだけは分かる。
「あ、ああああああああああああ」
ドッペルゲンガーが死んだことで偽物達もまた消えている。
エンブリオの力は使えない。
それでも、夢味は生きている。
「ドッペルちゃん……なるよ。私が【魔法☆少女】になってみせるよ」
腰に下げた本物のコンパクト。
そこには現在生き残っている魔法少女の人数が映し出されている。
プシュケーの前で壊したのはドッペルゲンガーが装備していた偽のコンパクト。
壊れたところで元から機能など無いため問題は無かった。
まだ本物のコンパクトは生きている。
夢味の【魔法☆少女】になりたいという願望は生きている。
分身を失って何かが弾けとんだあの日の記憶が蘇り、夢味が立ち上がろうとした瞬間……その肉体が解け始めた。
「――え」
腕が、足が、体が、どこもかしこもが溶解を始めていた。
「なんで、なんでなんでなんで……」
ステータスには毒の文字がある。
夢味は知らない。
クリアントの肉体に触れることは毒に汚染されるということを。
マッドラップスを装備しているクリアントの肉体は常に《毒呪変容》の影響を受けている。
持ち主であるためか、他の生物程には進行は早くないのだが、少しずつ少しずつ毒へと肉体は変換されてHPを減らしているのだ。
そしてその肉体に触れても毒は感染する。
空気感染はしない代わりに接触感染の制限は強い。
生きた肉体であろうと、死体であろうと、毒に侵されていれば感染はしてしまう。
爆発によって弾け飛んだクリアントの肉体。
当然ながらその血肉もまた感染経路の対象だ。
ドッペルゲンガーの小さな肉体が盾になろうが、爆発の衝撃は防げても血肉の雨からは完全に守れない。
降った血肉の触れた箇所から夢味の肉体は毒へと変換されていく。
「毒……解毒薬が確か……」
しかし解毒の類は効果を示さない。
夢味の肉体そのものが毒へと変換されているのだ。
汚染された肉体はもう戻ってこない。
「私が、ドッペルちゃんが、わた――」
見る間にHPがゼロになり、全身を己の毒で溶かし尽くされた夢味は強制ログアウトとなった。
「最後、何を言いたかったんだろうな」
「さあ? 【魔法☆少女】になりたいとかじゃないですかね。まあそんなもの……みんなそうですよね。私達を除けば」
「……だな」
夢味の心中などクリアント達は知らない。
尤も、知っていたところでどうしようもない。
大した感傷もないままに、クリアントはクャントルスカの戦う地へと向かった。
傍から見ると完全に悪役の戦い方だけど、よく考えれば夢味ちゃんも大差ないわ
マッドラップス装着時のみ、爆発した死体が毒の感染経路になるという最悪の戦法
防ぎたいなら距離を取るしかないネ
おいおいおいおい、そらからりさんよぉ、確か爆発後に生き残った魔法少女いたよなぁ?
どういうことだってばよ
A:あの魔法少女のエンブリオ